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ララヒャミヌ・ティレユムムンゲ・ヴゥルノコス・ユルエージ



『だ、大丈夫か小僧…?』


ララ爺が心配する声が聞こえるのは仕方が無いだろう。ぐるぐる渦を巻いた鎖は、どす黒いオーラを噴き上げながら膨張し、四方八方に枝分かれた先には龍のアギトを模していた。


そんなヤマタノオロチもびっくりする様な姿になった鎖。こんな物を見ると流石に普通の人はビビってしまうのだろう。


「安心しろララ爺。こんな物大したこと無い」


俺がここまで落ち着いて居られるのも単純な理由だ。ただ単にこれよりも強大な本物の龍を目の当たりにした事があるからだ。


それにこんな魔法仕掛けのギミックなんて──


「おらよ!」


掛け声と共に右手に持っていた包丁をそれに向かってぶん投げた。


『ばっ馬鹿者!そんなチンケな物で──』


ララ爺の叫びとほぼ同時に鎖のアギトがその包丁に向かって襲い掛かる。恐らく迎撃する為の行動だろう。


『──そ、そんな馬鹿な…』


だけど次の瞬間にはララ爺の声は驚きに変わっていた。


くるくる回る包丁がバスッバスッと鎖を断ち切りながら突き進み、その本体をも貫通し、弧を描いて向こう側の地面にサクッと突き刺さった。


ガラガラ音を立てて落ちる鎖。

その後には再び静けさが訪れていた。


『その武器、魔除けなのか?』


「ああそうだ。魔除けは知ってんのな」


『だからワシャ賢者じゃとゆーとろーに』


「はいはいワロスワロス」


『だからワロスって何なのじゃー!』


「現代の言葉で、笑える程マヌケって事だよ」


『こんの小僧!減らず口を叩きおってからに!』


ララ爺の小言も遂に適当にあしらえるようになりながら、包丁を回収しに行く。


『…だけどそんな大口を叩くだけの事はあるな。よし、小僧。その武器をワシに刺せ』


「は?」


本当に意味が分からなかった。この賢者は言ってることがたまに高度すぎてついていけない時がある。


『ほら、ここに突き立てろ』


呆けていると、ララ爺こと、魔剣の持ち手の部分がパカッと口を開けるように変形した。確かにそれなら上から包丁を突き立てることは出来る。


出来るが、


「いやもう、訳が分からなさすぎるし、おっかなくて出来ねーわ」


『お? あれだけ大口を叩いとるのにここに来てビビっておるのか〜? 偉そうなのは口だけじゃの〜。次にここに来た奴には小僧の事はきちんと伝えておくからの〜』


「くっそこのクソジジイが!その煽りに乗ってやんよゴラァ!砕け散っても後悔すんなよ!!」


誰かの煽り口調と似ているとは言え、ここまで啖呵を切られちゃ引き下がれない。


直ぐに魔剣まで近付き、粉砕するつもりで口を開けた持ち手に突き刺した。


「───?」


結果は俺のイメージとかなりかけ離れていた。

想像では魔剣を縦半分にパッカーンするつもりだったのだが、柄の部分にすっぽりハマるように包丁が収まっていた。そして次の瞬間には魔剣が光輝き始めていた。


「うお!」


より一層眩し光が放たれ、それが収束したかと思うと、地面には黒々とした短剣が突き刺さった状態で現れた。


先程の魔剣が姿を変えたと言った方が正しいのだろう。

それよりもまず先に思ったことが、


「俺の相棒を喰いやがったぞコイツ!!」


『ほう。これはお前の相棒だったのじゃな。そしたら今からワシが相棒じゃな。よろしく頼むな!』


「クソがー!どーせこんな事だろーと思ったわ!返せよ俺の相棒!それはこの世に存在する唯一の魔除け武器だぞ!」


『ギャーギャー騒ぐで無い。安心しろ小僧。その辺の性質は抜かり無く引き継いどるわい』


「……一旦話を聞こうか」


相棒が吸われて怒り心頭だったが、ララ爺から含みのある言葉が届いて冷静さを取り戻す。一旦ララ爺の話を聞いて考えを整理するのも有りだと思った。


『話をするまでも無い。ワシを手に取ってみろ。そしたら解る』


ここまできたらもうどうなってもいいや、とララ爺に従って短刀を地面から抜き取った。


すると、直接頭の中にこの短刀の性質、能力など、様々な情報が入ってきた。


「エグすぎだろこの能力」


それを理解したすぐ後の感想がこれだった。


『そうじゃ。だから封印されたと言っていい』


ララ爺の言っている事も理解出来る程の代物。

この短刀に視線を落とし、再度能力を確認する。


【魔剣】ララヒャミヌ・ティレユムムンゲ・ヴゥルノコス・ユルエージ

属性:魔除け、闇

能力Ⅰ:形質変化(あらゆる形状質量に変化可能)

