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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第二章 地下遺跡と銀仮面

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第三十九話 偽りの力を超えて

力が欲しいと思うことは、悪いことではないはずです。


けれど、そのために誰かを壊してしまったら。


その力は、本当に望んだものなのでしょうか。


今回は、銀仮面との決着戦です。

砕けた仮面の隙間から。


黒赤い光が、溢れ出していた。


銀仮面の男は片手で顔を押さえながら、ふらりと一歩前へ出る。


「……まだだ」


声は、もう以前のものではなかった。


低く。


何人もの声が重なったように、歪んでいる。


「私は、まだ……終われない」


男の左腕に刻まれた偽紋様が、脈打つ。


黒赤い線は腕を這い。


肩へ。


首へ。


頬へ。


そして、砕けた銀仮面の下へと伸びていった。


「やめろ」


セレスは剣を構えた。


「それ以上使えば、本当に戻れなくなる」


「戻る?」


銀仮面の男が笑った。


けれど、その笑いは震えていた。


「戻る場所など……とっくにない」


男が手を伸ばす。


背後の巨大な白い結晶――原初の紋様核から、黒赤い光が流れ込んだ。


結晶の白さが、少しずつ濁っていく。


「おい、あれはまずいんじゃないか」


ガロンが大剣を握り直す。


「核そのものを使って、偽紋様を無理やり完成させようとしている」


レイフィアの声が硬い。


「完成なんてさせる気じゃないわ」


イリスが鋭く言った。


「自分ごと核に繋げて、力を引き出すつもりよ」


「だったら止めよう!」


ミュゼが杖を掲げる。


五人の手首を結ぶ白銀の光が、再び強くなった。


その瞬間。


銀仮面の男の身体が、大きく跳ねた。


「が……ああああああっ!」


黒赤い光が爆発する。


風圧が地下空間を駆け抜けた。


セレスたちはとっさに腕で顔をかばう。


光が収まった時。


そこに立っていたのは、人の姿を保ちながらも。


もはや人間とは呼べない何かだった。


左腕は、黒い甲殻に覆われている。


右腕からは、黒赤い鎖のような触手が何本も伸びていた。


背中には、歪な結晶の翼。


そして胸元には。


不規則に脈打つ、大きな偽紋様。


「……力が」


怪物化した男が呟く。


「これが……私が求めた力だ」


その目には、苦痛が浮かんでいた。


それでも男は笑っている。


「セレス!」


レイフィアが叫ぶ。


「胸の紋様が核と繋がっている。あれを壊せば止まるかもしれない!」


「でも、壊したら本人も!」


ミュゼが声を上げる。


「まだ助けられる」


セレスは答えた。


男の胸の奥から。


かすかな恐怖が流れ込んでくる。


消えたくない。


失敗したくない。


誰かに、認めてほしい。


黒赤い偽紋様の奥で。


男自身が、助けを求めている。


「助ける」


セレスは言った。


「こいつも、ここにいる人たちと同じだ」


「甘いな」


怪物化した男が腕を振る。


黒赤い鎖が、床を抉りながら迫った。


「ガロン!」


「おう!」


ガロンが前へ出る。


大剣を横に構え、鎖を受け止めた。


重い衝撃が走る。


「ぐっ……!」


床に足跡が深く刻まれる。


それでもガロンは、退かない。


「行け、セレス!」


「イリス、レイフィア!」


「分かってる!」


イリスが左へ。


レイフィアが右へ走る。


二人の剣が白銀の光をまとい、黒赤い鎖を切り裂いた。


だが。


切れた鎖は床に落ちる前に蠢き、新たな触手へ変わる。


「再生が早すぎる!」


イリスが後ろへ跳ぶ。


「核から直接、力を引いているのよ!」


レイフィアが細剣で鎖を弾きながら叫んだ。


黒赤い触手が、四方から迫る。


「ミュゼ!」


「任せて!」


ミュゼの杖から、緑色の光が広がった。


傷ついたガロンの腕を包み。


イリスとレイフィアの足元に、小さな光の壁を生み出す。


だが、回復の光はすぐに弱くなった。


「だめ……この場所、魔力が吸われてる……!」


原初の紋様核から。


白い力が黒赤い紋様へ流れ続けている。


核が。


この遺跡全体が。


男の力を支えている。


「なら、繋がりを断つ」


セレスは白銀の紋様へ触れた。


「みんなの力を、もう少し借りる」


「借りるんじゃない」


イリスが鎖を斬り払いながら言った。


「使いなさい。私たちの力を」


「うん」


セレスは頷く。


白銀の線が、五人の間で強く光った。


ガロンの頑強さ。


ミュゼの温かな魔力。


イリスの鋭い剣筋。


レイフィアの繊細な感覚。


そして。


セレスの、他者を理解する力。


五つの力が、白銀の光へ重なる。


「ガロン!」


「任せろ!」


ガロンが大剣を地面へ叩きつけた。


白銀の衝撃が地下空間を走る。


床から伸びていた黒赤い鎖が、一瞬だけ動きを止めた。


「今!」


イリスとレイフィアが同時に踏み込む。


