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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第一章 無色判定、はじまる

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第三話 借り物の力

平和な下積みほど「そろそろ何か起きるな」と思ってしまうのが、異世界あるあるかもしれません。

今回、それが本当に起きます。


「無色じゃ受けられる依頼、これくらいしかないですね……」


ギルドを追い出されたその足で、セレスは受付の女性に案内されるまま、依頼掲示板の隅に貼られた紙を眺めていた。指されたのは、薬草採取や町の清掃、下水路の掃除といった、いわゆる下積み依頼ばかりだった。


討伐依頼の欄には、『無色お断り』と、わざわざ書き添えられているものまである。


「まあ、こんなもんか」


文句を言っても始まらない。セレスは肩をすくめると、その中から比較的まともそうな一枚――町の外れの森に生える『銀葉草』の採取依頼――を剥がした。



森は思っていたよりも静かだった。


木漏れ日が地面に斑模様を描き、鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。前世では自然に触れる機会などほとんどなかったこともあり、セレスは案外、この時間を悪くないと感じていた。


「……銀葉草って、これか?」


依頼書に描かれた挿絵を頼りに、セレスは屈み込んで草を観察する。


葉の裏がうっすらと銀色に光る、特徴的な草だった。一つ見つかると、周囲にもぽつぽつと生えているのが分かる。


籠を片手に、セレスは黙々と作業を続けた。腰をかがめ、根元から丁寧に摘み取っていく。


単純作業ではあるが、これはこれで嫌いではない。前世でも、こういう地味な下積みは苦にならないタイプだった。


「一株、二株……」


数えながら摘んでいるうちに、ふと背後の茂みがガサリと揺れた。


振り返ると、赤茶色の毛並みをした小型の魔物――角の生えた兎のような姿をしたそれが、こちらをじっと窺っていた。


「……お前も採取依頼か?」


軽口を叩きながらも、セレスは油断なく身構える。


魔物はしばらくこちらを観察していたが、やがて興味を失ったように茂みの奥へと消えていった。


「なんだ、脅かしやがって」


拍子抜けしたように呟き、セレスは作業を再開する。


それから半刻ほどかけて、ようやく籠が一杯になった。額の汗を拭い、伸びをしながら空を見上げる。木々の隙間から差し込む光が、思いのほか眩しかった。


「……これで依頼完了、と」


達成感というほど大げさなものではないが、それでも小さな充実感はあった。


無色と蔑まれようが、こうして自分の手でやり遂げたことに変わりはない。


そう独りごちて立ち上がった、その時だった。


地面が、微かに震えた。


「……なんだ?」


一度ではない。二度、三度と、断続的な震動が足元から伝わってくる。


震源は、依頼で訪れたこの森の奥。ちょうどダンジョンがあると聞いていた方角からだった。


それも、何かが激しく暴れているような、不穏な揺れ方をしている。


(面倒事の匂いがするな)


