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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第二章 地下遺跡と銀仮面

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第二十九話 街に刻まれるもの

レイフィアが正式に仲間になった日。


本当なら、お祝いの食事くらいしてもよかった。


でも黒ローブたちは、街のあちこちに嫌な置き土産を残していたらしい。


平和な日は、なかなか長続きしない。

五人でギルドを出た直後だった。


市場のほうから、短い悲鳴が上がった。


「きゃっ!」


続けて、何かが割れる音。


人々のざわめきが、一気に大きくなる。


「……何かあった」


セレスが足を止める。


その瞬間。


左手首の紋様が、焼けるように熱くなった。


「っ……!」


銀の腕輪の下で、白銀の光が脈打つ。


それは、地下水路でも、偽紋様の実験体に触れたときでも感じたことのないほど強い反応だった。


「セレス?」


ミュゼが心配そうに顔を覗き込む。


「大丈夫?」


「分からない」


セレスは痛む手首を押さえる。


「でも、近くで偽紋様が動いてる」


ガロンが大剣の柄を握る。


「市場だな。行くぞ」


五人は駆け出した。


市場へ近づくにつれ、人々が逆方向へ逃げてくる。


「壁が光ってる!」


「触るな!」


「子どもがまだ向こうにいる!」


通りを抜けると、市場の中央にある石壁が黒と赤に染まっていた。


壁には、複雑な紋様が大きく描かれている。


まるで街そのものへ、傷を刻みつけたような模様。


黒赤い線は、石壁の上をゆっくりと這い、地面へ広がっていた。


「昨日の地図にあった印……」


イリスが低く言う。


「ここが一つ目ね」


次の瞬間。


石壁から黒い粘液が噴き出した。


粘液は地面を走り、近くにあった木箱や屋台の柱へまとわりつく。


木材が軋み、形を変える。


黒い獣のようなものが、一体、二体と生まれていった。


「魔物じゃない」


レイフィアが細剣を抜く。


「術式が周りのものを取り込んでる!」


「市民を下げろ!」


ガロンが叫ぶ。


「ミュゼ、避難誘導を頼む!」


「うん!」


ミュゼはすぐに通りの中央へ走った。


「こっちだよ! 市場の外へ出て! 転んだ人は手を貸して!」


子どもを抱えた母親が、倒れた屋台の向こうで立ち尽くしている。


黒い獣が、その方向へ跳んだ。


「危ない!」


セレスが地面を蹴る。


だが、獣との距離はまだ遠い。


その前へ、レイフィアが滑り込んだ。


細剣が鋭く走る。


黒い獣の前脚を斬り払い、跳躍の軌道を逸らした。


獣は石畳へ叩きつけられ、黒い粘液を散らす。


「今のうちに逃げて!」


レイフィアが叫ぶ。


母親は我に返り、子どもを抱いて走り出した。


「助かった……!」


「礼は後!」


レイフィアは後ろへ跳ぶ。


黒い獣が、すぐに起き上がった。


斬られた部分は粘液を集め、元の形に戻っていく。


「再生が速いわね」


「核は壁の紋様だ」


セレスは石壁を見る。


黒赤い紋様が、心臓のように脈打っている。


けれど近づこうとすれば、二体目の獣が進路を塞いだ。


「俺が道を作る!」


ガロンが大剣を振り上げる。


一撃。


黒い獣の身体が大きく吹き飛ぶ。


だが、ガロンの大剣には黒い粘液がまとわりついた。


「くそっ、武器にまで絡んできやがる!」


「動きを止めるわ!」


イリスがガロンの横へ並ぶ。


剣が白い弧を描き、獣の粘液を地面へ切り落とす。


続けて、足元へ剣を突き立てた。


「セレス、今!」


セレスは走る。


石壁まであと数歩。


そのとき。


黒赤い紋様から、細い線が伸びた。


まるで生き物の触手のように、セレスの左手首へ絡みつく。


「……っ!」


白銀の紋様が、強く光った。


視界が揺らぐ。


頭の中に、無数の声が流れ込んでくる。


苦しい。


助けて。


力が欲しい。


誰かを守りたい。


もう、何も失いたくない。


それは、市場にいる誰かの声ではない。


この街のあちこちに刻まれた偽紋様が集めた、たくさんの願いと恐怖。


黒ローブたちは、それを使っている。


力を欲しがる気持ち。

弱さ。

苦しさ。


街の中にあるものを、全部。


「セレス!」


ミュゼの声が聞こえた。


けれど、遠い。


黒赤い線は、セレスの手首へ食い込もうとしていた。


白銀の紋様が、拒むように熱を上げる。


痛い。


腕が、裂けるように痛い。


それでも。


「……借りない」


セレスは、歯を食いしばる。


「こんなもの、借りるわけない」


黒赤い紋様が、さらに強く脈打つ。


