先生を除いての教習ですか?
管理されているとは言えども洞窟の奥へ進むごとに、光が奪われていく。
それに反比例するように三人の不安感が高まっていくのを感じる。この初々しい緊張感は嫌いじゃない。
岩壁は武骨な尖り方をしてこの先に進もうとする意志を削ってくるかのようだ。埃も出ないほどの奥に来ると、皮の装備の匂いが鼻につくほどに空気が澄んでくるのがわかった。
三人は縦一列に並び、リーヴェを先頭に慎重に進んでいった。
俺とモマさんはパーティの真ん中に位置取り、口を挟まずにその様子を見守っている……いるように見せかけてこれでもかと神経を張り巡らせていた。不意なトラブルにいつでも対処できるようにするためだ。
ああは言ったが、やはり傷一つでも負わせるわけにはいかないからな。
しかしリーヴェの用心深さは中々に良い。教本通りに基本を実践している。適性検査で出た結果通り、安全意識はトップクラスで高いようだ。
洞窟の地形、壁の擦れ、湿度の差などなど。その一つひとつに意味を見出していく。そしてL字型の曲がり角に来た時に一度立ち止まった。
「…この先に誰かいるかもしれません」
「え? そんなこと、分かるの?」
「見てください、カリアトス。ここの壁が不自然に濡れているでしょう?」
「ホントだ」
「察するに体を密着させながら、先の様子を伺ったんだと思います。その時に汗か何かが付いたのでしょうね。乾ききっていないという事は、近くにいる可能性が高いです」
リーヴェの言葉に、カリアトスが感心したように小さく息を漏らした。
「すごいよ、リーヴェ。探偵みたい」
その賛辞にリーヴェは「ふふふ」と少し得意げに笑う。
この空気の張りつめ具合でも余裕を崩さない胆力。やはり大物だ。
続いて、通路の天井を這ってついてきていたカパタピが声を掛けてきた。
「それと姫さん。後ろからも誰か来てる。五人組だからオレ様たちと同じ教習生グループかもな」
「おや? どうして分かるんです?」
「道中に糸を仕掛けてたからね。おっかなびっくり進んでるし、蜘蛛の糸を馬鹿みたいに千切ってる。素人も素人の歩き方だよ」
…ふむ。奇跡的に先行探知と後方確認ができる組み合わせになったな。やはり運ももっているらしい。
さて後ろにパーティがいるとなると、意味もなく急ぎたくなるのが人情だ。
別に追い抜かされても構いはしないのに、競争意識や対抗心が刺激される。ここで焦ると事故のリスクが増えるが、果たしてどう動くかな?
「とりあえず進みましょう。前は私が責任を持って確認するので、カパタピは引き続き後方へ注意を。ノワールは一定の間隔で光を点滅させてください。前方に私たちがいるというアピールはしておきましょう」
「分かりました」
やはり基本に忠実だな。役割分担もしっかりこなせているし、三人と一匹の信頼が出来上がっているから話もスムーズにまとまる。
かなり理想的にも思える。
リーヴェ達は慎重ながらも確実に歩を進めていく。するとこれまでの通路とは異なり、少々ゆとりのある空間に差し掛かった。
「ねえ…何だか音がしない?」
いち早く前方の様子に気が付いたのはカリアトスだった。リーヴェが魔法や知識を活用する探知が得意なのに対して、彼女は五感に頼った情報収集が上手いらしい。これは俺と同じタイプだな。
確かに武器や魔法を使う気配やほのかな光、掛け声が聞こえてくる。十中八九、戦闘が起こっている。
「戦っていますね…ノワールは信号を切り替えて後方に伝えて。一分もやれば十分です」
「承知しました」
「その間に何と戦っているかくらいは確かめたいですが…」
「ちょっと待って」
するとカリアトスが一歩前に出て耳を澄ませた。
おいおい。まさか戦闘音だけで魔物を特定するつもりか? できなくはないが、中々難しいぞ。
俺の見立てではサンド・リザードと言う魔物だが…。
「…多分、サンド・リザードだと思う」
「どうしてそう思うのですか?」
「ゴリゴリって岩が擦れる音が聞こえる。サンド・リザードはそうやって岩を細かくして砂地みたいにする、そして動きにくくなった獲物を狙う習性があるんだ。何回か討伐に連れて行ってもらったことがあるから覚えてる。それにトカゲ型モンスター特有の生臭い匂いもするし。間違いないと思う」
…下手な冒険者よりも素晴らしい分析だな。
そうか、トゥールビヨンの冒険者に囲まれて暮らしていたら、討伐後とは言え本物の魔物と接する機会が多くなるのは道理。色々な冒険譚や討伐話を聞くことも多かろう。
治癒の加護持ちなら、万が一の回復要因として現場に連れて行ってもらう事も沢山あるはずだしな。
リーヴェとノワールとはまた毛色が違うとはいえ、彼女もまた一流の冒険者たちに囲まれて育っているのだ。これはカリアトスにしか出せない強みだ。
案の定、すぐさま弱点や攻略方法も思いついたようだった。
「どうすれば対処できるのですか?」
「砂に潜ったり、洞窟にいることが多いから強い光に弱いらしい。それと足場を水浸しにするもの有効だって。砂地は得意だけど泥とかぬかるみは得意じゃないって聞いたよ」
「分かりました…レギオン先生」
「どうした?」
「前のパーティへの加勢を考えています。が、実践は初めてなので万全を期すために確認だけご許可を。今までの行動と対策案とで何か問題や不備はありますでしょうか?」
意固地にならず、ルールを少し破るが安全を第一に考えて俺に尋ねる、か。
どうしよう。満点の行動過ぎて何も言う事がない。
ならば素直に褒めるのが指導員と言うものだ。
「全く問題ない。できる限りやってみるといい。勿論、危なくなったらすぐに助けに入るよ」
「了解しました!」
三人はすぐさま戦闘用の雰囲気に切り替える。
俺もモマさんと短く目配せをした後に彼女たちに続いた。
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