二人の剣が交差する。


黒赤い触手が切り裂かれ。


怪物化した男の胸元が、露わになる。


「ミュゼ!」


「セレス、行って!」


ミュゼが杖を振る。


緑色の光が、セレスの身体を包んだ。


重かった足が軽くなる。


痛みが薄れ。


セレスは一直線に走った。


男が叫ぶ。


「来るな!」


黒赤い鎖が、セレスの前へ集まる。


何重にも重なった壁。


けれど。


セレスの左手首が、白銀に輝く。


「これは」


セレスは剣を握り直す。


「俺一人の力じゃない」


白銀の線が。


仲間たちの手首から、セレスの剣へ集まった。


ガロンの強さが、刃に重さを与える。


イリスの剣技が、迷いのない一撃を形にする。


レイフィアの感覚が、術式の中心を見抜く。


ミュゼの魔力が、壊さずに届く道をつくる。


「繋ぐ」


セレスは剣を振るった。


白銀の一閃が。


黒赤い鎖の壁を、真っ直ぐに切り開く。


「うおおおおおっ!」


鎖が砕ける。


黒赤い光が、地下空間へ散った。


セレスは男の胸元へ手を伸ばす。


大きな偽紋様に、直接触れた。


「やめろ!」


男が叫ぶ。


「私の中を見るな!」


黒赤い痛みが、セレスの中へ流れ込む。


何度も。


何度も。


力が足りないと言われた記憶。


才能がないと切り捨てられた記憶。


誰かの後ろで笑われ。


何者にもなれないまま、置き去りにされた記憶。


そして。


初めて黒ローブの者から言われた言葉。


『お前にも、力を与えよう』


救われたかった。


ただ、それだけだった。


「……セレス」


ミュゼの声が届く。


白銀の線を通して、温かな光が流れ込む。


「一人で抱えないで」


イリスの声。


「そいつの痛みまで背負う必要はない」


レイフィアの声。


「でも、見捨てる必要もないわ」


ガロンの声。


「戻ってこい。俺たちがいる」


セレスは目を開けた。


黒赤い紋様の奥に。


怯えている男が見えた。


「もういい」


セレスは、静かに言った。


「お前は、もう一人じゃない」


白銀の光が。


セレスの手から、偽紋様へ流れ込む。


壊すための光ではない。


奪うための光でもない。


黒赤い紋様の奥にいる男を。


そこに縛りつけている鎖だけを、ほどく光。


「やめろ……」


男の声が、弱くなる。


「私には……もう、何も……」


「それでも、生きろ」


セレスは言った。


「何者になるかは、まだ自分で決められる」


白銀の光が、強く弾けた。


男の胸元から。


黒赤い線が、次々に抜けていく。


巨大な偽紋様が、ひび割れた。


「そんな……」


男が、自分の胸を見る。


黒赤い甲殻が崩れ始める。


鎖が砕け。


歪な結晶の翼が、光の粒となって消えていく。


「私は……まだ……」


男の身体が、ゆっくりと倒れた。


セレスが受け止める。


重い。


けれど、もう怪物の重さではない。


ただ一人の人間の重さだった。


男の胸に刻まれていた偽紋様は。


すでに、消えかけていた。


「……終わったのか」


ガロンが周囲を見回す。


黒赤い鎖は動かない。


原初の紋様核も。


少しずつ、本来の白さを取り戻している。


「うん」


セレスは、倒れた男を見下ろす。


「この人の偽紋様は、止められた」


ミュゼが駆け寄り、男へ回復魔法をかける。


しばらくして。


男の呼吸が、かすかに整った。


「生きてる……!」


「よかった」


ミュゼは、安心したように笑った。


その時。


原初の紋様核が、低い音を立てた。


ごうん、と。


地下空間の奥まで響くような音。


五人が、同時に振り返る。


白い結晶の中心に。


黒い線が、一本だけ浮かんでいた。


「……何?」


レイフィアが細剣を構える。


黒い線はゆっくりと広がり。


結晶の中心に、小さな穴を開けた。


そこから。


冷たい風が吹き出す。


「まさか」


イリスの表情が硬くなる。


「遺跡の奥に、まだ何かある」


黒い穴の向こうから。


誰かの声が聞こえた。


『銀仮面が敗れたか』


低く。


静かな声。


けれど、地下空間の全てを見ているような声だった。


『ならば、次の器を用意すればいい』


セレスの白銀の紋様が、熱を持つ。


黒い穴の向こうで。


何かが笑った。


『原初の核は、まだ終わっていない』


声が消える。


黒い穴も。


何事もなかったように閉じていった。


地下空間に残ったのは。


白い結晶の光と。


気を失った銀仮面の男。


そして。


次の敵が、すでに動き始めているという確かな気配だった。

あとがき

第三十九話を読んでいただき、ありがとうございます!


銀仮面は、力を求めた末に自ら偽紋様へ飲まれました。


けれどセレスたちは、倒すだけではなく「救う」ために五人の力を繋ぎます。


そして黒ローブの奥には、まだ銀仮面より上の存在がいるようで……。


次回、第40話では白銀の遺跡編の決着と、セレスたちに与えられる新たな評価、そして次の戦いへ繋がる謎を描きます。


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