昔の仲間に思いを馳せますか?
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その日の教習が終わった後。カリアトスはギルド・トゥールビヨンから来た迎えの飛竜に跨がるとぼんやりと今日の事を考えていた。送迎に来たギルドのスタッフも魔導者学校から暴走事故があったとは聞かされていたので、きっとその事に対して落ち込んでいるのだろうと思っていた。
カリアトスの元気のなさはギルドに帰ってからも一緒だった。普段が快活な為、しょんぼりと窓際で物思いに耽る彼女を見ていたギルド員たちは妙に調子を狂わされてしまう。流石に見かねて声を掛けた。
「よう」
「あ、叔父さん」
「聞いたぜ、今日も散々だったらしいな」
「まあね」
「落ち込むのもわかるけど、何て言うかみんな元気なお前を見たくてだな…」
「え? 別に落ち込んでないけど?」
「は? そうなの?」
じゃあ、何でそんな恋する乙女みたいに塞ぎ込んでいるんだ? と聞こうとしたグレーターだったがその言葉を飲み込んだ。話し掛けられた事でカリアトスの栓が取れて、それおこそ立て板に水に話し出したからである。
初めて遊園地に行った思い出を言って聞かせるように嬉々として教習の様子を話し始める。グレーターも最初は面食らってしまったが、徐々に冷静さを取り戻してはカリアトスの話を酒のツマミにしていた。
特にレギオンが暴走するメイスから発生した雷を斬ったと言う話が出る頃には他のギルド員たちも聞き耳を立てており少なくないざわつきが生まれたのだった。
「マジですげえよ。あの人!」
「がはは! そうだな」
と、姪の話を聞く内にグレーターは酒が手伝ってとても嬉しい気分になっていく。その理由は二つあった。
まずはカリアトスの素直さに対してだ。自分の姪と言う立場と本人の生まれもっての才能も相まって同世代に比べれば特異な環境にいたことは否めない。子供の頃からご機嫌を伺うような大人だっていたし、同い年の友達だって出来にくかったことだろう。何せ治癒の術に目覚めた時からカリアトスの両親と相談の上、彼女自身の安全を第一に考えて籠の鳥のような育て方をしてきたのだから。
昔はそれが災いして歪んだ感性を持つ大人にならないでくれと、願うように躾をして来たつもりだった。
けどこうして他人を称賛し、自分のミスを受け止めるようになってくれている。普段の生活にしたって竹を割ったような性格で気心を許してくれる仲間を世代を越えて作れる奴だと言うとも知っている。
改めてそれを思うと、ついつい笑みが溢れてしまうのだ。
「噂とか伝説でなら聞いたことあるけど、雷を斬れる剣士って本当にいるんだ」
「そりゃ興奮するよな。俺も初めてみた時は『嘘ぉ!』って呟いたのを覚えてるよ」
「あはは! めっちゃ分かる」
「しかも雷だけじゃなくて火とか水とか風まで斬るからな、アイツは」
「嘘ぉ!」
「本当だよ」
「うちのギルドにはいないの? そういう剣士の人」
「そうそう何人もいて溜まるか。もし居たとしたらお前だって知っている使い手に決まってるだろ」
「そりゃそうだ」
叔父と姪は再び笑い合った。
そう。これがグレーターが喜ばしく思ったもう一つの理由。
つまりはかつての盟友が記憶の頃と同じように剣を握りしめて誰かを助けてくれる人間でいてくれたと言う事実に対してだった。
この業界にいると道半ばで挫折をしたり、不慮の事故で戦うことができなくなって一線から退いていく人間を数多く目にする。中にはその絶望に打ちひしがれ、人としての道を踏み外してしまう輩や牙を抜かれた狼のように覇気なく怠惰に日々を過ごすしかしないような奴もいると多いと知っている。
そんな中でレギオンが変わらずにいてくれたというのは素直に嬉しいのだ。
すると同時に憐憫というか、虚しさというか奇妙な喪失感にグレーターは襲われた。この地位に登り詰めるまで努力を惜しまなかったという自負はある。けれどそれだけでは到底辿り着くことはできなかったはずだ。ひょっとするとレギオンや他の仲間たちのように志半ばで挫折をし、夢を諦めていた未来もあったかもしれない。
レギオンと自分と一体何が違うのか。
自問自答すると、それは結局のところ運勢や巡り合わせという曖昧で絶対的な要因があったのだろうという結論に辿り着く。努力や才能が必ず報われるとするのであれば、世に出てくるべき奴等はもっといるはずだ。その最たる例がグレーターにとってはレギオンに他ならなかった。
カリアトスとの話で少々感傷的になってしまったグレーターは、ジョッキの残り酒と一緒に諸々の感情を飲み込んだ。そうしたところ、カリアトスがまるで学校のテストで悪い点数を取った子供のように恐る恐る尋ねてきた。
「でさ…」
「ん?」
「レギオン先生がオレを庇って雷を斬ったときに電熱で火傷しちゃってさ、思わず治癒の力を使っちゃったんだけど…いいよね?」
「それは、勿論構わねえけど…」
グレーターは驚いた。
治癒の祝福というのは稀少な加護であり、少しでも武力を持つ組織にとっては垂涎の人材だ。その為良からぬ考えを持つ輩に狙われる事を危惧して彼女には無闇やたらに治癒の力を行使するなと口を酸っぱくして教えてきた。
尤も最近では一端の戦闘もこなせるようになり、護衛だって目を光らせている。精神的にも子供とは言えぬほどに成長したことである程度の判断は自分でつけさせてもいいとは考えていた。
だからグレーターが驚いたのはまた別のところ。
レギオンが負傷したということに関してだった。
かつて同じパーティに在を置いていた時から雷や火炎を扱う魔物や魔術師と戦う機会は多くあった。その度にレギオンが神懸かった剣技にてソレらを切り裂く様を見てきたが、ただの一度であっても火傷を負うような真似はしなかった。
一線を退いたせいで体が鈍っていたのか、それとも現場にいた人間しか分からないような別の要因があったのか…と、レギオンが遅れを取ったであろう様々な理由が頭の中を駆け巡る。そうしたところ、最も現実的で自分にも思い当たる一つの結論が導き出された。
「…歳かな」
ぼそりと呟く。カリアトスは突拍子もない叔父の発言に「はぁ?」と豆鉄砲を食らったような顔になってしまった。
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