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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第八十三話 もぬけの倉庫

黒ローブの足取りを追います。

 強盗団を雇った黒ローブの正体を突き止めるため、ギルドから正式に調査協力の依頼が出た。


「潜伏先候補は、倉庫街の外れにある廃倉庫だ」


 アルトが資料を広げながら言う。


「以前、地下遺跡の一件に関わった残党が使ってた場所と近い。可能性は高い」


「行くしかないな」


 セレスは即答した。ガロンとミュゼも頷く。


「少数精鋭で偵察する。目立って逃げられたら意味がない」アルトは資料を畳みながら続けた。「イリスとレイフィアには、別方面の情報収集を頼んである。ノアには、念のため宿で待機してもらう手はずだ」


「分かった」


 パーティーが分かれて動くのは、今回が初めてではない。セレスは、それだけ頷いて出発の支度を整えた。


 夜更け、三人は倉庫街の闇に紛れて目的の建物へと近づいた。


 崩れかけた鉄扉の隙間から、かすかな明かりが漏れている。


「――いる」


 ガロンが低く呟いた。


 中へ踏み込むと、薄暗い空間に、いくつもの歪んだ影が蠢いていた。人型に近いが、輪郭が不自然に揺らぎ、肌の一部が石のように硬質化している。


「偽紋様の、実験体か……!」


 ミュゼが息を呑む。


 次の瞬間、影の群れが一斉に動いた。


「数は多い……!」セレスは舌打ちしながら大剣を構えた。「――俺が引きつける。二人は下がってろ」


「一人でこの数、正気か!」


 ガロンの声を背に、セレスは一息に踏み込んだ。


 最初の一体の懐へ潜り込み、大剣を横薙ぎに振り抜く。硬質化した肌が弾け、実験体の胴が両断された。だが、勢いは止まらない。二体目が背後から、三体目が横から、包囲するように迫ってくる。


「――くっ!」


 三方からの攻撃を、セレスは紙一重で捌いた。一体の爪が肩をかすめ、鋭い痛みが走る。それでも足は止めなかった。二体目を下から打ち抜き、返す刀で三体目の核を貫く。


 四体、五体。数を減らしても、次から次へと群がってくる。息が上がる。それでも、灼熱狼を単独で仕留めた時とは違う、より洗練された剣筋が、確かに身体に馴染んでいるのが分かった。


 六体目が、両腕を鎌のように変形させて突っ込んでくる。セレスは半歩だけ横へ流し、勢いを利用してそのまま懐へ入り込んだ。


「――そこだ!」


 剣の切っ先が、実験体の中心にある紋様の核を正確に貫く。歪んだ肉体が、崩壊するように弾けて消えた。


 残り一体。だが、それまでの個体よりも動きが速い。振り下ろされた爪を辛うじて剣で受け、鍔迫り合いになる。


「セレス、危な――!」


 ミュゼの声が届く前に、セレスは力を込めて相手を弾き飛ばし、体勢を崩したところへ止めを刺した。


 最後の一体が崩れ落ちるまで、正直、余裕があったとは言えなかった。荒い息をつきながら、セレスは辺りを見回す。倉庫の中に、静寂が戻っていた。


「――バケモンかよ、お前」


 ガロンが、呆れと称賛の混じった声で呟いた。


「証拠、探しましょう」


 ミュゼの声に、三人は倉庫の奥へと進んだ。だが、そこにあったのは、空になった作業台と、砕けた術式具の残骸だけだった。


「――もぬけの殻、か」


 アルトから聞いていた通りの拠点ではあったが、肝心の黒ローブ本人も、決定的な証拠も見当たらない。


「どういうことだ。もっと早くに動いてたってことか?」


 ガロンが苛立たしげに壁を蹴った。


「――待って」


 ミュゼが、作業台の隅に残された跡に目を留めた。


 床に、何かを引きずったような溝が伸びている。その先には、大きな箱状のものが置かれていたと分かる、埃の輪郭だけが残されていた。


「これ……何かを運び出した跡、ですよね」


「相当な大きさだ」セレスは、その輪郭をなぞるように見つめた。「実験体の材料か、それとも別の何かか」


 答えの出ない問いだけが、空っぽの倉庫に残された。


「――さっきの実験体、気になることがあります」


 ミュゼが、崩れ落ちた個体の残骸を見下ろしながら、声を落とした。


「一体ずつ勝手に暴れてたんじゃなくて、まるで、後ろで誰かが糸を引いてるみたいな動き方でした。数を減らすたびに、残りが合わせて動きを変えてきた気がして」


「――誰かが、指示を出してた、ってことか」


「確証はないですけど」


 ミュゼの声には、珍しく明確な怯えが滲んでいた。


 セレスは、崩れた実験体の残骸に目をやった。灼熱狼のような単純な魔物とは、明らかに何かが違う。


「――手遅れだったってことだな、要するに」


 ガロンが、苦い顔で吐き捨てた。


 セレスは、埃の輪郭から目を離せなかった。何が、どこへ運ばれたのか。誰が、あの実験体たちを操っていたのか。答えの糸口は、この空っぽの倉庫のどこにも残されていなかった。


 倉庫を出ると、王都の空にはまだ星が瞬いていた。だが、頭上の静けさとは裏腹に、この街のどこかで、まだ何かが動いている――その予感だけが、セレスの中に重く沈んでいた。

第八十三話「もぬけの倉庫」をお読みいただき、ありがとうございます。


セレスの成長ぶりを無双シーンで描きつつ、証拠には届かない、という後味の悪さを残す回にしました。何が運び出されたのか、次話以降で少しずつ見えてくると思います。


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