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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第二章 地下遺跡と銀仮面

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第三十七話 女神の置き忘れ

女神は、忘れ物をしていました。


しかも、かなり大きい忘れ物です。


本人はたぶん「うっかり」で済ませたい顔をしていますが、

セレスにとっては、人生が変わった原因そのものです。


真っ白な空間に、女神は立っていた。


相変わらず、どこか軽い雰囲気の服装。


相変わらず、困ったときだけ妙に視線が泳ぐ顔。


そして相変わらず。


自分が何かやらかしたことを分かっている顔だった。


『やっぱり、こうなったかぁ……』


「どういう意味だ」


セレスが睨む。


女神は、露骨に目を逸らした。


『いや、その……ほら。あなたの紋様って、ちょっと複雑な仕組みだから』


「ちょっと?」


『うん。だいぶ複雑』


「最初から説明しろ」


『はい』


女神は、素直に頷いた。


珍しい。


セレスが怪しむように見ていると、女神は小さく咳払いをした。


『まず、あの紋様は普通の祝福じゃないの』


女神が手を上げる。


白い空間に、淡い光が浮かんだ。


それは、セレスの左手首にある紋様と同じ形だった。


『本来は、誰かに強い力を与えるためのものじゃない』


紋様の周囲に、いくつもの小さな光が現れる。


赤。


青。


緑。


金。


色の違う光が、白銀の紋様へ近づいていく。


『誰かの可能性を理解して、その人が持つ力を引き出すための仕組み。ひとりで完成する力じゃなくて、誰かと関わることで形を変える祝福』


「借り物の力」


『そう。最初はそう見えると思う』


女神は頷いた。


『でも、本当は借りているわけじゃない。あなたが相手を理解して、相手があなたを受け入れたときに、その可能性を少しだけ繋いでいるの』


「受け入れたとき?」


『うん。だから、知らない相手からは深く借りられない。相手を知って、相手の願いや恐れを知って、近くにいるほど安定する』


セレスは、ガロンたちの顔を思い出した。


ガロンの前へ出る強さ。


ミュゼの誰かを助けたいという優しさ。


イリスの、迷いを断ち切る剣。


レイフィアの、痛みの奥へ届こうとする細剣。


そして。


さっき、四人の手が自分に触れたとき。


白銀の光が、五人を繋いだ。


「……繋ぐ力」


『そう』


女神は、少しだけ嬉しそうに笑った。


『やっと自分で気づいたね』


「最初から言え」


『言えなかったの』


「なんで」


『私も、そこまで分かってなかったから』


セレスは黙った。


女神も黙った。


白い空間に、気まずい沈黙が落ちる。


「……お前、本当に女神か」


『女神だよ!?』


「女神が、自分で渡したものをよく分かってないのか」


『仕方ないでしょ。あれ、私の管轄じゃなかったんだから!』


「管轄?」


『えっ』


女神の顔が固まった。


言ってはいけないことを言った顔だった。


セレスは眉をひそめる。


「今、何て言った」


『何でもないよ』


「管轄じゃないって言った」


『言ってない』


「言った」


『……言ったかも』


女神は、がっくり肩を落とした。


『あの紋様はね。本来、神々が人に直接渡すようなものじゃないの』


白い空間に浮かんでいた紋様が、少し暗くなる。


『ずっと昔、人の世界がまだ今ほど安定していなかった頃に作られた仕組み。才能や生まれによって、最初から道が決まってしまう人を減らすために』


無数の小さな光が、白銀の紋様へ近づく。


『力を持つ人と、持たない人。守る側と、守られる側。そういう線引きを少しでも薄くするための仕組みだった』


「それが、原初の紋様核」


『たぶんね』


「たぶん?」


『私は実物を見たことないから』


「……」


『でも、あなたが見つけた巨大な結晶。そこに繋がっているなら、間違いなく原初の紋様核の一部だと思う』


女神は、いつものように軽く笑おうとした。


だが、その表情はすぐに消えた。


『あれは、とても危ないものなの』


「黒ローブが使ってるからか」


『それもある。でも、本当の危険は別』


女神は、白銀の紋様を見つめる。


『人の可能性を繋ぐ力は、使い方を間違えれば、人の心や願いを勝手に繋いでしまう』


「偽紋様」


『そう』


女神は頷いた。


『黒ローブたちは、本物の仕組みを理解していない。だから表面だけ真似して、力を無理やり流し込んでいる』


黒赤い線が、白い紋様の上に重なった。


白を塗りつぶすように。


『本来は、本人の意思があって初めて繋がるもの。けれど偽紋様は、意思も痛みも無視して、願いだけを燃料にする』


「だから壊れる」


『うん』


女神の声は小さかった。


『人を助けたいという願い。強くなりたいという願い。守りたいという願い。それは悪いものじゃない』


白い光の周りに、黒赤い影が広がる。


『でも、それを誰かが勝手に使っていい理由にはならない』


セレスは黙って聞いていた。


