第七話 昇格試験と呼ばれるもの
誰かと一緒にいることは、楽しいことばかりではありません。
それでも、分け合えるものがあるなら。
セレスたちは今日も、少しずつ前へ進みます。
「――というわけで、セレスにも正式に昇格試験を受けてもらいたいんだけど」
依頼を終えてギルドに戻ると、受付の女性が改まった様子でそう切り出した。
「昇格試験?」
「無色の方でも、実績が認められれば正式ランクへの再鑑定が可能なんです。今回のセレスさんは、その……前代未聞の実績なので、特別に試験の枠を用意させていただきました」
「面倒だから、水晶をもう一回試すだけじゃ駄目なの?」
「それが……何度試しても、無色のままなんです。原因は、こちらでも分からないんですが」
受付の女性は申し訳なさそうに肩を落とした。
セレスは軽く肩をすくめる。まあ、女神由来の力が普通の鑑定に引っかからないのは、今さら驚くことでもない。
「試験の内容は?」
「指定された討伐依頼を、パーティーで完遂すること。難易度は銅ランク相当の依頼です。今回は――」
差し出された依頼書には、町の東にある廃坑で発生している魔物の群れの掃討、と書かれていた。
「廃坑、ね。分かった」
「私も同行するわ。銅ランクの指定依頼なら、私が見届け人としてついていれば話も早い」
横から口を挟んできたのは、パーティーに同行し始めて数日が経つイリスだった。
「金ランクのお墨付き付きか。豪華だな」
「別に、あんたのためじゃないから」
「はいはい」
軽くあしらうセレスに、イリスはむっとした顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
*
廃坑は、想像していたよりも入り組んでいた。
かつて鉱山として使われていたらしく、無数の坑道が蟻の巣のように張り巡らされている。松明の明かりだけを頼りに、四人は奥へと進んでいった。
「気配、増えてきたな」
ガロンが低く呟いた。
壁の向こうから、無数の足音――正確には、爪が地面を引っ掻くような音が響いてくる。
「来ます!」
ミュゼの声とともに、闇の奥から一斉に魔物が押し寄せてきた。
全身を甲殻で覆われた、蟹のような魔物の群れだった。数はざっと二十を超えている。
「囲まれる前に、突破口を作るぞ!」
ガロンが先頭に立ち、大剣を横薙ぎに払う。
二体、三体と、甲殻を割られた魔物が吹き飛んだ。
「ヒールとプロテクト、二重掛けしますね!」
ミュゼの詠唱とともに、淡い光がパーティー全体を包む。
防御と回復を同時に行う、器用な支援だった。
「あんたたち、連携くらいはできるみたいね」
イリスがそう言いながら剣を振るう。
一撃で三体を斬り伏せる、鮮やかな剣筋だった。
「そういうあんたは、単独行動が得意そうだけど」
セレスも群れの一角に切り込みながら、軽口を返す。
木の枝ではなく、今日は正式な剣を借りてきていた。手首の紋様が、わずかに熱を持ち始める。
(数が多い。誰かの力を借りるより――)
考えを巡らせながら、セレスは目の前の魔物を斬り伏せていく。
四人での連携は、思いのほか噛み合っていた。
ガロンが敵の意識を引きつけ、イリスが的確に数を減らし、ミュゼが後方から支援と回復を回す。セレスはその隙間を縫うように動き回り、崩れかけた戦線を繋いでいった。
「セレス、右!」
「見えてる」
振り返らずに剣を振るう。
ガロンの声だけで、位置と距離が正確に分かった。
前世由来なのか、それとも別の何かなのか――理由は分からない。だが、こういう「勘」だけは妙に鋭かった。
群れが半分ほどに減った頃、坑道の奥から一際大きな影が姿を現した。
「――親玉、か」
他の個体の倍はある甲殻蟹が、鋏を振り上げてこちらを睨みつけている。
「あれが本命ってやつだな」
ガロンが息を整えながら呟いた。
ミュゼが不安そうな顔をする。
「大丈夫でしょうか……」
「大丈夫。ここまでで、大体コツは掴んだ」
セレスは短くそう言うと、親玉に向かって走り出した。
手首の紋様が、これまでにない強さで熱を持つ。
【対象:甲殻蟹(親玉) 特性を検出――部分継承を実行】
全身の肌が、瞬時に硬質な甲殻へと変わっていく。
振り下ろされる鋏の一撃を、セレスは正面から受け止めた。
「なっ――」
衝撃を殺しきれず後退はしたものの、傷一つなかった。
「借りるよ。悪いけど」
セレスは硬化した拳を握り、そのまま親玉の懐へと踏み込んだ。
「オラァ!」
拳が甲殻の隙間に叩き込まれる。
轟音とともに、巨体が大きくのけぞった。
畳み掛けるように、ガロンの大剣が横から加わる。
「終いだ!」
二人の連撃を受けた親玉は、ひときわ大きな咆哮を上げると、その場に崩れ落ちた。
坑道内に、静寂が戻る。
「……勝った、のか」
ガロンが肩で息をしながら呟いた。
ミュゼが安堵の表情で駆け寄ってくる。
「お疲れ様です、みんな! 誰も大きな怪我がなくて良かった……!」
イリスは剣についた汚れを拭いながら、セレスの方をちらりと見た。
「悪くない連携だったわね。あんた、思ったより周りをよく見てる」
「褒めてる?」
「褒めてるのよ、これでも」
ぶっきらぼうにそう言うイリスに、セレスは小さく笑った。
*
依頼完了の報告を終えると、後日、再鑑定の結果が届いた。
相変わらず、水晶の反応は「無色」のまま。
だがギルドはそれとは別に、実績に基づく特例として、正式に「銅ランク」の資格をセレスに与えることを決めた。
「無色のまま銅ランク、っていうのも変な話ですけどね」
受付の女性は苦笑しながらそう言った。
「別にいいよ。呼び方なんて、後から誰かが勝手に決めるものだし」
セレスは軽く肩をすくめると、新しく発行された冒険者証を受け取った。
無色という表示の隣に、小さく「銅」の文字が刻まれている。
(一歩ずつ、か)
悪くないペースだ、とセレスは思う。
手首の紋様に軽く触れながら、彼女は仲間たちの待つ場所へと歩き出した。
あとがき
第七話をお読みいただき、ありがとうございます!
ここからアーク2、銅ランク編のスタートです。
四人での初めての本格的な連携バトル、いかがだったでしょうか。それぞれの役割がはっきりしてきて、書いていてとても楽しいパーティーになってきました。
イリスの素直じゃない褒め言葉も、今後どんどん増えていく予定です。
「無色のまま銅ランク」という、少し矛盾した肩書きを背負ったセレス。この先も、数字では測れない強さを積み重ねていく姿を描いていきます。
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次話もお楽しみに!




