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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第二章 地下遺跡と銀仮面

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第二十六話 地下にいるもの

潜入調査のはずが、地下から「助けて」の声。


こうなると、セレスは止まれません。


なおガロンは、まだ壁を壊していません。

たぶん、今回も。

倉庫の地下から聞こえた声は、すぐに途切れた。


けれど、セレスの耳には残り続けていた。


助けて。


ただ、それだけの短い言葉。


鉄格子の中に閉じ込められていた人々とは別に、まだ地下にも誰かがいる。


「戻るぞ」


窓から離れたセレスは、低く言った。


レイフィアも頷く。


「分かったわ。ここで長く話していたら、見張りに気づかれる」


二人は壁際を戻り、待機していた仲間たちのもとへ戻った。


ミュゼがすぐに近寄る。


「どうだった?」


「中に捕まってる人がいる」


セレスが答える。


「地下にも」


「地下?」


ガロンの表情が険しくなる。


「やっぱり、ただの倉庫じゃねえな」


「黒ローブが何人かいるわ」


レイフィアが補足する。


「見張りが二人。中に三人。それと、銀色の仮面をつけた男がいた」


「偉そうなやつ?」


ミュゼが聞く。


「偉そうというより、実際に上の立場っぽいわね」


イリスが腕を組んだ。


「本物が動き始めている、と言っていたのね」


「ああ」


セレスは左手首に触れる。


「俺のことだと思う」


仲間たちの表情が引き締まる。


ガロンが倉庫を見上げた。


「調査だけで済ませるつもりだったが、あの中に人がいるなら放ってはおけねえ」


「でも、正面から入ったら、助ける前に人質にされるかもしれないよ」


ミュゼの声には不安が混じっていた。


その通りだった。


敵の人数も、地下の構造も分からない。


勢いだけで踏み込めば、捕まっている人たちを危険に巻き込む。


「裏口から入る」


レイフィアが言った。


「見張りを静かに止めて、まず中の様子を確かめる。地下への入口を見つけたら、二手に分かれるわ」


「二手?」


イリスが眉を寄せる。


「誰が誰と行くの?」


「地下にはセレスと私。細い通路なら、二人のほうが動きやすい」


「私は?」


「ガロンとミュゼで、鉄格子の人たちを助けて」


レイフィアは迷いなく続ける。


「イリスは、その二つを繋ぐ位置にいて。敵が来たら止める役が必要よ」


イリスは少し考えたあと、頷いた。


「悪くないわね。救出を優先するなら、そのほうがいい」


「でも、レイフィア」


ミュゼが不安そうに見る。


「地下にいる人が、すごく危ないかもしれないよ」


「分かってる」


レイフィアは細剣の柄を握った。


「だから、急ぐ」


セレスは彼女を見る。


声は冷静だった。


けれど、その横顔には、昨日とは違う強さがあった。


「行こう」


五人は、倉庫の裏口へ近づいた。


見張りの二人は、まだ会話をしている。


「次の荷はいつ届く?」


「夜明け前だ。地下の術式を動かすための触媒が足りない」


「こんな町で、いつまで続けるつもりだ」


「上の連中が本物を手に入れるまでだろ」


「本物、本物って……ただの少女じゃないか」


「余計なことを言うな。聞かれたら、お前も実験台にされるぞ」


その会話が途切れた瞬間。


レイフィアが地面を蹴った。


細剣の柄が、一人の首筋へ正確に入る。


男が声を上げる前に崩れ落ちた。


もう一人が振り返る。


だが、その前にセレスが足元へ滑り込み、男の膝裏を払った。


体勢を崩した男の後ろへ、イリスが回り込む。


剣の柄で後頭部を軽く打つ。


男は声も出せずに倒れた。


「静かに、って言ったでしょ」


レイフィアがセレスを見る。


「静かだった」


「最後に転がった音が大きかった」


「次は気をつける」


「次がないほうがいいわ」


ガロンが倒れた男たちを端へ運びながら、苦笑した。


「お前ら、意外と息が合ってるな」


「そんなことない」


セレスとレイフィアの声が重なった。


ミュゼが小さく笑う。


「息合ってるよ」


「合ってないわ」


レイフィアは即答した。


裏口の鍵は、レイフィアが細剣の先で簡単に外した。


軋む音を立てないよう、ゆっくりと扉を開ける。


倉庫の中は、先ほど窓から見たときよりも薄暗かった。


黒ローブたちは、中央にある鉄格子のそばへ集まっている。


奥の階段から、銀仮面の男の姿は見えない。


「さっきの男は地下へ行ったみたいね」


レイフィアが囁く。


「今なら、鉄格子の救出を先にできる」


「俺たちは左から行く」


ガロンが低く言う。


「ミュゼは後ろからついてこい。無茶するなよ」


「分かってる」


ミュゼは杖を抱え、真剣な顔で頷いた。


「イリスは中央」


セレスが言う。


「敵が鉄格子へ近づいたら止めて」


「任せて」


イリスは剣を抜く。


「セレスたちは地下ね」


「行く」


セレスとレイフィアは、倉庫の奥にある階段へ向かった。


黒ローブたちの注意が鉄格子のほうへ向いている間に、木箱の陰を抜ける。


地下へ続く階段は、思ったより深かった。


湿った空気が上がってくる。


鼻を刺す薬品の臭い。


そして、かすかに聞こえる呻き声。


「……近い」


レイフィアが小さく言う。


地下の通路には、壁に沿って小さな灯りが並んでいた。