能力Ⅱ:血肉化(切った対象の能力を蓄積、使用可能)

能力Ⅲ:魔力放出(使用者を含め保有する属性をあらゆる形で放出可能)


改めて確認しても極悪な能力がズラリと並んでいた。


『今の小僧の気持ちは良くわかるぞ〜? これを試したくて仕方がないのじゃろ〜う?』


「やけに嬉しそうだなララ爺」


確かにララ爺の言う通りで、どれもこれも今すぐ試したくなるような能力ばかりでうずうずしていた。


『丁度ここにいい空間があるの〜』


「奇遇だな。俺も今そんな事を思っていたところだ」


『……そういや、まだ礼を言って無かったな。ワシの封印を解いてくれた事、感謝する』


ふと、和らいだ口調でそんな事を言われた。

何だかんだ、ララ爺は、ただの世話焼きお爺ちゃんのような存在だと認識する。そしてそれは特に悪いものでも無いと感じていた。


「俺の名前はユウだ。まあ、これから相棒としてやっていって貰うんだ。色々試しながら俺の事について話してやるよ。ララ爺についても色々と教えてくれよな」


『勿論じゃ。心得た』


今まで肌身離さず共に戦ってきた相棒。

かなり口うるさいお節介なお爺ちゃんに変わってしまったが、心機一転これから本当の相棒として仲良くやっていこうと思った。


『いつまで感傷に浸っとるんじゃ。はよせんか』


「っるせ!今やろうとしてんだよ!」


『なんちゅー口の利き方をしとるんじゃこの小僧は。これだから最近の若者は───』


………果たして、仲良くやっていけるのだろうか。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





遺跡の階段を上り、地上へ出てきたのは魔剣の性能を試し始めてから丁度1日経った後だった。


今俺の右手の中指には、黒く光り輝く指輪がはめられている。よりコンパクトでより使い易さを求めた結果、形質変化の能力でこの形に変化させていた。


「まぶし!」


照度は確保されていたとは言え、一日中薄暗い室内に篭っていたので、斜め上から射し込む朝日に目が眩む。


「お帰りなさいませ」


「うわビックリした!」


地上への階段を上がりきった所、石畳の所に女性御者が居て声をかけられた。そして周りを見ると、馬車も遺跡のすぐ近くに止められている。


「あ、あれ? ここへは動物や魔物は近寄れないんじゃなかったか?」


その状況に違和感を覚えた俺は直ぐに質問した。


「それが、大体1日前ぐらいでしょうか。ふと今まで遺跡から感じていた嫌な感じが無くなり、この通り馬も近寄れる様になりまして、ここで待機しておりました」


『この小娘、野生動物並に気配察知に優れておるの。それに小娘が言っている事は恐らく、ワシを手にした事か、あの鎖のシステムを破壊したのが原因じゃろな』


彼女の回答に、ララ爺が補足する。

因みに、このララ爺の声は俺にしか聞こえていない。


「それで、あまり状況がよろしくないので、私も地下に潜ろうと思っていた所、丁度ザック様が上がってこられたのです」


「よろしくないとは?」


「ここに近寄れる様になったということは、様々な魔物も近寄れる様になったという証拠であります。ただの勘なのですが…、何かが近寄ってくるような気がして仕方がないのです。依頼がお済みであれば今すぐここを離れるべきかと思われます」


ララ爺の見立て通り、彼女は気配を察知するようなスキルに長けているのだろう。この遺跡に感しても''嫌な感じ''と言っていたし、今すぐ離れるべきという助言もあながち間違ってはいないと思う。


