表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第四章 王都、影の襲来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/70

第五十四話 最初の失敗作

鎖につながれた少女が、「来るな」と言いました。

もちろん、聞くわけがありません。

ガロンは今回も、律儀に床を破壊しました。

たぶん、ガロンの中で床と壁の境界は曖昧です。

黒い糸が、五人へ牙を剥いた。


「来る……!」


ガロンの声と同時に、無数の糸が空気を切り裂きながら殺到する。


俺は半歩下がり、切っ先を薙いで最初の一本を弾いた。


金属同士がぶつかるような、硬い感触。


ただの糸じゃない。


「硬いな」


「見た目に騙されるな。中に何か芯があるわ」


レイフィアが細剣を返しながら言う。


彼女の言う通りだった。


弾いた糸の断面から覗いたのは、黒く濁った結晶質の何かだ。


イリスが横合いから斬り込み、迫っていた三本をまとめて薙ぎ払う。


「数が多い。切っても切っても増える」


「なら、増える前に叩く」


ガロンが大剣を振り上げ、床の紋様ごと叩き潰すように打ち下ろした。


石畳が割れ、紋様の一部が消える。


その瞬間、部屋の中央にある黒い結晶の脈動が、わずかに乱れた。


「効いてる……!」


ミュゼの声が弾む。


同時に彼女は、鎖につながれた少女の前に、淡い緑の壁を張った。


飛んできた糸が、壁に触れて弾かれる。


「大丈夫。ちゃんと守ります」


少女は答えなかった。


ただ、青白い瞳だけが、ミュゼをじっと見ていた。


『……守る?』


声が、また直接頭に響く。


『無駄よ。私を守っても、何も変わらない』


「変わるかどうかは、私たちが決めることだよ」


ミュゼは怯まなかった。


杖を握る手に、もう一度力を込める。


俺はその間に、少女との距離を詰めていた。


左手首の白銀の紋様が、痛みに近い熱を持っている。


彼女の腕にある、黒と白が混じった不完全な紋様と、確かに響き合っていた。


「お前は、失敗作なんかじゃない」


『……知った風な口を』


「知らないさ。だから聞きに来た」


『来るなって言った』


「聞こえなかったことにした」


一瞬、少女の表情が揺れた。


怒りでも、恐怖でもない。


ひどく戸惑ったような色だった。


その隙を突くように、黒い結晶からひときわ太い糸が伸び、俺の背後を狙う。


「セレス!」


ノアの声が飛んだ。


振り向くより早く、小さな体が俺の前に滑り込む。


ノアの手のひらから、色のない光——「無色」の力が広がった。


太い糸が、まるで存在を否定されたように輪郭を崩し、霧散する。


「……悪い、助かった」


「私も、ここにいていい理由が欲しいので」


ノアは短く言って、また構え直した。


その姿に、鎖の少女がわずかに息を呑む。


『同じ……匂いがする』


『あなたも、「型」から外れた』


「型?」


『量産される器の中で、失敗として捨てられる側』


少女の声に、初めて感情らしいものが滲んだ。


自嘲にも、悲しみにも聞こえる響きだった。


黒い結晶が、再び強く脈動する。


床の紋様全体が赤黒く発光し、糸の密度が一気に増した。


「本命が来るぞ!」


ガロンが叫び、五人は自然と少女を庇うように円陣を組む。


イリスとレイフィアが左右から糸を斬り払い、ガロンが正面を受け持つ。


ミュゼの光の壁が、絶え間なく張り直される。


俺は少女のすぐそばに立ち、白銀の紋様を握るように押さえた。


「教えてくれ。お前を器にしようとしてるやつは、どこにいる」


『……上』


少女が、初めて自分から言葉を紡いだ。


『この結晶は、末端。本体は、王都のもっと深く』


『そこに、「完成した器」を作ろうとしてる人がいる』


「完成した器?」


『私よりも、ずっと出来のいい……次の私』


その言葉を最後に、少女の瞳から光が薄れていく。


まるで、話しすぎた分の力を持っていかれたかのように。


「おい……!」


俺が手を伸ばすより早く、彼女の体を縛る鎖が強く輝き、意識を刈り取るように少女を沈黙させた。


黒い結晶が、勝ち誇るように大きく脈打つ。


糸の奔流が、さらに勢いを増して五人へ迫った。


「まだだ……!」


ガロンの大剣が唸る。


イリスとレイフィアが呼吸を合わせ、二人がかりで一本の太い流れを断ち切る。


ミュゼの光が、傷ついた仲間の肩をかすめて癒やしていく。


ノアの「無色」が、届く範囲の糸を静かに消していく。


そして俺は、少女の手をそっと握った。


意識のないその手は、驚くほど冷たかった。


「連れて帰る」


誰にともなく、そう呟いた。


紋様が、応えるように強く光った。


その直後、地下全体を揺らすような重低音が響いた。


天井の一部が崩れ、粉塵と共に冷たい風が吹き抜ける。


「セレス、まずい。天井が保たない!」


イリスの声に、俺は顔を上げた。


崩れた隙間の向こうから、赤黒い光が漏れ出している。


まるで、地下深くで何か巨大なものが目を覚ましたような光だった。


「退くぞ!この子を連れて!」


ガロンの指示に、誰も異論を挟まなかった。


ミュゼが少女の体を担ぎ、レイフィアが退路を切り開く。


イリスとノアが背後を守り、俺とガロンが最後尾で糸の追撃を防いだ。


崩落する石壁の隙間を抜け、地下水路の入口へと駆け戻る。


背後で、結晶の脈動がひときわ大きく膨らみ——ふっと、静まった。


まるで、獲物を逃した苛立ちを飲み込むように。


地上に出た瞬間、夜の空気が肺に流れ込んだ。


「……着いたな」


ガロンが息を吐き、剣を鞘に収める。


ミュゼの腕の中で、少女はまだ眠ったままだった。


その寝顔は、さっきまでの冷たい声からは想像できないほど、ただの子どものものだった。


「この子、どうする?」


「決まってる」


俺は少女の額にかかった前髪をそっと払った。


「治療して、話を聞く。それだけだ」


レイフィアが小さく息を吐いた。


「甘いんじゃない、あんた」


「かもな」


「……でも、嫌いじゃないわよ、そういうの」


そう言って、レイフィアはわずかに目を逸らした。


イリスが空を見上げる。


「王都の深く、か」


「厄介そうだね」


ノアがぽつりと呟いた。


けれど、その声に怯えはなかった。


俺は白銀の紋様に触れる。


少女の紋様と共鳴したそれは、まだかすかに熱を持っていた。


これが、次の「本命」への道しるべなのか。


それとも、もっと別の何かなのか。


答えはまだ、分からない。


ただ一つ確かなのは——


この子を、二度と一人にはしないということだけだった。

第54話「最初の失敗作」をお読みいただき、ありがとうございます。


今回は鎖の少女を守り抜き、彼女の口から「王都の深く」にいる何者かの存在が語られました。


彼女がなぜ眠ってしまったのか、そして次に待つ相手はどんな存在なのか。


次回は、彼女の目覚めと、新たな脅威の輪郭が見えてくる回になる予定です。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価、感想で応援してもらえると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