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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第一章 無色判定、はじまる

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第九話 水底の主

「あと少し」が、一番遠い。


勝てそうな時ほど気を抜けないのが、冒険の困るところです。

今回もセレスたちの戦いを見守っていただけると嬉しいです。


湖面から突き出た触手が、四人を囲むように蠢いていた。


数は、少なくとも六本。その先端はそれぞれ意思を持つかのように、別々の方向へと動いている。


「装備、間に合ってないんですけど!」


水着姿のまま武器を構えたミュゼが、悲鳴混じりに叫んだ。


「悠長に着替えてる暇はねえぞ! そのままいくぞ!」


ガロンが応急的に鎧の胴部分だけを装着しながら、大剣を構える。


「水着で戦うとか、聞いてないんだけど」


イリスも同様に、最低限の装備だけを慌てて身につけていた。


「文句は後で聞くよ。まずはあれを、どうにかしないと」


セレスも水着姿のまま、借りてきていた剣を構える。


状況は最悪に近い。だが、こうなってはもう腹を括るしかなかった。


「――来る!」


触手の一本が、水面を叩きつけるように振り下ろされた。


ガロンが大剣で受け止める。しかし、その衝撃で足元の地面が抉れた。


「重い……!」


「二本目、右!」


イリスの声とともに、セレスは反射的に身を沈める。


頭上を、触手が薙ぎ払っていった。


「プロテクト!」


ミュゼの詠唱が響き、淡い光がガロンを包む。防御力を底上げする支援魔法だった。


「助かる!」


ガロンが体勢を立て直し、再び触手の攻撃を受け止める。


だが、六本すべてを同時に相手取るには、明らかに手数が足りなかった。


「――本体は、湖の中か」


セレスは水面下に目を凝らした。


うっすらと、巨大な影が見える。触手はあくまで前哨戦に過ぎない。本命は、あの水底に潜む何かだ。


「イリス、本体を狙う。援護できる?」


「もちろん」


二人は視線を交わし、頷き合った。


「ガロン、ミュゼ、触手を引きつけて!」


「了解! こっちは任せろ!」


ガロンが咆哮とともに大剣を振り回し、触手の注意を引きつける。


ミュゼは回復と補助を交互に回しながら、隙間を縫うようにガロンをサポートしていく。


その間に、セレスとイリスは水際へと駆け出した。


「ここから先は水の中よ。動きにくくなるけど、大丈夫?」


「なんとかする」


二人は迷わず湖へと飛び込んだ。


冷たい水が肌を包む感触に、一瞬だけ息が詰まる。だが、それもほんの一瞬のことだった。


水中に、巨大な影が浮かび上がる。


無数の目を持つ、蛸のような姿の魔物だった。全身は、鈍く光る鱗のようなもので覆われている。


「――でかいな」


イリスが水中でくぐもった声を漏らしながら、剣を構えた。


セレスの手首の紋様が、水の抵抗をものともせず、鮮明に熱を持ち始める。


【対象:湖底の主。特性を検出――部分継承を実行】


瞬間、セレスの体の動きが、水中に完全に馴染んだ。


まるで最初から水棲生物であったかのように、抵抗なく水を掻き、進む。


「――速い」


イリスが驚きの声を漏らす暇もなく、セレスはすでに主の懐へ潜り込んでいた。


「借りるよ。水中での動き方」


流れるような動作で剣を振るう。


触腕の一本が、鮮やかに切り裂かれた。


「ギィ……ッ!」


主が苦悶の声を上げ、体をよじる。


その隙を、イリスも見逃さなかった。


「――そこ!」


水中とは思えない速さで剣を突き出し、主の胴体に深い一撃を刻む。


主は残った触腕を振り回し、必死に抵抗を試みた。


だが、二人の連携を前に、その抵抗は徐々に力を失っていく。


「畳み掛けるわよ」


「了解」


息を合わせたように、二人は同時に踏み込んだ。


イリスの剣が主の急所を捉え、続くセレスの一撃が止めを刺す。


巨大な体が、力なく水中へ沈んでいった。



水面に浮上したセレスとイリスを、岸辺からガロンとミュゼが迎えた。


触手はすでに、主の死とともに動きを止めていた。


「終わった、のか?」


「終わった」


セレスは短くそう答えると、濡れた前髪をかき上げた。


銀色の髪から、水滴が滴り落ちる。


「お疲れ様です、二人とも!」


ミュゼが駆け寄り、タオル代わりの布を差し出してくる。


イリスはそれを受け取りながら、深く息を吐いた。


「まさか、水着のまま討伐することになるとは思わなかったわね」


「そこは俺も予想外だった」


「でも、なんだかんだ楽しかったです! 湖にも入れましたし!」


能天気にそう言うミュゼに、ガロンが呆れたように肩をすくめた。


「お前、緊張感どこいったんだよ」


「終わったんだから、いいじゃないですか!」


軽口を交わす仲間たちを眺めながら、セレスは湖の方へ視線を戻した。


水面は、何事もなかったかのように穏やかさを取り戻している。


(また一つ、借りたな)


水中での動き方――主から借りたその感覚は、まだ体の奥に微かに残っていた。


数が増えるごとに、この力の底知れなさを感じずにはいられない。


それでも、悪い気分ではなかった。


「――さて。とりあえず、村に無事を報告しに行くか」


「はい!」


四人は濡れた装備のまま、笑い合いながら村への道を歩き出した。

あとがき

第九話をお読みいただき、ありがとうございます!


前半の水着回から一転、まさかの水中戦になってしまいました。


「借り物の力」で、水中戦に適した動きまで手に入れるセレス。規格外っぷりが、どんどん加速していきます。


イリスとの連携も、さらに息が合ってきました。ミュゼの過去回に続き、湖のエピソードもこれで一区切りです。


次のアークでは、さらに新しい展開を予定していますので、ぜひお楽しみに!


★評価・ブックマーク、感想でのコメントがいつも励みになっています。ありがとうございます!

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