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魔導者学校の説明をしてもいいですか?

 さて、お三方の入校手続きも終えた。

 

 いつも小言と嫌みの一つでも飛ばしてくるお局事務員のイカロックさんも未だかつて見たことがないくらいに緊張していたのは少し笑えた。まあ、相手が相手だしな。


 正式に校長の許可が下りると、続いて俺は入校式と適性検査をする流れとなる。俺は支度の為に一旦席を外した。


 イカロックさん曰く彼女らの他にも入校希望の生徒が三人ほどいるので合わせて六人で入校式をすることとなった。


 続いては入校式と学科教習の一番の受講……まずはここから始めてもらう決まりになっている。


「これは貴族平民の身分を問わず一律で受ける事になってます。国が定めた規則ですので」


 フランクに接せよという命令があったものの、答える声も言葉も硬くなる。頭で理解してても相手が相手だからな。失礼のないようにと心の奥で警戒の鐘が鳴っている。


「それと他にも入校希望者がいた場合は、恐れ入りますが同じ部屋で受講することになっているので。不正防止の観点からもご理解ください」

「構いません。原則として皆さんのルールに従います」

「私もです」

「もち、オレも!」


 柔らかい反応に肩の力が抜けそうになる。ありがたいお言葉を受け取り、待合室にいた一般の入校生を引き連れて教室に案内した。


 にしても…この時期に新しく入校する生徒がこんなに少なくて大丈夫か、この学校。


 いや、こんな辺鄙なところにあることを考えればむしろ多い方なのかな? そう思ってしまうくらい立地や交通の弁は悪いし、他にも魅力的な要素のある魔導者学校は数多くある。そんな観点から言ってもこれほどの要人に教習ができるか不安が募った。


 合わせて六人の生徒たちを引き連れ教室に移動すると、適当に間隔を空けて座らせた。


 当然ながら他の三人はVIPを前にしてガチガチに緊張している。粗相や無礼があればすぐに騎士団やらが飛んでくる状況だからな。無理もない。椅子に腰を下ろす動作一つにもぎこちなさが滲み出ている。


 しかし、これもめぐり合わせ。今から二時間弱は我慢してもらう他ない。


 それを見届けてから一礼をすると六人はそれに倣って頭を下げる。さすがに格式ある家の教育は徹底している。


「……それでは入校式を始めます。よろしくお願いいたします」


 背筋を伸ばして一礼を深くしてから営業用の笑顔を作る。ぎこちなくても笑顔は大事、営業スマイルは教官の武器だ。


「まずは、数ある魔導者学校の中から当校を選んでいただき感謝いたします。これから魔法免許を取得するまでの流れを、簡単にご説明します。お手元の資料をご覧ください」


 六人の視線が紙に落ちる。ぱらぱらと紙をめくる音が一斉に響くと思いのほか緊張感を誘う。


「最初に受けていただくのは『適性検査』です。簡単なペーパーテストによって、皆さまの魔法適性を確認いたします」

「適性とは?」

「得意とする魔法の属性や魔法行使の速さ、正確さ、癖など――ご自身では気づきにくい傾向を把握するためのものです。その結果をもとに、私ども指導員が安全に指導できるよう調整します」

「なるほど…承知しました」

「ありがとうございます。次に受けていただくのが『先行学科一番』。免許を取るに当たって魔導者としての責任や規律、酒気帯び魔導の禁止、魔法令の遵守など基本的な心得を学んでいただきます」

「それは聞くまでもなく当然のことではありませんか?」

「はい。しかし残念ながら、その当たり前を知らない方や守れない方も少なくないのです」


 そう言うと俺は咳ばらいを一つ挟んだ。もう何十回と繰り返してきた説明なのに、やたらと喉が渇くのは緊張の表れか。


 意識して声を張り、説明を重ねていく。


「そして――この二つを終えた後、いよいよ本格的な教習に入ります」


 俺は説明用の資料を魔法を使って空中に投影して見せた。淡い光に照らされた図面に、生徒たちは机上の資料と見比べて俺の説明を聞いてくれる。


「現代の魔導者学校では、教習を『第一段階』と『第二段階』に分けております。第一段階では所内で学科と技能の教習を。第二段階では外へ出て、実際のフィールドやダンジョンで教習を行います」

「実際のダンジョン……」


 その一言に六人の息を呑む気配が伝わって来た。親や学校で耳にタコができるほど「ダンジョンや魔物に不用意に近づくな」と叩き込まれている年代だ。だが同時に恐怖と同じくらい好奇心も膨らんでいるようだった。


 上級の三人の方は…よく分からん。どんな教育を受けて、どんな価値観を持っているのか。ド庶民の俺には想像する事すら烏滸がましい。それでも少しの油断で命を落としかねない危険な場所であることくらいは知っているはずだ。


「ただし! そのためには、第一段階を修了し『仮免許』を取得していただかなければなりません」


 映写した資料を指し示しながら一つずつ丁寧に説明する。


 技能教習はMTで十五時間、ATで十二時間を基本とすること。


 学科は十科目あり、今日の一番を含め残りは九つであること。


 途中で模擬試験『仮効果測定』があること。


 この辺りが大雑把でも頭に入れておいてもらいたい内容となる。


「そして、すべてを終えた上で『みきわめ』を受け、良好と認められれば――『終了検定』を経て仮免許を交付いたします。ここまででご質問はございますか?」

「ありません」

「分かりやすい説明でした」

「問題なし!」


 と、念のため尋ねた定型文にすら佇まいのある返事と、


「……僕も」

「私も……」

「オレもです」


 という遠慮しがちな声が返ってくる。


「では…ここまでが第一段階の簡単な説明です。第二段階に上がってからの話ですが、それは仮免許を取得してその段階になったら改めて説明の場を設けますね」


 説明は流れるように続く。とはいえ今日初めて来たばかりの子に、これ以上詰め込んでも覚えきれるはずがない。俺だって最初は頭から煙が出そうだったんだ。


 と勿体ぶったが基本的には同じだ。教習が校内か校外の違いくらいしかない。


 既定の時間、教習をして最後にみきわめを行って、それに合格できれば『卒業検定』の受験資格を得ることができる。その卒業検定に合格すれば、晴れて魔導者学校は卒業だ。


 後は有効期限内に自分のタイミングで魔導者免許ギルドに出向き本免許試験という名のペーパーテストを受ける。それにも合格すると一人前の魔導者として免許が交付される。


「では…以上で入校式を終わります。この後、すぐに適性検査に移ります。記入用紙と筆記用具を配りますので、どうぞ楽にしてお待ちください」


 言葉を結び、一例にて締めくくる。


 ここまでしたらあと一息だ。無心になって適性検査まで終わらせてしまえ!

読んで頂きありがとうございます。


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