終わりの始まり
「ユウ、本当に行くのか?」
岸に降り立った俺に向かってレイラが尋ねる。
目の前には大きな城が出迎えていた。
「そりゃ行くしかなくね?」
「だがなぁ」
レイラはあまり乗り気になれない様だ。
それもそのはず。ここまで来る途中、数えきれない程の魔物の残骸が転がっていた。異常な状況に不安が募らない方がおかしい。
城の桟橋に止めてあった船にセントブルグの国旗が掲げてあったのが見え、細切れにされた魔物が誰にやられたのかはだいたい検討が付いたが。
「まあ、確かにヤバそうな雰囲気ではあるな…」
城を見上げ、昨日の事を思い出す。
俺とレイラは、あの後、ポケットに入っていた地図を頼りに指定された場所に行った。
そこで見た物は割と大きめのモーターボートの様な船だった。それに乗り込んで扉を開けると、机の上に手 紙が置いてあった。そこには船の操作方法と目的地が書かれていた。
その指示に従う義理は無かったが、壁に貼られていた世界地図を見て絶望する。
俺達がいた場所は遥か海のど真ん中にある孤島で、そこからセントブルグに戻るには、この小さな船で航海するには厳しすぎる距離だと理解した。指定された場所に行く方がまだ現実的だと判断する。
仕方なくと言うか、ほぼ強制的にその場所に行くしかない状況に怒りを覚えるが、部屋の中に応急セットなるものが置いてあり、レイラの手当を満足かつ迅速に行えたのは素直に感謝した。
体力も気力も底をついた状況で出発する気は無かったので、その日は船の中で泊まる事にした。シャワールームも備えてあり、このままここで生活してやろうかと思ったぐらいだ。
翌日、操作方法を読みながら船を動かし、この地へと向かった。
レイラは回復魔法を使ったのか、折れた腕は不自由なく動かせるまで回復していた。腫れていた頬も元通りの綺麗な顔になっていてほっと胸を撫で下ろす。
その顔を見たレイラは何故か泣き出し、俺も何故か泣いていた。
そこからほぼ丸1日かけて航海していたのだが、アルベリオで講師をしていた話など話すことは沢山あって時間はあっという間に過ぎていた。
で、今に至る訳だが、
「これは完全に騙された気がするな」
それは手紙の主に言った言葉だった。
何のために手当をさせて十分な休養を取らせ、こんな危険な場所へと向かわせたのだ。そればかりが気になってしまう。
「同感だ…」
レイラは蒼く輝く槍を手に取り呟く。
船の燃料も丁度切れたようでこのまま進むしか選択肢が無い。
「まあ、セントブルグのお偉いさんもいるみたいだし、安心しようぜ?」
根も葉もない言葉だったが、素直に思った言葉だった。多分ここに来ているのはデューク達だろうけど、俺とレイラだけだとかなり心細かったのは間違いない。
ただ、何のためにデューク達はここに来ていて、そしてここは何処なのかがまだ分からず、それは不安要素として楔のように残った。
「そうだな、行こうユウ。そして生きて帰ろう」
力強い言葉だった。
レイラの言葉に頷き、そっと抱き寄せる。
「わっ、ちょっと!」
「何かあっては遅いからな」
「ユ、ユウ…ん!」
レイラにとっては不意打ちだろう。
顎を引き寄せて口付けした。
「ん……も、もう…バカ……」
顔を赤らめて悶えるレイラ程可愛いものは無かった。
こんな異様な場所であろうとお構い無しに、押し倒してしまいそうになる。
が、我慢する。
「好きだ」
「……知ってる」
「なんで知ってんだよ〜」
「わわわ!こ、こらユウ!」
そのままくしゃくしゃとレイラの頭を撫で続ける。
本当に可愛くて愛おしかった。
生きて帰ろう、絶対に。
心の底から思った瞬間だった。
そしてそのまま突き進み、城へと入り、階段を登って登って最上階へ。
階段を登りきった目の前には大きな扉。
その扉は無造作に開きっぱなしになっていて、その先にはセントブルグ国最強の兵士達と、異様な雰囲気を放つ男、そして脂が乗ったクソ貴族がいた。
「あ!!あいつは!!」
レイラが取っ組み掛かろうと駆け出そうとするが、それを掴んで制止させる。
「なんで、どうしてユウ!私達の敵よ!!」
