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アーガス大森林



マシェリーが手続きし、受注したD級の依頼。それはワイルドベア一体の討伐という依頼だった。簡単に言うと、大きなクマさんの討伐だ。


「こちらが依頼内容になります」


「ありがとうマシェリーちゃん、本当にありがとう!それじゃ、打ち合わせしたいから少し移動しようか」


依頼の詳細が書かれた書類を受け取ったマイザー。彼の指示でギルド内に置かれたテーブルに移動し、打ち合わせを行う事となった。


マシェリーは「後は大丈夫でしょう」と言って俺が討伐してきたドラゴンの処理に向かった。


「さてと」


と、口を開くマイザー。


「ザックさんとやら。あんたについて教えて貰ってもいいか?」


彼から出たこの質問は当たり前っちゃ当たり前だろう。いくら実力者だと言われて紹介されたとて、そいつが何が出来て何が出来ないのか把握しないと、パーティを組んでも機能しない。それが分かっていての質問だと感じる。


「今までソロで活動していたから、パーティは組んだことは無い。今回が初だ。だけど前衛、後衛どちらでも出来る戦闘スタイルと、回復は出来ないが、身体強化のバフや相手の素早さを下げるデバフなどが使える支援系。後はリプトと気配察知能力もあるから、物の持ち運びや斥候としての役割も出来ると思う」


俺が一通り出来ることを簡単に話しただけで、マイザー含めた3人は目を丸くしていた。


自分で言っててなんだが、実際一人三役ぐらいこなせてしまっているのだから、この反応はまともだろう。


「ふえぇ。私の出番無くなっちゃいました…」


「それは私もだよ、チルトット。それだけ出来りゃ、ソロで活動してるのも頷けてしまうね。Fランクにしておくのが勿体ないくらいだよ」


「…………」


2人の感想を聞き、マイザーは少し黙って考え事をする。数秒経ったあと、俺を真っ直ぐに見た。


「今まで、本当に申し訳無かった。あんたの実力をきちんと見ずに、ランクだけで決めつけてしまっていた。この通り、済まなかった」


そう言ってマイザーは頭を下げてきた。

その行動に少し驚く。ついさっきまで俺を小馬鹿にしていたのに、今はいち冒険者として認めてくれているようだ。


『ふん、今更小僧の凄さに気付いても遅いわい』


こんなジジイから肩を持たれても気色悪いだけなのだが、と思いながら指輪に向かってデコピンをした。


『何をするんじゃ!ワシが小僧の事をどんだけ気にかけとるか──』


またぎゃーぎゃー言い始めたので、ララ爺の小言を右から左へスルーしながら、彼に向き直った。


「大丈夫だ、気にするなマイザー君。一緒のパーティとしてクエストをやるんだし、わだかまりは無しでいこう。それにマシェリーにあんだけ言われて俺から何も言えねーよ」


「ま〜、確かにあれは堪えたな〜」


バツの悪そうに彼は頭をボリボリと掻く。

そんな姿を見て、皆自然と笑みが零れた。


最初は何でこんな高飛車な奴とパーティ組んでるんだろうと思っていたが、マイザーは案外物分りがよくて良い奴なんだと理解する。


マイザーをリーダーとして、俺の命を預けてもいいと感じた。


「でも、本当にパーティを組むのは初めてなんだ。複数での戦い方やポジションなど全然分かっていないし、皆の足を引っ張るのは俺の方かも知れない」


「なーに言ってんだい。そこまで分かってんなら十分さ。本当に足を引っ張る奴なんてそんな事一つも考えちゃいないよ!」


男勝りなライラ。満面の笑みで俺の肩をバンバンと叩いてくる。頼むから痛いからやめてくれ。


「そ、そうです。私がいつも足を引っ張っちゃってるので…ザックさんが居てくれるだけで物凄く心強いです!」


チルトットからは羨望の眼差しが向けられる。恐らく彼女は小心者なのだろう。自信なさげな喋り方からそう感じさせられる。


とは言え、パーティを組んでD級の依頼をこなすメンバーの一員だ。自信が無いだけで実力は十分あるのだろう。


「この2人もあんたの事を認めているようだし、俺もあんたの話を聞く限り大丈夫だと思う。今から依頼に向かうが特に問題無いか?」


ついさっきA級クエストを終わらせてきた所だが、上薬草なる究極アイテムのお陰で疲れは溜まっていなかった。今回は他にもメンバーもいるし、負担も分散出来るはず。このまま立て続けにクエストに行っても大丈夫だろう。


