第十四話 女神、また来る
転生先では無色判定。
能力は測定不能。
なのに、女神からはなぜか追加で呼び出し。
――今さら何の用ですか?
セレスと、やらかし女神。
異世界での冒険の途中に挟まる、少し不穏でちょっと迷惑な会話回です。
その夜、宿の部屋で一人になったセレスは、疲れた体を寝台に横たえていた。
「……疲れた」
街道での一件から数日。パーティーはようやく一息つける休息期間に入っていた。
まぶたが重くなり、意識が少しずつ薄れていく。
――そして、次に目を開けた時。
セレスは、見覚えのある真っ白な空間に立っていた。
「え」
「あ、久しぶりですね!」
場違いなほど明るい声とともに、光り輝く空間の中心に、あの女神が姿を現した。
相変わらず神々しい空気を纏っているが、その表情はどこか気まずそうだった。
「あんた、まだ生きてたんだ」
「し、失礼な! 私は最初から生きてます! というか、死んでません!」
「そりゃそうか」
セレスは軽くあくびをしながら、周囲を見回した。
「ここ、夢?」
「はい。夢の中に少しだけお邪魔させていただいてます。実は、ちょっとご報告というか、訂正しておきたいことがありまして」
「訂正?」
女神は気まずそうに視線を泳がせながら、両手をもじもじと組み合わせた。
「以前、剣術の心得とか、体の動かし方とか、少し渡ってしまったかもって言いましたよね」
「言ってたな」
「あれ、実は『少し』どころじゃなくて、結構な量、渡っていたみたいでして……」
「……はあ?」
セレスは半眼になった。
あの初対面の日からずっと抱いていた予感が、ここに来て的中した形だった。
「詳しく言うと、颯くんが前世で――あ、颯くんっていうのは、あなたの元の名前ですね――前世で経験した、体の動かし方に関する記憶や感覚の断片が、かなりの部分、そのまま持ち越されてしまっていたようなんです」
「前世で剣術なんてやってなかったんだけど」
「その代わり、なんというか……格闘技や、スポーツの経験は?」
「まあ、ちょっとは」
「多分、それが土台になってると思われます。剣を握った経験自体はなくても、体を思い通りに動かす感覚――いわゆる運動神経というやつが、そっくりそのまま今の体に馴染んでしまったのではないかと」
女神は、おずおずとそう説明した。
セレスはしばらく黙り込み、それから深くため息をついた。
「……なるほどね。だから、あんな初見の相手にも対応できたわけか」
「はい。多分、そういうことだと……」
「あんた、本当にあの時、何を確認してたんだよ」
「……本当に、色々見過ぎてしまって……申し訳ございません」
女神はしゅんと肩を落とした。
神々しい見た目に反して、妙に人間くさい仕草だった。
「まあ、いいよ。おかげで無色扱いされても、それなりに戦えてるし」
「そう言っていただけると……!」
女神はぱっと表情を明るくすると、それから思い出したように付け加えた。
「あと、もう一つ。『借り物の力』についても、少しだけ分かってきたことがあります」
「へえ」
「あれは正確には、颯くんの前世の記憶や感覚の断片と、私が謝罪の証として込めた力が混ざり合って生まれた、いわば――」
「いわば?」
「私にも、まだよく分かってないんです」
「おい」
「す、すみません! ただ、一つだけ確かなのは、あの力は対象の『本質』を深く理解すればするほど、より強く継承できるということです。表面的な情報だけでは、部分的にしか力を引き出せません」
その言葉に、セレスは先日の戦闘を思い出した。
あの正体不明の男から力を継承できなかったのは、単に相性が悪かったのではなく、彼のことを何も知らなかったからなのかもしれない。
「なるほどね。理解、か」
「はい。仲間の皆さんのように、深く関わった相手であればあるほど、力も安定しやすいはずです」
「参考になった。ありがとう」
「い、いえいえ! こちらこそ、ずっと謝れずにいて、すみませんでした……!」
女神は深々と頭を下げると、それから光の粒子となって、少しずつ薄れ始めた。
「あ、それと、最後に一つだけ」
「ん?」
「颯くん――いえ、セレスさん。その体、今のあなたに似合ってると思いますよ。心から」
その言葉を最後に、女神の姿は完全に消えていった。
*
目を覚ますと、宿の窓から朝日が差し込んでいた。
「……夢、だったのか」
セレスは寝台から体を起こし、自分の手首の紋様に触れた。
まだ、微かに温かい。
(理解すればするほど、強く継承できる、か)
考えを巡らせながら、セレスはベッドから立ち上がった。
窓の外では、町の朝がいつも通り始まろうとしていた。
「――さて。今日は何から始めようか」
誰に言うでもなく呟いて、セレスは身支度を整え始めた。
あとがき
第十四話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに女神が再登場し、剣術の心得や身体の動かし方の謎にも、ひとまず説明がつきました。
そして、「理解すればするほど強く継承できる」という『借り物の力』の新たなルールも判明しました。
これから先、仲間との絆が深まるほど、セレスの力も強くなっていく――そんな展開を描いていければと思っています。
女神のポンコツっぷり、そして最後の一言に免じて、今回は許してあげてください(笑)。
次話からは、また新しい依頼と展開に進んでいきます!
★評価・ブックマーク、感想でのコメントがいつも励みになっています。ありがとうございます!




