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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第二章 地下遺跡と銀仮面

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第二十七話 本物と模造品

「女神の遺物」「唯一の成功例」。


突然、ずいぶん重そうな呼び名を増やされました。


セレスとしては、まず目の前の人たちを助けたいだけです。

あと、地下室はやっぱり空気が悪い。


地下室の空気が、黒と赤の光に染まっていく。


銀仮面の男の後ろには、五人の男が立っていた。


全員の手首には、偽紋様が刻まれている。


黒い線と赤い線が絡み合い、脈打つたびに男たちの表情が苦痛に歪んだ。


「……あの人たちも、実験体なの?」


ミュゼの声が、通路の向こうから聞こえた。


いつの間にか、ガロンとイリスが地下へ降りてきていた。


ガロンの背後には、救出された人たちを誘導しているミュゼの姿がある。


「上は?」


セレスが尋ねる。


「鉄格子の中にいた連中は外へ出した」


ガロンは大剣を構えながら答えた。


「だが、倉庫の外にも黒ローブが集まり始めてる。長居はできねえ」


「なら、急ぎましょう」


イリスが剣を抜く。


その声は硬い。


「彼らを助けられるなら助ける。無理なら、せめてこれ以上傷つけさせない」


銀仮面の男が、ゆっくりと首を傾げた。


「助ける?」


その声には、わずかな笑いが混じっている。


「彼らは自ら力を望んだ。弱いままでは何も守れない。何も変えられない。だから我々は、選択肢を与えた」


「選択肢じゃない」


レイフィアが鋭く言った。


細剣の切っ先が、銀仮面の男へ向けられる。


「壊れることを隠して、人の弱さにつけ込んだだけよ」


「弱さを利用する? 違うな」


銀仮面の男は、仮面の奥で笑った。


「弱さがあるから、我々は必要とされる」


セレスは、腕の中に抱えた少女をミュゼへ預けた。


「この子を頼む」


「うん。絶対に助ける」


ミュゼは少女を受け取り、すぐに治癒魔法をかけ始める。


淡い光が、少女の手首を包む。


セレスは一歩、前へ出た。


「お前たちの力は、誰かを助けるためのものじゃない」


「ほう」


「人を壊して、命令を聞かせるための力だ」


銀仮面の男は、少しだけ楽しそうに肩を揺らした。


「それでも、お前はその力を否定しきれない」


「何?」


「お前の紋様も、他者の力を借りるものだろう?」


その言葉に、セレスの手首が熱を持った。


「奪うのか。真似るのか。借りるのか。呼び方を変えたところで、本質は同じだ」


「違う」


セレスの声は静かだった。


「俺は、相手を壊さない」


「今はな」


銀仮面の男が指を鳴らす。


偽紋様を刻まれた男たちが、一斉に動いた。


「だが力とは、いつか誰かを傷つける。ならば、傷つける側を選べばいい」


五人の実験体が、ばらばらの方向から襲いかかる。


「ガロン!」


「ああ!」


ガロンが前へ出る。


大剣が横薙ぎに振るわれ、二人の進路をまとめて塞いだ。


だが、偽紋様を刻まれた男たちは痛みを感じないように、刃を恐れず突っ込んでくる。


「止まれ!」


ガロンの大剣が一人の肩を打ち、男の体を壁際へ吹き飛ばす。


それでも男はすぐに立ち上がる。


「痛みを感じてないのかよ……!」


「感じているわ」


レイフィアが言う。


細剣で別の男の腕を弾きながら、後ろへ跳ぶ。


「感じてるのに、止まれないのよ」


男の手首から、黒い粘液が溢れ出す。


粘液は腕を覆い、歪な刃のように形を変えた。


「来るわ!」


イリスが剣を振るう。


正面から迫った男の腕を受け流し、そのまま足を払う。


倒れた相手の手首を、剣の腹で強く叩いた。


偽紋様が一瞬だけ明滅する。


「セレス! 紋様に衝撃を与えると、少し止まるみたい!」


「分かった!」


セレスは剣を抜き、横から迫った男の攻撃を受けた。


黒い粘液の刃が、剣身を叩く。


重い。


だが、相手の動きは単純だった。


力任せに振るい、紋様の命令に従っている。


セレスは踏み込み、剣の柄で男の手首を打つ。


黒赤い線が、大きく脈打った。


「ぐっ……!」


男が苦しそうに膝をつく。


その瞬間、セレスの手首が熱くなった。


男の中にある感覚が、流れ込んでくる。


怖い。


苦しい。


やめたい。


でも、身体が動く。


「……命令されている」


セレスは低く言った。


「紋様に」


「当然だ」


銀仮面の男が、手を広げる。


「未完成の模造品には、意思など必要ない。力を与え、命令に従わせる。それだけで十分だ」


「十分なわけない」


ミュゼが叫んだ。


少女の治療を続けながらも、その目は銀仮面を睨んでいる。


「みんな、苦しんでるじゃない!」


「苦しみは成長の証だ」


「違う!」


ミュゼの声が、地下室に響く。


「苦しいだけで、誰かに無理やり使われるのは、成長なんかじゃない!」


