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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第三章 王都への道、新たな仲間

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第四十九話 壊すべき檻

黒ローブ組織が野営地へ送り込んだのは、偽紋様を幾重にも刻まれた巨大な実験体でした。


ミュゼは「戦いが終わったら甘いものを食べる」と言っていますが、

今回は食べる前に、みんなで生き残らなければなりません。


守るものが多いほど、セレスの白銀は強く輝きます。

巨大な実験体が、森を割るように姿を現した。


四つ足の巨体。


岩を何枚も重ねたような黒い甲殻。


首から背にかけて、赤黒い偽紋様が幾重にも刻まれている。


そのたびに地面が脈打ち、野営地を囲む焚き火が揺れた。


「でかすぎるだろ」


セレスは剣を構えたまま、淡々と呟いた。


「魔狼の親玉どころじゃないな」


「喋ってる場合か!」


イリスが鋭く言う。


「分かってる」


「分かっていない顔だ」


「いつもの顔だ」


巨大な実験体が咆哮した。


空気が震え、荷車の馬たちが悲鳴を上げる。


甲殻の隙間から黒い霧が噴き出し、地面を走る黒い線がさらに太くなった。


その線は、ノアの胸元へ繋がっている。


「ノア!」


ミュゼが支える腕へ、ノアの指が食い込む。


「……だい、じょうぶ」


「大丈夫じゃないよ」


「でも、あれ……わたしの紋様と、つながってる」


ノアは苦しそうに言った。


「壊したら、わたしも……」


「壊さない」


セレスは即答した。


ノアが顔を上げる。


「でも」


「壊すのは、あいつの紋様だけだ」


セレスの左手首で、白銀の紋様が熱を帯びた。


「お前は壊させない」


白い仮面の男が、鈴を鳴らして笑う。


「言葉だけは立派だ」


ちりん。


「この実験体は、試作零号の紋様を核に調律されている。核を壊せば零号も砕ける。切り離せば実験体は暴走し、この場の人間を食らう」


「随分と親切な説明だな」


セレスは仮面の男を見た。


「悪役って、だいたい説明好きなのか?」


「……何だと?」


「あと、ノアの名前くらい覚えろ。番号で呼んでる時点で、お前らの記録係も仕事してないだろ」


白い仮面の奥で、男の気配が揺れた。


「口の減らない小娘が」


「褒め言葉として受け取っとく」


巨大な実験体が、前脚を振り下ろした。


「散れ!」


ガロンが叫ぶ。


前脚が地面へ叩きつけられ、土と石が爆ぜる。


衝撃が荷車を揺らし、商人たちが悲鳴を上げた。


「ガロン、荷車を守れ!」


「ああ!」


ガロンは大剣を地面へ突き立て、倒れかけた荷車を支える。


その背後へ、実験体の尾が迫る。


太い尾の先には、黒い棘が並んでいた。


「させない!」


イリスが横から飛び込み、剣で尾を弾く。


だが、黒い甲殻は硬い。


剣を通じて、重い衝撃がイリスの腕へ返る。


「硬すぎる」


「正面から壊すな!」


セレスが叫ぶ。


「紋様を剥がせばいい!」


「言うのは簡単ね!」


レイフィアが荷車の上から細剣を放つ。


鋭い突きが、実験体の背を走る黒い線へ届く。


しかし線の前に、黒い膜が広がった。


細剣は弾かれ、レイフィアはすぐに距離を取る。


「防壁がある。術式を断つには、あれを一瞬でも止める必要があるわ」


「なら止める」


アルトが前へ出た。


「俺が足を狙う。動きを鈍らせろ」


「無茶だ」


ガロンが言う。


「足一本でも、あの太さだぞ」


「分かってる」


アルトは剣を構えた。


「だが、動かなければ守れない」


セレスは、巨大な実験体を見上げた。


甲殻。


黒い霧。


重い踏み込み。


どれも、そのまま借りれば扱い切れないほど強い。


だが。


セレスの紋様は、相手の本質を理解するほど強くなる。


今、実験体の内側には、無数の黒い線が絡まっている。


力ではない。


痛みと命令によって、無理やり繋がれている。


「……借りるのは、力じゃない」


セレスは呟いた。


「繋がり方だ」


白銀の紋様が、強く輝く。


黒い線の流れ。


どこから命令が入り、どこで実験体の身体を縛っているか。


セレスの中へ、異質な感覚が流れ込んだ。


吐き気がするほど冷たい。


誰かに逆らえない恐怖。


痛みに従うしかない絶望。


「セレス?」


ミュゼの声が遠く聞こえる。


「大丈夫」


セレスは短く答えた。


「気分は最悪だけど」


巨大な実験体が再び咆哮する。


黒い線がノアへ伸びる。


セレスは、その線を見た。


そして理解した。


「アルト!」


「何だ!」


「右前脚の内側。甲殻の継ぎ目を狙え!」


「分かった!」


アルトが駆ける。


実験体の前脚が振り下ろされる。


アルトは紙一重で避け、その巨体の懐へ滑り込む。


狙うのは甲殻の隙間。


黒い線が、足を動かすために集中している場所。


「そこだ!」


アルトの剣が突き刺さる。


黒い線が、弾けた。


巨大な実験体の右前脚が崩れ、巨体が大きく傾く。


「今!」


レイフィアが走る。


細剣が、実験体の背へ伸びる黒い術式の糸を次々に断ち切った。


黒い膜が揺らぐ。


「イリス!」


「任せろ!」


イリスの剣が、黒い甲殻へ深く食い込む。


力任せに壊すのではない。