マイザーの問に大丈夫と返し、3人に上薬草の残りを数個づつ渡した。


「ここ、こんな物貰ってもいいんでしょうか!?」


チルトットは上薬草を手に取ったまま、手をぶるぶる震えさせていた。


「茎の部分から汁を吸えば、外傷や体力、魔力が回復するから、有事の際には使ってくれ。命は金で買えないし、在庫もあるから気にしないでくれ」


そう言うものの、チルトットとライラは苦笑いをしていた。


「…分かった。有難く使わせて貰う。よし、出発しよう」


俺の言葉に納得したマイザーは静かに立ち上がり、それに続いて皆も立ち上がった。


依頼の場所までは馬車で行く事になっていて、その馬車が用意してくれている所までチルトットが案内してくれた。


基本的にチルトットは補助というか、雑務をこなしている役割の様だ。ほぼ一人でやっていたので、大丈夫かと声を掛けると、元々ここに居ないメンバーと半々でやっていた事らしいのだが、今は全部請け負っているとこ事だ。


荷物系等は俺に任せてくれと言って、一部雑務を引き受ける事とした。


「ほんと楽だね〜。今まで重い荷物を運んでいたのが嘘みたいだよ」


馬車の荷台に全員が乗ったところで、ライラが口を開いた。マイザー達は、これまで連泊して依頼をこなしてきていたらしく、様々なサバイバル道具を持ち運んでいた。それを俺の魔法で収納したのを見ての言葉だ。


「さっきも言ったが、俺のリプトはちと特殊で、運べる上限は無いんだけど、一度に全部出し引きしないといけないから注意してくれ」


「そ、それでも凄いです!本当に助かっています!」


チルトットは相変わらず羨望の眼差しを送ってくる。彼女にとって、雑務の一部をこなしてくれる俺の存在はかなり大きいのだろう。


「本当に、今まで済まなかったな…」


そんなやり取りを見て、マイザーは更に申し訳なさそうな表情になる。


「もうその話は終わってるぞマイザー?」


「ああ、悪い」


「ザックさん、暫くほっといてやってくれ。マイザーはズルズル引きずるタイプなんでね。女の子にフラれた時はいつもこんなもんさ」


そう言ってはははと笑い飛ばすライラ。チルトットは苦笑いになるが、当の本人は項垂れていた。俺の事よりも、マシェリーにボロクソ言われた事がクリティカルな様だ。


「うし!いつまでもしょげてらんねーな!この依頼終わったらパーッと打ち上げしようぜ!」


マイザーは自身の両頬を叩き、気合を入れた。


「依頼について、詳しい打ち合わせしたいんだが、このまま話しても大丈夫か?」


キリッとしたその表情にはもう迷いは無い。流石はリーダーと言いたいところだ。


「大丈夫だ。俺からも提案しようと思っていた」


そうマイザーに返し、目的地に着くまでの間、戦闘等の細かい打ち合わせを行った。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




ブルーメルから馬車で数時間、揺られて辿り着いた場所は、アーガス大森林と呼ばれる魔物の群生地だった。


薬草採取で行った魔硬樹の森は、名前こそ物騒だが、殆ど魔物もおらず居たとしても小動物系。初心者の冒険地と言って良いぐらいなのだが、このアーガス大森林はそれとは比べられない程の魔境だ。


