A級クエスト 遺跡の調査・解明
子鳥のさえずりと、眩しい朝日で目が覚めた。
「ふぁあ」
久しぶにふかふかのベッドで寝たお陰で熟睡出来たみたいだ。ぐーっと背伸びをし、ベッドから降りる。くしゃくしゃの髪の毛を整えに洗面所へ行った。
洗顔も終えてサッパリした所に、上薬草を茎の部分からグイッと吸う。
「うはあ!」
これ一本でバッチリ爽快!眠たさも瞬時に吹き飛ぶ優れ物だ!
え?なんでそんな物持ってるのかって?
逆にこれをチョロまかさない奴おりゅ?
という煽りは冗談で、このギルドでは依頼の達成条件で課せられた分だけ納品すれば、残り又は依頼とは別に取得した物は自由に扱っていいとの事だ。依頼の過程で取得した物の権利は、取得した人に与えられる。優れ物なら使用するのも良し、高価な物なら売り捌くのも良しと、かなり自由度が高い。
それを知っていたので、昨日の薬草採取クエストで手に入れた上薬草をかなり手元に溜め込んでいた。日持ちも通常の1000倍、持ち運ぶにしても全く邪魔にならない。茎から液体を飲めば体力も外傷も魔力までも一瞬で回復し、食えば腹は膨れる。こんな優れた回復手段、手放す方が勿体無い。いざとなれば現地で生産出来るが、依頼に出かける際は手元に幾つかあった方が安心だろう。
「さてと、本日は何を用意してくれているやら」
昨日マシェリーにお願いした探索系のクエスト。一体何を用意してくれているのか少しワクワクしていた。
直ぐに支度を済ませ、ギルドへと向かった。
ギルドヴァルガンにの扉を開くと、目の前にマシェリーが既に待機していた。結構早い時間帯に来た筈なのに、全くコイツらの洗練された行動には頭が上がらない──
と思いきや、少し制服が乱れている事に気付く。
周りを見渡すとカウンターに突っ伏して寝ている職員や、フロアに置いているベンチやソファで寝ている職員がやたらと居た。
「えへへ、皆さん徹夜です〜」
なる程と思ったが、その原因が俺にあるとすぐ分かり、少し申し訳ない気持ちになった。
「それは悪い事をしたな。魔硬樹の売却、徹夜で作業してくれてありがとう」
そう言って微笑みかけ、制服の襟を整えてあげた。彼女は服装が乱れている事に気付き、顔を赤らめながら急いで整える。
「全然悪くありません!寧ろ私達にとってもかなり恩恵をもたらしてくれたので、感謝しているくらいです!」
急に力説したかと思うと、次の瞬間にはすぐに力が抜けた表情に戻る。
「ザック様は凄いです〜。冒険者に登録してすぐにこのギルド史に名前を残しましたよ〜」
いつものキリッとした感じではなく、へろへろのマシェリーも中々いい味を出していた。
早朝だっため、冒険者の数は少ない。昨日騒ぎを起こしたのもあり、人の目は少し気になっていたので胸を撫で下ろした。
「それでは、依頼をご用意しておりますのでこちらへどうぞ」
そのままカウンターまで案内され、依頼内容をまとめた紙を受け取り、軽く説明を受ける。
「遺跡の調査・解明…か」
「はい。A級の依頼になります」
今回紹介された依頼は、草原のど真ん中にポツンと建っている遺跡の調査・解明だった。
それ如きが何でAランクの依頼なのかと言うと、一体何の目的で建てられた建物なのか、長年分かっていないからだと言う。
遺跡のスケッチ図を貰ったのだが、遺跡と呼ぶには程遠いぐらいのしょぼい建物だった。石畳の四隅に支柱があり、その上に正方形の屋根が乗っかっているだけ。雨避けになるぐらいの休憩スポットと言っていいぐらいだ。
「物見櫓的な、塔みたいなのを建てようとして途中で断念した残骸じゃないの?」
「それだと依頼になるまでも無いのですが、そこの一帯だけ魔物が近づかず、動物も逃げてしまうので…かなり不気味な場所なのです」
「ふむ、それは確かに不気味だ」
「これまで沢山の方がこの遺跡の調査に向かいましたが、手掛かりひとつ掴めずに帰ってきております。行った人は皆口を揃えて『絶対何かある筈なのに何も無い』と仰っておりました」
流石はA級クエスト。伝聞のふわっとした情報しかなく、達成条件もあやふやだ。これは俄然やる気が出てくる。
「なる程ね。まあ、確かに俺にピッタリの依頼だな。良いよ、受けるよこの依頼」
魔物も出る事無いし、割かし余裕じゃね?とこの時は気楽に考えていた。
