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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第九十話 連れていくか、置いていくか

イリス、レイフィア、ノアが戻ってきます。全員で、大事な相談をします。

 イリスたちが宿に戻ってきたのは、翌朝のことだった。


「――待たせたな」


 イリスが、いつもの淡々とした声で言う。ノアが、その後ろから小さく手を振った。


「セレスさん、無事でよかったです……!」


「そっちこそ、何もなかったか」


「特には」レイフィアが、外套の埃を払いながら答える。「ただ、掴んだ情報はいくつかあるわ」


 食堂に全員が揃うのは、久しぶりだった。ミュゼが、湯気の立つスープを配って回る。


「まず、こっちから話す」


 セレスは、廃坑での出来事、リンの一件、旅商人との接触、そしてアルトが解読した帳面の話を、順に語った。


 イリスは、黙って聞いていた。話が終わると、静かに言った。


「――そうか。辛かったな」


 その視線が、リンに向いた。リンは、目を逸らさなかった。


「大丈夫。もう、平気」


「平気そうには見えないけど」


 レイフィアが、地図を広げながら言う。


「でも、無理に聞かないわ。それより、こっちの成果」


 レイフィアは、地図の一点を指で示した。


「街道沿いの村を回ったの。不審な荷馬車の目撃談が、二件。どちらも、王都近郊への出入りに関わってた」


「王都のすぐ外、って線と合うな」


「ええ。それと――ここ、廃教会の跡地。最近、人の出入りがあるって噂があったの。関係あるかもしれない」


 アルトが解読した集積地の候補と、ほぼ同じ方角だった。


「ノアの方は」


「私は、あんまり役に立ってないかも」


 ノアが、申し訳なさそうに肩をすくめる。


「街の噂を集めて回っただけで。ただ……」


「ただ?」


「最近、王都の外れで、子供がいなくなったって話を、何件か聞きました。事件になってないだけで、実はもっとあるのかもしれません」


 場の空気が、一段冷えた。


「攫われてる、ってことか」


 ガロンが、低く唸る。


「確証はないですけど」


「十分な確証だ」


 セレスは、拳を握った。廃坑で見た鉄格子の光景が、頭をよぎる。


 ◇


 その日の午後、アルトが再び宿を訪れた。


「正式に依頼が下りた。王都近郊の廃教会跡地、調査及び必要に応じた制圧」


 彼は、資料をテーブルに置いた。


「ギルドとしても、これまでの一連の件と繋がっている可能性が高いと判断した。人員も追加で回す」


「アルトも来るのか」


「いや、俺はここに残る。帳面の続きの解読と、後方支援だ」


 アルトの表情が、一瞬曇った。


「――それに、正直に言うと、警戒しろと言われた。妙な忠告を受けたんだろう、セレス」


「知ってたのか」


「お前が誰かに聞かれたなら、俺の耳にも入る。この街は、そういう場所だ」


 アルトは、苦笑した。


「心配するな。俺も伊達に何年もこの仕事をしてない。念のため、護衛はつけてもらう」


「――分かった」


 夜、七人が食堂に集まった。


「明日の朝、出発する」


 セレスの言葉に、全員が頷いた。だが、話はそこで終わらなかった。


「――一つ、決めなきゃいけないことがある」


 セレスは、リンの方を見た。


「お前を、連れていくかどうかだ」


 空気が、張り詰めた。


「反対だ、俺は」


 ガロンが、遠慮なく口を開いた。


「廃坑は、まだ運が良かった。次はもっと深いところまで踏み込むことになる。子供を連れて入る場所じゃねえ」


「私も反対よ」


 レイフィアが続く。


「偽紋様が絡む場所に、紋様を持ってる子を連れていくなんて、危険度が違いすぎるわ」


「――でも」


 ミュゼが、静かに手を挙げた。


「リンが行かなかったら、たぶん、また勝手についてきます。それなら、目の届く場所にいてくれた方が、まだ安全だと思います」


「否定できねえのが腹立つな」


 ガロンが唸った。


 イリスは、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「条件付きなら、賛成する」


「条件?」


「一つ。広間に入ったら、リンは必ず誰かの手の届く範囲にいること。二つ。危ないと判断したら、本人の意思に関係なく退かせる。私が退かせる」


「厳しいな」


「甘くする理由がない」


 ノアは、それまで黙って聞いていたが、リンの方を一度見て、静かに言った。


「私は、リンの気持ちを聞きたい」


 全員の視線が、リンに集まった。


 リンは、しばらく黙っていた。長い沈黙だった。逃げるための沈黙ではなかった。


「行く」


「理由は」


 セレスが聞くと、リンは指を一本立てた。


「一つ。あそこに、私と同じ目に遭ってる子たちがいるなら、私が見れば、何か分かるかもしれない。たぶん、この中で私だけ」


 二本目を立てた。


「二つ。私が行かなかったら、みんなが私のことを考えながら戦う。それが、一番危ない」


 誰も、すぐには何も言えなかった。


 ガロンが、深く息を吐いた。


「……言うようになったな」


「それと」


 リンは、続けた。


「条件を、私からも出す」


「言え」


「もし、あそこに――黒い石みたいなものがあったら」


 リンは、自分の手首を握った。


「私は、近づかない。近づかないようにする。それでも近づいてたら、止めて」


「――どういう意味だ」


「分からない」


 リンは、正直に答えた。


「でも、廃坑の時、足が勝手に奥へ行こうとした。あれは、私が決めたことじゃなかった」


「リン」


「だから、止めて」


 リンは、セレスの目を見た。


「殴ってでも」


 ミュゼが、息を呑む音がした。


 セレスは、しばらくリンを見返してから、頷いた。


「――分かった。止める」


「約束」


「ああ」


 その約束を、その場にいた全員が、黙って聞いていた。


 ガロンが、椅子を立って、大きな鍋を運んできた。


「食え。全員だ。腹が減ってちゃ、まともに戦えねえ」


 誰も、それには逆らわなかった。


 窓の外では、王都の夜が、いつも通りに更けていった。だが、その静けさの下で、明日への緊張が、確かに膨らみ始めていた。

第九十話「連れていくか、置いていくか」をお読みいただき、ありがとうございます。


七人が揃うのは久しぶりです。リンを連れていくかどうか、仲間それぞれの立場から本気で議論する回にしました。第七十四話で「私も、行く」と手を挙げるだけだったリンが、今回は理由も条件も、自分の言葉で出しています。


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