森の入口からでも、気配探知能力で感じられる魔物の数は計り知れない。


「この森は、通称初心者殺しの森とも呼ばれている。冒険者が強くなる過程の中、ここを乗り越え無ければ上には行けない」


馬車から降りて、装備等を準備をしている時にマイザーが呟いた。彼の言う通り、ランクの低い冒険者からすれば確かに難易度が高い場所なのだが、


『ワシらにとってはお宝の森じゃな』


本当にどうしてこうも意見が同じになるのか不思議で仕方が無い。ララ爺の意見に100%同感だ。


魔物の数が多ければ多い程、強ければ強い程、その分得られる物が多くなる。こんなに美味しい場所があるなら一人でこれば良かったと思った次第だ。


「ははっ、ザックさんにとっては杞憂だったな」


そんな俺の表情を読み取ってか、彼の表情は緩んでいた。


「私らは結構厳しい所なんでね、ここから帰るまで笑顔にはなれないさ」


「お、同じくです。ここは怖い場所です…」


装備や準備を整えたライラはキリッとした表情で森の入口を睨む。隣のチルトットは、魔法少女に似つかない完全武装で身を固めていた。


『奇抜な格好じゃな』


ララ爺の感想に吹き出しそうになるのを必死に抑える。


「OK。気配察知がある俺が先導する。皆は周りに注意しながら着いてきてくれ」


「分かった、頼んだぞ」


マイザーの承諾を得て、他2人にも目配せした後、木々の中を掻き分けて入って行った。



※※※



かれこれ、半時間程度は進んだだろうか。


『前方2時の方向、敵影3』


フロストドラゴンから奪い取った気配察知はかなり便利な物だ。何処にどんな魔物が居るのが手に取るように分かる。


この能力はララ爺にも共有するみたいで、先のように指示をくれる。それは俺自身も分かっている事で、捉えた魔物に向けて黒針を瞬時に発動させ、貫いた瞬間に雲丹の様に棘を爆散させていた。


『またハズレじゃな』


これで19体目。

どれもこれも得られた能力は''野生の勘''とかいう訳の分からない能力。恐らく、野生動物が元から備わっている能力なのだろうが、気配察知に比べるとカスみたいな能力だ。プラスに思えたのが、魔法属性として土と毒を手に入れたぐらいだった。


俺が倒した魔物に関しては、いつの間にか針で身体を貫かれ、次の瞬間には無数の棘で内側から爆破される。これが実質コンマゼロ秒以下で行われるのだから、つくづく可哀想に思えてくる。


「……あの〜、結構進んでるのに魔物に遭遇しませんね…」


後ろを歩くチルトットの声。


「気配察知で魔物を避けて通っている」


「な、成程〜本当に凄いです!」


勿論、嘘だ。

寧ろ魔物が居る方向に進んでいると言って良い。このやり取りをしている瞬間にも周囲を飛んでいた蛾のような魔物を爆散させていた。


『お、これは当たりじゃな』


【モルスファー】

属性:風

能力:毒鱗粉、超音波


ふむ。気配察知程度では無いが、中々の能力を引いた。この毒鱗粉という能力、任意の身体の部位から鱗粉を出すことが可能だ。この能力に、風操作を加えただけで恐ろしい殺戮能力となってしまうのは容易に考えられる。


毒の種類も様々な種類を操れ、組み合わせによっては特効薬に変換出来る優れものだった。


そして超音波。これも気配察知と合わさると、またえぐい能力になってしまう。暗闇や霧等で視覚が潰されたとしても、身体で感じ取れてしまうのだ。この森を目を瞑ったとしても歩ける自信があるぐらいの代物に昇華してしまった。


「今までは私が斥候の役目を担っていたのに、楽で仕方ないさね」


俺の後ろを歩くライラから感心する声が聞こえた。

皆に隠れて能力ハントを行っているのは少し気が引けるが、誰も気付いていないし逆に感謝されているくらいだから問題無いだろう。


「お喋りはここまでにしよう。この先にワイルドベア一体が潜んでいる。場所は開けているから戦いやすいと思う」


3人を静止させ、そう伝えた。俺達がいる場所から数十メートル先に、ワイルドベアと思しきクマの様な魔物がいる事を感じ取れていた。


「了解。ここまで無傷で案内してくれたんだ、ザックは休んでてくれ。場所が開けてて敵も一体なら俺達で十分さ」


殿を務めていたマイザーが、先頭まで出てきてそう申し出た。


「了解。危なくなったら直ぐに支援に入るから後ろは任せてくれ」


「ああ、頼む」


マイザー達は腐ってもEランク。これまで皆でやってきた実績もあるから任せてもだろう。それに俺も俺で別の事に集中出来そうだ。


「………」


茂みからターゲットを確認するマイザー。


「よし、準備はいいか? いつも通りの連携で行く」


一呼吸置いて、ライラとチルトットに確認する。2人は首を縦に降り、それぞれ武器を構えた。


「行くぞ!」


マイザーは掛け声と共に茂みから即座に飛び出し、ワイルドベアに向かって突進した。手には大きな槍を携え、その矛先をワイルドベアに向けて突き進んで行く。


「いくよ!」

「はい!」


少し遅れて、ライラとチルトットがマイザーの後に続いた。しかし彼女らは既に攻撃態勢に入っている。


「は!」

「ウィンドブラスト!」


ライラは弓を、チルトットは風の魔法弾をそれぞれ放った。


ガルルッ!


