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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第六十六話 選んだ細剣

レイフィアの過去に、もう一歩踏み込む回です。

細剣の刃が、静かな金属音を立てる。リンに名前がついた翌日、宿には穏やかな空気が流れていた。


ノアとガロンは市場へ、アルトは朝早くから街道の調査に出ていた。


朝の片付けを終えたレイフィアが、一人で細剣の手入れをしているのを、リンが見つけた。


「その剣、ずっと大事にしてるよね」


「……まあ、そうね」


素っ気ない返事だったが、リンはそのまま隣に腰を下ろした。


「昔から、その剣なの」


「ううん。この剣を持ったのは、故郷を出てから」


レイフィアは、刃を光にかざしながら、ぽつりぽつりと語り始めた。


「前に少し話したと思うけど、私の村は、偽紋様の暴走で壊れた。私は、間に合わなかった人が何人もいた」


窓の外を眺めながら、リンは黙って耳を傾けていた。


「あの日から、自分を許せなかった。もっと早く気づいていれば。もっと強ければって、何度も考えた」


「それで、剣を」


「最初は、大剣とか、重い武器を選ぼうとしたの。力があれば、次は守れるかもしれないって。でも、どれも私には合わなかった」


レイフィアは、細剣の柄をそっと握り直した。


「ある人に言われたの。『重い剣は、力のある者の剣だ。お前に必要なのは、一瞬を逃さない剣だ』って」


「一瞬を逃さない」


「偽紋様に蝕まれた人は、正気と、そうじゃない瞬間の境目がすごく短い。助けられるとしたら、その一瞬しかない。……だから、速さと精度を選んだ」


「それから、必死に鍛えた。誰よりも速く、誰よりも正確に。……気づいたら、銀ランクになってた」


「一人で?」


「一人で。誰かと組むと、また誰かを守れなかった時、その人のことも背負うことになる気がして。……怖かったの、正直」


「今は」


リンの問いに、レイフィアはしばらく黙っていた。


「今は、違う。ガロンは、いつも公平に飯を分ける。ミュゼは、誰かが辛そうにしてると、真っ先に気づく。イリスは、口数少ないけど、ちゃんと背中を任せてくれる。……セレスは、私の過去を知っても、一度も憐れむような目をしなかった」


レイフィアは、誤魔化すような早口になった。


「気づいたら、素直になれてた。でも、素直になるのが下手だから、いつもこんな言い方になる」


「ツンデレ、って言うんでしょ」


からかうようなリンの言葉に、レイフィアは頬を赤らめた。


「誰から聞いたのそれ」


「ミュゼが言ってた」


「あの子……」


呆れたようなため息をつきながらも、レイフィアの表情は柔らかかった。


「故郷でのことは、消えない。でも、この剣を握るたびに、思い出すの。あの日助けられなかった分、今度こそ、目の前の人を助けるって」


「その剣、誓いのためにあるの」


「そう。……あと、もう二度と、間に合わないなんて言わせないっていう、意地でもある」


素直な本音に、リンは小さく微笑んだ。


「レイフィアも、意地っ張りだね」


「あなたに言われたくないわ」


窓の外、朝の光が細剣の刃を白く照らしている。


それを少し離れた場所から、セレスは黙って眺めていた。


昼過ぎ、市場から戻ったガロンとノアが、宿の食堂に大量の食材を運び込んできた。


「今日は、ちょっとした祝いの続きだ」


「また食べるの?」


呆れたように言うレイフィアに、ガロンはにやりと笑う。


「昨日は名前の祝い、今日は皆で話を聞けた祝いだ。理由なんて、後からいくらでもつく」


レイフィアは何も言い返せず、小さく笑うしかなかった。ノアもまた、静かにその輪に加わった。


「レイフィア、その剣、見せてもらってもいい?」


リンが、そう声をかけた。


「……いいけど、丁寧に扱ってよ」


差し出された細剣を、リンは両手でそっと受け取る。刃に映る自分の顔を、じっと見つめた。


「綺麗な剣」


「誓いの証だから」


「私も、いつか、そういうものが持てるかな」


「持てるわよ、きっと」


リンは、剣をそっと返しながら、小さく微笑んだ。


夜も更けた頃、宿の扉が勢いよく開いた。


「――アルト?」


息を切らせて立っていたのは、アルトだった。外套は乱れ、頬に薄く擦り傷がある。いつもの落ち着きが、今夜はどこにもなかった。


「悪い、追われた」


「追われた?」


セレスが立ち上がる。食堂の空気が、一瞬で張り詰めた。


「聞き込みしてた場所の近くで、黒いローブの奴に見つかった。……向こうも、こっちに気づいた顔をしてた」


アルトは荒い息のまま、地図を取り出した。


「北の街道、廃坑の跡地。あそこに、拠点がある」


「本当か」


「確証はある。だが、見つかった以上、悠長にはしてられない。向こうも、こっちの動きを警戒し始めるはずだ」


食堂に、緊張が満ちた。


「明日、詳しく話す。今夜は、休め」


セレスの言葉に、アルトは短く頷いた。だが、誰の顔にも、もう安穏とした空気は残っていなかった。


第六十六話「選んだ細剣」をお読みいただき、ありがとうございます。


レイフィアが、なぜ細剣を選び、なぜ一人で銀ランクまで駆け上がったのか――その理由を描きました。彼女の強さの裏にある、静かな誓いを感じていただけたら嬉しいです。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価でも応援してもらえると嬉しいです!

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