その光に照らされて、黒と赤の液体が入った瓶が棚に並んでいる。


床には、赤い鉱石の粉末で描かれた線。


まるで、紋様の一部のようだった。


セレスの手首が熱を持つ。


白銀の紋様が、腕輪の下でかすかに明滅した。


「大丈夫?」


レイフィアが尋ねる。


「大丈夫だ」


「無理はしないで。あの偽物に近づくと、また何が起こるか分からない」


「分かってる」


通路の先に、鉄の扉があった。


扉の向こうから、複数の声が聞こえる。


「次は誰だ」


「この女は適合率が低い。前の二人も三分と持たなかった」


「死ななければ次に回せ。死んだなら、材料に戻せ」


セレスの足が止まる。


レイフィアの手が、彼の腕を掴んだ。


「待って。今、飛び込んだら――」


扉の向こうで、悲鳴が上がった。


「やめて! お願い、やめて!」


セレスはレイフィアの手を見る。


レイフィアも、迷っていた。


けれど。


「……行く」


セレスは静かに言った。


「行きましょう」


レイフィアは手を離し、細剣を抜いた。


セレスが扉を蹴り開ける。


重い鉄の扉が、内側へ大きく開いた。


部屋の中にいた黒ローブの男たちが、一斉に振り向く。


「誰だ!」


中央には、魔法陣のような黒赤い線が描かれていた。


その上に、一人の少女が横たえられている。


手首には、すでに歪な紋様が刻まれ始めていた。


「冒険者か!」


「どうやって入った!」


「質問は後だ」


セレスは少女へ駆け寄る。


「その手を離せ」


黒ローブの一人が、短剣を振り下ろした。


レイフィアの細剣が横から走る。


刃が短剣を弾き、火花が散った。


「セレス、そっちは任せた!」


「分かった」


セレスは黒赤い線の中へ踏み込む。


紋様が、彼の存在に反応する。


床の術式が不気味に光り、少女の腕から黒い糸のようなものが伸びた。


セレスの左手首が、焼けるように熱くなる。


「本物を感知した!」


黒ローブの男が叫ぶ。


「術式を止めるな! このまま引きずり込め!」


黒い糸が、セレスの腕へ絡みつこうとする。


セレスは剣を抜いた。


だが、斬る前に止まる。


この術式を壊せば、少女まで傷つくかもしれない。


「セレス!」


レイフィアの声が飛ぶ。


彼女は二人の黒ローブを相手にしていた。


細剣が鋭く走り、一人の腕を浅く斬る。


もう一人の短剣をかわしながら、位置を変える。


けれど、相手は次々と術式の瓶を投げてくる。


床に割れた瓶から黒い粘液が広がり、レイフィアの足元へまとわりついた。


「っ……!」


「レイフィア!」


セレスが声を上げる。


「自分のことをやりなさい!」


レイフィアが叫び返す。


「この子を助けるんでしょ!」


セレスは少女を見る。


意識はない。


けれど、手首の紋様はまだ完全には定着していない。


昨日の男と違う。


まだ間に合う。


「……俺の力じゃない」


セレスは左手を、少女の手首へかざす。


白銀の紋様が淡く光る。


黒と赤の線が、抵抗するように暴れた。


頭の中へ、また感覚が流れ込む。


痛み。


恐怖。


力が欲しいという願い。


誰かを助けたい。

借金を返したい。

病気の家族を守りたい。

もう、弱いままでいたくない。


それは少女のものではない。


ここで壊れた人たちが残した、たくさんの願いだった。


「……こんな使い方をするな」


セレスは静かに言う。


白銀の光が、黒赤い術式へ触れる。


乱れた線を、少しずつほどいていく。


床の魔法陣が軋む。


「止めろ!」


黒ローブが叫ぶ。


「それは我々の術式だ!」


「人を壊すものなら、いらない」


光が広がる。


少女の手首にあった黒い線が、ゆっくりと薄くなっていく。


同時に、床の術式にもひびが走った。


黒ローブの男たちが、焦ったように後ずさる。


「本物が術式を分解している……!」


「あり得ない。未完成の刻印に干渉できるはずが――」


その言葉は、途中で途切れた。


部屋の奥から、重い衝撃音が響いた。


壁の向こうで、何かが壊れる。


続いて、上の階からガロンの声が聞こえた。


「セレス! 上の連中が動いた! 鉄格子の人たちは外へ出せたが、敵が地下へ向かってる!」


「分かった!」


セレスは少女を抱き上げる。


術式は消えかけている。


だが、まだ完全には終わっていない。


そのとき。


地下通路の奥から、ゆっくりと拍手が聞こえた。


乾いた音が、一度。


また一度。


「見事だ」


暗闇の中から、銀仮面の男が姿を現した。


その後ろには、黒い紋様を手首に刻まれた男たちが並んでいる。


全員、昨日の暴走した男と同じように、焦点の合わない目をしていた。


「やはり、お前は我々の想像を超えている」


銀仮面の男は、セレスを見つめる。


「女神の遺物。唯一の成功例」


レイフィアが、細剣を構え直した。


「セレスから離れなさい」


「焦るな、剣士」


銀仮面の男は、静かに笑った。


「まだ、挨拶をしただけだ」


偽紋様を刻まれた男たちが、一歩ずつ前へ出る。


黒と赤の光が、薄暗い地下室を染めていった。

第二十六話を読んでいただき、ありがとうございます!


潜入調査は、救出作戦へ変わりました。


偽紋様は、ただ力を与えるだけのものではなく、人の願いや弱さを利用して壊すための術式だったようです。

そしてついに、黒ローブ側の幹部らしき銀仮面の男が姿を現しました。


次回は、本物の紋様を持つセレスと、模造品を作り続ける黒ローブたちが正面からぶつかります。


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