ワイルドベアは向かってくるマイザーに気を取られていた所為で、その攻撃に対して後れを取る。


グギャッ!


弓と魔法が直撃したワイルドベアは少しよろめき、体勢を崩す。


「はあああ!!」


ギャゥウウン……!


そこを逃すマイザーでは無かった。ワイルドベアとの間合いに素早く入り、槍で顎から頭にかけて貫いた。

先の号令から、ものの数十秒の出来事だった。


「ほぉ〜」


『ほお、中々やりおるのあ奴ら』


その見事な連携を後ろで見ていた俺達は素直にそれを賞賛する。


マイザーは近距離、チルトットとライラは遠距離からの援護。マイザーが特攻し、それに気を取られているところに援護射撃、その援護射撃に気を取られているところにマイザーの攻撃。中々のフォーメーションだった。


『それに比べて小僧ときたら…』


「いやもう仕方ねーだろ。こんな能力持ってんだから俺がこの役買って出て正解だったんじゃね?」


ララ爺に向かってそう言いながら、''黒針''を解除する。瞬間、直ぐ後ろの方で何かが倒れ落ちる音が''数体分''聞こえた。


【ワイルドベア】

属性:土

能力:気配遮断、身体強化


「いやあ、ここに来る前に超音波を持っていなかったらヤバかったかもしれんな」


『まあ、確かにじゃの』


俺が仕留めた数体のワイルドベア。それは俺達を囲む様に散らばっていた。マイザー達が倒したワイルドは囮のような物だ。元々群れの中でそこまで強くは無いのだろう。それに群がるハンターを一網打尽にする為の囮だ。


俺が超音波と気配察知があったからギリギリこいつらの接近に気付いたものの、ただの気配察知だけだったら後ろから殺られていたに違いない。


『気配察知に気配遮断か。ほほっ、強力な能力が増えたもんじゃ』


ララ爺もウキウキするのは仕方がない。

この気配遮断、中々にやばい能力だ。暗闇に乗じてこれが発動されれば防ぎようが無い。そんな能力がある上に気配を察知する能力が備わった俺。悪い事に使えそうでニヤニヤが止まらなくなる。


「おーいザック!このワイルドベア持って帰るの手伝ってくれ」


色々と悪知恵を膨らませていた所でマイザーから招集の声がかかった。


すぐさま亡骸の場所まで行き、マイザーが仕留めたワイルドベアを空間に仕舞った。

他のワイルドベアはただの肉塊に変わっているし、この森の肥料となるから別に放置で良い。


「これで依頼は完了だ。後は無事に戻るだけだが、またよろしくなザック!」


いつの間にか呼び捨てになっていた。少し砕けた喋り方にもなっている所から、友として認めてくれたと感じる。


「ああ、任せろ!」


元気よくそう返したが、まだ数個しか良い能力を回収出来ていないのに、ここを離れることが少しセンチメンタルになった。


……少しくらい遠回りしても良いだろう。


「こっちだ。先の戦いで少し集まってきている魔物がいるから道を変える」


「流石はザックさん!」

「ははは、本当に助かるよ」

「また帰りも頼むな」


3人から信頼の眼差しが向けられるが、


勿論、嘘だ。


『……本当にこの小僧は性悪よの』


──うるせボケ。


指輪に悪態をつきながら、森の中を必要以上に彷徨って元きた場所へと戻って行った。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




