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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第六十九話 守られる理由が分からない

廃坑から帰った翌朝の話です。

「……よし」


廃坑から戻った翌朝、リンは誰よりも早く起きていた。台所に立ち、誰もいないのを確かめてから、小さく気合を入れる。昨日、ガロンが朝食を作っていたのを、こっそり観察していたのだ。


だが、鍋を火にかけて十分も経たないうちに、部屋には焦げた匂いが充満していた。


「うわ、なにこれ……!」


真っ先に飛び込んできたミュゼが、鍋の中身を覗き込んで顔をしかめる。


「ご、ごめん。加減が、分からなくて」


リンは、しゅんと肩を落とした。そこへ、ガロンが眠そうな顔で現れる。鍋の惨状を一目見て、しばらく無言だった。


「……初めてにしては、上出来だ」


「絶対、慰めてる」


ミュゼの突っ込みに、ガロンは何も言い返さなかった。代わりに、無言で鍋を引き取り、手早く具材を足して立て直し始める。手つきに、迷いはなかった。


「私、足を引っ張っただけ」


「そうでもない。火加減の癖は分かった。次はもう少しうまくいく」


不器用な励ましだったが、リンは小さく頷いた。それでも、朝食が並んだ食卓で、彼女はどこか落ち着かない様子だった。


朝食の席では、ミュゼが早速、鍋の焦げ具合について熱弁を振るっていた。


「これくらいなら、まだ食べられるよ! 削れば大丈夫!」


「削るってレベルじゃないだろう、これ」


ガロンの突っ込みに、ミュゼはむっと頬を膨らませたが、結局は自分の分から率先して食べ始めた。


「こういう時こそ、甘いもので元気出さないと。今度、プリン作ってあげる」


「焦げてないやつ、期待してる」


「作るのは得意なの! 焦がすのはリンだけだから!」


「うっ……」


その様子に、リンは思わず口元を緩めた。


食後、片付けを手伝いながら、リンはぽつりとセレスに言った。


「昨日のこと、まだ、うまく飲み込めてない」


「廃坑でのことか」


「……あなたが、『渡さない』って言った時のこと」


リンは、皿を拭く手を止めた。


「今まで、誰かに何かを『してもらう』時は、必ず理由があった。使えるから。役に立つから。……ただで守られたことなんて、一度もなかった」


「今回は、違ったか」


「違った。だから、分からない。なんで、そこまでするの」


その問いは、責めるようなものではなかった。ただ純粋に、理解できないという顔だった。


セレスは、少し考えてから答えた。


「理由なんて、後付けでいくらでも作れる。仲間だから、とか、放っておけないから、とか」


「でも」


「本当のところは、多分もっと単純だ。お前がそこにいたから、守った。それだけだ」


リンは、しばらく黙っていた。皿を拭く手が、また動き出す。


「……分からない。でも、悪い気は、しない」


小さな声だったが、確かにそう言った。


片付けを終えた頃、二階からイリスが降りてきた。寝起きらしく、いつもより少し髪が乱れている。


「……何、この匂い」


「リンが、朝食に挑戦した」


「ああ、それで」


イリスは納得したように頷くと、焦げ跡の残る鍋をちらりと見て、目元だけで笑んだ。


「次は、私が教えましょうか。案外、得意なのよ」


「イリスが? 意外」


「失礼ね」


そんなやり取りを聞きながら、リンの頬が、自然と緩んだ。


遅れて起きてきたレイフィアが、鼻をひくつかせながら食堂に顔を出す。


「……何、この匂い。何かの実験?」


「リンの朝食」


「実験で合ってたわね」


「ひどい」


不服そうなリンの声に、食堂に小さな笑いが起きた。レイフィアは、焦げた鍋を一瞥すると、意外にも真面目な顔で言った。


「次、失敗しても気にしないことね。私も最初は、お湯すら沸かせなかったから」


「レイフィアが?」


「言っておくけど、今は違うわよ」


軽く睨みながらも、その口調はどこか優しかった。


その時、玄関の方から、慌ただしい足音が響いた。


「大変です!」


飛び込んできたのは、宿の女将だった。息を切らせている。


「北区で、火事です! しかも、普通の火事じゃないって話で……」


セレスとリンは、思わず顔を見合わせた。手首の紋様に、微かな熱がよぎった気がした。


穏やかな朝は、そこで終わりを告げた。

第六十九話「守られる理由が分からない」をお読みいただき、ありがとうございます。


守られることに戸惑うリンの心情と、束の間の日常を描きました。そして、新たな異変の予感で幕を閉じます。


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