レイラは頭に血が上っていて周りが見えていない様だ。とは言え実の俺もあの貴族を見ただけで殺害したい衝動に駆られたが、この異様な雰囲気の所為で一周回って冷静になった。
「待てレイラ。様子がおかしい」
あの、黒髪の男は、一体誰だ。
そしてここは何だ。
王座の様な所に座っているが、もしかして…
「どうしたのだ魔王!早くこいつの処分を───」
貴族が男に向かって言った。
魔王
この言葉を聞いただけで、戦慄が走る。
廃城の、奇妙な女のとの出来事を思い出した。
『一つ、訂正しておこう』
空間全体で響いているかのような声だった。
冷たく、そして暗い印象を覚える。
『余は正気だ』
「な、、な、、、」
貴族が狼狽え始める。
尻餅を付き、後ずさる姿からこの魔王と呼ばれた人物と違ったのだと判断する。
この状況と話した言葉を聞き、俺達今までが巻き込まれた事件はコイツらが黒幕で大ボスだと言うこと理解した。
『今までご苦労だったな。褒美をやろう』
魔王は貴族に向かって手を向ける。
この瞬間、嫌な予感が的中したと確信した。
そして目的地としてここに来させた奴を本気で呪った。
「な!ま!魔王!な!何を!」
『散れ』
「まっ───」
次の瞬間、貴族は文字通り塵となって散った。
血痕は無く、ただ塵となって吹き飛ばされた。
「──な!」
俺の隣でその一部始終を見ていたレイラは驚愕する。呪文や魔法名を唱えずに異能を発言させる事はこの世の常識から反するものだ。それを目の当たりにしたのだこらこの反応は仕方ないだろう。
「あいつは、魔族の生き残りだ。あの島の廃城の女と同じでな」
「そ、そんな…」
畏怖の存在である魔族、その王という存在に相対しているという事実がやっと理解出来たのだろうか。レイラから戦意が無くなっていくのを感じる。
「レイラはここにいろ。絶対に動くな。奴は手を翳しただけで人を殺せる」
「ユ、ユウ…?」
レイラの目は、ユウはどうするのだ?と物語っていた。頼むから危ないことは辞めてくれという気持ちも含め。
「安心しろ。無茶はしない」
『時は充ちた。うぬらは世界が変わるその瞬間を見届ける事無く死ぬが良い』
魔王はデューク達に向かって手を伸ばす。彼らは一歩も動けず、ただただそれを見ているだけだった。
「やっべ!アクセル!!」
すぐに魔法を展開し、扉から侵入する。
腰に添えた刀を抜いて逆手で槍投げの如く構えた。
『む…』
殺気を悟られたのか、魔王は王座から飛び立つ。魔王が飛び立ったと同時ぐらいに、王座の背もたれの部分に投げた刀が突き刺さった。
その判断が数秒遅れていれば串刺しに出来ていたと言うのに、そう易々と思い通りにさせてくれなさそうだ。
何はともあれ、デューク達を助けることが出来たのは良かったと思う。まだ気を抜けないが。
「おうおう!どうしたどうしたー? 揃いも揃って立ち惚けてるとは情けないぞー!」
ボケ〜っと突っ立っている奴らに向かって言ってやった。
「ユウ!!オマエェ!!」
ヤマトが何を思ったのか叫んでいた。
「ユウ!」
「ユウさん!!無事だったんですね!!」
アーサーとデュークも信じられないようなものを見たかのように驚きを隠せない表情をしている。驚異となる魔王の存在を無視してよく視線を外せるなとも思うが、その魔王を差し置いて、皆の視線を掌握している状況に少しばかり興奮している自分が居た。
「やぁやぁ、皆の衆ご苦労だったな。あとは休んでていいぞ」
「調子に乗る所は相変わらずだな!」
ヤマトがそう言いながら駆け寄ってきた。
「とりあえず、生きてて良かったぜ」
俺の胸に拳を起きながら言う。
「だけどお前も本当に運がないなぁ。なんでこんな場所に来ちまったんだよ。まあ、お前を陥れた張本人を叩ける絶好のチャンスだけどな」
ヤマトは薙刀を魔王に向けて構えた。
「やっぱりあれ、魔王なの?」
「ああそうだ。アレが全ての異変の元凶なんだが、やはり魔王。一筋縄ではいかないようだ」
デュークが魔王に注視しながらこっちにやって来た。
『ふむ。ユウ…か』
ふと、魔王から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。皆一同振り返り、臨戦態勢に変わる。
