第十二話 街道の影
借り物の力は、便利です。
……ちゃんと借りられれば、ですが。
街道での遭遇戦。
セレスの力に、少し想定外が起こります。
木々の合間から響いてくる争いの気配に、四人は身を低くしながら近づいていった。
「――あれは」
視界が開けると、そこには横転した荷馬車と、地面に倒れ伏す御者らしき人影があった。周囲を取り囲むのは、統率された動きを見せる黒ずくめの一団だった。
「盗賊にしちゃ、動きが良すぎるな」
ガロンが低く呟く。イリスも眉をひそめた。
「あの連携、ただの野盗じゃないわね。装備も統一されてる」
「御者、まだ息があります!」
ミュゼが物陰から様子を窺いながら、小声で報告する。荷馬車の陰に隠れているのだろう、御者らしき男が辛うじて身を潜めているのが見えた。
「助けに行くぞ。ミュゼ、援護を頼む」
「はい!」
ガロンが真っ先に飛び出し、黒ずくめの一団の意識を引きつける。大剣の一撃が、先頭の一人を弾き飛ばした。
「な――何者だ!」
「通りすがりの冒険者だ! 悪いが、退いてもらう!」
ガロンが吠えると同時に、イリスも動いた。流れるような剣捌きで、二人、三人と黒ずくめを斬り伏せていく。
「セレス、右手側!」
「了解」
セレスは呼びかけに応じ、側面から回り込む一団へと切り込んだ。
数の上では明らかに劣勢だが、四人の連携は以前よりも格段に噛み合っていた。
だが、戦況は思っていたよりも早く変化した。
「……くっ、思ったより手強い」
黒ずくめの一団の中から、一人の男が進み出てきた。
他の者たちとは明らかに纏う空気が違う。手にした剣には、禍々しい紋様が刻まれていた。
「盗賊団の頭目、ってやつか」
「いや――」
イリスが剣を構えたまま、表情を険しくする。
「あの紋様、見覚えがある。ただの盗賊じゃない。裏で組織立って動いてる、賞金首の一味よ」
「物騒な話だな」
セレスが軽口を叩く間にも、男は不敵な笑みを浮かべていた。
「へえ、金ランクのお嬢さんまでいるとはね。今日はついてるようだ」
「あんたたちの狙いは?」
「さあ、それはご想像にお任せするよ」
男が剣を一閃させると、周囲の空気が一変した。
黒ずくめの一団が、統率の取れた動きで一斉に距離を詰めてくる。
「――囲まれるぞ!」
「散開! 各自、自分の分は自分で対処して!」
イリスの号令で、四人はそれぞれ別方向へと展開した。
ミュゼが後方から支援と回復を交互に回し、ガロンとイリスが前線で敵を押し返す。セレスは、頭目と思しき男の動きを注意深く観察していた。
(あの剣、普通じゃない)
男の一撃を受け止めた瞬間、セレスの手首の紋様が、これまでとは違う反応を示した。
【対象:??? 特性を検出――継承失敗】
「――は?」
初めての結果に、セレスは思わず動きを止めた。
継承できない相手。この力が発動してから初めての事態だった。
「どうした、無色のお嬢さん」
男が嘲るように笑いながら、追撃の剣を振るう。
セレスは咄嗟に身を捻ってそれをかわしたが、体勢が崩れた。
「――っ」
「セレス!」
イリスが叫ぶ。だが、敵を相手にしている今、すぐに助けに来られる状況ではない。
(あの男自身からは借りられない。だったら――)
セレスは咄嗟に、これまで継承してきた力の在庫を頭の中で洗い直した。
目の前の敵を直接読み取れないなら、今この場にある別の「型」で応じるしかない。
真正面から力をぶつけて崩す――そういう戦い方をする人間なら、心当たりが一人いる。
「――悪いね、ちょっと借りるよ」
紋様に意識を集中させる。
狙うのは男ではなく、離れた場所で大剣を振るうガロンの動き――一撃一撃に体重を乗せ切る、力任せの正面突破。
【対象:ガロン(継承済み特性を参照) 特性を検出――部分継承を実行】
全身に、これまでにない重みのある力が満ちていく。
「――今度はこっちの番だ」
セレスは低く姿勢を落とすと、地を蹴って男へと突進した。
第十二話をお読みいただき、ありがとうございます!
初めて「継承失敗」という結果が出ました。
万能に見えた「借り物の力」にも、ちゃんと限界があるらしい……ということで、今回は仲間から借りるという新しい使い方を見せてみました。
謎の賞金首の男、そして裏で動いていそうな組織の存在。物語のスケールが少しずつ広がっていく予感がします。
次話で決着をつけていきますので、お楽しみに!
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