「畏まりました。それでは依頼を受理致します。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「それじゃ、行ってくるよ」
彼女に見送られながらギルドを後にした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「………」
ギルドを出てまず向かったのはオルクス商店だった。冒険者に登録出来た事のお礼に向かったのだが、俺が採ってきた上薬草が大量に仕入れる事が出来そうで、この先の商売が更に明るくなったと逆にお礼を言われた。
そこから話が長引き、今受注している調査クエストの話になった。
遺跡まではかなり距離があり、徒歩で行くものなら半日以上はかかってしまう。それなら馬車と御者を貸そうと言ってくれたのでそれに甘えることにした。勿論、対価はしっかりと払っている。
「………」
そんなこんなで、準備してくれた馬車に乗り、気の向くままに遺跡に向かっていた。
旅のお供は花がある方が良いだろう、がはは。と陽気なことを言って御者を女性にしてくれたはいいものの、中々クールな人だった。
「………」
というか全く喋らない。ほぼ無心で馬車を運転しているので、かなり気まずい雰囲気を味わいながら向かっていた。
こんな事なら別に一人で良かったのにと思い始めたその時、馬が荒ぶる奇声を上げて、馬車が急停止した。
「どうどう、よしよし」
女性御者が直ぐに馬を宥める。
落ち着きを取り戻したのを確認し、荷台に座る俺に振り向いた。
「目的地付近に着きました。ここから先は馬車では進めませんので、ご自身でお進み下さい」
「了解。ここまで運転ありがとう」
これがファーストコンタクトだ。お礼を言って馬車から下りる。
周りを見渡すと、だだっ広い草原に、目と鼻の先にスケッチで見た遺跡がポツンと建っていた。空は若干曇っていて、良い天気とは言い難い。
「ここは魔物がおりませんし、見晴らしも良いのでこの場で待機しておきます。依頼がお済みになればまたお声掛けくださいませ」
彼女はぺこりと頭を下げ、荷台からテントを取り出し、野営の準備を始めた。
まあ、もうなんだ。あまり深く関わらないでおこうと思い、俺もそのまま遺跡に向かって歩き始めた。
周りは草原で、本当に魔物の姿一匹も無く、平坦な道のりだったので数分で辿り着いた。
「マジでこれのどこが遺跡なんだよ。ただの雨避けじゃん」
スケッチを取り出し、その全貌を目の当たりにする。
大きさは納屋程度。1m角の白い石畳のブロックが5枚×5枚で正方形に敷き詰められ、その四隅に支柱が建っている。屋根も床材と同じような大きさの正方形だった。
コツンという音を立てて、その石畳の上に立つ。四方から吹き抜ける風が少し生温かかった。
「あっ…」
石畳の上に立ち、ある物を見た時からこの遺跡の謎についてピンときていた。敷き詰められているブロックの真ん中だけ、色が茶色だったのだ。
「絶対これじゃん。逆に今まで来た奴らは何で分からなかったんだよ…」
愚痴をこぼしたものの、その答えが直ぐに返ってきた。色付きブロックの周辺の白いブロックの表面にはかなり傷が付いていた。
これを見る限り、恐らく魔法や武器でこじ開けようとしたのだと推察できる。その結果はNG。周りの白いブロックと比べ、色付きのブロックは傷一つ付いていなかった。
分からなかったのでは無く、この色付きブロックの下に何かあると踏んだものの、こじ開けることは出来なかった。
それが正しい解釈だろう。
だけど俺の持つこの魔除武器なら…。そう思いながら包丁を抜き取り、色付きブロックに突き立てた。
「ビンゴ」
サクッサクッサクッと切り込みが入る。手が入るぐらいの大きさの切り込みが繋がった瞬間、重力に引っ張られる様にその破片が下に落ち、何かにぶつかってゴロゴロと転がり落ちていった。
「ふぅ。地下か…」
ゴロゴロと転がり落ちる音は十中八九階段だ。空いた隙間からライトを照らすと、地下に続く階段が伺えた。
「ふんご!」
色付きブロックの四隅に切込みを入れ、隙間に手を突っ込んでバコッと持ち上げる。そのままの勢いで反転させて落とした。
「これは…ちょっと嫌だな…」
俺の目の前に地下へと続く階段が顔を覗かせていた。
アルベリオでの一件以来、地下という存在が少し苦手になっていた。今回は空いた穴から腐臭がする事は無いが、嫌な感じは拭い取れない。