ギルドに戻ってきた時には既に日は暮れていた。

森の中をひたすら歩き回り、あまり乗り心地が良くない馬車に長時間揺られたお陰で、かなりヘトヘトになっていた。


手持ちの上薬草は配りきった後だったので、体力を回復させる手段は無かったのが痛手だった。


「お帰りなさいませ」


ギルドの扉を開けると、待ってたかのように出迎えてくれるマシェリー。「こんな遅くまで残っていなくても」と言うと、「帰っても別にやる事ないので」と笑顔でかわされる。


早速、受付の方まで行き、依頼の達成状況と報告を行った。開けた場所にワイルドベアの死体を転がし、他のギルド員の査定を受ける。


「依頼通りの成果です」


「ありがとう」


査定が終わったギルド員からマシェリーは報告用紙を受け取った。そのままカウンターまで行き、さささっと書類の手続きを行う。


「お待たせしました、こちらが報酬になります」


ものの数分で手続きを終わらせ、出された報酬をマイザーが受け取った。


「マシェリーちゃん、今回は本当にありがとう!ザックを紹介してくれて助かったよ。依頼がスムーズに済んでビックリしたね!」


「ホントにだよ。荷物持ちから斥候から何までやってくれて、こんな人材、Fランクにのさばらせておくのが勿体ないくらいさね!」


「そ、そうです!今回凄く助かりました。普通なら寝泊まりするぐらいの依頼なんですけど、当日で帰って来れちゃいましたからね…」


マイザー、ライラ、チルトットから俺とマシェリーに対して感謝の言葉が送られる。


「そう言って貰えると、紹介したこちらも嬉しいですね。これでザック様の実力を分かってくれる人が増えました!うふふ」


と、満面の笑顔になるマシェリー。その笑顔は、目の前にいるマイザー君には少し効き目が強かったみたいだ。ボケーッと鼻の下を伸ばしていた。


「あれ、マイザーさん達は次回ランクアップの試験ですね。今回と同じ場所の、アーガス大森林でワーウルフの討伐になりますが、今回は予行演習と言った感じだったのですかね?」


書類をパラパラと見ていたマシェリーからマイザーに質問が飛ぶ。


「そうなんだよ。試験前に予行演習として自信をつけたかったんだけど、ザックのお陰で簡単に終わっちまったね。逆に不安が残ったよ」


「当日は何かあった時としてCランクの方を1人同行する予定ですし、ワーウルフの方がワイルドベアよりも弱いですから大丈夫だと思いますよ?」


「だといいんだけどね」


苦笑いで答えるマイザー。やはり不安要素が拭い取れないのだろう。実際、今回のワイルドベアの討伐は危ない所が多かった。彼らで大丈夫なのかと心配になるが、同行してくれる冒険者もいる事だし、大丈夫と思っておこう。