レイフィアが作ったわずかな隙間へ、鋭く刃を滑り込ませる。


甲殻がひび割れた。


「ガロン!」


「おう!」


ガロンが大剣を振り抜いた。


実験体の身体を支える黒い棘が、根元から砕ける。


巨体がさらに沈む。


白い仮面の男の鈴が、激しく鳴った。


「立て! 王都の門番よ!」


黒い線が実験体へ流れ込む。


しかし。


セレスはすでに、その線の意味を知っていた。


「ノア」


セレスは振り返った。


「少しだけ、力を貸せるか」


ノアの顔が強張る。


「わたしが?」


「ああ」


「でも、怖い」


「怖くていい」


セレスは言った。


「俺も怖い」


「セレスも?」


「今、体の中に変なものが流れ込んでて、かなり気持ち悪い」


こんな状況なのに、ノアは少しだけ目を丸くした。


「だから、一緒にやる」


セレスは手を差し出す。


「お前の紋様は、あいつらの命令を受け取るためだけのものじゃない」


ノアは震える手を伸ばした。


セレスの手へ触れる。


白銀の光が、二人の間に広がった。


ノアの胸元にある偽紋様が、黒ではなく淡い白銀に揺らぐ。


白い仮面の男が、初めて声を荒げた。


「やめろ! 零号に術式の接続を理解させるな!」


「名前、覚えてないのか」


セレスは白銀の光を強める。


「ノアだ」


白銀の光が、実験体とノアを繋ぐ黒い線へ触れた。


黒い線の奥に、いくつもの声が聞こえる。


苦しい。


痛い。


やめて。


誰か。


助けて。


実験体の内側には、魔物だけではない。


複数の生命の気配があった。


黒ローブ組織に捕らえられ、紋様の材料として組み込まれた者たち。


「……中に、人がいる」


ノアの声が震える。


「分かってる」


セレスは目を閉じない。


「だから、壊さない」


白銀の光が、黒い線の“命令”だけを探る。


ノアの偽紋様が、その流れを逆からたどる。


黒い線が一本、また一本とほどけ始めた。


巨大な実験体が苦しそうに暴れる。


だが、攻撃はしてこない。


赤かった目の奥に、かすかな理性が浮かぶ。


「今だ、レイフィア!」


「ええ!」


レイフィアの細剣が、実験体の背に残る術式の核へ突き刺さった。


「イリス!」


「分かっている!」


イリスの剣が、細剣の作った亀裂を広げる。


「ガロン!」


「終わらせるぞ!」


ガロンの大剣が、核を覆う甲殻だけを砕いた。


黒い結晶が、夜の中に露出する。


結晶の内側で、無数の小さな光が震えていた。


白い仮面の男が鈴を振り上げる。


「壊せば零号も死ぬ!」


「壊さないって言ってるだろ」


セレスは結晶へ近づく。


白銀の光をまとった左手を、黒い結晶へ触れた。


冷たい。


けれど、その奥には温かいものがある。


助けを待つ、生きた光。


「返せ」


セレスの声は静かだった。


「こいつらの未来を」


白銀の紋様が、結晶の奥まで染み込んでいく。


黒い結晶がひび割れる。


白い仮面の男が叫ぶ。


「やめろ!」


「説明が長い」


セレスは淡々と返した。


「聞いてるうちに、もう終わる」


白銀の光が、黒い結晶を包む。


黒い殻だけが砕け、その中に閉じ込められていた小さな光が、夜空へ舞い上がった。


巨大な実験体は、ゆっくりと崩れ落ちる。


甲殻が砂のようにほどけ、その下から、黒い拘束具をつけられた人々と、小さな魔物たちが現れた。


生きている。


全員ではない。


けれど、確かに助かった者がいた。


「ミュゼ!」


「うん!」


ミュゼが駆け出す。


杖から柔らかな緑の光が広がり、傷ついた人々を包み込む。


ノアはその場に座り込み、荒い息を吐いた。


「……できた」


「ああ」


セレスはノアの隣へ膝をついた。


「できたな」


ノアは涙を浮かべながら笑った。


「わたしの紋様でも……助けられた」


「最初から、そういう力にもできたんだ」


ノアは胸元へ手を当てる。


偽紋様に残る黒い線は、少しだけ薄くなっていた。


だが。


地面に残された黒い結晶の欠片が、かすかに震えた。


セレスが気づくより先に、欠片から黒い糸が伸びる。


それは、野営地の外――王都の方角へ向かった。


地面に落ちていた地図。


王都の地下水路に描かれた黒い印が、赤く光る。


そして、結晶の欠片から声が響いた。


『ひとつ、檻が壊れた』


低く、冷たい声だった。


『ならば、王都の檻を開けよう』


地図に描かれた黒い印が、次々に赤く染まっていく。


ひとつではない。


十。


二十。


数えきれないほどの印。


ノアの顔が青ざめた。


「……あれ、全部」


「実験施設か」


イリスが低く呟く。


セレスは、黒く染まった王都の地図を見た。


救えた命はある。


けれど。


王都の地下には、まだ数えきれないほどの“檻”が残されていた。

第四十九話を読んでいただき、ありがとうございます!


巨大な実験体の中には、黒ローブ組織に利用された人々と魔物たちが閉じ込められていました。


セレスとノアは、壊すだけではなく「命令だけを断つ」形で彼らを救出します。

ノアの偽紋様もまた、誰かを傷つけるためではなく、助けるための力になり始めました。


しかし、壊れたのは王都へ続く数多くの檻のうちの一つだけ。


次回、隊商はついに王都の目前へ到着します。

そして、銀ランク昇格試験の舞台である王都には、さらなる事件が待っています。


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