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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第一章 無色判定、はじまる

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第三話 借り物の力

平和な下積みほど「そろそろ何か起きるな」と思ってしまうのが、異世界あるあるかもしれません。

今回、それが本当に起きます。


「無色じゃ受けられる依頼、これくらいしかないですね……」


ギルドを追い出されたその足で、セレスは受付の女性に案内されるまま、依頼掲示板の隅に貼られた紙を眺めていた。指されたのは、薬草採取や町の清掃、下水路の掃除といった、いわゆる下積み依頼ばかりだった。


討伐依頼の欄には、『無色お断り』と、わざわざ書き添えられているものまである。


「まあ、こんなもんか」


文句を言っても始まらない。セレスは肩をすくめると、その中から比較的まともそうな一枚――町の外れの森に生える『銀葉草』の採取依頼――を剥がした。


*


森は思っていたよりも静かだった。


木漏れ日が地面に斑模様を描き、鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。前世では自然に触れる機会などほとんどなかったこともあり、セレスは案外、この時間を悪くないと感じていた。


「……銀葉草って、これか?」


依頼書に描かれた挿絵を頼りに、セレスは屈み込んで草を観察する。


葉の裏がうっすらと銀色に光る、特徴的な草だった。一つ見つかると、周囲にもぽつぽつと生えているのが分かる。


籠を片手に、セレスは黙々と作業を続けた。腰をかがめ、根元から丁寧に摘み取っていく。


単純作業ではあるが、これはこれで嫌いではない。前世でも、こういう地味な下積みは苦にならないタイプだった。


「一株、二株……」


数えながら摘んでいるうちに、ふと背後の茂みがガサリと揺れた。


振り返ると、赤茶色の毛並みをした小型の魔物――角の生えた兎のような姿をしたそれが、こちらをじっと窺っていた。


「……お前も採取依頼か?」


軽口を叩きながらも、セレスは油断なく身構える。


魔物はしばらくこちらを観察していたが、やがて興味を失ったように茂みの奥へと消えていった。


「なんだ、脅かしやがって」


拍子抜けしたように呟き、セレスは作業を再開する。


それから半刻ほどかけて、ようやく籠が一杯になった。額の汗を拭い、伸びをしながら空を見上げる。木々の隙間から差し込む光が、思いのほか眩しかった。


「……これで依頼完了、と」


達成感というほど大げさなものではないが、それでも小さな充実感はあった。


無色と蔑まれようが、こうして自分の手でやり遂げたことに変わりはない。


そう独りごちて立ち上がった、その時だった。


地面が、微かに震えた。


「……なんだ?」


一度ではない。二度、三度と、断続的な震動が足元から伝わってくる。


震源は、依頼で訪れたこの森の奥。ちょうどダンジョンがあると聞いていた方角からだった。


それも、何かが激しく暴れているような、不穏な揺れ方をしている。


(面倒事の匂いがするな)


