↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
101/128

第百一話 白い鳥、飛び立つ

ノアの旅立ちを、正面から書きます。

 街道は、昨日よりも静かだった。


 静かすぎる、とイリスが言った。


「――鳥の声が、しない」


「気にしすぎじゃないか」


「かもしれない。でも、昨日からずっとそう」


 セレスは、周囲の木々に目をやった。何も見えない。ただ、背中の産毛が、わずかに逆立つような感覚だけがあった。


 昼過ぎ、休憩のために足を止めた時、レイフィアが街道の脇の茂みから、白い羽を一枚拾い上げた。


「――これ」


「鳥の羽じゃないのか」


「切り口が、まっすぐすぎる。自然に抜けた羽じゃないわ」


 誰かが、意図的に落としたか。あるいは、何かに切り落とされたか。


 アルトが、羽を受け取り、しばらく眺めてから、懐にしまった。


「……何かの合図か、目印かもしれない。だが、今は分からない。持って進もう」


 誰も、それ以上は言わなかった。だが、全員の足取りに、わずかな緊張が加わった。


 ◇


 夜、街道から少し外れた森で、火を囲んだ。


 王都まで、あと一日。


 焚き火の脇で、ノアは、膝の上の木彫りの鳥を、指先でそっとなぞっていた。


「――ノア」


 声をかけたのは、ガロンだった。


「決めたのか」


「……はい」


 ノアは、顔を上げた。


「ラーレンの依頼は、終わりました。守備隊の正体も、突き止めました。あとは、王都に報告するだけです」


「それと、旅立つ話は、別だろ」


「別じゃないです」


 ノアは、木彫りの鳥を、両手で包むように持った。


「あの依頼が終わったら考える、って言いました。もう、終わったので」


 焚き火を囲む全員の視線が、自然と集まった。


「――言ってみろ」


 セレスが、静かに促した。


 ノアは、一度、深く息を吸った。


「ラーレンで会った、あの子です。隠れ里に預ける時も、ずっと同じ目をしてました。自分で決めていいと、教えられたことがない目です」


「知ってる目だ」


「私も、そうでした」


 ノアは、頷いた。


「昔の私が、まさにそうだったので。試作として作られて、役目をこなすことが、生きることだと思ってました。それを教え直してくれたのは、ここにいる皆さんです」


 木彫りの鳥を、握りしめる。


「だから、今度は私が、それをやりたいんです。割り振られて、選ぶことを知らないまま育つ子を、一人でも減らしたい。隠れ里は、まだ一つしかありません。ああいう場所を、もっと増やしたい」


「それが、お前の『降りた』先か」


 ガロンの問いに、ノアは、はっきりと頷いた。


「はい」


「――待て」


 セレスが、少し身を乗り出した。


「それは、リンのことを諦める、って意味じゃないだろうな」


「違います」


 ノアの声に、初めて強さが混じった。


「絶対に、連れ戻すって言いました。あれは、噓じゃないです」


 ノアは、火を見つめた。


「隠れ里みたいな場所は、逃げてきた人や、割り振られてた人が集まります。あの組織のことを知ってる人間も、いずれそこに流れ着くかもしれません。私が動いて、そういう場所を繋いでいけば、リンの手がかりに、いつか行き当たるかもしれない」


