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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第二章 地下遺跡と銀仮面

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第四十話 帰るための光

長い戦いが終わったあと。


残るのは、助けられた人たちと、まだ消えない謎と。


そして、空腹です。


ミュゼにとって最後の一つは、かなり重要らしいです。



本文

最深部に、静けさが戻っていた。


さっきまで遺跡を震わせていた轟音は消えている。


砕けた石柱。


ひび割れた床。


床のあちこちに散らばる、黒赤い鎖の欠片。


そのすべてを、原初の紋様核から漏れる白銀の光が淡く照らしていた。


中央に横たわる銀仮面の男は、もう動かなかった。


怪物のように膨れ上がっていた身体は元へ戻っている。


砕けた仮面の下から見える顔は、ひどく疲れ切っていた。


「……呼吸は安定しています」


ミュゼが杖をかざしたまま、小さく息を吐く。


柔らかな緑の光が、銀仮面の男の胸元を包んでいた。


「傷も、少しずつ塞がってます。しばらく目は覚まさないと思いますけど……命に別状はありません」


「よかった」


セレスは短く答えた。


倒れている男を見る。


さっきまで、自分たちを殺そうとしていた相手だ。


偽紋様を使い。


人を実験に巻き込み。


多くの人を苦しめた。


許されることではない。


それでも。


偽紋様に縛られていた彼を、壊すことなく止められた。


それだけは、間違いなくよかったと思えた。


「他の人たちは?」


ガロンが尋ねる。


少し離れた場所には、遺跡の中で見つけた実験兵たちが横たわっていた。


怪物化していた者たちも、今は元の姿へ戻っている。


「みんな、生きています」


ミュゼが答える。


「まだ意識が戻らない人はいます。でも、偽紋様の暴走は止まっています」


「なら、外まで運べる」


ガロンは頷いた。


「護衛たちと合流すれば、何とかなるだろう」


イリスは崩れた天井を見上げる。


「長居はできないわ。この遺跡、戦いでかなり傷んでいる」


「ええ」


レイフィアが周囲を見回した。


細剣は鞘に納められているが、その手はまだ柄の近くにある。


「黒い穴は閉じた。でも、ここに何が残っているかまでは分からない」


その言葉に。


セレスは原初の紋様核を見た。


巨大な結晶は、白銀の光を取り戻している。


先ほどまで絡みついていた黒赤い鎖は、もうない。


それでも。


完全に安心できる静けさではなかった。


左手首の紋様が、かすかに熱を持っている。


「核を見てくる」


セレスが言う。


「一人で行くの?」


ミュゼがすぐに尋ねた。


「近くまで。危なそうなら戻る」


「なら、私も行きます」


「私も」


レイフィアが続く。


「必要なら、みんなで行く」


イリスも言った。


ガロンは、銀仮面の男と救出者たちを見てから頷く。


「分かった。ただし無理はするな。今度は俺たちが止める」


「うん」


セレスは核へ近づいた。


一歩。


また一歩。


白い結晶は、近づくほど淡く光を強めていく。


触れてもいいのか。


分からない。


けれど。


このまま放置して、また誰かに利用される方が怖かった。


セレスは腕輪を少しずらす。


白銀の紋様が、露わになる。


結晶の中の光が、ゆっくりと揺れた。


「……呼んでるみたい」


ミュゼが小さく言う。


「そう見える」


セレスは左手を伸ばした。


指先が結晶へ触れた瞬間。


冷たかったはずの表面に、柔らかな温かさが返ってくる。


白銀の光が、紋様から結晶へと流れた。


同時に。


セレスの中へ、いくつもの感情が触れてくる。


恐れ。


迷い。


願い。


誰かに力を与えたいという、遠い昔の誰かの思い。


けれど。


それはさっきまでのような痛みではなかった。


押しつけられるものでもない。


ただ、そこにあると伝えてくるだけの、静かな気配だった。


「セレス?」


「大丈夫」


セレスは目を閉じた。


「……たぶん、核はもう暴走してない」


白銀の紋様が、静かに明滅する。


その光に。


ガロンが近づき、大剣を床へ置いた。


「一人で背負うな」


「ガロン」


「核が何かは知らん。だが、お前の力が仲間と繋がるものなら、俺たちもここにいる」