「ザック様に次の依頼を御用意していたのですが、場所はたまたま同じくアーガス大森林です。もしかしたらマイザーさん達とばったり会うかも知れませんね」


「ありがとうマシェリー。もう一度あそこに行ってみたいと思ってたんだ」


ワイルドベアを回収した後、グルグル森の中を回って手に入った能力は殆どなかった。もっと森の奥に入りたいと思っていた所だった。


「期間は設けませんので好きなだけ採取してきて下さいね!」


「そんなに長期間潜ると思ってるの?」


「顔に書いてございます」


「何故バレた!」


ははははと、俺とマシェリーのやり取りを見ていたマイザー御一行から笑いが飛んだ。


そんな和やかな雰囲気が流れている時──


「いつまで突っ立ってんだ。用が終わったならさっさと帰れ''色つき''が」


すぐ後ろの方から、ガラの悪い声が俺達に向けられた。


振り返ると、そんな声とお似合いと言って良いのか、見た目もゴロツキの様なリーダー格の大男が1人、その下っ端の様な取り巻きが2人いた。


リーダー格の男のプレートは銀色のBランク。取り巻きは白色のCランクだった。


さっき男が喋った''色つき''とは、首から下げてるプレートに色が付いている、Dランク(青)以下の事を指す悪口だ。


Cランクの白色を境として上が上級冒険者、下が駆け出し冒険者と、暗黙の了解程度の認識で分かれてはいるが、基本的に色つきという言葉を使う人は居ない。


こういったガラの悪い奴や、格差を付けたがる奴が頻繁に言ったりしている。


「狡猾のサージェント…」


隣のマイザーがボソッと呟いた。恐らくこの大男の名称なのだろうが、その二つ名はどうかと思う。


「なんなの? 偉いの?」


「人を食い物にするって有名だ。オマケに実力もあるから輪をかけて厄介な奴だ…」


ふーん。そんなもんかね。


「なにコソコソ話してんだ。さっさと帰れクソが」


そう吐き捨てながら俺達を押し退け、カウンターに座っているマシェリーの前へと歩いて行く。


「なぁマシェリーちゃん。そろそろ俺と飲みに行こーや?」


そして間髪入れず、マシェリーを口説くという冒涜を犯した。瞬間、頭の中で何かがはち切れる音が聞こえた気がした。


「…ちょっと待てやオッサン」


「ああ? んだテメー?」


気付いたらサージェントに啖呵を切っていた。マシェリーの困った表情を見て反射的に動いてしまったようだが、別に反省はしない。


「お前、そんな感じでナンパしてもYESって言って貰えると思ってんのか? ナンパの心得分かってんのか? ああ!?」


「ん…ん? おあ? な、何だって!?」


斜め上の言葉が飛んできたのか、サージェントだけでなく、この場にいる全員が頭の上にハテナマークを浮かべていた。


「いいか!ナンパってのは礼儀正しさが必要不可欠なんだよ!お手本見せてやるから見とけよッ!」


「お、お、おぉう…」


俺の訳の分からない圧力に屈してか、サージェントは少し下がる。その空いたスペースに割り込み、マシェリーを見据えた。


対する彼女は目を丸くして見つめ返してくれていた。恐らくこの状況に付いていけていないのだろう。


こほん、と息をつき、


「マシェリーさん」


彼女の目を見て名前を呼んだ。


「は、はい。何でしょう…?」


──ちょっと緊張しているな。不安を解す方向で行こう。


たったの一言程度のやり取りで得た感触で、ゴールまでの道筋を立てて行く。


「今度の休みにお食事行きませんか?」


まずここでポイントそのいーち。目的を最初に言う事。これで相手は、こちら側の言いたい結論が頭の中にインプットされる。


「オルクスさんからお食事チケットを頂いたんですけど、行く相手が居なくて…。調べたら結構高価なレストランだったし捨てる訳にも行かなくて…」


そしてここでポイントそのにー。相手の返事を待たずして断りずらい理由をつらつら並べる。これで最初の目的に対する理由が、相手の頭にインプットされる。


「いつもお仕事頑張ってて、俺にも良くしてくれるマシェリーさんにお返しがしたくて」


そしてここで相手を褒めつつ、そして極めつけに──


「要するに、俺とデートして下さい!」


下心をここで暴露する。こんだけ言っちゃ、逆に清々しい感じがして相手にも好印象だろう。


「え!? はっ、はい!わ、私で良ければ…喜んで…。その…あ、ありがとう…ございます」


そう言ってマシェリーは俺が差し出した手を取った。

最初は動揺していたのか驚いた表情をしていたが、状況を理解すると徐々に恥ずかしがる素振りをして頬を赤らめていた。


その瞬間、これを近くて見ていた冒険者やギルド員のから何故か拍手が巻き起こった。特に女性陣からは拍手喝采だった。


「はわわわわ!ライラさん!凄いです!なんか凄いの見ちゃったです!」


「落ち着きなチルトット。戦闘だけでなくこっちまでやり手だったとはね〜。こりゃ負けだわマイザー。諦めな、ははは!」


興奮してその場でぴょんぴょん跳ねるチルトットと、豪快に笑いながらマイザーの肩をバンバン叩くライラ。


叩かれている本人はそりゃ物凄い表情をしていた。せっかく芽生えた友情に亀裂が入ったのかもしれない。


そしてそれは隣にいるサージェントも然りで、マイザーの変顔が可愛く見えるぐらい変な顔になっていた。取り巻きの2人組は周りにつられて拍手してくれていたから悪い気はしなかった。


