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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第六十二話 街道調査へ、出発の朝

北の街道の噂を受けて、それぞれが動き出す回です。

「北の街道、か」


朝食の空気が落ち着いた頃、話し合いは自然と作戦会議めいたものになっていた。


セレスが呟くと、レイフィアが小さく肩を揺らした。


「……実は、私も聞いてた。ギルドで。旅の商人が、それらしい話をしてるのを」


意を決したように、レイフィアが口を開いた。


「なんで黙ってたの」


ミュゼが、責めるでもなく、単純な疑問として聞く。


「……確証もないのに、いちいち騒がせたくなかっただけ」


イリスが、ふっと息を吐いた。


「それも、優しさの一種でしょうね」


「別に、優しくなんて」


言葉に詰まって、レイフィアは早口になった。


「とにかく」と、ガロンが話を戻す。「街道沿いに、何かがいる。それだけは確かだ」


「調べに行く価値はある」


イリスが即答した。剣の鍔に指をかける仕草には、迷いがなかった。


「でも、全員で動くのは危険よ。宿にも、誰か残さないと」


レイフィアの指摘に、部屋の空気が少し引き締まった。少女を一人にはできない。


「私が残る」


真っ先に手を挙げたのは、ノアだった。


「街道より、この子の傍にいたい」


短い言葉に、迷いはなかった。少女が、驚いたようにノアを見る。


「……いいの、私のために」


「私のためでもある」


それ以上の説明を、ノアはしなかった。


「なら、ガロンも残ってくれ」


セレスの言葉に、ガロンは意外そうな顔をした。


「俺が、か」


「戦力としても、料理番としても、お前がいた方が心強い」


冗談めかした言い方だったが、本音でもあった。


「……分かった。任せろ」


短く頷いて、ガロンは台所の方へ向かった。出立前に、腹に溜まるものを作っておくつもりらしい。


「残りは、街道の調査ね」


イリスが立ち上がる。


「私と、レイフィアと」


「セレスも行くでしょう。紋様の反応が、また何か教えてくれるかもしれない」


ミュゼの言葉に、セレスは頷いた。


「ミュゼは」


「もちろん行くよ。回復役がいないと話にならないでしょ」


てきぱきと荷物をまとめながら、ミュゼは笑った。いつもの明るさの奥に、静かな覚悟が見えた。


「アルトは」


「昨日のうちに、ギルドへ戻った。銀ランク試験の推薦組として、独自に情報を集めるそうだ」


イリスの補足に、セレスは苦笑した。単独で動きたがるところは、相変わらずらしい。


支度が整うまでの間、ガロンは台所に籠りきりだった。戻ってきた頃には、小さな包みをいくつも手にしている。


「腹が減ると、判断が鈍る。持っていけ」


不格好に布で包まれたそれは、干し肉と固焼きのパンだった。


「悪いな、留守番なのに」


「留守番だからこそ、できることをする。それだけだ」


短く言い切って、ガロンは少女の方へ視線をやった。少女は、その包みの一つを両手で受け取り、少しだけ戸惑ったように見つめている。


「……私の分も、あるの」


「当たり前だろう」


ぶっきらぼうな返事だったが、少女の表情が、わずかに緩んだ。


出立の支度が整う頃、少女が窓辺からセレスたちを見送りに来た。


「気を付けて」


短い一言だったが、これまでの彼女なら、口にしなかった類の言葉だった。


「お前もな」


その時、少女が小さく息を呑んだ。手首を、無意識に押さえる。


「……どうした」


「分からない。……今、一瞬だけ、熱を持った気がした」


一同の顔が、一気に強張った。ガロンが、真っ先に外へ視線を走らせる。


「敵か」


「違う、と思う。……もう、消えた」


少女は、自分の手首を何度も確かめたが、紋様はもう静まり返っていた。それでも、部屋の空気は張り詰めたままだった。


「気のせいじゃない気がするな」


イリスが、剣の柄に手をかけたまま呟く。


「街道へ向かう前触れかもしれない。……油断しない方がいいわ」


セレスは、少女の手首をもう一度確認してから、静かに頷いた。


「私は、大丈夫。ノアと、ガロンがいるから」


少女は、努めて明るくそう言った。だが、その声にはまだ、拭いきれない不安の色が残っていた。


雨上がりの空は、抜けるように青かった。石畳を踏みしめながら、セレスたちは北門へと向かう。


道すがら、ミュゼが隣に並んだ。


「ねえ、あの子のこと」


「何だ」


「大丈夫かな、置いていって」


セレスは、少し考えてから答えた。


「ノアがいる。ガロンもいる。俺たちより、案外うまくやるかもしれん」


「それもそうか」


ミュゼは、納得したように頷いた。


北門が見えてきた頃、イリスがふと足を止めた。


「街道の向こうに行くのは、久しぶりね」


呟くような声だった。セレスは、声をかけなかった。


門をくぐると、街道はまっすぐ北へと伸びていた。


先頭を歩くレイフィアの背中を見ながら、セレスはふと、昨日彼女が噂を黙っていた理由を考えた。「確証がないから」、それだけではない気がした。


「何、見てるの」


視線に気づいたのか、レイフィアが振り返らずに聞いた。


「別に」


「変な人」


手首の紋様は、まだ何の反応も示していない。だが、街道の向こうから吹いてくる風には、どこか嫌な気配が混じっていた。


街道の先に何が待っているのか、まだ誰にも分からなかった。それでも、備えるべきことは、もう始まっていた。


第六十二話「街道調査へ、出発の朝」をお読みいただき、ありがとうございます。


いよいよ北の街道の調査へ向かう回でした。誰が残り、誰が向かうか――それぞれの選択に、これまで積み重ねてきた関係性が滲んでいたら嬉しいです。


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