いよいよ校外での教習ですか?
「じゃあ、実際のフィールドに出るに当たって大事なことを説明していこう。まず全員、魔道具を出して」
「はい」
「いざ戦闘となったとき、整備や手入れを怠っていて本領が発揮できないなんて事故はかなり多い。自分が被害を被るだけならまだしも他のメンバーや他人の財産を損壊してしまったりしたら目も当てられない。特に…ノワール」
「何でしょうか?」
「君の場合、使い魔のカパタピは意思の疎通ができるから不調や怪我なんかは分かりやすいとは思う」
「そうですわね」
「ったりめーよ」
お調子者のカパタピはノワールの肩の上で軽やかに踊って見せた。
なので俺は言葉の裏まできちんと説明をする。
「逆に言えば君に気を使ったり、慮ったりして虚偽の報告をする場合もある。道具でなく生き物である以上、リーヴェやカリアトスとは違った気遣いが求められることもあるから注意するように」
「分かりましたわ」
「カパタピ、君も無理はするなよ。出来ない事を出来ると言うのは不誠実だ」
「へいへい。心得てますよ」
「うん。二人の連携はこれまで見てきたから大丈夫だとは思うけど、それを言うのが俺の仕事なんでね」
そう言って話を一旦結ぶと魔道具のチェックをし始めた。日頃自分で行うのは当然として、こうしたパーティを組んでいる場合は他のメンバーに見てもらうと言うのも手だ。自分だけだとどうしても慣れや甘さが出てしまうからね。
やがて三人の魔道具の点検が終わると、俺はふと気になっていた事をモマさんに聞いた。
「ところで、モマさんの武器というか魔道具は?」
「これです」
モマさんは外套を翻して中を晒す。すると右の腰にぶらさがっているものがあった。
「…鞭?」
「はい。色々試しましたが、これほどしっくり来る武器は見つからなかったんです。似合いますか?」
「ええ、まあ」
良く見ると柄の部分に工匠が施したのであろう細工が見受けられる。貴金属や宝石類はマナ・オートマチックに必要不可欠。それもトレイリアンブル家の財力を鑑みると相当に高価な武器なのだろう。
俺は流れでパーティ全員の得物を確認する。
言わずもがな、俺は剣。
リーヴェは短刀。
カリアトスはメイス。
ノワールが例外としてモックス・モンスター。
そしてモマさんが鞭。
「…見事に近接武器しかないな」
「そこは魔法でカバーするのでは?」
「それはモマさんの言う通りなんだけれど…ここまでやってみた感じの得意な魔法系統は?」
一瞬、キョトンとした顔を見せた三人は教習を思い起こして返事をして来る。
「私は風が得意だと思います」
「オレも風が一番使いやすい」
「俺様は何でも得意だけど、強いて言うなら風だな」
「実を言えば私も風です」
「風しかいない…」
こいつは考えものだぞ。全員が近接武器は目をつむれるとしても、得意な魔法系統が同じなのは看過すべきじゃない。何かしらの縛りプレイじゃないんだから。
思案あぐねいているとカパタピが何でもないような風に言った。
「別に風ばかりでもいいじゃねえか。俺様は他の系統の魔法も使えるぜ?」
「ベテラン中のベテランならそれもありかもしれないが、初心者にはオススメできない。パーティ全体でできることが限られるだろ。初めのうちは尖るよりも丸いパラメーターを目指すべきだ」
「けど、ウダウダ言っても始まらねえじゃねえか」
「そりゃそうだ。だから教習の一貫として聞いてくれ」
コホンっと咳払いで仕切り直した俺は三人に向かって話し出す。
「今、言ったのは理想論だ。しかしできれば武器や特技、魔法の系統はバラけさせた方がいいというのは絶対的に言える。更に言えばパーティも人数は五人から十人程度がいい。理由は一段階の教習でやったと思うが…ノワール、覚えているかな?」
「ダンジョン内に起こる事象に対して解答が用意しやすいからですわ。人数に関しては統率の問題ですわよね?」
