第十三話 借り物と、借り物じゃないもの
借りられないなら、別のやり方を考えればいい。
セレスにとっては、それだけの話です。
借り物の力と、自分自身の判断で切り開く街道戦の続き。
全身に満ちる重い力を纏ったまま、セレスは地を蹴った。
「――ぐっ!」
振り下ろされた男の剣を、真正面から受け止める。
普段のセレスなら弾き飛ばされていたであろう一撃を、今度はしっかりと受け切っていた。
「……なんだと?」
男の顔に、初めて動揺の色が浮かんだ。
「言っただろ。今度はこっちの番だって」
セレスは力任せに剣を押し返すと、そのまま懐へ踏み込んだ。
ガロンの動きを借りているとはいえ、それをどう使うかは自分次第だ。
体重の乗せ方。踏み込みのタイミング。
借りた型に、自分自身の判断を重ねていく。
「――そこ」
鋭く踏み込み、男の脇腹へと剣を叩き込む。
確かな手応えがあった。
「がっ……!」
男が大きくよろめいた瞬間、横合いから飛び込んできたイリスの剣が、追い打ちをかけるように男の得物を弾き飛ばした。
「――終わりよ」
「くっ……」
武器を失った男は、じりじりと後退する。
周囲を見渡せば、部下たちもすでにガロンとミュゼによって制圧されていた。
「……今日のところは、退かせてもらう」
男はそう吐き捨てると、煙玉のようなものを地面に叩きつけた。
白煙が視界を覆い、その中で逃走を図る気配がする。
「――逃がすかよ!」
ガロンが追おうとする。
だが、煙が晴れた頃には、男の姿はすでになかった。
「……逃げられたか」
「ええ。悔しいけど、今日は仕方ないわ」
イリスは剣を鞘に収めながら、苦い顔をする。
「大丈夫です! 御者さんを保護しました!」
ミュゼの声に、四人は荷馬車の方へと視線を向けた。
怪我を負った御者は、ミュゼの応急処置によって、ひとまず命に別状はなさそうだった。
「あ、ありがとうございます……! 皆さんのおかげで、助かりました」
「無事で良かった。町まで送るから、動けそうか?」
ガロンが優しく声をかける。
御者は涙ぐみながら、何度も頭を下げた。
町への帰り道、セレスは自分の右腕へ視線を落としていた。
ガロンから借りた力は、すでに元の感覚へ戻っている。
だが、あの戦闘の中で得た手応えは、まだ鮮明に残っていた。
「――さっきのあれ、なかなか良い判断だったわね」
隣を歩くイリスが、珍しく素直にそう言った。
「借りられないなら、借りられるものを探す。悪くない発想よ」
「褒めてる?」
「褒めてるのよ。ちゃんと」
セレスは小さく笑うと、視線を空へ向けた。
「あの男、何者だったんだろうな」
「分からないわ。でも、あの紋様……最近、あちこちで似たような報告を聞くようになってきてる」
イリスの声には、いつになく真剣な響きがあった。
「何か知ってるのか?」
「まだ確証はないの。ただ――」
彼女はそこで一度言葉を切る。
少し逡巡するような間を置いてから、静かに続けた。
「もしかしたら、私が昔から追ってる相手と繋がりがあるかもしれない」
その言葉には、これまでのイリスからは感じたことのない重みがあった。
セレスは何も言わず、ただ静かに耳を傾ける。
「――いつか、ちゃんと話すわ。今は、まだ」
「うん。急がないよ」
あっさりと答えるセレスに、イリスは少し驚いたような顔をした。
それから、小さく笑う。
「そういうところ、あんたは本当に変わってるわね」
「褒めてる?」
「さあ、どうかしら」
同じやり取りを、また一つ重ねながら。
二人は仲間たちの後を追って、歩き出した。
街道に落ちていた小さな謎は、まだ何一つ解けていない。
それでもパーティーは確かに、また一歩、前へと進んでいた。
第十三話をお読みいただき、ありがとうございます!
街道事件編は、ひとまず今回で決着です。
ガロンから借りた力を、ただ使うだけではなく、自分自身の判断で活かしていく。そんなセレスの成長を感じていただけていたら嬉しいです。
そして、ついにイリスが自分の過去について少しだけ触れました。
彼女が「昔から追っている相手」とは何者なのか。今回現れた賞金首の男や、謎の紋様ともどんな関係があるのか。今後、イリスの背景も本格的に掘り下げていく予定です。
賞金首の男は逃してしまいましたが、彼もまた後々の物語に関わってきます。ぜひ覚えておいていただけると嬉しいです。
★評価、ブックマーク、感想でのコメントは、いつも大きな励みになっています!
次話もよろしくお願いいたします!




