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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第七十四話 倉庫の中の巡回者

噂になっていた「隠れ家」の調査に動きます。

「北の外れの噂、確かめに行かないか」


朝食の席で、セレスがそう切り出した。


「あの、隠れ家があるかもしれないって話?」


「ああ。噂だけで放っておくのは、危険な気がする」


イリスが、すぐに頷いた。


「賛成よ。銀ランク試験まで、まだ数日ある」


「私も、行く」


リンが、迷いなく手を挙げた。ノアは、今日も宿に残るらしい。洗濯物を畳みながら、静かに手を振って見送った。


「今回は無理するな。危なそうなら、すぐ戻るぞ」


「分かってる」


北区の外れへ向かう道すがら、ガロンが大剣を担ぎ直した。


「にしても、噂だけでよく動く気になったな」


「動かない理由がない」


「まあ、そうだが」


ガロンは、それ以上は言わなかった。


北区の外れは、王都の中でも人通りの少ない一角だった。朽ちかけた倉庫が並び、そのうちの一つに、確かに人の出入りした跡がある。


「ここね」


イリスが、扉の隙間から中を覗き込んだ。


「誰もいない、みたい」


慎重に押し開けると、埃をかぶった木箱がいくつも積まれていた。


「これ……」


ミュゼが、木箱の一つを開ける。中には、黒く濁った結晶の破片と、使い古された装備が乱雑に詰め込まれていた。


「拠点、で合ってそうね」


「もう撤収した後、か」


セレスが、床に残る轍を目でなぞる。


「リン、大丈夫か」


「……うん。ここは、知らない場所」


リンは、木箱の隙間を覗き込みながら答えた。


「知ってる場所じゃないのに、緊張する」


「無理はするなよ」


「してない。……ただ、こういう場所を見るたび、息が詰まる。それだけ」


正直な言葉だった。セレスは、それ以上は聞かなかった。


「レイフィア、何か分かるか」


「……この装備」


レイフィアが、装備の一つを手に取った。刻まれた紋章に、指を這わせる。


「見覚えがある。地下遺跡編の時、黒ローブが使ってたのと同じ型よ」


「銀仮面の、か」


その名前に、全員の顔が引き締まった。


「奴、まだどこかで動いてるってこと?」


ガロンが、低く唸る。


「分からない。でも、装備の型が同じってことは、繋がりがあってもおかしくない」


イリスが、さらに奥を調べる。壁の一角に、爪で引っかいたような跡が並んでいた。


「これ、文字……?」


「読めるか」


「一部だけ。……『上への報告、遅延中』」


短い沈黙が落ちた。


「報告先が、いる。しかも、まだ生きてる組織として動いてる」


セレスの言葉に、リンの手首が、無意識に押さえられた。


「大丈夫か」


「……何も感じない。ここには、もう何もいない、と思う」


言い終えるより早く、倉庫の外で砂利を踏む音がした。


一人ではない。複数の足音が、ゆっくりと近づいてくる。


「――隠れろ」


ガロンが、低く鋭く言った。全員が、積まれた木箱の陰に身を潜める。


戸口の隙間から、黒いローブの裾が二つ、通り過ぎるのが見えた。


「……ここも、片付けは済んでるはずだが」


くぐもった声が、外から漏れ聞こえる。


「念のための確認だ。上からの指示だからな」


足音が、倉庫の入口で一度止まった。心臓の音が、やけに大きく響く気がした。


「――特に、異状なし」


やがて、足音は離れていった。誰も、しばらく動けなかった。


「……行った、みたいね」


イリスが、押し殺した声で言う。


「奴ら、まだこの辺りを巡回してる。倉庫を『片付けた』のも、最近ってことだ」


セレスの声も、緊張を隠せていなかった。


「戻ろう。今度こそ、ここで長居する意味はない」


倉庫を出ると、外はすでに夕暮れだった。


「巡回してるってことは、まだ他にも同じような拠点があるはずよ」


イリスが、押し殺した声のまま言った。


「今の連中を、尾けたらまずいか」


「危険すぎるわ。数も分からない相手を、この人数で追う気?」


ガロンの言葉を、イリスが即座に切り捨てる。


「……だな。悪い」


「今日のところは、これで十分な収穫よ。銀仮面の装備、まだ生きてる組織、巡回してる見張り」


「お腹すいた……」


緊張が解けた途端、ミュゼが力なく呟いた。


「今それ?」


「今だからこそだよ。緊張すると、逆にお腹すくの」


「よく分からない理論だな」


「分かってよ! 帰ったら何か甘いもの食べたい……」


気の抜けたやり取りに、張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。


「屋台、まだやってるかしら」


イリスが、夕暮れの通りに目をやる。


「行く!」


真っ先に反応したミュゼに、ガロンが呆れたように肩を揺らした。


宿へ戻る道すがら、セレスは手首の紋様に目を落とした。まだ、何の反応もない。だが、さっきの足音の記憶だけは、耳の奥に張り付いたまま消えなかった。


「ねえ」


ミュゼが、隣を歩くリンの顔を覗き込んだ。


「怖かった?」


「少し。……でも、みんなと一緒だったから」


短い答えに、ミュゼは満足そうに頷いた。


翌朝、宿にアルトが顔を出した。


「聞いたぞ、昨日の倉庫の件。俺も、調べを手伝う」


「ちょうどいい。銀仮面の男についても、心当たりがないか調べてほしい」


「銀仮面……。地下遺跡編の、あの」


アルトの表情が、ぐっと険しくなった。


「厄介な名前が出てきたな」


「厄介だからこそ、放っておけない」


セレスの言葉に、アルトは短く頷いた。それから、資料の束をテーブルに置く。


「ついでに、もう一つ。ギルドの記録を漁ってて、妙なものを見つけた」


「妙な、とは」


「巡回してた黒ローブの数、俺が把握してるだけで、この一週間で三倍に増えてる。何かに備えてるみたいにな」


食堂の空気が、一気に張り詰めた。

第七十四話「倉庫の中の巡回者」をお読みいただき、ありがとうございます。


長らく姿を見せていなかった銀仮面の男の影が、ようやく再浮上しました。見張りに気づかれかけるヒヤリとする場面と、黒ローブの数が急増しているという不穏な情報――次話以降、緊張感が増していきます。


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