「その通り、長年付き添った間柄であっても綿密な連携と言うのは難しい。人数が増えればさらに困難だ。かと言って単独のクエストも難易度をイタズラにあげるだけ。何事もバランスと言うことだね」
大きく頷く三人に対して更に続ける。
「今回は教習と言うこととみんなの出自から言って仕方ない。けれど得意なのが風というのは数少ない利点だ…と俺が思う理由は何故だと思う、リーヴェ?」
「四代元素の中で最も器用な立ち回りがしやすいからでしょうか?」
「正解だ。ざっくり言えば『火は攻撃』、『水は妨害』、『土は防御』、『風は補助』と括られることが多い。もちろん、それが全てではないけれど。リーヴェの言う通り四代元素の中で取り回しがしやすい。他の系統が得意でも初心者は風の魔法を覚えるのが吉、という魔導者もいるくらいだ…悪く言ってしまえば器用貧乏なんだけどね」
俺は過去の経験を思い出してそんな事をぼやいた。特殊な技法や加護もなく、魔法だって一芸に秀でる訳でもなかった俺はとにかく必死で剣を振っていたのを思い出す。
補助にしたって自分にエンチャントするのは得意だったが、他人のサポートは苦手だった。
「さておき、今のところ一番の強みは相互理解がある程度済んでいるってところだ。教習だからと言って気を抜かずに互いを上手くサポートするように頑張ろう」
「はい」
「それと校外での魔法行使は『標識の遵守』、『安全確認』、そして『状況判断を声に出す』……この三つを徹底するように」
「OK」
「フォーメーションは基本の『縦列』で行こう。俺が先頭の疑似タンク、リーヴェは前衛寄り、ノワールは中衛支援、カリアトスは後衛からの援護と回復。モマさんが殿で全体のまとめを」
「承知しました」
そうして装備の最終チェックに入る。ベルトの金具、魔導具の状態、応急処置用のポーション、包帯、火打ち石、etc。
確認はし過ぎることはない。逆に言えば、この確認作業に鬱陶しさを感じるようになると、慣れが生まれた証拠。その頃にもう一度自戒を促すのがセットになることが多い。
自分のモノは当然として仲間の装備にも気を配れるようになると冒険者として一段階上に行ける。モマさんも事務机で書類を揃えるみたいな手際で三人の装備に目を走らせる。
細い指で緩んだ紐を結び直してあげたり、曲がったバックルを正してあげたり。
先輩、というよりも気の利くお姉さんというような感じかな。
「ここまでの装備確認は今後の教習では簡略化するけど、毎回行っていくからね。手順は覚えて忘れる事のないように」
俺が言うと四つの返事が重なった。声音はそれぞれの色を持っている。リーヴェは澄んで、ノワールは柔らかく、カリアトスはやや上ずって、モマさんは張りのある落ち着きで。異なる音色が一つの和音になる。
そして校門を抜ける瞬間、胸の中で何かのピースががカチリと噛み合った。教室ではなく現場の匂いに切り替わる瞬間の感覚。
特に初めて第二段階にあがった子たちを引き連れていく時の気分は、かつての夢の続きを見ているようで……少し好きだ。
俺は剣の柄に軽く手を添え、振り返って言った。
「最後にもう一度だけ。『禁止されていないこと』は『やっていいこと』じゃない。ルールの中と外、それぞれに誰かの命がかかっている。それを頭に入れておくように」
さて、教習を始めよう。
ここから先は座学や口伝では教えることは難しい、教科書の余白に書く生の経験をできるだけ多くさせてあげなくては。
俺たちはいよいよ初めての教習として郊外の草原へと駆り出したのだった。
※あとがき※
前話の内容を補填する形で書き足してあります。前後している部分がありますのでご了承ください。(2025/10/9)
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