市場の石壁だけではない。


遠くの方でも、同じような黒赤い光が立ち上がっている。


宿場通り。

水路の近く。

そして、冒険者ギルドの方角。


「一つじゃない」


イリスが息を呑む。


「町中で動いてる……!」


鐘が鳴り始める。


衛兵が緊急事態を知らせる鐘。


けれど、鐘の音が鳴るたびに、黒赤い紋様も強く光っていた。


「音に反応してる?」


ミュゼが言う。


「違う」


レイフィアが周囲を見た。


「町の人たちの不安に反応してるのよ」


逃げ惑う人々。

泣く子ども。

崩れる屋台。

助けを呼ぶ声。


恐怖が広がるほど、術式は強くなる。


「最低ね」


レイフィアの声が震える。


「人の弱さを使って、街ごと壊すつもりなの」


黒い獣が、また一体生まれる。


市場の通路を塞ぐように、粘液が壁を作った。


ミュゼが避難させようとしていた人々が、逃げ道を失う。


「ミュゼ!」


「大丈夫!」


ミュゼは杖を掲げる。


淡い光が広がり、粘液の壁に押し潰されそうになった男性の傷を癒す。


けれど、攻撃を止める力はない。


黒い壁が、ゆっくりと迫る。


「ガロン、右を!」


「おう!」


ガロンが走る。


大剣が壁へ叩き込まれる。


粘液が大きく散るが、すぐに元へ戻ろうとする。


「イリス、切れ目を広げて!」


「分かった!」


イリスの剣が、ガロンの一撃で生まれた裂け目へ走る。


粘液の流れが乱れ、壁の一部が崩れた。


「レイフィア!」


「任せて!」


レイフィアの細剣が、崩れた隙間を正確に突く。


細い裂け目が、逃げ道になる。


「今よ! 通って!」


市民たちが、その隙間から一斉に逃げ出す。


ミュゼが最後まで残り、倒れていた男性の肩を支えながら外へ出た。


「全員、出たよ!」


セレスはその声を聞き、少しだけ息を吐く。


仲間がいる。


だから、まだ動ける。


けれど。


石壁の紋様は、さらに大きく脈打った。


黒赤い線が市場全体へ広がり、地面から複数の粘液の柱が立ち上がる。


それらは空へ伸び、町の中心へ向かうように傾いていく。


セレスの手首が、また強く引かれた。


「……これは」


白銀の紋様が、今までにないほど眩しく光る。


頭の中に、黒ローブの男の声が響いた。


『来い、本物』


声は、どこから聞こえているのか分からない。


けれど、はっきりとセレスへ届いた。


『お前が来なければ、この街ごと壊れる』


セレスの足元に、黒赤い線が伸びてくる。


線は、町の中央――冒険者ギルドの方向へ続いていた。


『街に刻んだ紋様は、すべてお前へ繋がっている』


「セレス!」


ガロンが叫ぶ。


セレスの身体が、黒赤い線に引かれるように一歩前へ出る。


白銀の光が、黒い光とぶつかる。


腕輪の下で、紋様が暴れ始める。


借り物の力が、勝手に何かを掴もうとしている。


ガロンの力。

イリスの剣。

レイフィアの速さ。

ミュゼの魔法。


仲間の感覚が、一気に流れ込んでくる。


「……だめだ」


セレスは頭を押さえる。


理解が、溢れる。


身体が、勝手に動こうとする。


「セレス、私を見て!」


ミュゼの声が近づく。


セレスの前に立ち、両手で彼の手を包んだ。


「一人で抱えないで!」


「でも……」


「私たちはいるよ!」


ミュゼの言葉に続くように。


ガロンが、セレスの背後へ立つ。


「無理なら支える。勝手に全部背負うな」


イリスが剣を構え、周囲の黒い粘液を睨む。


「私たちの力は、あなたのためにあるんじゃない」


レイフィアも、細剣を握り直した。


「一緒に戦うためにあるのよ」


白銀の紋様が、少しだけ落ち着く。


流れ込んでいた感覚が、ただの濁流ではなくなる。


仲間たちの力が。


仲間たちの声が。


セレスを引き戻す。


「……分かった」


セレスはゆっくりと息を吸った。


黒赤い線を見つめる。


町の中心へ続く、敵の誘い。


逃げることはできない。


けれど、一人で行く必要もない。


「行く」


セレスは言った。


「黒ローブのところへ」


五人は、町の中心へ向かって走り出す。


その背後で。


市場の石壁に刻まれた偽紋様が、ゆっくりと形を変えていた。


黒と赤の線は、まるで笑っているように歪んでいた。

第二十九話を読んでいただき、ありがとうございます!


黒ローブたちが仕込んでいた偽紋様が、ついにヴェルンハイム各地で動き出しました。


人々の不安や恐怖を利用して力を増す術式。

そしてそのすべては、セレスの紋様へ繋がっています。


セレスは一人で力を抱えきれず、暴走しかけました。

けれど今回は、仲間たちが彼を引き戻してくれました。


次回、五人は街の中心にいる黒ローブたちと対峙します。


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