銀仮面の男は、ほんの少しだけミュゼを見た。


だが、すぐに興味を失ったように視線を戻す。


「理想論だ」


「理想でいい」


セレスが言った。


銀仮面の男が、こちらを見る。


「仲間を助けたい。自分で選びたい。そんな当たり前のことを、理想論で終わらせるな」


セレスの手首の紋様が、白銀に光る。


目の前の実験体たち。


ガロンが受け止めている力。


イリスが見抜いた、紋様を止める一撃。


レイフィアが作る、一瞬の隙。


ミュゼが守っている命。


理解する。


ただ力を借りるためではない。


仲間の動きを繋ぐために。


「ガロン」


「おう!」


「右の二人を止めて」


「任せろ!」


セレスの紋様が、淡く熱を持つ。


ガロンが大剣を振るう。


重く、確かな一撃。


セレスの足にも、その踏み込みの感覚が重なる。


床を強く蹴る。


右側から迫る実験体の前へ、一瞬で回り込む。


剣を振るい、攻撃の軌道を逸らす。


「イリス」


「分かってる!」


イリスは剣を滑らせ、相手の手首を正確に打ち抜く。


偽紋様の光が揺らぐ。


セレスは、そこへガロンの重い踏み込みを重ねた蹴りを入れる。


男の身体が後方へ倒れ込む。


「レイフィア」


「言われなくても!」


レイフィアの細剣が走る。


もう一人の実験体の腕を浅く斬り、攻撃を逸らす。


セレスはその隙を逃さない。


イリスの剣筋を借り、最小の動きで手首へ剣の腹を叩き込んだ。


黒赤い紋様が、激しく光る。


実験体の男が、その場に崩れ落ちた。


「……今の」


レイフィアが息を呑む。


「複数の力を……」


「借りた」


セレスは短く答える。


「でも、一人ではできない」


それは、初めての感覚だった。


誰か一人の特性を借りるのではない。


仲間たちがそれぞれ作った流れを理解し、自分の中で繋げる。


強引に奪うものではない。


互いに信じているからこそ、途切れずに使える力。


残った実験体たちが、再び襲いかかる。


だが、もうセレスたちは崩れない。


「左は私が止めるわ!」


イリスが前へ出る。


剣が男の攻撃を受け流し、壁際へ追い込む。


「ガロン、そっち!」


「おう!」


ガロンの大剣が地面を叩き、男の足元を崩す。


「レイフィア!」


「分かってる!」


細剣が手首を打ち、偽紋様の動きを止める。


セレスが踏み込む。


白銀の紋様が光る。


「もう終わりだ」


剣の柄が、最後の実験体の手首を打った。


黒赤い光が、ひとつ、またひとつと消えていく。


実験体たちは、糸が切れたように倒れ込んだ。


全員、生きている。


呼吸もある。


ただ、手首には偽紋様の痕が残っていた。


「助けられた……の?」


ミュゼが尋ねる。


「今は、動かなくなった」


セレスが答える。


「でも、完全には消えていない」


銀仮面の男は、倒れた実験体たちを一瞥した。


「惜しいな」


「何?」


「お前の力があれば、模造品はさらに完成へ近づく」


銀仮面の男の手に、小さな黒い水晶が現れる。


「お前が術式へ干渉した記録は、十分に取れた」


レイフィアが細剣を構える。


「逃がさない」


「今の君たちに、私を止められるかな?」


男が水晶を握り潰す。


地下室の床に描かれた術式が、一斉に赤く光った。


「下がれ!」


ガロンが叫ぶ。


轟音とともに、天井の一部が崩れ落ちた。


土煙が視界を覆う。


セレスはミュゼと少女を庇い、壁際へ跳ぶ。


数秒後。


土煙が薄れたとき、銀仮面の男の姿は消えていた。


残されていたのは、黒ローブと。


壊れた木箱。


そして、床に落ちた一枚の紙だけだった。


イリスがそれを拾い上げる。


紙には、ヴェルンハイムの地図が描かれていた。


町の中に、いくつもの赤い印がある。


その中心には。


冒険者ギルドの印が、赤く塗り潰されていた。


「……街に紋様を刻むつもりね」


イリスの声が低くなる。


紙の端には、短い文字が書かれていた。


『第三段階、開始』


レイフィアが細剣を握り締めた。


「次は、町そのものを使う気よ」


セレスは地図を見つめる。


黒ローブたちは撤退した。


だが、負けたわけではない。


むしろ。


次のために、必要なものを持ち帰った。


セレスの紋様の力を。


その事実が、胸の奥に重く残った。


遠くで、鐘の音が鳴る。


夜明けが近い。


けれどヴェルンハイムに訪れようとしているのは、いつもの朝ではなかった。

第二十七話を読んでいただき、ありがとうございます!


セレスたちは、黒ローブたちの実験体を止めることに成功しました。


今回、セレスの紋様は「仲間の力を借りる」だけでなく、みんなの動きを繋ぐ形で新しい使い方を見せました。

ただし黒ローブ側も、その記録を取ることに成功しています。


そして残された地図には、街の中に複数の赤い印が。


次回は、救出後のギルドでの評価と、町に広がり始める不穏な気配が描かれます。


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