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いよいよ教習の始まりですか?


 団体様でのご入校から更に十日が経過した。


 その間に急ピッチで三人の教習スケジュールを組んだり、学校の掃除をしたり、あちこちを修理したりとできる限り失礼と粗相のないような学校設備を整えた。いや、普段からこうしとけよ。


 お偉いさんがくるからって張り切っちゃって。


 しかしそのくらいしなければならない相手というのも事実か。


 件の三人からはなるべく同時期に教習を進めたいと言う事と、基本的に担当の指導員を俺に指定したいとの二つの要望があった。

 

 後者はなんの問題もなく俺に収まったが、前者は少し手間がかかる。一段階の前半の教習は全てマンツーマンで行うのが基本だ。如何に身分の高い方とはいえども、このルールを変えることはできない。というか、その王宮が定めた法律だし。


 なので第一段階の始めに関しては二時間毎にズラして教習を行うということで話がまとまった。しかもこの教習方法なら三人の来校時間もバラバラにできるので初日のような大混雑も自然と解消できたのだ。


 そして。


 今日がとうとう三人の初教習となる。


 日に同じ項目の教習が連続するから混乱したり、話を省いたりしないようにしないように気を付けないと。


 社長を始め、上司先輩方にはくれぐれも粗相のないようにと釘を刺されている。とりあえず所内の練習用のフィールドに降りて、適性検査の結果をもう一度眺めるなりして手持ち無沙汰じゃないアピールでもしておこう。長年の癖ですっかりとやってる感を出すことに慣れてしまっている。


 まずはリーヴェの原簿から。


 適性検査の結果、彼女はもらい事故傾向タイプのようだ。安全意識が高くて魔法を扱うに際して自分から失敗をすることは少ないが、精密操作、複雑操作、早急操作などが求められる場面では、その慎重さが災いし判断が遅れてパーティの流れを乱したり、図らずも邪魔をしてしまうという傾向が強い。


 とは言え、慎重なことは決して悪いことじゃない。初めのうちはもたつきも多かろうが、経験を積めば安全な魔法行使ができる魔導者になるだろう。


 しかし参ったな。短くはない勤務年数とは言え、俺はベテランの領域とはほど遠い。こんなお偉いさん方に指導した経験も、顔見知りに指導した経験もないから普段との違いに上手く対応できるか不安だ。


 ただでさえ女の子の教習は苦手だってのに…ダメだ。何をどう考えても会話が弾み、有意義な教習をしているヴィジョンが見えない。


 何て事を考えていると予鈴がなり、ぞろぞろと教習生たちがフィールドに降りてきた。


 みんないつもと違って緊張した面持ちなのはきっとリーヴェの影響だろう。俺だって同じ教習所に一国のお姫様がいたとしたら確実に緊張して教習どころじゃなくなる自信がある。てか、今でも緊張している。


 そして、いよいよその時が訪れる。


 リーヴェが高貴な雰囲気を醸し出しながら、俺の元にやってきたのだ。先日のドレス姿とは打って変わって、髪をくくり、動きやすい安い冒険者用の装備を整えてくれている。それでも随所に高級感がある。多分、靴の片方だけでも俺の一月分の給料くらいあるんじゃないの?


にしても…ただ歩いてこっちに来ているだけだというのにどうしてこうも絵になるのか、不思議で仕方ない。


「お早うございます。レギオン先生」

「せ、先生?」


 と、俺は何故だか当たり前の呼ばれ方で動揺してしまった。そうしたところリーヴェは口許を押さえ、くすくす微かに笑う。


「先生呼びはおかしいですか?」

「いや、すまない」

「ふふ。それでは今日からよろしくお願い致します」

「こちらこそ」


 落ち着け、俺。普段通りに仕事をこなせばいいだけじゃないか。


 そう自分に言い聞かせて、俺は彼女に教習を開始した。


 ◇


 魔法を扱うには「魔道具」と呼ばれるアイテムが必要不可欠だ。


 この世界には多種多様な属性を持つエレメンタルが存在している。魔法を使うというのはそのエレメンタルの力を借りるということに他ならない。本来であれば意思の伝達ができない存在に対して指示を飛ばすことを可能とするのが魔道具という訳だね。


 そして魔道具と一口に言ってもその種類は多岐にわたる。


 杖、箒、帽子、書物、眼鏡なんかがよくあるイメージだろう。しかし昨今では剣士職でも魔法を使うことが当たり前だ。その為指輪みたいな装飾品や剣や盾などの武器そのものが魔道具の役割も兼ねることが多い。珍しいところでは魔性を帯びた動植物を魔道具にする人もいる。


 そういった場合、その動物の事を「使い魔」って呼んだりもするんだけど、かなりのレアケースだ。ま、雑学として知っておいてほしいといったレベルの話かな。


 では本題だ。MTの場合、その魔道具を触媒にして呪文を唱え、魔法を発動させるというプロセスを踏む。呪文がエレメンタル達に対しての指令の役割を果たすことになる訳だ。当然、呪文を知らなければ魔法を使うことができず、そういった意味では結構不便だったりする。


 反対にATになると呪文の果たす指示作業を魔道具が自動でやってくれる。だから術者は呪文を唱える必要がなくなり、単純に魔法を扱うことが遥かに容易かつ簡単なものになる。


 近年では呪文詠唱の隙を失くせたり、詠唱によって敵に気配を悟られないという観点からATの需要が増している。尤も、呪文を覚えなくても魔法が使えるというのが人気の最たる理由な訳だけど。

 

 しかしながら、同じ魔法を使っても基礎出力や精密さが高いのはMTの魔法だ。だからより高位のパーティや職業を目指す者はMT免許は取得必須の資格になったりする。あとは呪文を唱えた方が魔法使いっぽいという理由で取る場合や、男だったらMT免許を持っておくべきという考えも少数ながら存在している。


 リーヴェの立場を思えば一つの一般教養や最低限の資格として取得を考えたというところか? けれど、一般人でもATで事足りるのだ。お城暮らしのお姫様なら尚更じゃないだろうか。少し気になってトークのジャブとして尋ねてみた。


「え? だってMTの方が授業数が多いのですよね?」

「そうだけど?」

「ではその分、レギオン様と一緒にいる時間が増えるではないですか」

「…」


 何だろう。今、開けてはいけない扉のドアノブに手を置いてしまったような、そんな雰囲気を感じ取った。


 つまりはこれ以上触れるのはよろしくないということだ。


 俺は話を逸らす意味も込めて次の段階に入ることにした。


「ええと…今説明した通り、魔法を扱うには魔道具が必要になる。当然、軒並み高価な物だから基本的には教習所の備品を使うのだけれど……事前アンケートによれば自前の持ち込みがあるとか?」

「はい。こちらでございます」


 リーヴェは言いながら二振りの短剣を差し出してきた。


読んで頂きありがとうございます。


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