『ワシも小娘と同じ意見じゃ。じゃが、それは前者であって後者ではない』


いやあ、何だかんだララ爺と考え方が結構似通っているんだよな。と、少しむず痒い気持ちになり、頭をポリポリと掻く。


「そしたら悪いけど、ここで隠れて待機していてくれるか?」


俺は彼女に向かって階段を降りて隠れていろと指を差す。その行動に彼女は目を丸くして狼狽えた。


「1日かけてあれだけ試行錯誤したんだ。実践経験を積んでもいい頃合いだよな、ララ爺?」


『ふはは。小僧、よく分かっとるじゃないか!』


「な、何を仰っているのですか?」


「迎え撃つって事だよ」


彼女にそう言い放ち、テレポを使って遺跡の屋根の上に降り立った。屋根も下の石畳と同じ創りになっていた。


草原と言っても遺跡は割と高い位置の丘のような場所に存在していた。その屋根の上から見渡せば、何が来るのか直ぐに発見出来るだろうという目論見である。


「ありゃ何だ? 鳥か?」


そしてすぐ様辺りを見回していると、草原には全く異変は無いものの、遥か彼方の空に鳥の様な影が見受けられた。


『うーむ。多分あれがそーじゃな。こちらに近づいてきておるぞ』


ララ爺の言う通り、その影は段々と大きくなっていき、ついには翼を羽ばたかせてる姿まで確認できる位までなっていた。


『あれくらいの距離なら届くかもしれんな』


「そうだな、とりあえずやるか」


拳を握った右手をその影に向かって突き出す。


「そんじゃあ、凶悪能力その一、形質変化、黒針(こくしん)


そう呟きながら、右手の中指の指輪に魔力を込めた。

瞬く間に、空飛ぶ影に向かって黒い針の様に指輪から伸びて行った。


それは一瞬にして対象に到達し、そして貫いた。


ただでさえ魔除けの属性を吸収し、この世の何でも切り裂ける極悪品となったのに、距離にして数km先、そんな所まで一瞬にして形質変化してしまう能力が凶悪極まりなかった。


『ふむ。フロストドラゴンか。中々レア物を引いたんじゃないか?』


ララ爺の言葉にこくりと頷く。


「凶悪能力その二、血肉化」


切った対象の能力の蓄積と使用。厳密に言えば、この魔剣で触れた対象の情報及びその能力全てを手に入れる事ができてしまうという事だ。


針となった魔剣に貫かれたという事は、触られたと同じ。瞬時にその物体の情報と能力が身体の中に流れてきた。


【フロストドラゴン】

属性:風

能力:気配察知、風操作


このフロストドラゴンが保有していた能力までも、魔剣を扱う人が全て手に入れてしまう。これが血肉化の能力。


「確かに、こいつの能力は便利だな」


手に入れた気配察知により、フロストドラゴンだけでなく、この周辺一体の生物の気配を、より鮮明に察知する事が出来てしまった。


『目的は達したし、コレはどうするんじゃ?』


コレというのはフロストドラゴンの事だ。気配察知能力と触れている黒針から、フロストドラゴンのHPがみるみる削られている事が感じ取れていた。


目的というのは魔物の能力を奪う事であり、それはもう達成したからこのフロストドラゴンには特に用は無い。


このまま形質変化で雲丹のように針を爆散させて殺すことは意図も容易いのだが、イマイチ味気無さを感じてしまう。


「まだ試したい事がある」


瞬時に黒針を戻し、そして黒い弓を象った。


「凶悪能力その三、魔力放出」


それを左手に持ち替えて、右手で弦を引っ張るように構えると、白色の魔力の弓が形成された。


使用者が思うあらゆる形で魔力が放出出来るのだが、魔法をあまり扱ったことの無い俺にはイメージする事が難しかった。最終辿り着いたのがこの弓矢を放つ形で、これが中々理にかなっていた。