「っテメーらなに拍手してんだ!」


「す、すみませんアニキ!」


それに気付いたサージェントは取り巻きの内の一人を殴る。


「それにテメーだ!人の女横取りしてんじゃねえ!ああ!?」


一体どうやったらこんな悪党みたいな表情出来るんだろうって言うぐらいの変顔が目の前に来る。


「いや、元からマシェリーは誰のものでもねーよ。彼女が誰を選ぶかなんて、彼女の自由だぜ? それを許容出来ないなら、悪いけどお前の出る幕ねーよ」


余裕の笑顔でそう言い返すと、ヒュー!ヒュー!と外野が盛り上がった。


「色つきの分際で〜」


サージェントは青筋を立てて俺の胸ぐらを掴む。何故かマイザーもサージェントと一緒になって俺を睨んでいた。何でお前はそっち側なんだコノヤロウ。


「そこまでだ!」


一発触発の状況で、大きな声が響いた。

人集りが少し開けると、そこにはカルドレインのオッサンと、少し背が小さいお爺さんがこちらに向かって歩いてくるのが見てえた。


「ちっ!」


それを見たサージェントは胸ぐらから手を離し、俺を突き放す。


「騒がしいと思って来てみたが、サージェントか」


「なんだよカルドレイン。この俺に楯突いた奴がいたからちょっと説教してやってただけだ」


カルドレインは、この状況の真っ只中にいる俺を一瞥し、サージェントに向き直った。


「お前程の実力でも見抜けんか…」


「んだよ?」


「喧嘩を売る相手を間違ってるって言ってんだ。そこのザック、手を出したら死ぬぞお前」


「ああ!? マジで言ってんのか? 色つきだぞ!?」


「俺の言ってることも、そいつの実力も見抜けんのなら、この場は引け。これ以上暴れるとお前を除名しなければならん事になる」


声を荒らげるわけでもなく、カルドレインは静かに言う。それがかえって凄みが増していた。


「ちっ!帰るぞ!」


「あ、アニキ〜!」


その凄みに怯んだのか、サージェントはこの場を後にした。雰囲気も和らぎ、人集りも自然と減っていく。


「また一段と強くなったみたいだな」


カルドレインが近づきながら言ってきた。

まあな、とだけ返し、横にいるお爺さんに目を向ける。


『この爺、ワシ程じゃ無いが中々の化け物じゃな』


──ちょうど俺もそんな事を思ってた所だよ。


ララ爺の感想に心の中で返事をしていると、


「お主がザックじゃな」


お爺さんが声を掛けてきた。


「はい、そうです」


「顔を見せるのは初めてかな。わしはこのギルドのマスターをしているゼノンという者じゃ」


このお爺さん、やはり只者ではなかった。強くなった今じゃ分かるが、横にいるカルドレインが可愛く見えてくる程の実力者だ。


「噂は良く聞いとる。これからもこのギルドの為によろしく頼むよ」


そう言ってゼノンは俺に微笑み、肩をぽんぽん叩いた。


「それじゃ、行こうか」


「は!こちらです」


何か用事があるのか、ゼノンとカルドレインは直ぐにこの場を後にした。


後に残ったのは元いたメンバー。

順に顔を見回し、マシェリーと目が合うと、彼女は顔を赤くして下を向く。


「そんじゃ、私らはお邪魔みたいだし帰るわ!」


「そ、そうですね!ザックさん、今日は本当にありがとうございました!また試験の時、会った時は助けて下さいね!」


「こらこら、そんな事してもらったら受からないよ? ほら、マイザーもいつまでもぼーっとしてないで帰るよ!」


「お…おう」


気の抜けたマイザーを引きずりながら、ランクとチルトットはギルドを後にした。


残るは俺とマシェリーのみ。


「……先程は、本当にありがとうございました。サージェントさんには本当困っていまして、物凄く助かりました」


そう言いながら深々とお辞儀する。


「お食事、楽しみにしていますね!」


そして純粋な曇りなき笑顔を向けられ、ルンルンスキップでマシェリーはカウンターの奥の方へ向かって行った。


ぽつんと立ち尽くす俺。


「さてと…」


『罪な男じゃわい』


「るせっ。さっさとオルクスさんに泣きつきに行くぞ!」


『こんな男のどこが良いんじゃ…』


マシェリーのあの笑顔は裏切ってはダメだ。さっきは口から出任せを言ったが、ここから本当にしていかなければならない。


「食事チケット…くれるかなぁ…?」


『くれない方に賭けたいところじゃわい』


ララ爺の批難を受けながら、オルクスさんがいるオルクス商会へと足を向かわせた。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




とある酒場。


「クソがああ!あの色つき共め!!」


酒を何杯もかっぱらい、空になったグラスを机に叩きつける。


「あ、アニキ。いつになく荒れてますね」


そこにサージェントと取り巻きの姿があった。彼らはギルドから酒場に直行し、酒盛りをしていた。


「あの黒フードのザックとか言う奴、ただじゃおかねぇ」


「アニキ、カルドレインのオッサンから目付けられてるし、直接手を出しちゃ不味いんじゃ…」


「ああ!?」


「ひぃい!すみません!」


「誰が直接手を下すっつったよ」


そう言いながらグビっと酒を飲む。


「へ? そしたらどうやって?」


「あいつら、確かアーガス大森林に行くって言ってたよな?」


「へぇ、確かに言ってやした」


「あそこにいるワーウルフなんだけどさ、知ってっだろ? そいつらの気性の荒らさ」


「へ、へぇ。確か前に赤子を取り上げた時はCランクの俺達ですら大変なくらいでした…って、そしたら?」


「決まってんだろ。魔物達に頑張って貰おうじゃないか!ははははは!はははははは!」


酒場には下品な悪い笑いが響き渡っていた。




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