表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第三章 王都への道、新たな仲間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/75

第四十七話 焚き火のそばの約束

旅の夜には、焚き火と温かいごはんが欠かせません。


ミュゼは「甘いものもごはんです」と主張していますが、

ガロンは黙ってスープを作り、イリスはなぜか鍋に近づけません。


今回は少し穏やかな野営回です。

……ただし、黒ローブ組織は夜まで待ってくれないようで。

魔狼たちを保護し、休憩所の周囲を調べ終えた頃には、日が傾き始めていた。


隊商の責任者は先へ進むよりも、休憩所から少し離れた開けた場所で野営する判断を下した。


襲撃の痕跡が残る場所で、夜の街道を急ぐのは危険だった。


見張りを増やし、荷車を円形に並べる。


中央にはいくつもの焚き火が灯された。


火の粉が夜空へ舞い上がり、遠くの森では虫の声が響いている。


「ほら、ノア。こっち」


ミュゼが手を振る。


ノアは小さな鞄を抱えながら、焚き火のそばへ近づいた。


ガロンが鍋の前に座り、木の匙で中身をかき混ぜている。


鍋からは、香草と肉の匂いが漂っていた。


「いい匂い」


ノアが思わず呟く。


「もう少し待て」


ガロンは鍋の中を確かめながら言った。


「煮込みが足りない」


「ガロンの料理、すごくおいしいんだよ」


ミュゼが得意げに言う。


「野営のときは特に。ガロンがいると、ごはんがちゃんとごはんになるの」


「普段は何を食べてるんだ、お前」


「パンとか。干し肉とか。あと、お菓子」


「最後のは食事に入れるな」


「入るよ」


ミュゼは真剣な顔で言った。


「甘いものは心のごはんだから」


少し離れた場所で、イリスが薪を割っていた。


短剣を使い、必要以上に正確な動きで薪を細かくしている。


「イリス、そんなに細くしなくても火はつくぞ」


ガロンが声をかける。


「分かっている」


「なら、何でそんなに切ってるんだ」


「……手持ち無沙汰なだけだ」


イリスは短く答えた。


ミュゼがにやりと笑う。


「イリス、料理したいなら手伝っていいよ?」


「遠慮する」


「まだ、あの鍋のこと気にしてるの?」


「気にしていない」


「この前、塩を入れすぎてたよね」


「……あれは、鍋が小さかった」


「鍋のせいなんだ」


ノアが、堪えきれずに小さく笑った。


イリスは一瞬だけノアを見る。


だが怒ることはなく、少しだけ息を吐いた。


「笑いたければ笑え」


「ご、ごめんなさい」


「謝るな。別に怒っていない」


それでもイリスの耳が、わずかに赤い。


ノアは少し驚いた。


強くて怖そうに見えたイリスにも、苦手なことがある。


それがなぜか、少し安心できた。


焚き火の反対側では、レイフィアがノアの髪に結ばれた藤色のリボンを整えていた。


「緩んでいるわ」


「自分で結べるようにならないと」


「急がなくていい」


レイフィアは細い指で、丁寧に結び直す。


「できないことがあるのは、悪いことじゃないでしょう」


「でも、みんなに迷惑を」


「迷惑だなんて思っていない」


レイフィアは言い切った。


「あなたはまだ、助けてもらうことに慣れていないだけよ」


ノアは焚き火を見つめる。


炎が揺れるたび、胸元の偽紋様が少しだけ疼く気がした。


「わたし」


ノアは迷いながら口を開いた。


「今まで、誰かに助けてもらったことがありませんでした」


周囲の会話が、少しだけ静かになる。


「黒い人たちは、助けるって言って近づいてきた。でも、助けてくれたんじゃなかった」


ノアは服の上から胸元を押さえた。


「使えるかどうかを見てた。できなかったら、いらないって」


ガロンの手が、鍋の匙を握る。


ミュゼの笑顔も、少しだけ曇った。


「だから、今も……みんなが優しくしてくれるのが、よく分からなくなるんです」


ノアは俯く。


「いつか、できないならいらないって言われるんじゃないかって」


火がぱちりと鳴った。


最初に答えたのは、セレスだった。


「言わない」


ノアが顔を上げる。


「俺たちは、お前を道具として連れてきたわけじゃない」


「でも、わたしは……偽紋様のことを知ってるから」


「それだけじゃない」


セレスは焚き火の炎を見たまま言った。


「お前がノアだから、連れてきた」


ノアの目が揺れる。


それはあまりにもまっすぐな言葉だった。


ミュゼが、ノアの隣へ座る。


「それに、ノアはもうミュゼのお菓子仲間だもん」


「お菓子仲間?」


「プリンを一緒に食べた人は、もう仲間なの」


「その基準は何だ」


ガロンが呟く。


「大事な基準だよ」


ミュゼは真顔で答えた。


「王都に着いたら、絶対においしいお菓子屋さんを探そうね。ノアが食べたことないもの、いっぱい食べよう」