「属性は…魔除け!」


弦を離すと、目にも止まらぬ速さで白色の魔力矢がフロストドラゴン目掛けて飛んで行った。

そしてものの3秒ぐらいでそれを貫通する。


気配察知という便利すぎる能力を得たことで、目の前の的を得るかのような感覚でそれを成し遂げていた。なんというイージーモードだ。


『まあ、及第点というところかの』


「…………」


空から影が堕ちていくのを見ながら、ララ爺の言葉に頷いて肯定する。


数km先の強大な魔物でさえ瞬時に殺してしまう代物。その性能をまだ100%フルに発揮出来ていない事は実感していた。


だが、今まで近接戦闘でしか戦う手段が無かった俺にとっては、ララ爺との出会いはかなりプラスになったと考える。


この凶悪武器を手に入れたことで、近距離〜長距離まで幅広く、単複問わず瞬時に殲滅する手段を得てしまった。更に戦えば戦うほど強くなる。


「…………」


この能力であの魔王に勝てるかはまだ分からないが、欲しいものは手に入った。そう思いながら右手の中指にリングをはめるように弓から変化させる。


「あ、あの〜今なにか仕留めたのでしょうか? ここに何か近寄ってくる気配が無くなったものなので…」


屋根の下からひょこっと顔を出した女性御者。不安げな顔でこちらを伺っている。


「ああ、フロストドラゴンを仕留めた」


「フ、フロストドラゴン!?」


その名前を聞いた彼女は驚きを隠せない。この世ではドラゴンは絶対的なる強者だ。例えドラゴンの中で最弱の部類だったとしても、我々人間と比べても別格。街の冒険者総出でやっと倒せるケルベロスよりも上位の存在である。


それを飛ぶ鳥を矢で落とすかのように仕留めたと言うものだから、面食らってしまったのだろう。


「この先で死んでいる筈だから、一緒に行くか?」


「え、えぇ。ご一緒して良いのであれば…」


「そしたら案内するから、馬車の運転頼むよ。フロストドラゴンを回収したらそのままギルドに帰るとするか」


そう言って屋根から飛び降りた。

地面は柔らかかったので、着地は特に問題無し。


「回収ですか!? 生憎ですが、ドラゴンを解体するような器具等は持ち合わせておりませんので…」


彼女はかなりバツが悪そうに答えた。


「その辺は大丈夫だ。リプトが使えるから問題ない」


正確にはリプトという魔法ではないのだが、面倒臭くなるので黙っておこう。


「か、畏まりました!」


大抵の人には「リプトを使える」と言えば二言でやり取りが終わる。かなり重宝されている魔法だとつくづく感じるようになっていた。


それから馬の荷台に乗り、フロストドラゴンの死骸がある場所まで案内した。


心臓をポッカリと射貫かれたそれを目の当たりにした瞬間、馬も、彼女も引きつった表情をしていたのは正直笑ってしまった。


すぐにその巨体を回収し、ギルドへの帰路に着いた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





ギルドの扉を開けると、マシェリーが直ぐに出迎えてくれた。依頼を達成したと伝えると、初めて来た時に入った貴賓室に案内された。


淹れてくれたお茶を飲みながら暫く待っていると、扉がノックされ、アレンダが部屋に入ってきた。


毎度の社交辞令を交わした後、「A級の依頼からは、2人で達成状況を確認する事となっておりますのでご容赦ください」と言ってきた。


高難易度の依頼ともなればこれは当然の対応だろう。別に大丈夫と言って快諾する。


「それではザック様。お手数ですが、依頼にあった遺跡について、ご説明をお願い致します」


『小僧、ザックなんぞ似合わぬ偽名を使っておるのな』


──うるせえ黙っとけ。


心の中でララ爺にそう返す。こちらもララ爺みたいに念波のような物で返せれたらいいのだが、如何せん発語しないと意思疎通出来ないのが難点だったりする。


「分かりました。少し長くなりますが説明しますね」


「よろしくお願い致します」


それから俺は、順を追って遺跡に関することを説明した。ここで初めて魔除け武器を持っている事を伝えた。これを話さないことには根拠のある説明にはならないと思ったからだ。


「……それでは、その指輪がアーティファクトなのですね」


「ああそうだ」


『あーてぃふぁくとぉ!? ワシは大賢者の最強魔剣じゃとゆーとるのに変な名前をつけとるんじゃない!』


──本当に黙っとけこのジジイ!


