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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第四章 王都、影の襲来

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第五十一話 暴走する子どもたち

王都に着いたばかりなのに、ゆっくり名物を味わう暇もなさそうです。


ミュゼが少しだけ残念そうなのは……きっと気のせいではありません。

王都ギルドの大広間は、朝から妙な熱気に包まれていた。


銀ランク昇格試験。


その言葉だけで、集まった冒険者たちの空気が変わる。


壁際には、装備を整えた推薦組の冒険者たちが並んでいた。年齢も武器もばらばらだが、誰もが自分の実力にそれなりの自信を持っている顔をしている。


その中に、アルトの姿もあった。少し離れた場所で腕を組み、静かに開始を待っている。


その中で、セレスは壁にもたれたまま、眠そうに目を細めていた。


「……人、多いな」


「銀ランクの試験ですからね」


隣でミュゼが小さく息を吐く。


いつもなら目を輝かせて周囲を見回しているはずなのに、今日は少しだけ落ち着かない様子だった。


その理由は、すぐそばにいる少女にあった。


灰銀色の髪を肩のあたりで揺らしたノアは、セレスたちの少し後ろに立っている。


王都に来てから何度か笑うようにはなった。


けれど、大きな人混みの中にいると、指先がわずかに震えることがある。


今も、濃紺の袖をきゅっと掴んでいた。


「無理しなくていい」


セレスが振り返らずに言う。


ノアは一瞬、何かを言いかけた。


けれど、すぐに小さく首を振った。


「……大丈夫。見てるだけだから」


「見てるだけでも疲れる場所だぞ」


「セレスも、疲れてそう」


「俺はいつもこういう顔だ」


「知ってる」


ほんの少しだけ、ノアの口元が緩んだ。


そのやり取りを見ていたイリスが、気づかれない程度に息を吐く。


「……お前たち、ずいぶん自然になったな」


「そうですか?」


ミュゼが嬉しそうに笑った。


「ノアちゃん、昨日は自分で朝ごはんも選べたんですよ。パンとスープと……あと、プリン」


「最後のだけ、お前が勧めただけだろ」


「王都のプリンは特別なんです」


なぜか胸を張るミュゼに、ガロンが低く笑った。


「まあ、食べられるものを自分で選べたなら上出来だ。急がなくていい。できることを少しずつ増やしていけばいいさ」


ノアはその言葉に答えず、ただ小さくうなずいた。


そのときだった。


大広間の奥にある扉が勢いよく開いた。


「緊急依頼です!」


駆け込んできた若い職員の声に、ざわめきが止まる。


「王都北区で、複数の子どもたちが魔力暴走を起こしています! 原因は不明! 近隣の治療院では対応しきれません!」


空気が一変した。


さっきまで試験の話をしていた冒険者たちが、互いに顔を見合わせる。


魔力暴走。


魔法を使う者なら、誰でも聞いたことがある。


体内の魔力が制御を失い、術式もなしに溢れ出す危険な状態だ。


軽ければ疲労や発熱で済む。


けれど、強くなれば自分の身体も、周囲も傷つける。


「子どもが複数同時に?」


イリスが眉をひそめた。


「偶然とは思えませんね」


レイフィアの静かな声が続く。


彼女の青灰色の瞳は、すでに職員の持つ書類へ向けられていた。


「場所は?」


「北区の共同孤児院です! 近くの住民も避難を始めています!」


「……行くぞ」


セレスは壁から背を離した。


眠そうだった半目が、わずかに開く。


銀と青、金の瞳が、同時に職員を捉えた。


「試験はどうなるんですか?」


誰かが尋ねる。


ギルドマスター代理の年配の男が、一歩前へ出た。


「銀ランク昇格試験は一時中断する。北区の救助を優先しろ」


その声には、迷いがなかった。


「なお、この件での行動は、試験の評価対象に含める。力量だけではない。冒険者として何を選ぶか、我々は見ている」


周囲の空気が、再び揺れた。


試験。


評価。


報酬。


