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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第一章 無色判定、はじまる

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第二十二話 平和な朝は長く続かない

報酬が入った翌日。


ミュゼは朝から言っていた。


「今日は絶対に買い物の日!」


……回復薬や装備の補充なら分かる。

でも、なぜ「甘いものを先に見る」が最優先なのか。


平和な一日は、だいたいこういうところから始まる。

翌朝。


宿の一階にある食堂では、焼きたてのパンの香りが漂っていた。


セレスは席に座り、いつものようにスープとパンを口に運ぶ。


その向かいでは、ミュゼがやけに真剣な表情で紙を見つめていた。


「……これは重要な作戦会議だよ」


「買い物の予定表にしか見えない」


「違うよ。これは、地下水路の依頼を終えた私たちが、これからもっと強くなるための計画表!」


ミュゼは胸を張った。


机の上には、細かい文字でいくつもの項目が並んでいる。


新しい回復薬。

魔力回復用の薬草。

予備の包帯。

丈夫な靴。

防水用の外套。


ここまでは、まともだった。


だが、その下には。


甘い果実のタルト。

焼き菓子。

店員さんおすすめの限定プリン。


「……最後の三つは?」


「士気向上のために必要」


「必要なのか」


「絶対に必要」


隣で朝食を取っていたガロンが、笑いをこらえきれずに肩を震わせた。


「まあ、たまにはいいんじゃないか。昨日の報酬なら余裕もあるしな」


「ガロンまで甘い」


「俺は甘いものに甘いわけじゃないぞ」


「意味が分からない」


セレスが淡々と言うと、イリスが口元を隠して笑った。


「でも、必要なものを補充するのは賛成です。地下水路のような依頼がまた来ないとは限りませんから」


「ですよね!」


ミュゼは勢いよく立ち上がった。


「じゃあ、朝ごはんを食べたら出発!」


「そんなに急がなくても、店は逃げない」


「限定プリンは逃げるかもしれないよ」


「プリンに足はない」


「セレス、たまに変なところで真面目だよね」


少し遅れて、レイフィアが食堂へ入ってきた。


昨日よりも少しだけ、表情が柔らかい。


けれど、彼女はセレスたちの席を見ると、わずかに足を止めた。


「おはよう、レイフィア!」


ミュゼがすぐに手を振る。


「……おはよう」


「今日、一緒に買い物に行かない?」


「行かない」


即答だった。


「えー」


「私は自分の用事があるの」


「じゃあ、その用事が終わったら?」


「終わっても行かない」


「強い」


ミュゼがしゅんと肩を落とす。


レイフィアは一瞬だけ困ったような顔をした。


「……何を買うつもりなの?」


「装備とか回復薬とか、それから甘いもの!」


「最後のは必要なの?」


「必要!」


また即答だった。


レイフィアは小さく息を吐く。


「……私も、消耗品を補充する予定だったわ」


「じゃあ一緒だね!」


「そういう意味では……」


ミュゼの勢いに押され、レイフィアは言葉を失う。


その様子を見ていたセレスは、スープを飲み終えてから立ち上がった。


「行くなら早く行こう。プリンが逃げる前に」


「セレスまで!」


ミュゼの顔が一気に明るくなる。


「ほら、レイフィアも行こう!」


「……一回だけよ」


昨日と同じ言葉だった。


けれど今度は、少しだけ断りきれないような声だった。


町の商店通りは、朝から賑わっていた。


武器屋の前には冒険者たちが集まり、薬屋では店主が忙しそうに瓶を並べている。


セレスたちはまず、薬屋へ向かった。


「回復薬は中級を十本。魔力回復薬は六本でいいか?」


ガロンが確認する。


「包帯と解毒薬も欲しい」


セレスが言う。


「地下水路みたいな場所なら、浄化用の香草もあったほうがいいですよ」


イリスが追加する。


「それなら、保存食も補充しないとね!」


ミュゼは自分用の小さな袋を持ち、店内を見回していた。


「ミュゼ、甘いものは薬屋にはない」


「分かってるよ。今は我慢してる」


「えらい」


「褒められた!」


なぜか、ミュゼは嬉しそうだった。


その横で、レイフィアは棚に並んだ小瓶を静かに見ていた。


選んでいるのは、止血薬と解毒薬。

そして、少し高価な鎮痛薬だった。


「怪我をしてるのか?」


セレスが尋ねると、レイフィアは一瞬だけ動きを止めた。


「してないわ」


「鎮痛薬を買っている」


「念のためよ」


「念のためにしては、高い」


レイフィアは視線を逸らす。


「……あんた、余計なところまで見てるのね」


「見えているから」


「それが余計だって言ってるの」


少し強い声だった。


けれどセレスは気にした様子もなく、棚から同じ鎮痛薬を一本取った。


「なら、二本買えばいい」


「なんでよ」


「一人で無理をして倒れられると困る」


「……私は倒れない」


「倒れる人は、だいたいそう言う」


ガロンが小さく吹き出した。


「それ、妙に説得力あるな」


「ガロンも思い当たる節があるんですね」


イリスが言う。