魔剣がどーたらこーたら話してしまうと余計にややこしくなりそうだったので、ララ爺こと魔剣に関しては、身体能力が格段に向上されるアーティファクトと言っておいた。


「畏まりました。それでは、遺跡に降りる階段も空けたままとの事なので、至急調査員を向かわせます。証言と一致して達成と致します」


俺の話を一通り聞いたマシェリーがそう伝えてきた。


「了解。遺跡の封印を解いたからか、魔物とか近寄れる様になってるから気を付けるように言っておいてね」


「ご配慮感謝致します。それにしても本当に凄いですね。今まで誰一人として解明出来なかった依頼をたった数日でやってのけてしまうなんて…」


「ええ、本当に。Fランクにしておくのが勿体ないくらいですね」


2人とも、まとめた報告書を何度も見たりしながら終始興奮していた。


「ありがとう。ああ、そういや言ってて思い出したけど、遺跡の封印を解いたらフロストドラゴンとかいう奴がやって来たから倒したんだけど、ギルドで買取りとかできる?」


そう言った瞬時、2人とも頭の上に?マークが飛び交ったような表情をしていた。


「フ、フロストドラゴンですか…?」


このやり取り何回目だよ、と驚きを隠せないマシェリーに微笑みかけた。


「カルドレインのオッサンと戦った闘技場ってすぐそこだよな? 今からそこに置きに行くから査定は任せたよ」


こればかりは説明するより見せた方が早いと思い、闘技場まで案内してもらった後、魔力を解放してフロストドラゴンをそこに出した。


それまで頭に?マークを付けていた2人だったが、その実物を見て更に思考停止したようで、呆けた面してフリーズしていた。


「ア、アレンダ課長……フロストドラゴンって確か…S級対象…では?」


「ええ、そうね、とりあえず落ち着きましょう。これはただのフロストドラゴンよ」


「…………」


『かかか。こやつらの表情、面白いのぉ。良いもの見れたわい!』


アレンダの取り乱した様子に困った表情をするマシェリー。いつ見てもこの2人のやり取りは面白くて飽きない。次もこんな感じで驚かせてやろうと心に決めた瞬間だった。


「…こちらはギルドで買い取らせて頂きますが、色々と手続きがございますので、申し訳ございませんが受付まで来ていただけますでしょうか?」


いち早く正気に戻ったマシェリー。彼女にお願いに頭を縦に振って承諾する。


「アレンダ課長…後は頼みますね」


「…………」


未だに放心状態のアレンダ。マシェリーは目の前のドラゴンと約立たずの上司という面倒臭い2タテを上手に避けることに成功する。


それから闘技場を逃げる様にして、マシェリーと共にそそくさと後にした。


受付に行くまでの間、マシェリーとは世間話をしていた。


「ザック様には本当に驚かされっぱなしです。私、ザック様の担当になれて本当に良かったと思っています」


そんな事を笑顔たっぷりに言われるもんだから悪い気はしない。


「ありがとう。俺も担当がマシェリーで良かったよ」


「……!!」


自然に出た言葉だったのだが、マシェリーは照れてしまった様だ。


『ふむ。小僧も隅には置けんの〜』


そんなやり取りを見ていたララ爺からちゃちゃが飛ぶ。今になってララ爺を手放そうかしまいか本気で悩んでしまった。マジで邪魔だと思う時がある。


「あ、あれ? 何かトラブルでしょうか?」


受付カウンター付近に到着すると、その一角がやけに騒がしくなっていた。


「頼む!受けさせてくれ!」


「それでも規則なので…申し訳ございませんが…」


「そこをなんとか頼むよ!」


受付嬢にしつこく頼み込む一人の男性。その周りには魔法使いの女の子と、レンジャー系の女性。よく見るとマイザー御一行だった。


「何かお困りなのでしょうか?」


その輪にマシェリーが入っていき、事情を聞く。


「あの、こちらの方々がD級のクエストを受けたいと言ってきておりまして…。4人組なら承諾出来るのですが、3人組なので断っておりました」


受付嬢の女性が状況を説明した。


「マシェリーちゃん!頼むよ。怪我してる奴が長引いててさ、前までこの4人でD級受けて余裕だったし、一人欠けていても大丈夫だからさ、お願いだよ!」


マイザー君は顔の前で両手を合わせ、お祈りするかのようにマシェリーに頼み込む。

この状況に困った顔をする2人の受付員。