そうした言葉に反応する者は多い。


けれどセレスは、すでに出口へ向かっていた。


「セレスさん!」


ミュゼが慌てて追いかける。


ガロン、イリス、レイフィアも続いた。


ノアだけが、その場に残る。


北区。


複数の子ども。


魔力暴走。


その単語を聞いた瞬間から、彼女の顔色は薄くなっていた。


セレスは扉の前で立ち止まる。


振り返った。


「ノア」


少女の肩が跳ねる。


「来るなら、そばから離れるな」


「……でも」


「置いていくとは言ってない」


淡々とした声だった。


けれど、ノアの目が揺れた。


「怖いなら、怖いって言えばいい。無理に平気なふりをする必要はない」


「……怖い」


絞り出すような声だった。


大広間のざわめきの中では、聞き逃されそうなほど小さい。


「でも……行きたい」


ノアは、自分の胸元を握った。


「同じなら……私も、何かできるかもしれないから」


数秒、誰も口を開かなかった。


ミュゼがそっとノアの手を包む。


「行こう、ノアちゃん。怖くなったら、私の手を握ってていいから」


「……うん」


王都北区へ向かう道は、人で溢れていた。


避難する住民。


泣きながら子どもの名前を呼ぶ大人。


遠くから響く、何かが弾けるような音。


石畳の隙間から、青白い光が漏れている。


「魔力が地面まで染みている」


レイフィアが低く呟いた。


「ただの暴走じゃない。外から魔力を引き出されている可能性があるわ」


「外から?」


ミュゼの声が強ばる。


「そんなこと、できるんですか?」


「本来なら難しい。だが……術式か、呪具があれば話は別だ」


イリスの視線が、街路の先へ向く。


「誰かが意図的にやっているなら、子どもたちを使っていることになる」


その言葉に、ミュゼの表情が変わった。


優しい緑の瞳から、柔らかさが消える。


「……許せません」


声は静かだった。


だからこそ、いつもより強く聞こえた。


共同孤児院の前では、数人の冒険者と衛兵が、建物の周囲に結界を張っていた。


その内側では、窓から青い火花が何度も散っている。


子どもの泣き声が聞こえた。


「中に入るな!」


衛兵の一人が叫ぶ。


「魔力が不安定だ! 近づけば巻き込まれる!」


「中に何人いる?」


セレスが尋ねる。


「確認できているだけで七人! 職員が二人、まだ避難誘導をしている!」


「七人か」


セレスは建物を見上げた。


白銀の髪が風に揺れる。


その視線は、崩れかけた窓でも、暴れる魔力でもない。


もっと奥。


見えない何かを探しているようだった。


左手首の銀の腕輪が、かすかに熱を持つ。


その内側で、白銀の紋様が脈打った。


――嫌な感じだ。


魔力が暴れている。


けれど、それだけではない。


暴走した魔力の流れの奥に、細く、黒いものが絡みついている。


命令するように。


増やせ、と。


壊せ、と。


もっと、溢れろ、と。


「セレス?」


イリスが呼ぶ。


セレスは、ゆっくりと腕輪に触れた。


「……原因は、中にいる子どもじゃない」


その声に、全員がセレスを見る。


「魔力を暴れさせてるものがある」


ノアの顔から、血の気が引いた。


彼女は建物の奥を見つめたまま、唇を震わせる。


「それ……知ってる」


誰も急かさなかった。


ノアは一度、苦しそうに息を吸った。


「私たちに、使われてたものと……似てる」


銀の瞳が細くなる。


「黒い命令……だ」


その瞬間。


孤児院の二階の窓が、内側から大きく弾けた。


青白い魔力の奔流が、空へ向かって噴き上がる。


逃げ遅れた人々の悲鳴が重なった。


そして、その光の中に。


黒い糸のようなものが、確かに揺れていた。


セレスの手首で、白銀の紋様が強く脈打つ。


まるで。


あれだけは、絶対に見逃すなとでも言うように。

王都に着いて早々、銀ランク昇格試験は緊急事態へ。


暴走しているのは子どもたちの魔力だけなのか。

そしてノアが知る「黒い命令」とは――。


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