「ないぞ」


「あります」


「即答するなよ」


レイフィアはしばらく黙っていたが、最後には小さく笑った。


「……分かったわ。一本だけ、余分に持っておく」


「それでいい」


買い物を終え、次に向かったのは防具屋だった。


店内には革鎧や手袋、外套が並んでいる。


「セレス、この外套はどう?」


ミュゼが差し出したのは、黒と白を基調にした、少し丈の短い旅用の外套だった。


「今の服にも合いそうだよ」


セレスは受け取り、鏡の前で羽織ってみる。


肩から背中にかけては動きやすく、腰のあたりで軽く絞られている。


防御用の薄い革が縫い込まれているため、見た目よりも丈夫そうだった。


「似合いますね」


イリスが素直に言った。


「銀髪がよく映えます」


「本当だ。なんか、急に有名な冒険者っぽい!」


「有名な冒険者ではない」


「地下水路を片付けた無色の銅ランクだぞ。もう十分目立ってるだろ」


ガロンが言う。


セレスは鏡の中の自分を見る。


白銀の髪。

左右で色の違う瞳。

黒と白の外套。


手首の紋様は、銀の腕輪で隠れている。


少しだけ、いつもの自分とは違って見えた。


「……悪くない」


セレスがそう言うと、ミュゼが両手を上げた。


「決まり!」


「本人が決める前に決めないで」


「でも買うでしょ?」


「買う」


「やった!」


レイフィアは少し離れた場所から、その様子を見ていた。


「……本当に、変わったパーティーね」


「そうか?」


「普通は装備を選ぶだけで、こんな騒がしくならないわ」


「ミュゼがいるから」


「私のせい!?」


「否定できませんね」


「イリスまで!」


防具屋を出たころには、袋がいくつも増えていた。


最後にミュゼが向かった先は、当然のように菓子店だった。


「ここだよ!」


「結局、ここが本命だったんだな」


ガロンが呆れたように言う。


「違うよ。ここは作戦の最後にある、大事な補給地点」


「甘いものを食べるために、ずいぶん立派な言い方をする」


店内には、果実を使った焼き菓子や、蜂蜜をかけたパン、色鮮やかな小さな菓子が並んでいた。


ミュゼはすぐに目を輝かせる。


「これもおいしそう。こっちも……あっ、限定プリン!」


「本当にあった」


セレスが言う。


「だから言ったでしょ!」


ミュゼは勝ち誇ったように胸を張った。


「逃げる前に確保しないと」


「逃げない」


「今日は逃げないかもしれないけど、明日は分からないよ」


「プリンの話をしているのに、少しだけ冒険者っぽい」


イリスが笑う。


そのとき。


店の外から、悲鳴が聞こえた。


「きゃああっ!」


明るかった空気が、一瞬で変わる。


セレスは反射的に店の外へ飛び出した。


通りの先。


人だかりが逃げるように広がっている。


その中央で、一人の男が膝をついていた。


服はぼろぼろで、両腕を抱えて震えている。


「来るな……来るな!」


男の手首には、黒と赤の不気味な紋様が浮かんでいた。


それは、皮膚の上を這うように蠢いている。


次の瞬間。


男の腕から、黒い粘液が噴き出した。


粘液は地面へ広がり、まるで生き物のように周囲の石畳を這っていく。


「魔物……?」


ガロンが剣の柄へ手を伸ばす。


「違う」


セレスは低く言った。


左手首の下。


銀の腕輪が、かすかに熱を持つ。


その熱は、地下水路の奥で感じたものと同じだった。


「これは……紋様だ」


レイフィアの顔から、血の気が引く。


「まさか。あれが、街の中に……?」


苦しんでいた男が顔を上げた。


瞳は焦点が合っていない。


けれど、口だけが不自然に笑っていた。


「み、見つけた……」


男は、まっすぐにセレスを見た。


「本物……」


黒い粘液が、爆ぜるように膨れ上がる。


通りの人々が、さらに悲鳴を上げて逃げ出した。


セレスは前へ出る。


手首の紋様が、白銀の光を放ち始めていた。


「ミュゼ、避難誘導。イリスは周囲を見てくれ」


「うん!」


「分かりました!」


「ガロン、レイフィア」


セレスは二人を見る。


「止める」


「当然だ」


ガロンが大剣を抜く。


レイフィアも、腰の細剣に手をかけた。


「偽物がどういうものか、確かめる必要があるわね」


黒い粘液が、獣の形を取り始める。


その中心で、男の手首に刻まれた歪な紋様が脈打っていた。


白銀の光と、濁った黒赤の光。


二つの紋様が、通りの真ん中で向かい合う。


セレスは一歩、踏み出した。


今度はただの依頼ではない。


自分の力と同じものを、誰かが作ろうとしている。


その事実が、初めて目の前に現れた。


「……偽物なら、止める」


セレスの声は静かだった。


けれど、その瞳はもう迷っていなかった。

第二十二話を読んでいただき、ありがとうございます!


報酬の翌日は、装備の補充と甘いものの補給。

平和な買い物回……で終わるはずがありませんでした。


ミュゼが全力で狙っていた限定プリンは、無事に確保できるのか。

そして、セレスの紋様を模した「偽物」は何のために作られたのか。


次回は、街中で暴走した偽紋様との初戦闘です。


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