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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第七十三話 困った視線

銀ランク試験の正式な登録手続き回です。

今日はノアも一緒です。

「登録は、午前中に済ませておいた方がいい」


朝食の席で、アルトがそう切り出した。銀ランク試験の推薦組として、正式な受験登録の期日が迫っているらしい。


「アルトが世話焼くの、珍しいね」


「世話じゃない。手続きが遅れると面倒だってだけだ」


「照れてる?」


「照れてねえよ」


いつものやり取りに、朝の食卓が軽く沸いた。ガロンは市場、イリスは武具屋、レイフィアは依頼の確認とそれぞれ用事があるらしく、登録に付き合うのはミュゼとリンになった。


「私も、行っていい?」


控えめに手を挙げたのは、ノアだった。


「珍しいな」


セレスの言葉に、ノアは小さく頷いた。


「たまには、外の空気も吸いたい。それに――リンが、少し心配」


短い一言だったが、ノアらしい気遣いが滲んでいた。リンが、驚いたようにノアを見る。


「私は、大丈夫」


「知ってる。それでも、行きたい」


理由になっていないような、なっているような答えだった。誰もそれ以上は追及しなかった。


ギルド附属の受付窓口は、思った以上に混み合っていた。


「アルト・ヴァレインだな。書類はこちらに」


受付の職員に呼ばれ、アルトが先に手続きを済ませる。順番待ちの間、簡易的な基礎適性検査があるらしく、列の先では、重い鉄の錘を持ち上げて秒数を計る係員の姿が見えた。


「無色の方も、一応やっていただけますか。形式的なものですが」


気まずそうに言われ、セレスは肩をすくめる代わりに、無言で錘に手をかけた。


見た目に反して、ずしりとした重みが腕に伝わった。


セレスは表情を変えず、そのまま一息に持ち上げた。


「……はい、規定時間クリアです。あの、結構余裕そうでしたが」


係員が、数字を見て軽く目を見張る。


「そう見えたか? ならよかった」


素っ気なく答え、セレスは列の後ろへ戻った。近くにいた別の受験者たちが、ひそひそと言葉を交わしている。


「今の、無色だよな。なのに全然平気そうだったぞ」


「見た目で判断すんな、ってことか……」


そんな声を背に受けながら、セレスの番になった。隣に並んでいた一人の青年が、不意に声をかけてきた。


「あの、失礼。もしかして君も推薦組?」


濃紺の髪をきっちり整えた、育ちの良さそうな青年だった。名札には「クロード」とある。


「ああ、そう」


「へえ。名前、聞いても?」


「セレス」


「セレスさん。……いい名前だ」


やけに真剣な目でそう言われ、セレスは思わず口をつぐんだ。


「良かったら、試験まで情報交換でも――」


「セレスは今、手続き中なんで」


割って入ったのは、ミュゼだった。にこやかな笑顔の圧が、いつもより強い。


「あ、ああ、それは失礼」


クロードは軽く頭を下げ、少し名残惜しそうにしながら列の奥へ戻っていった。


「……何だ、今の」


セレスが呟くと、リンが不思議そうに首を傾げた。


「知らないの?」


「何をだ」


「あなた、口説かれてた」


「は?」


素で聞き返すセレスに、ミュゼが噴き出した。


「自覚なさすぎ。前々からちょいちょいあったでしょ、ああいうの」


「あった、か?」


「あったよ。あなたが全部塩対応で片付けてただけ」


言われてみれば、視線を感じたことは何度かあった気がする。だが、それが「そういう」意味だったとは、考えたこともなかった。


「……勘弁してくれ」


がっくりと肩を落とすセレスに、ノアがぽつりと言う。


「似合ってる、と思う。困ってる顔」


「褒めてないだろ、それ」


「褒めてる」


淡々とした口調だけに、余計にからかわれている気がした。


手続きを終えて外に出ると、アルトが年配の受付職員と、声を潜めて話し込んでいた。


「――噂じゃ、北の外れに、まだ隠れ家があるらしいですよ」


「確証は?」


「ないです。ただ、黒ローブらしき影を見たって話が、また出てきてて」


アルトが一行に気づき、話を切り上げる。


「聞いたか、今の」


「一部だけ」


セレスの答えに、アルトは声を落とした。


「奴らの拠点は、あれで終わりじゃないかもしれない。……根拠のない噂だが、根拠のない噂ばかり、妙に的中してきた」


その言葉に、リンの表情がわずかに硬くなった。手首に、無意識に触れる。


「大丈夫か」


「……分からない。でも、何も感じない。今のところは」


不安そうな声だったが、逃げてはいなかった。


「気にしすぎるな。今日のところは、手続きが終わっただけで十分だ」


セレスの言葉に、リンは小さく息を吐いた。


「そう、だね」


帰り道、ミュゼがからかうように肘で小突いてくる。


「さっきの人、結構真剣だったよ」


「勘弁してくれ」


「モテるのも、無双の一種ってことで」


「無双って言葉、そんな使い方あるか」


軽口を叩き合いながら、一行は宿への道を歩いた。ノアがふと、隣のリンに視線を向ける。


「楽しかった?」


「……うん。少し」


短い答えだったが、その声には、はっきりとした実感があった。


根拠のない噂が妙に的中してきたというアルトの言葉だけが、頭から離れなかった。

第七十三話「困った視線」をお読みいただき、ありがとうございます。


見た目は美少女なのに、中身は無自覚な男。セレスにとってはとんだ災難な回でした。銀ランク試験の登録も無事終わり、次はいよいよ試験本番に向けて動き出します。


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