「……いっぱい?」


「いっぱい!」


ノアは困ったように笑った。


「そんなに食べられないかも」


「大丈夫。食べられる分だけでいいの」


ミュゼは、鞄から小さな包みを取り出した。


「これは、今日のごほうび」


包みの中には、木の実を練り込んだ小さな焼き菓子が入っていた。


「魔狼を助けられたし、ノアも怖いのにちゃんと自分の気持ちを言えたから」


「でも、わたしは何も……」


「言えたよ」


ミュゼは焼き菓子をノアの手のひらへ乗せた。


「『戻りたくない』って。あれは、すごく大事なことだよ」


ノアは焼き菓子を見つめた。


甘い香りがする。


何かをできたからではなく、ただ自分の気持ちを言えたことを褒めてもらえる。


そのことが、胸の奥にゆっくり沁みた。


「……ありがとう」


ノアは小さく呟いた。


そこへ、鍋の中身を味見していたガロンが頷く。


「できたぞ」


「やった!」


ミュゼが立ち上がる。


「ごはんの時間だ!」


「甘いものじゃないのか」


「ごはんを食べたら甘いもの!」


「結局そこへ戻るんだな」


食事が始まると、隊商の人々も少しずつ緊張を解き始めた。


魔狼の襲撃は怖かった。


けれど護衛の冒険者たちが守ってくれた。


誰かが笑い、誰かが火を足す。


短い間だけ、街道の野営地には穏やかな時間が戻っていた。


少し離れた焚き火では、アルトが一人で剣の手入れをしていた。


セレスは自分の器を持ち、その近くへ腰を下ろす。


「隣、いいか」


「好きにしろ」


アルトは剣から目を離さなかった。


しばらく、焚き火の音だけが続く。


「さっきは助かった」


セレスが言う。


「魔狼を止めたときのことか」


「ああ」


「護衛として当然だ」


「それでも助かった」


アルトは少しだけ手を止めた。


「……お前は、変だな」


「よく言われる」


「褒めていない」


「知ってる」


アルトは小さく息を吐いた。


「俺なら、あの魔狼は倒していた。隊商を守るなら、それが確実だった」


「そうかもな」


「それなのに、お前は助けた」


「助けられると思ったから」


「もし失敗していたら」


「そのときは、俺たちで止める」


セレスの返事に、アルトは目を細める。


「ずいぶん仲間を信じている」


「信じてる」


セレスは即答した。


「一人でできないことは、五人でやればいい」


アルトは焚き火を見た。


「……俺は、ずっと一人で積み上げてきた」


ぽつりと漏れた声だった。


「誰かの力を借りるのが嫌だった。自分で強くならないと、認められないと思ってた」


「別に悪いことじゃない」


「だが、お前たちを見ていると」


アルトは言葉を止めた。


ノアとミュゼが、焼き菓子について話している。


ガロンは鍋を片付けながら、二人の様子を見ている。


レイフィアは少し離れた場所で、夜の周囲を警戒していた。


イリスは見張り役と交代し、暗い森へ鋭い視線を向けている。


五人は、それぞれ別のことをしている。


それでも、同じ場所にいる。


「……少しだけ、分からなくなる」


アルトはそう言った。


「何が正しいのか」


セレスは器の中に残ったスープを見る。


「正しいかは知らない」


「知らない?」


「でも、一人で抱えるよりは楽だ」


アルトは、ほんの少しだけ笑った。


「単純だな」


「そうかも」


そのときだった。


森の奥から、かすかな鈴の音が聞こえた。


ちりん。


ちりん。


風に鳴らされたような、細い音。


ノアの顔から、血の気が引く。


「……あの音」


セレスが立ち上がる。


「知ってるのか」


「黒い人たちが、実験を始める前に鳴らしてた」


ノアは胸元を押さえる。


「逃げられないように。みんなの紋様を、痛くするために」


同時に。


野営地の周囲に置かれた見張り用の魔石が、ひとつ、またひとつと黒く染まった。


火が揺らぐ。


森の闇が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


イリスが剣を抜いた。


「全員、警戒しろ!」


黒い線が地面を這い、焚き火の光を飲み込んでいく。


その闇の奥で。


誰かの低い笑い声が響いた。

第四十七話を読んでいただき、ありがとうございます!


今回は少しだけ野営の日常回でした。


ガロンの料理、イリスの料理事情、レイフィアの気遣い、そしてミュゼのお菓子理論。

ノアが少しずつ五人との時間に慣れていく場面になっています。


一方で、夜の野営地に近づく黒ローブ組織の気配。


次回は、暗闇の中での襲撃と、ノアの偽紋様が再び試される戦いです。


面白かった、続きが気になると思っていただけたら、★評価・ブックマーク・感想で応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