銀仮面の男の言葉が、頭に浮かぶ。


誰もが力を得られる世界。


無力で泣かない世界。


その願いだけを聞けば、間違っているとは言い切れない。


けれど。


そこにいる人間を、ただの器として扱っていた。


「銀仮面は、俺の紋様を使おうとしている」


『うん』


「俺の力を抜かれた」


『それも分かってる』


女神は、気まずそうに指先を合わせた。


『ごめんね』


セレスは、少し目を見開いた。


女神が。


言い訳をせずに謝った。


『本当なら、あなたにあんなものを渡すべきじゃなかった』


「……最初は、俺を女だと思い込んで転生させたんだよな」


『それは本当にごめん』


「そこは謝るのか」


『だって完全に私のミスだし』


「紋様は?」


『紋様も、かなり私のミス』


「かなり?」


『九割九分』


「ほぼ全部だろ」


『でも残り一分は運命とか、偶然とか、そういうやつ』


「都合がいいな」


女神が、少しだけ笑った。


セレスも、ほんの少しだけ息を吐く。


けれど、その空気はすぐに引き締まった。


『セレス』


女神の声が変わる。


初めて聞くほど、真剣な声だった。


『あなたの紋様は、もうただの事故で生まれたものじゃない』


白銀の紋様が、ゆっくりと光る。


『あなたが誰かを知ろうとして。誰かを助けようとして。仲間と一緒に進んできたから、今の形になっている』


「でも、力を抜かれた」


『全部じゃない』


女神が、セレスの胸元を指さす。


『銀仮面が奪ったのは、紋様の表に出ている光。力の形だけ』


白銀の紋様の奥に、小さな光が灯る。


『あなたが選んだこと。誰と繋がったか。何を守りたいと思ったか。それは誰にも奪えない』


「……俺が選んだこと」


『そう』


女神は頷いた。


『力を失ったら、何者でもなくなると思った?』


セレスは答えなかった。


だが、女神は分かっているようだった。


『無色は、何もないって意味じゃない』


白い空間が、少しずつ色づいていく。


ガロンを思わせる赤茶色。


ミュゼの柔らかな緑。


イリスの澄んだ青。


レイフィアの鋭い銀。


『何色にも決められていないということ。だから、誰かの色を奪わずに、隣で受け止められる』


白銀の光が、四つの色を包む。


『あなたは、空っぽなんじゃない。これから何を選ぶかを、自分で決められる余白なんだよ』


セレスは、しばらくその光を見ていた。


無色。


ずっと、欠けているものだと思っていた。


才能がない。


測れない。


何者でもない。


けれど。


自分は、ガロンたちと出会った。


ミュゼと笑った。


イリスと剣を交えた。


レイフィアの痛みを知った。


それは、紋様があったからだけではない。


力をどう使うか。


誰の隣に立つか。


それを選んできたのは、自分だった。


「……戻る」


セレスは言った。


女神が顔を上げる。


「力を取り返す」


『うん』


「でも、前と同じじゃない」


セレスは白銀の紋様へ手を伸ばす。


「誰かの力を借りるためじゃない。誰かと一緒に進むために使う」


白銀の紋様が、強く光った。


周囲に浮かんでいた色が、一本ずつ白銀の線へ変わる。


ガロン。


ミュゼ。


イリス。


レイフィア。


四人へ繋がる光。


『それでいい』


女神は、少しだけ安心したように笑った。


『その力は、あなた一人で完成するものじゃないから』


「女神」


『なに?』


「戻ったら、銀仮面を止める」


『うん』


「そのあと、お前にも聞きたいことがある」


女神の表情が固まる。


『……どんなこと?』


「管轄じゃない紋様を、どうして持っていたのか」


『あっ』


「あと、何を知ってるのか」


『あの、セレス? 今は戦いの途中だから、細かい説明はまた今度――』


「逃げるなよ」


『逃げないよ!』


女神は一瞬だけ間を置く。


『……たぶん』


「逃げるな」


『はい』


白銀の光が、セレスの身体を包んだ。


真っ白な空間が、少しずつ遠ざかっていく。


『セレス』


最後に、女神の声が聞こえた。


『あなたは、力を持っているから価値があるんじゃない』


白い光の向こうで。


女神は、まっすぐセレスを見ていた。


『あなたが誰かを見捨てなかったから。その力は、あなたのものになったんだよ』


次の瞬間。


セレスの意識は、冷たい地下遺跡へ引き戻された。


黒赤い鎖。


巨大な結晶。


銀仮面の男。


そして。


石壁の向こうから聞こえる、仲間たちの声。


セレスの左手首には。


消えかけていた白銀の紋様が、静かに。


けれど以前よりも深く、確かな光を宿していた。

第三十七話を読んでいただき、ありがとうございます!


女神が置き忘れたものは、かなり大きなものでした。


セレスの紋様は、誰かの力を奪うためのものではなく、相手を理解し、可能性を繋ぐための力。


そして「無色」は、空っぽではなく、何を選ぶかを自分で決められる余白でした。


次回、セレスが戻ります。

五人の力を繋いだ白銀の光で、銀仮面の術式を打ち破れるのか。


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