「――遠回りに見えて、実は同じ道の先にいる、ってことか」


 アルトが、腕を組みながら言った。


「悪くない読みだ。俺の伝手も、いくつか貸せる」


「ありがとうございます」


「礼はいい。むしろ、こっちが助かる話だ。俺一人じゃ、手が回らなかった場所だ」


 しばらく、誰も口を開かなかった。


 薪が、小さく爆ぜる音だけが響いていた。


「――寂しくなるな」


 ミュゼが、ぽつりと言った。


「まだ、決まったばかりです。すぐにいなくなるわけじゃ」


「分かってる。でも、決まったこと自体が、寂しい」


 ミュゼは、鼻の頭を少し赤くしながら、無理に笑った。


「でも、ノアが選んだ道なら、応援します」


「ありがとうございます」


 ノアも、釣られるように、少しだけ表情を緩めた。


 その空気を見て、ミュゼが、わざとらしく明るい声を出した。


「私、たまに様子を見に行きますから。プリンの美味しい店、見つけたら教えてください」


「――優先順位、それでいいのか」


 イリスが、呆れたように言った。だが、その声にも、笑いが混じっていた。


 レイフィアは、しばらく黙って火を見ていたが、やがて口を開いた。


「――一つだけ、聞いていい」


「はい」


「怖くないの。一人で、知らない場所を渡り歩くのは」


 ノアは、少し考えてから、首を振った。


「怖いです。でも、ここに来る前の方が、もっと怖かった。何も選べないまま、ずっと同じ場所にいることの方が」


 その言葉に、レイフィアは、小さく頷いた。


「――そう。なら、いいわ」


「レイフィアさんも、怖いものから、ちゃんと自分の足で離れた人でしたね」


「……よく覚えてるわね、そんなこと」


「忘れません」


 ノアは、静かに笑った。


 セレスは、しばらく黙ったまま、火を見ていた。


「――お前が来てから、パーティーの空気が、大分変わった。それは、間違いない」


「私、そんな大したことは」


「してる」


 セレスは、断言した。


「リンのことも、お前がいなかったら、あそこまで踏み込めなかった。あの子を助けた時、真っ先に動いたのは、お前だった」


「あれは、ガロンさんが『決めた通りにやれ』って言ってくれたからです。一人だったら、固まってました」


「言われたからって、あそこまで動けるもんじゃない。あれが、お前の答えだった。それでいい」


 ノアは、木彫りの鳥を、そっと胸に当てた。


「――ガロンさん」


「ん」


「この鳥、貰った時、意味が分からなかったんです。でも、今なら分かります」


「――そうか」


「行きたい場所へ、自分で行けるように。そう言ってくれましたよね」


「言ったな」


「今から、それをやります」


 ガロンは、しばらく黙って、火を見ていた。それから、いつもより低い声で言った。


「――行ってこい。飯は、いつでも作ってやる。戻ってきた時にな」


「――はい」


 ノアの声が、少しだけ震えた。


 ◇


 翌朝、街道が二つに分かれる場所に着いた。


 一方は、王都へまっすぐ続く道。もう一方は、小さな町を経由して、南へと向かう道だった。アルトの伝手を頼れば、そちらの町にも、身元を隠せる場所があるという。


「――ここまでだな」


 アルトが、地図の分かれ道を指でなぞりながら言った。


「南の町に着いたら、この名前を出せ。悪いようにはしない」


「ありがとうございます」


 ノアは、地図の切れ端を受け取り、丁寧に折りたたんだ。


 荷物をまとめ終えたノアは、一人一人の顔を、順に見た。


「――皆さん」


「ん」


「今まで、ありがとうございました」


 深く、頭を下げる。


 ミュゼが、真っ先に駆け寄って、ノアを抱きしめた。


「絶対、様子見に行きますからね」


「はい。待ってます」


 イリスは、いつもの短い言葉で。


「――達者でな」


「イリスさんも」


 レイフィアは、少しだけ目元を緩めて。


「あなたなら、大丈夫。自分の足で選んだ道でしょう」


「はい」


 ガロンは、何も言わず、ただノアの肩を、一度だけ強く叩いた。


 アルトは、軽く手を上げた。


「困ったら、いつでも王都に顔を出せ。伝手は、ちゃんと生きてる」


 最後に、ノアはセレスの前に立った。


「――セレスさん」


「なんだ」


「リンを、絶対に連れ戻してください。私も、必ず何か持って帰ります」


「ああ。約束する」


 セレスは、短く頷いた。


「――行ってこい」


「はい」


 ノアは、木彫りの鳥を、もう一度だけ強く握りしめた。


 それから、南の道へと、迷いのない足取りで踏み出した。


 振り返ることはなかった。だが、遠ざかる背中は、これまで見た中で、一番まっすぐに伸びていた。


 しばらくの間、誰も動かなかった。


 やがて、セレスが、王都へ続く道の方を向いた。


「――行くぞ」


 その声に、皆が頷いた。


 一人減った隊列が、王都を目指して歩き出す。


 誰かが欠けた場所の空白は、まだ埋まらない。だが、それは寂しさだけの空白ではなかった。


 セレスは、アルトの懐にしまわれたままの、あの白い羽のことを思い返していた。切り口の鋭さが、まだ目に焼き付いていた。


(――誰かが、見てる)


 視線は、まだ消えていない。だが、不思議と、恐怖だけではない何かも、その中に混じっている気がした。


 空を見上げると、遠くの木立の上を、一羽の白い鳥が横切っていった。


 偶然かどうかは、分からなかった。


 それでも、セレスは、その姿を、しばらく目で追い続けていた。

 第百一話「白い鳥、飛び立つ」をお読みいただき、ありがとうございます。


 第九十三話で出した木彫りの鳥、第九十四話でのガロンの一言、第九十六話でのノア自身の言葉。ここまで積んできたものを、正面から回収するつもりで書きました。旅立ちを、リン奪還という進行中の目的と対立させず、同じ方向を向いた選択として描きたかったのが、今回いちばん意識した点です。


 最後に出てきた白い羽、まだ何なのかは明かしません。少しずつ、正体を追っていきます。


 面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価でも応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。