懐かしい人たちとの再会ですか?
朝礼が終わり、皆が最初の教習の用意をしていた頃。外がやけに騒がしいことに気がついた。何事かと思って外の様子を伺ってみると皆が言葉を失った。
人、人、人、人、人。
人だかりなんて言葉では言い表せないくらいの人だかりができていた。社長に至っては何かの罪を犯した犯罪者のようにガタガタと震えている始末だ。
校舎を構える地区はどちらかというと庶民の生活区域になっている場所だ。いわゆる下町なので道は細く、家と家の隙間も少ないくらいなのだ。そんな場所が人でごったがいしていた。アイドルのコンサートかフェスがあると言われても信じてしまうくらいの人数が集まっているし、馬や翼竜も見受けられた。しかも見た限りそれは普通の町民ではない。
それぞれが簡易的だが武装し、警備を思わせる動きをしていたからだ。そしてその服装と装飾品に刻まれたシンボルから彼らの正体は簡単に割り出せた。
修道院兵団、王宮騎士団、そしてかつて俺がパーティを組んで所属していたギルド『トゥールビヨン』の面々だった。その正体に気がつくと、俺の中に嫌な予感が芽生えた。だって全部、俺と縁も所縁のある団体ばっかりじゃないか!
やがて営業開始の時刻となる。すると外の一団にも動きがあった。
ガチャっと扉が開き、厳かな雰囲気を身に纏った各組織の代表数名が中に入ってくる。その挙動や立ち振舞いから相当な使い手であることは分かった。
するとすぐにプロスブ社長がへこへことした動きで近づいた。
「ええと、騎士団と修道院とギルド・トゥールビヨンの関係者とお見受けしましたが…」
「左様だ」
「ど、ど、どう言ったご用件で?」
「用件? ここは魔導者学校だろう?」
「え? あ、はい」
「免許を取りに来たに決まっているではないか」
「へ?」
聞き耳を立てていた職員一同が拍子抜けを食らった。いや、言うことは尤もなんだけど。なら外の仰々しい連中は何よ?
「ご、ご入校でございますか? ええと、お三方とも?」
そう尋ねると全員が頷いた。まさか本人たちではないだろうから、付き添いと言ったところか。それはプロスブ社長もわかっていたようで改めて聞いた。
「ど、ど、どなた様が?」
「暫し待て。その前に確認したいことがある」
「こちらもです」
「右に同じ…ところで、ここにレギオン・ランドロスという指導員がいるのは本当かな?」
その質問は全員の耳に届いていた。するとその場の視線を俺が独占してしまった。職員の動きに釣られ、騎士と兵団員とギルドの戦士の顔も俺の方に向いた。そしてその瞬間、俺は驚き、三人は顔を綻ばせた。
全員かつての職場で世話になった面々だったからだ。
一人目は修道院兵団時代に彼是と面倒見ていた後輩のテンポラ・リーソ・リューション。一兵卒だった頃とは違い、幾度と死線を潜り抜けた一丁前の男の顔になっているじゃないか。
二人目は騎士団時代に散々世話になった武芸指南役のメサク・ラフト氏。当時も相当に渋く厳格な人だったが、口ひげを生やしたことで歴戦の老騎士たる雰囲気がふんだんに醸し出されていた。
三人目はかつてのパーティの仲間であるグレーター・ゴイフ。巨漢としか言えぬスキンヘッドの男で見た目に違わず豪胆だ。しかしこのゴツさで随一の治癒魔法の使い手でもあり、俺たちの回復要員兼リーダーを務めていた男でもある。
互いが互いのことを認めると嬉しそうに声を出して近づいてきた。
「おお! ランドロス!」
「先輩、ご無沙汰しています!」
「久しぶりじゃねえか、レギオン。元気してたのか、この野郎!」
「や、やあ…どうも」
え? 何? どう言うこと? 何でここに?
