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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第九十七話 選んだ側

守備隊の本拠地に踏み込みます。

 三日かけて集めた情報は、一つの場所を指し示していた。


 町外れの旧砦。守備隊が「本部」と呼ぶ建物だった。


「――踏み込むぞ」


 セレスの言葉に、全員が頷いた。


「私は、外を固めるわ」


 レイフィアが、細剣を確かめながら言った。


「アルトさんは、領主邸に。守備隊が異変に気づいたら、町全体が混乱します。その前に、領主側に事情を伝えておいた方がいい」


 ミュゼが、そう付け加えた。


「分かった。何かあれば、すぐに知らせろ」


 アルトは、そう言って、町の中央へと駆けていった。レイフィアは、砦の裏手に回り、増援の可能性がある経路を見張る位置についた。


「――いつでも呼んで」


 その声を背に、セレス、ガロン、ミュゼ、イリス、ノア、リンの六人が、砦の中へと足を踏み入れた。


 夜、砦に忍び込むと、地下へ続く階段があった。降りていくと、空気の質が変わる。廃坑や廃教会で嗅いだのと、同じ湿った匂いだった。


「――ここも、繋がってるのか」


 地下の広間には、見覚えのある黒い結晶の柱が、鈍く唸っていた。廃坑のものより、一回り大きい。


 柱の周りには、鎧姿の男たちが数十人。その最奥に、鎧を着けていない、白髪の男が立っていた。


「――ようこそ。まさか、辿り着かれるとは思いませんでした」


「お前が、守備隊の頭か」


「頭、というより、管理者ですね。この町を、静かに保つ役目を任されています」


 男は、柔らかく笑った。あの管理人の男と、どこか似た笑い方だった。


「町の人間を、道具みたいに割り振って、それが『静かに保つ』か」


「秩序、と呼んでください。混乱よりは、ずっと平和的だ」


 その時、鉄格子の奥から、小さな悲鳴が聞こえた。


 ノアが、真っ先に反応した。


「――あの声」


 格子の中には、昼間出会った少女がいた。他にも、数人の子供たちが囚われている。


「――なぜ、あの子まで」


「規則を破った者への、見せしめです。列を離れて、よそ者と話した罰ですよ」


 男の言葉が終わるより早く、ノアは動いていた。


 鉄格子に駆け寄り、力ずくで錠を叩き壊す。誰かの指示を待たなかった。


「ノア!?」


「――道具じゃない、ってこと。あの子に、私が証明します」


 ノアは、少女を抱き上げ、格子の外へと連れ出した。守備隊の男たちが色めき立つが、ガロンとイリスが即座に前へ出て、道を塞ぐ。


「――決めた通りにやれ」


 ガロンが、短く言った。ノアは、少女を抱えたまま、迷わず頷いた。


 乱戦が始まった。


 鎧の男たちが、一斉に切り込んでくる。街道で戦った部隊と同じ動き、同じ統率だった。だが今回は、数が違う。


「――退くんじゃねえぞ!」


 ガロンの大剣が、二人、三人と薙ぎ払う。イリスも、無駄のない太刀筋で敵の剣を弾き、道を切り開いていく。


「子供たちを、先に外へ!」


 ミュゼの光が、格子の奥に残っていた他の子供たちを包み込む。ノアは、少女を抱えたまま、開けた通路を駆け抜け、階段の方へと走った。


 セレスは白髪の男へと向かうが、その手前で、黒い結晶の唸りが、一段と強くなった。


「――リン!」


 リンの足が、その場に縫い付けられたように止まった。


「聞こえる……今までで、一番、はっきり」


 リンの手首の黒い線が、これまでにない速さで、肘の方まで這い上がっていく。


『――もう、隠れなくていい。ここまで来れば、分かるはずだ』


 声が、初めて、明確な意味を持って響いた。


「リン、駄目だ!見るな、聞くな!」


 セレスが叫ぶが、リンの目は、すでに焦点を失っていた。


「……知ってる、この声」


 リンが、譫言のように呟く。


「ずっと、探してた声。私を、作った」


 白髪の男が、目を細めた。


「――ああ、やはり。あなたは、まだ覚えていたんですね」


「リン!」


 セレスが手を伸ばすが、リンの体は、これまでのどの時よりも強く、黒い光に包まれていた。


 周りにいた仲間たちの動きが、一瞬止まる。


 これまでは、ここで踏みとどまれた。だが今回は、何かが違う。


 リンの目から、一筋の涙がこぼれた。


「――ごめん」


 それだけ言うと、リンの姿が、黒い光と共に、その場から掻き消えた。


「――リン!」


 セレスの声が、地下の広間に虚しく響いた。


 白髪の男は、満足げに笑った。


「これで、駒が一つ、揃いました」


 残されたのは、崩れた鉄格子と、呆然と立ち尽くす仲間たちだけだった。


 白髪の男は、それ以上戦う様子も見せず、静かに闇の奥へと下がっていった。追う余力は、もう誰にも残っていなかった。


 地上に戻ると、レイフィアが真っ先に駆け寄ってきた。


「――何があったの。リンは」


 その問いに、誰も、すぐには答えられなかった。


 セレスの拳が、震えていた。


「――連れていかれた」


 短い一言で、レイフィアの顔から血の気が引いた。


 ちょうどそこへ、アルトも息を切らせて戻ってきた。領主への報告を終えたばかりだったのだろう。


「どうした、その顔は」


 誰も答えないまま、セレスが崩れ落ちるように地面に膝をついた。


「――守れなかった」


 その一言だけが、夜の砦の前に、重く落ちた。


 ノアが、抱きかかえた少女を、ぎゅっと抱きしめる。少女は、何が起きたのか分からないまま、ただノアにしがみついていた。


「――絶対に、連れ戻す」


 ノアの声は、震えていたが、確かな決意に満ちていた。


 それは、リンへの言葉であると同時に、自分自身への誓いでもあった。


第九十七話「選んだ側」をお読みいただき、ありがとうございます。


 ノアが自分の意思で動く場面と、リンにとって最も重い展開を、同じ章に置きました。ここから、物語は次の段階に入ります。


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