普段のセレスなら、関わらずにさっさと町へ戻っていたところだ。


だが、揺れの方向には見覚えのある巨体――ダンジョンに向かうと言っていたガロンの姿が、脳裏をよぎった。


「……ま、いっか。ついでだし」


深く考えるより先に、足が動いていた。前世からの悪い癖だと、自覚はしている。


*


ダンジョンの入口付近まで来ると、崩れた岩と地面に転がる装備品が目に入った。


ガロンのパーティーのものらしい、見覚えのある紋章の入った盾が、無造作に放り出されている。


「――っ、くそ、退け! 退けって言ってんだろうが!」


奥から響いてきたのは、ガロンの怒声だった。


セレスは籠を岩陰に放り出すと、足を速め、入口の先に広がる開けた空間へ飛び込んだ。


そこには、巨大な猪のような魔物が暴れ回っていた。


牙は異様に長く、全身は岩のような装甲に覆われている。


ガロンのパーティーらしき数人が、地面に倒れ伏していた。立っているのは、ガロン一人だけだった。


「くっ……!」


大剣を構えるガロンの腕は、明らかに震えていた。鎧の隙間からは血が滲んでいる。


魔物の突進を受け止めきれず、後方へ吹き飛ばされていた。


「――っ、ガロンさん!」


「ぐ……ッ!」


背後の岩壁に叩きつけられ、ガロンが低く呻く。


魔物はそのまま、止めを刺すべく彼へと突進していった。


その瞬間だった。


セレスの手首の紋様が、これまでとは比べ物にならないほど強く熱を持った。


白銀の光が、皮膚の下から滲むように浮かび上がる。


「……は?」


考えるより先に、体が動いていた。


魔物とガロンの間に割り込む。頭で理解が追いつく前に、視界の端に何か文字のようなものが浮かび上がるのが見えた。


【対象:防壁の岩猪《ロックボア》

特性を検出――部分継承を実行】


瞬間、セレスの右腕の皮膚が、岩のような硬質な質感へと変わった。


「な――」


突進してきた魔物の牙が、セレスの右腕にぶつかる。


轟音とともに火花が散ったが――弾かれたのは、魔物の牙の方だった。


ガロンが、ぽかんと口を開けたまま固まっている。


「……重いな、これ」


セレスは自分の右腕を軽く見つめ、それから拳を握った。


「借りるぞ。少しだけ」


地面を蹴り、岩のように硬化した右腕で魔物の横っ腹に拳を叩き込む。


轟音とともに、魔物の巨体が数メートル吹き飛び、地面に横倒しになった。


ズズン、という重い音が洞窟内に響き渡る。


しばらくの静寂の後、セレスの右腕は元の白く細い腕へと戻っていった。


まるで最初から、何もなかったかのように。


――が、体の内側に残った感覚は、そう単純ではなかった。


急に力を抜かれたような、鉛を飲み込んだような重さが、右腕から肩へと這い上がってくる。


「っ……」


膝が、勝手に折れかけた。とっさに踏ん張って堪えたが、視界が一瞬、白く滲む。


(なんだ、これ……借りたら、こっちも持っていかれるってことか)


代償があるのか、それとも単に慣れていないだけなのか。今の一瞬では、判断のしようがなかった。


「……なんだ、今の」


ガロンが呆然と呟く。


「さあ。俺にもよく分かってない」


セレスは軽く肩を回し、何事もなかったかのようにガロンの方へと近づいた。


「動けます?」


「あ、ああ……いや、待て。お前、さっきの……無色、だよな」


「無色だよ。少なくとも、水晶にはそう表示された」


「じゃあ今のは、一体……」


「知らない。俺も今初めて使った。多分、これが女神の言ってた『力』ってやつなんだと思う」


あっさりと答えるセレスに、ガロンは何とも言えない顔をしていた。


数値化できない何か。測定不能。だが、目の前で彼を救った力は、間違いなく本物だった。


「……悪かった」


ぽつりと、ガロンが呟いた。


「ん?」


「さっきの態度だ。無色だからって、頭ごなしに決めつけて悪かった。……この通り、命の恩人にする態度じゃなかったな」


ガロンは大きな体を縮めるようにして、深々と頭を下げた。


強面の大男が急にしおらしくなった姿に、セレスは思わず噴き出しそうになるのをこらえた。


「別にいいよ。それより、そっちの人たち、大丈夫?」


「……あ、そうだ。おい! しっかりしろ!」


ガロンが慌てて倒れている仲間たちの元へ駆け寄っていく。


セレスはその様子を眺めながら、もう一度、自分の右腕に視線を落とした。


(借り物の力、か)


女神が渡したという、正体不明の紋様。


今の一瞬で分かったのは、どうやらこれは「相手の力を一時的に借りて使う」類のものらしい、ということだけだった。


ただし、タダで借りられるわけではないらしい。さっきの重さは、ただの疲労にしては妙に生々しかった。


詳しい仕組みは、まだ何一つ見えていない。


それでも――悪くない、と思う自分がいた。


「……無色、返上できるかもな。これ」


誰に言うでもなく呟いて、セレスはふっと口の端を上げた。


――紋様は、まだ静かに白銀の光を灯していた。

第3話「借り物の力」をお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、下積み依頼(薬草採取)の地味な日常パートと、ついに発動した「借り物の力」の対比を意識して書きました。相手の特性を一時的に継承する能力――これがセレスの規格外っぷりの原点になっていきます。ガロンさんの掌返しも見ていただけて嬉しいです。次話以降もこの二人の絡みは増えていく予定です。


「無色」だったはずのセレスが、この先どこまで評価をひっくり返していくのか。次話もぜひ見届けてください。


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