普段のセレスなら、関わらずにさっさと町へ戻っていたところだ。


だが、揺れの方向には見覚えのある巨体――ダンジョンに向かうと言っていたガロンの姿が、脳裏をよぎった。


「……ま、いっか。ついでだし」


深く考えるより先に、足が動いていた。前世からの悪い癖だと、自覚はしている。



ダンジョンの入口付近まで来ると、崩れた岩と地面に転がる装備品が目に入った。


ガロンのパーティーのものらしい、見覚えのある紋章の入った盾が、無造作に放り出されている。


「――っ、くそ、退け! 退けって言ってんだろうが!」


奥から響いてきたのは、ガロンの怒声だった。


セレスは籠を岩陰に放り出すと、足を速め、入口の先に広がる開けた空間へ飛び込んだ。


そこには、巨大な猪のような魔物が暴れ回っていた。


牙は異様に長く、全身は岩のような装甲に覆われている。


ガロンのパーティーらしき数人が、地面に倒れ伏していた。立っているのは、ガロン一人だけだった。


「くっ……!」


大剣を構えるガロンの腕は、明らかに震えていた。鎧の隙間からは血が滲んでいる。


魔物の突進を受け止めきれず、後方へ吹き飛ばされていた。


「――っ、ガロンさん!」


「ぐ……ッ!」


背後の岩壁に叩きつけられ、ガロンが低く呻く。


魔物はそのまま、止めを刺すべく彼へと突進していった。


その瞬間だった。


セレスの手首の紋様が、これまでとは比べ物にならないほど強く熱を持った。


白銀の光が、皮膚の下から滲むように浮かび上がる。


「……は?」


考えるより先に、体が動いていた。


魔物とガロンの間に割り込む。頭で理解が追いつく前に、視界の端に何か文字のようなものが浮かび上がるのが見えた。


【対象:防壁の岩猪ロックボア

特性を検出――部分継承を実行】


瞬間、セレスの右腕の皮膚が、岩のような硬質な質感へと変わった。


「な――」


突進してきた魔物の牙が、セレスの右腕にぶつかる。


轟音とともに火花が散ったが――弾かれたのは、魔物の牙の方だった。


ガロンが、ぽかんと口を開けたまま固まっている。


「……重いな、これ」


セレスは自分の右腕を軽く見つめ、それから拳を握った。


「借りるぞ。少しだけ」


地面を蹴り、岩のように硬化した右腕で魔物の横っ腹に拳を叩き込む。


轟音とともに、魔物の巨体が数メートル吹き飛び、地面に横倒しになった。


ズズン、という重い音が洞窟内に響き渡る。


しばらくの静寂の後、セレスの右腕は元の白く細い腕へと戻っていった。


まるで最初から、何もなかったかのように。


――が、体の内側に残った感覚は、そう単純ではなかった。


急に力を抜かれたような、鉛を飲み込んだような重さが、右腕から肩へと這い上がってくる。


「っ……」


膝が、勝手に折れかけた。とっさに踏ん張って堪えたが、視界が一瞬、白く滲む。


(なんだ、これ……借りたら、こっちも持っていかれるってことか)


代償があるのか、それとも単に慣れていないだけなのか。今の一瞬では、判断のしようがなかった。


「……なんだ、今の」


ガロンが呆然と呟く。


「さあ。俺にもよく分かってない」


セレスは軽く肩を回し、何事もなかったかのようにガロンの方へと近づいた。


「動けます?」


「あ、ああ……いや、待て。お前、さっきの……無色、だよな」


「無色だよ。少なくとも、水晶にはそう表示された」


「じゃあ今のは、一体……」


「知らない。俺も今初めて使った。多分、これが女神の言ってた『力』ってやつなんだと思う」


あっさりと答えるセレスに、ガロンは何とも言えない顔をしていた。


数値化できない何か。測定不能。だが、目の前で彼を救った力は、間違いなく本物だった。


「……悪かった」


ぽつりと、ガロンが呟いた。


「ん?」


「さっきの態度だ。無色だからって、頭ごなしに決めつけて悪かった。……この通り、命の恩人にする態度じゃなかったな」


ガロンは大きな体を縮めるようにして、深々と頭を下げた。


強面の大男が急にしおらしくなった姿に、セレスは思わず噴き出しそうになるのをこらえた。


「別にいいよ。それより、そっちの人たち、大丈夫?」


「……あ、そうだ。おい! しっかりしろ!」


ガロンが慌てて倒れている仲間たちの元へ駆け寄っていく。


セレスはその様子を眺めながら、もう一度、自分の右腕に視線を落とした。


(借り物の力、か)


女神が渡したという、正体不明の紋様。


今の一瞬で分かったのは、どうやらこれは「相手の力を一時的に借りて使う」類のものらしい、ということだけだった。


ただし、タダで借りられるわけではないらしい。さっきの重さは、ただの疲労にしては妙に生々しかった。


詳しい仕組みは、まだ何一つ見えていない。


それでも――悪くない、と思う自分がいた。


「……無色、返上できるかもな。これ」


誰に言うでもなく呟いて、セレスはふっと口の端を上げた。


――紋様は、まだ静かに白銀の光を灯していた。

第3話「借り物の力」をお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、下積み依頼(薬草採取)の地味な日常パートと、ついに発動した「借り物の力」の対比を意識して書きました。相手の特性を一時的に継承する能力――これがセレスの規格外っぷりの原点になっていきます。ガロンさんの掌返しも見ていただけて嬉しいです。次話以降もこの二人の絡みは増えていく予定です。


「無色」だったはずのセレスが、この先どこまで評価をひっくり返していくのか。次話もぜひ見届けてください。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価、感想で応援してもらえると嬉しいです!


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