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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第百四話 繋いだ先にあるもの

セレスが、根を辿ることに挑みます。

 羽の調査結果を聞いた、数日後。


 傷はとうに塞がり、疲労も抜けている。セレスは、宿の裏庭で、アルトと向き合っていた。


「――万全か」


「ああ」


「なら、やるか」


 アルトは、静かに頷いた。


「言っておくが、俺にも、上手くいく保証はできない。何かおかしいと思ったら、すぐに戻ってこい」


「分かってる」


 セレスは、地面に座り、目を閉じた。


 手首の紋様に、意識を集める。


 脈打つ感覚。リンのものと同じ、あの拍動。


 これまでは、繋がりを感じて、呼びかけてみる。それが精一杯だった。だが今は、その先――繋がりの根そのものを、遡ろうとしている。


(――繋がってる場所を、遡る)


 紋様の熱が、指先から腕へ、腕から胸の奥へと広がっていく。


 景色が、滲むように歪んだ。


 ◇


 最初に来たのは、暗さだった。


 石壁に囲まれた、狭い部屋。


 冷たい床。


 その中心に、膝を抱えて座る誰かの輪郭が見えた。


(――リン)


 背筋が、伸びていた。目も閉じていない。泣いてもいなかった。


 静かだ。ひどく静かで、それが、かえって怖かった。


 声をかけようとした。だが、届かない。ただ、繋がりを通して、何かが流れ込んでくる。


 ――寒い。


 ――怖い。


 ――誰か。


 リンの顔は、少しも動いていない。なのに、この三つだけが、悲鳴のように、セレスの中で鳴り続けていた。


 息が、詰まった。


 これは、自分の感情ではない。だが、区別がつかないほど、生々しく響いてくる。


 次の瞬間、鈍く重いものが、胸を貫いた。


 痛みではなかった。だが、痛みよりも、ずっと重かった。


 誰かに拒絶される恐怖。


 自分を作った者への、割り切れない未練。


 そして、その全部を、口に出さないと決めた、固い沈黙。


(――これが、リンが、抱えてるものの、重さ)


 セレスは、意識が押し流されそうになるのを、必死に堪えた。


 その時、遠くで、鐘が一度だけ鳴った。低く、割れた音だった。


 ◇


「――セレス!」


 アルトの声で、目を開けた。


 全身から、汗が噴き出していた。呼吸が、荒い。


「――どれくらい、経った」


「数十秒だ。だが、お前、顔面蒼白だぞ」


 セレスは、震える手を見つめた。


「見えた。石壁の部屋に、リンがいた」


「場所は」


「分からない。景色までは、辿れなかった。ただ、鐘が一度だけ鳴った。低くて、割れた音だ」


「鐘、か。覚えておく」


 セレスは、拳を握った。開こうとしたが、指先が、まだ小さく震えていた。


「――でも、感じた。リンが、何を抱えてるか」


「それは」


「あいつは、背筋を伸ばして、平気な顔で座ってた。なのに、中は悲鳴だらけだった。それを全部、外に出さないって決めてる」


 アルトは、腕を組んだ。


「――繋がりを辿るほど、向こうの感情まで流れ込んでくる、ってことか」


「たぶん、そうだ」


 セレスは、額の汗を拭った。


「深く知ろうとするほど、リンの痛みや恐怖が、そのまま俺に来る。今のは、ほんの入り口だ」


「本格的に辿ったら」


「もっと、重い。想像はつく」


 アルトは、しばらく黙っていた。


「――代償、ってやつだな」


「みたいだ」


 セレスは、地面に手をついて、立ち上がった。足元が、まだ少しふらついている。


「それでも、辿る価値はある。今ので、少なくとも、あの状態のリンが、まだ折れてないことは分かった」


「無理をするな。今度倒れたら、リンを助ける前に、お前が使い物にならなくなる」


「分かってる」


 セレスは、夕暮れの空を見上げた。


「だが、次は、もう少し先まで見る。何度もやれば、いつか場所まで辿り着けるはずだ」


 アルトは、その横顔をしばらく見つめてから、小さく息をついた。


「――付き合う。ただし、無茶をする時は、必ず俺か、他の誰かがいる時にしろ」


「約束する」


 セレスは、震えの残る手を、強く握りしめた。


 繋がりの先にあるものは、遠く、そして重い。だが、確かに、そこにリンがいる。


 それだけで、前へ進む理由には、十分だった。


第百四話「繋いだ先にあるもの」をお読みいただき、ありがとうございます。


 セレスの能力の重要な一面――理解しようとするほど、相手の痛みが流れ込んでくる、という代償を、正面から描いた回です。無双するための力ではなく、繋がるための力だからこその重さを、これからも大事にしていきたいです。


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