あの御者についてきて貰いたい気持ちになり、初めてソロクエストが嫌になった瞬間だった。
「結構降りるぞこれ…」
ライトで階段を照らしても、下階の床は見えなかった。誰も踏破したことの無い遺跡だ。罠とかあれば初見殺しもいい所。難易度Aは伊達じゃないと感じ取る。
「──行くか」
ここで留まってても埒が明かない。意を決して階段を降りることにした。
何があっても即死だけは回避し、直ぐに回復出来るようにと上薬草を手に持つ。そろりそろりと階段を降りて行った。
天井から降りる光が小さくなった頃、やっと床が見えてきた。それと同時に階段の幅と同じ通路が奥に続いているのも見えた。通路の奥にライトを当てると、その先は暗闇。ライトの光が闇に吸い込まれているようだった。
「ちょ…きつくね?」
ボソッと喋ったつもりだったが、やけに反響する。下手するとどこぞの廃墟よりも怖い肝試しだぞと、きな臭さを感じるようになってきた。
数センチづつ、すり足を行うように暗闇の通路を進んでいく。
数メートル進むと、ライトの光が届かなくなった。
届かなくなったというのは些か語弊がある。光を吸収する真っ暗闇の壁が通路を塞いでいた。ゴツゴツとした感触はあるが、目には見えない黒の壁だった。
「……」
嫌な予感が当たる時はそれが続く時が多い。
この壁を見た時から、この包丁で解決するんだろうな〜、なんていう考えが瞬時に浮かんでいた。
包丁を手に持ち壁に刺す。案の定、サクッと壁に切り込みが入った。
「うお!」
次の瞬間、闇の壁が霧散し、目の前に空間が広がった。そこはドーム状の空間で、ひと暴れしても平気なくらいの広さだった。壁の造りはこれまで階段や通路と同じで、壁に埋め込まれている魔鉱石が照度を確保してくれていた。
気になったのは、その空間の真ん中。
「流石にこれは嫌な予感しかしない」
真っ黒な剣が地面に突き刺さっていたのだが、それは黒色の鎖でグルグル巻気にされ、その鎖の先が四方八方の地面と繋がれているという、正に邪剣を封印している光景が目の前にあった。
『──誰じゃ』
次の瞬間、頭の中にしゃがれたお爺さんの声が響いた。咄嗟の事だったので、変な声を出してしまう。
『情けない声じゃな。呆れて物も言えんわ』
「んだとこらー!そこ突っ込んじゃいけねーところだぞー!」
『はん。器も小さいと見る』
どこのどいつか知らんが、いきなり失礼な奴だ。だが、現れたのは鬼でも蛇ではなく、辛辣な言葉を放つがまだ話の通じる奴がいると分かり、少しホッとした気持ちになる。
「誰か知らんが、姿を見せない奴の言うことに聞く耳持たねーよ」
『何を言っておろう。目の前におるじゃろが』
「あん?」
『ここじゃここ』
「…………」
『おーい。ここじゃと言っとろーが』
「……何で剣が喋ってんだ?」
空間の真ん中に突き刺さった剣が黒々としたオーラか吹き出し、これが俺の頭に直接話しかけてきていると直感で悟る。
『ワシは賢者じゃ。これくらいわけないわい』
「何で賢者が剣になってんだよ!つか見た目ものっそい魔剣じゃん!賢者なら聖剣にぐらいなれよ!つか何で封印されてんだよ世界でも滅ぼしたのかよ!」
斜め上の返答に思わずツッコミしてしまった。
『まあそう捲し立てるな。先ずは自己紹介をしよう。ワシの名はララヒャミヌ・ティレユムムンゲ・ヴゥルノコス・ユルエージと言う』
「長すぎるから却下で」
『この小僧!人の名前にケチつけるでない!』
「んじゃララ爺で」
『んにゃ、まあそんなとこでええじゃろ』
「ララ爺…って、かなり可愛い感じだけど、ええんのね?」
『生前はそう呼ばれとったし、つい懐かしくてのぉ』
「……剣になる前は人だったってのは、何となくだが信じれてきたな」
『だからさっきからワシャ賢者じゃ言うとろーに』
「賢者ってのは未だに信じられねーんだが、その砕けた喋り方が人間ぽいんだよなマジで。生前って言ってたし、あんた一体何をやらかしたんだよ?」
何で人が剣になってるのかは全く理解出来ないが、このジジイが元は人間だったということは恐らく本当のことだろう。癖のある喋り方がそう信じさせられる。
『魔王を倒そうと、ワシの人生を賭けて性能抜群の剣を作ったのじゃが、仲間に裏切られて魂ごとこの剣に封印されてしまったのじゃ』
「…………」