俺がしどろもどろになりながらそう聞くと、全員が「はあ?」という表情になった。
「どうもこうも、お前が手紙を寄越したんだろ? 魔法免許を取りたい奴がいたらこの学校を使ってほしいって」
「え? ああ! それで?」
「自分で書いた手紙も忘れたか?」
「いや、そういう訳じゃなくてね」
まさか本当に来てくれるとは思いもしなかったもので。
なんてことを言うとグレーターが「がはは」と豪快に笑って俺の肩をばんばんと叩く。相変わらず気さくに接してくれているが、今の功績と知名度を思えばこんなフランクに話していい奴じゃない。
この間だってどこかのドラゴンを退治したとかで、パーティのみんながツァイトスタッド王国の英雄と紹介されている新聞記事を見たぞ。そのパーティのリーダーともあれば今やあらゆるクエストに引っ張りだこのはずだろうに。
「手紙をもらってすぐにウチのギルドの面々に声かけてよ、つってもほとんど全員が免許持ってたけど」
「そりゃそうだろ。冒険者ギルドに魔導者免許を持たないで入る方がおかしい」
「だからギルドの連中の子供らに声をかけておいた。みんな免許を取れる年齢になったらここを使うように言っといたからな」
「そ、それは助かる」
「けどせめて一人くらいは連れてこねえと思ってな、今日は俺の姪っこを連れてきたぜ。すぐに呼んでくる!」
と、本当に俺が在籍しているかどうか確かめたグレーターは外にその姪っことやらを呼びに行った。
…ん? グレーターの姪っこって確か天才治癒術師として今をときめくカリアトス・トームじゃなかったっけ? 以前、一緒に新聞に載っているのを見た気がする。そんな有名人がウチの学校に…。
そうして空いた俺の前を今度はテンポラが陣取り、俺の手を取って語りかけてきた。相変わらず熱い奴だな。
「お久しぶりです、先輩!」
「あ…ああ。元気そうで何よりだ」
「はい!」
「察するにお前も誰かを?」
「もちろんです。全員に確認したところ兵団もやはりほとんどが免許は持っておりましたので、ゴイフ殿と同じように兵団員の子供らへ通達をお願いしました」
「あ、ありがとう。けど全員に伝えるのは大変だったんじゃ?」
「なんてことありません、先輩から頂いた恩を思えば。それに…あれから僕も出世しまして今は兵団長を任せられておりますので」
「はえ!?」
へ、兵団長!?
簡単に言ってくれているが、とんでもないことだぞ。千人からいる組織の団長だなんて。いくら形骸化された訓練ばかりの団体とはいえ、彼らをまとめ上げるためには人望もさることながら自身の武術の腕前だって必要なはず。
修道院兵団に在籍中、幾度となく剣を教えてやった事はある。あの兵団にあってかなり剣技の素質を持っている奴だとは思っていたけど、まさかここまで伸し上がるとは。
「先輩から教えてもらった剣を忘れずに修練しておりました」
「そ、そっか」
「はい! それで方々に声をかけましたところ大司教補佐官であらせられるベンツォ様の妹君が是非こちらで学びたいと」
「大司教補佐官の妹!?」
ナイケヴィオス教は場合によっては一国家以上の権力を発揮する場合もある。その教団の長たる大司教の補佐官を勤めているということは、一国の大臣と同等のレベルの人だと思って差し支えない。
そんな方の妹が…っていうかその人ってノワール様じゃん!
信仰心と才能が評価され、ナイケヴィオス教の重大な儀礼祭の一つである復活祭の開催時、聖墓に入ることの許された数少ない神官。神官は現代において両の手で数えられる程しかいないと聞いたぞ。
パクパクと口を動かすことしかできない俺を置いてきぼりにして、テンポラは外で待っているであろう大司教補佐官の妹君、ノワール様を迎えに行った。
最後に重厚で厳かなオーラを欲しいままにするメサク殿が歩み寄ってきた。
「息災か?」
「え、ええ。お陰さまで」
「そうか。それは僥倖」
何かを言いたげな様子だったが、今それを言及できるはずもない。にしても相変わらず渋い人だ。最後にあった時からより熟練度が増したような気がする。
「メサク殿もどなたかを?」
「うむ。儂もせめてもの罪滅ぼしにあちこち声をかけた。丁度儂の同輩の孫世代がそろそろ免許を取ろうかという頃合いでな。ここを強く推薦しておいた」
「き、恐縮です」
「ただ…」
「ただ?」
「儂が急にこのようなことをして王宮内は少し話題になってな」
そりゃそうだ。メサク殿は王宮騎士団にこの人ありと言われるほどの生ける伝説だ。そんな人が一介の魔導者学校の宣伝をし始めたら良くも悪くも話題に上がって当然だろう。
「儂の予想以上に王宮内に噂が広まってしまった。そうしたところ…さるお方がどうしてもこの魔導者学校に通うと言ってきかなくてな」
「へ? さるお方とは?」
これほどまでの傑物が濁し、言い淀んでいる事に違和感を覚える。詳しく聞こうと思った矢先、答えの方からお越しあそばされた。
「私です」
大きくもないのに地の果てまで響く鐘のような声。姿を見ずとも高貴なオーラを感じ取った。思わず目をやれば、そこには絵画の中から現れたと言っても信じてしまうほどの美少女がいた。
身に纏っている衣からして庶民とは思えない。
俺だけでなく魔導者学校の全員が目を奪われていた。
そしてメサク殿がその美少女の名を口にする。
「紹介いたします。こちらのクオーツ魔導者学校への入校を強く希望されておられるのが、ツァイトスタッド王国の第二王女であらせられるリーヴェ・リオン様です」
「リーヴェです。皆様方、よろしくご指導ご鞭撻を賜りますように」
えぇぇ…うそぉ。