ミュゼが杖を胸の前で握る。


「私もです」


イリスは短く頷いた。


「当然でしょう」


レイフィアも、セレスの隣に立つ。


「今度は一人じゃない」


その言葉に。


セレスは少しだけ笑った。


「……うん」


五人の間に、淡い光が生まれる。


セレスの白銀。


ミュゼの柔らかな緑。


ガロンの温かな力。


イリスの鋭くまっすぐな光。


レイフィアの静かで澄んだ光。


それらは一つに混ざるのではなく。


互いの形を残したまま、隣へ繋がっていく。


原初の紋様核が、ゆっくりと輝いた。


壁に刻まれていた古い紋様が灯る。


崩れた床に残っていた黒い染みが、白銀の光に触れて薄れていった。


空気に残っていた重さが、少しずつ消えていく。


「これで、いいのかな」


ミュゼが呟く。


「少なくとも、さっきよりずっと静かだ」


ガロンが答えた。


セレスは結晶の奥を見つめた。


白銀の光が巡る中心に。


細い黒い線が残っている。


小さなひびのような。


遠い場所へ続く道のような。


消えない、黒い線。


「……残ってる」


イリスの声が低くなる。


「あの声に繋がるものかもしれない」


誰も答えなかった。


さっき、黒い穴の向こうから聞こえた声。


銀仮面が敗れたことを知り。


次の器を用意すると告げた、あの存在。


その声の冷たさが。


今も耳の奥に残っている。


「今は、封じるしかない」


レイフィアが言った。


「この核を壊せば、何が起きるか分からない」


「そうだな」


セレスは頷いた。


「ギルドに報告する。俺たちだけで抱える話じゃない」


「珍しく正しいことを言うわね」


イリスが言う。


「いつも言ってる」


「そうかしら」


「そうだ」


少しだけ。


張り詰めていた空気が緩んだ。


ミュゼが、ほっとしたように息を吐く。


「じゃあ、帰りましょう」


「護衛と合流して、みんなを運ぶ」


ガロンが言った。


「俺はこいつを担ぐ」


銀仮面の男へ近づき、その身体を肩へ担ぎ上げる。


「重そうですけど、大丈夫ですか?」


「問題ない」


「ガロンさん、すごいです」


「……まあな」


褒められたガロンは、少しだけ胸を張った。


レイフィアが救出者の一人に近づき、呼吸を確かめる。


「この人は歩けそう」


「じゃあ、出口まで一緒に行こう」


セレスが声をかけると。


目を覚ましたばかりの青年が、かすかに頷いた。


怯えた目だった。


それでも。


差し出されたセレスの手を見て。


ゆっくりと、その手を取った。


「……もう、大丈夫だ」


セレスは言った。


「街へ帰ろう」


青年は、何も言わなかった。


ただ。


握る手に、少しだけ力を込めた。


遺跡の出口へ向けて歩き出す。


長い戦いのあと。


足取りは重い。


身体も、心も疲れている。


それでも。


先へ進める。


「帰ったら」


ミュゼが、前を歩きながら言った。


全員が彼女を見る。


「温かいごはんにしましょう」


「急にそれか」


ガロンが言う。


「大事です」


ミュゼは真剣だった。


「すごく大事です」


「何が食べたいの?」


レイフィアが訊く。


「シチュー。あとパン。それから、プリンです」


「多いな」


イリスが呆れたように言った。


「イリスさんも食べますよね?」


「……食べるけど」


「レイフィアさんも?」


「プリンは食べる」


「やった」


ミュゼが嬉しそうに笑う。


セレスは、その笑顔を見ながら。


左手首の腕輪へそっと触れた。


白銀の紋様は、今は静かだ。


黒い線の向こうに何がいるのか。


次の器とは誰のことなのか。


まだ何も分からない。


けれど。


分からないからといって、立ち止まるつもりはなかった。


一人なら、怖かったかもしれない。


でも。


今は隣に仲間がいる。


帰る場所がある。


「帰ろう」


セレスが言った。


五人は頷いた。


白銀の遺跡に差し込む朝の光へ向けて。


救出した人々と共に。


新しい一歩を踏み出した。

第四十話を読んでいただき、ありがとうございます!


白銀の遺跡編、ここで一区切りです。


戦いのあとに残ったのは、救出された人たちと、白銀の光を取り戻した原初の紋様核。


そして、核の奥に残る黒い線でした。


次回は街へ帰還し、セレスたちを待つ評価と、新たな出会いへ進みます。


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