『何じゃ? いきなり黙り込んで。どうしたんじゃ?』
「いや、どうにもこうにも、いきなり話の次元が数段上がったのでショートしている」
『はん。こんな話も理解出来ないとは。器だけでなく頭の脳味噌も小さいんじゃな』
「……どうとでも言え。それよりも聞きたいことがある」
『ふむ、よかろう。この大賢者様が何でも答えてやろうじゃないか』
一々鼻につく喋り方なんだよな。とはいえここでイラついていても先には進まない。グッと堪えて目的を遂行する。
「いつ封印された?」
『はて? ワシも時間軸がおかしくのぉ。小僧がここに現れて初めて意識が戻ったからなあ。正直、何年封印されていたとか分からんのじゃ。気づいたら小僧が居たと言った方が良いかね』
「ツクヨミ。この名に聞き覚えは?」
『んにゃ。知らんの』
「全く使えねーな!何が賢者だよ!」
『何だとこの小僧!よくもこのワシに向かって───』
ふと本音を漏らしてしまったが為に、あーだこーだあーだこーだ、ララ爺から怒涛の言葉が頭の中に届く。
『お前と言う奴は──』
まだまだララ爺の説教が続く見込みだ。
このどうでもいい説教が続いている間に一旦状況を整理するが、ララ爺の返答で俺の的が外れた事が分かった。
魔王を倒すとか言っていたので、てっきり千年前から生きているツクヨミと同族の成れの果てかと思い、世界の真理に近づけたと期待したが違ったみたいだ。
「そんじゃ、お邪魔したな。帰るわ」
こんな薄汚い謎だらけの場所と、見るからに危なっかしい剣なんか放置するべきだと、来た道を戻ろうとすると──
『お、おいこら!小僧!帰るでない!』
なんて、年寄りが孫の帰宅を阻止する様な、悲痛な声が頭の中に響くのだから、かなり面倒な場面に出くわしてしまったんだと実感する。
「なんだよ、もう満足だろ久しぶりに人と話せてさ。入口もきちんと直しておくから、な、許してくれ」
『許すって何じゃ!頼む!今生の頼みだ!ワシを連れてってくれ!お願いじゃ!この剣はワシの意識と連動もしとる!性能抜群の魔剣なんじゃ!』
「魔剣って言ってんじゃん。やっぱ封印されるくらいの代物なんだよ。そおっとしておこ〜ぜ」
『やめろ〜!お願いじゃー!こんな所で一人で居るなんて死んでしまう〜!死んだ方がマシじゃのに死ねないんじゃ〜頼む〜!高圧的な態度を取った事は謝るから〜許してくれ〜!お願いじゃ〜頼む〜!!』
あー。もうマジでめんどくせえ。
ジジイが駄々こねるんじゃねえ。
なんて事を思った時───
『障壁解除カラ一定時間経過。後10秒デ侵入者排除システムヲ起動シマス』
ララ爺とはまた別の、機械で作られたような女性の声が頭に響いた。それにやたらと物騒な言葉も含んでいる。
「お、おいララ爺。なんかこの部屋にギミックでもあんのか!?」
直ぐにララ爺に確認するが、
『ワシはなんも知らん!なんかヤバそうだからさっさと抜き取ってくれ!』
気の利いた回答を得られなかったばかりか、ララ爺は自分の主張ばかり繰り返す。
「んな事言ったってな〜」
本当に抜いて良いのか、かなり迷わせるオブジェなんだよな、この魔剣。
『所定ノ手順デ至急解除シテクダサイ。……5,4,3,2,1,ゼロ。解除ガ確認サレマセンデシタ。侵入者ト断定。排除システム起動。……侵入者ヲ排除シマス』
そんなこんなしている内に、排除システムとやらが起動した。
次の瞬間、魔剣に巻きついている鎖の先、四方八方の地面に繋がっている所から抜けていった。そして渦を巻くようにぐるぐると回転しながら上へ浮かんでいく。それが魔剣から外れ、その上部で大きくぐるぐると回り続けていた。
それがどす黒いオーラを吹き出した時は、そろそろ本気でヤバい状況になってきたと理解する。
「知らないみたいだし、ララ爺を生贄にして帰っておk?」
『本当にワシャ何も知らんのじゃー!!置いていかないでくれたもー!!』
「はいはい、ワロスワロス」
『ワロスって何ぞ?』
「はははは」
目の前では敵が戦力を展開してきていると言うのに、何故か俺は笑ってしまった。それ程までに、この短時間でララ爺という存在が大きくなって居たのだと思う。
『こ、小僧〜!笑ってないで何とかしちくり〜』
「安心しろララ爺。無傷で持って帰ってやらよ」
そう言いながら腰に刺してある双刃を抜き取り、とぐろを巻く鎖に視線を向けた。