すると急に何か妙案を思いついた表情になるマシェリー。直ぐにこちらに目配せをする。

それを見て溜息を着いた後、良いよとマシェリーに言った。


「それでは、ザック様をご紹介致します。4人になりますから、特に問題無い筈です」


マシェリーの提案を受けたマイザーはその内容に青筋を立てて、


「はあぁあ? なんでこんなFランクと一緒に行かなきゃなんねーんだよ!」


物凄い剣幕で俺を指差し、罵ってきた。


「こらッ!マイ───」


「マイザーさん」


マイザーのお目付け役のライラがお叱りの言葉を発そうとした時、それをマシェリーが手で静止し、彼に面と向かった。


「はい何でしょう!」


マシェリーの表情は真剣そのものだ。寧ろ怒っているかのようにも感じる。マイザーにとってお気に入りの存在がそんな表情をするものだから、彼は瞬時に萎縮してしまった。


「何故、ザック様に専属担当が付いているのかお分かりでしょうか?」


「そ、それは〜…あのオルクス会長から推薦されからじゃないですかね」


「いいえ、違います。実力者だからです」


あまり自信が無さそうに答えるマイザーに、ぴしゃんと言い放つマシェリー。


「…………」


その言葉の強さに、迫力に、マイザーは黙り込んでしまう。


「ザック様の専属担当になり、まだ日は浅いですが、実力は私が保証致します。だからこそ紹介しているのです。色眼鏡で見るなんて言語道断、冒険者としてあるまじき行動です。私の言う事が信じられないのであれば、冒険者を直ぐに辞めて、金輪際、ここに来ないで下さい!」


──いやいや、言い過ぎだろ。マイザー君の顔が物凄い事になってるよ。


マシェリーのお叱りの言葉を聞いた感想がこれだった。


周りに集まってきていた人の中には、俺を小馬鹿にする奴もちらほらといた。マシェリーの言葉を受けて、自分に言われている様に感じるのか、バツが悪そうにこの場を後にして行く。


マイザーのお付の2人も、マシェリーの意見に同意しているようで、彼を睨み付けていた。


「……す、すみませんでした!!」


マイザーは直ぐに謝罪した。ギルドの、しかも人が大勢いる中でこんな事言われちゃ、本人も堪らないだろうな。


「いい心掛けです。己の失敗を認めて改善する。これがこの先の冒険者生活で生き残る術になります。…マイザーさんはまだE級の駆け出しですので、くれぐれも自他ともに実力を見誤らず、誠意を持って行動して下さい」


「はい…。面目ございません……」


マシェリーの言葉は、彼にとって良い薬となった様だ。実力は無いことは無いのだろうが、天狗のような振る舞いには、命懸けの依頼をこなす上で不必要な物となる。それを正すこともギルド職員の役割。本当にマシェリーはよく出来た子だと思った。


「反省も見れているので、この先はとやかく言いませんよ。それでは、ザック様含めた4人にてご依頼をさせていただきます。このまま打ち合わせしても宜しいでしょうか?」


「はい。大丈夫です…」


かなりテンションが下がっているマイザー。そんな彼の様子を気にかけることも無く、マシェリーは「それではご案内致します」と言って受付の空いたスペースへ移動し始めた。


「マイザー!このパーティのリーダーなんだからしっかりしておくれ!」


「そうですマイザーさん。普段のおちゃらけた感じはどこいったんですか?」


先の事をまだ引きずって項垂れているマイザーに、追い討ちをかけるお2人。もうやめてあげて、彼のHPはゼロなんだよ。


それよりも、


「俺を庇ってくれてありがとうマシェリー。今度飯か何か奢るよ」


受付カウンターに進むまでの間、隣にいるマシェリーにお礼を言った。


マイザーだけでなく、今まで俺をバカにしていた人に向けて、彼女は俺を庇ってくれた。その事実は絶対で、とにかく感謝の気持ちが溢れていた。


「本当ですか!? 絶対ですよ? うふふ」


少し上機嫌になり、小走りでかけていく彼女。


『ほんまに隅におけんの』


「るせ!今まで存在忘れてて良い感じだったのに邪魔すんじゃねえ!」


誰にも聞こえないよう、指輪に向かって早口でぶつける。


『こんの小僧!これだから──』


そしてぴーちくぱーちく、ララ爺の小言を適当に受け流しながら、彼女の後を追いかけて行った。



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