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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第七十二話 測定不能、また

銀ランク試験の下見回です。分かりやすく無双します。

===== エピソードタイトル =====

「お前も来い」


アルトが、朝一番でそう言ってきた時、セレスは正直、面食らった。


「試験の下見だ。会場を見ておくのは、悪いことじゃないだろう」


ぶっきらぼうな誘い方だったが、断る理由もなかった。ミュゼが目を輝かせる。


「アルトが自分から誘うなんて、珍しい!」


「うるさい。当たり前のことをしてるだけだ」


「照れてる?」


「照れてねえよ!」


いつものやり取りに、朝の食卓が少し賑やかになった。ガロンは今日も市場へ、イリスとレイフィアは受けていた依頼の納品に出るらしい。ノアは宿に残り、留守を預かることになった。


「私も、行っていい?」


リンが、控えめに手を挙げた。以前なら考えられなかった申し出に、セレスは少しだけ驚いた。


「見てるだけで、いい。少しずつ、外に慣れておきたいから」


「構わない」


短いやり取りだったが、リンの表情に、確かな意志が見えた。


試験会場は、ギルド付属の闘技場だった。まだ本番ではないが、推薦組の実力を見極めるための、非公式な評価会が開かれているらしい。観覧席には、他の受験希望者や、値踏みするような目つきの試験官たちが並んでいた。


「無色、だったか。話には聞いていたが」


初老の試験官が、セレスを見て、あからさまに眉をひそめた。手元の書類をぱらぱらとめくる。


「鑑定で測定不能。数値も出ない、実績も薄い。これで銀ランクの推薦とは、正直、疑問だな」


隣で、アルトが何か言い返そうとするのを、セレスは手で制した。


「疑うのは、構いません」


「威勢だけはいいな。だが評価会は、数字が全てだ。的当てでも、模擬戦でも、好きな方を選べ」


「模擬戦で」


セレスは即答した。


「相手は、私が務めよう」


進み出たのは、試験官の一人――かつて金ランクだったという、恰幅の良い男だった。周囲がざわつく。


「おいおい、本気か」


「無色相手に、元金ランクをぶつけるのか」


観客席の声には、隠しきれない嘲りが混じっていた。中には、宿で顔を合わせたことのある冒険者の姿もあった。


「セレス、無理はするな」


アルトが、小さく声をかける。


「無理じゃない」


セレスは、剣を抜きながら短く答えた。


開始の合図と同時に、元金ランクの男が踏み込んだ。重い一撃。だが、セレスはそれを紙一重で躱すと、男の得意な間合いをそのまま奪い返した。


「――借りる」


呟きと同時に、白銀の紋様が淡く光る。目の前の相手の強さの質を読み取り、それを写し取る力。今回借りたのは、相手自身の膂力と、長年培われた重心の運び方だった。


男が、驚いたように目を見開いた。


「な――」


言葉を発する間もなく、セレスの姿が沈む。男の得意な踏み込みを寸分違わずなぞり、その上をいく重心移動で、一足に懐へ入り込んでいた。


「馬鹿な、これは俺の――」


「知ってる。だから、借りた」


男が渾身の一撃を振るう。セレスはその軌道をわずかに逸らして受け流すと、返す動きで懐を突いた。二撃、三撃。男の剣は空を切るばかりで、当たる気配すらない。


「なんだ、あの動き……」


「元金ランクが、まるで子供扱いされてる……」


観客席のざわめきが、戸惑いから驚嘆へと変わっていく。


観客席の隅で、リンは息を詰めていた。


目の前で起きていることが、うまく飲み込めなかった。胸の奥が、じんと熱くなった。


次の瞬間、セレスの一撃が、男の得物を弾き飛ばした。


「なっ……」


「……終わりです」


静まり返った闘技場に、セレスの声だけが響いた。


観客席が、しんと静まり返る。


「今の、何だ……」


「相手の力を、そのまま返したように見えたが」


ざわめきが、戸惑いへと変わっていく。試験官は、しばらく言葉を失っていたが、やがて絞り出すように言った。


「……測定不能というのは、こういうことか」


「数字にできないだけで、力が無いわけじゃない」


セレスは、剣を鞘に納めながら答えた。


「それを、証明したかっただけです」


観客席の隅で、疑いの目を向けていた冒険者の一人が、気まずそうに視線を逸らした。全員の評価が変わったわけではない。それでも、少なくともこの場にいた者たちは、もう「無色だから」で片付けられなくなっていた。


「……派手にやったな」


アルトが、呆れたような、それでいて少し誇らしげな顔で言う。


「お前が誘ったんだろう」


「まさか、ここまでやるとは思わなかった」


短いやり取りに、ミュゼが横から笑って割り込む。


「アルトも、次は自分の番だからね!」


「分かってる」


アルトは、闘技場の中央をまっすぐに見据えた。その目には、もう気後れは無かった。


帰り道、リンが小さく呟いた。


「……セレス、本当に強いんだね」


「今更か」


「今更だけど、実際に見ると違う」


言葉を選ぶように、リンは続けた。


「ずっと、強さって怖いものだと思ってた。私を縛ってたものも、強い力だったから」


「今は」


リンは、それには答えず、ただ小さく首を振った。それから、少しだけ笑った。


「私も、いつか」


そこで、リンは言葉を止めた。それでも、セレスには、続きが聞こえた気がした。


「いつか、そうなれるといい」


セレスは、それだけ答えた。焦らせるつもりも、期待を押し付けるつもりもない、ただの願いだった。


今日という日を境に、このパーティーの見え方は、少し変わったはずだった。

第七十二話「測定不能、また」をお読みいただき、ありがとうございます。


久しぶりに、分かりやすくセレスが無双する回になりました。銀ランク試験に向けて、アルトの出番も少しずつ増やしていきます。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価でも応援してもらえると嬉しいです!


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