『まさか、探し物の方からやって来るとはな。手間が省けるとはこの事か』
「なんだ?」
『余は魔王なり。名前はとうの昔に捨てた。ユウ、1000年前よりお前の存在を探していた』
「お、おう…」
1000年越しの待ち人に告白されても嬉しくもない。ましてや男だ。
『だが今とて最早要らなくなった。ただ、封印を解くための鍵だったのだからな』
鍵。
この言葉はツクヨミが言っていた言葉だ。恐らくだが、俺の能力を使って封印を解こうと、そんな目論見だったのだろう。
『まあ良い、興醒めだ。先に封印を解くとしよう』
そう言って魔王は掌を天井に向かって伸ばした。
轟音。
「うわああ!」
「ひいぃ!」
「うあ!」
今までに聞いた事が無いくらいの音だった。
バキバキと構造物が捻り切られるような破壊音を響かせ、屋根が吹き飛んだ。
『ふむ。これくらいか』
雲ひとつない空に向かって魔王は手を伸ばす。
すると空に大きな魔法陣が出現した。
ガコン
という何かの機械が作動するような音が鳴ったと思うと、その魔法陣が輝き始め、その模様が次第に変化していく。
ガコン ガコンガコン ガコン
魔王は腕を動かし、その魔法陣を操作していた。まるで、何かのパズルが解かれるような、そんな動かし方だった。
これはやばい。
と思った瞬間、魔王に向かって駆け出していた。
『貴様は大人しくしていろ』
「うおあっ!」
「ユウ!!」
魔王に吹き飛ばされ、透明な箱で出来たような空間に閉じ込められた。空中に浮かんでいるので皆の視線が痛い。
「くっそー!出しやがれ!」
壁と思しき所を殴れど包丁で切れど、ビクともしなかった。魔法の類であればすぐに脱出している所だか、これはそういうものでは無いらしい。
『さあ、続きだ』
魔王は俺から目を離し、空の魔法陣に向き直る。
「そう思い通りにやらせるか!アスカ!」
「はい!兄様!」
アスカと呼ばれたくノ一の格好をした女の子とヤマトは魔王に駆け寄る。目は紅色。鬼神化を使ったようだ。お互い薙刀にオーラを纏わせ、魔王に攻撃を仕掛ける。
『ほう、血が混じった者もいるとはな。だか…』
ガキィイイイン
ヤマトとアスカの刃は見えない壁みたいな物に阻まれていた。
「くっそおぉおお!!オラァー!!」
バチバチと紫電が舞う。ヤマトはその障壁を破ろうと懸命に足掻いていた。
『小賢しい。やはり先にこ奴らから始末するべきだったな…』
魔王は手に力を込める素振りをし、それを地面にぶつけた。
次の瞬間、目の前が真っ白になった。
やがてその光が収束し、目の前の光景が映し出される。
「おい、嘘だろ…」
デュークやヤマト達は皆地面に倒れていた。その姿はボロボロで、誰一人として動く気配がなかった。
「れ、レイラ…!」
扉付近を見ると、レイラもボロボロの姿で倒れていた。
『これで静かになったな』
魔王はそう吐き捨て、魔法陣の操作へと再び取り掛かった。
「おま…おまぇええええええ!!ここから出せやー!!クソがー!!レイラまで手を出しやがってクソがー!!ああああ!!」
必死に見えない壁を殴るが傷つくのは拳の方。そんな俺の存在を無視し、淡々と魔法陣を操作し続ける魔王。
ガッコン!
そうこうしているうちに、一際大きな音が鳴った。その音を聞き届け、魔王はその身から溢れ出るドス黒いオーラのようなものをその魔法陣に向かって注ぐ。
『カタストロフィ…』
魔王がそう唱えた瞬間、その魔法陣が溢れんばかりの光を放ち始めた。
▽魔法都市国家 セントブルグ アルガード魔法学校
「ねえアリン。今日のお昼ご飯何作ってきたの?」
「キョウちゃん、今授業中だよ」
「えー、いいじゃん別に教えてくれたって~」
「こらそこッ!今授業中だぞ!静かに!」
「す、すいませ~ん」
「ほら」
ゴゴ…ゴゴゴゴゴゴッ!
キョウがアリンに向かって舌を出した時、地震が起きた。
「な、何? 地震?」
「きゃ!」
「お、落ち着いて!机の下に隠れるように!」
その揺れは結構大きく、立っていることさえままならない。
ゴゴゴゴ…
「収まった?」
「キョウちゃん、まだ危ないよ!机の下に隠れてなきゃ!」
「大丈夫、大丈夫!いざとなりゃ魔法で何とかしたらいいんだし!って、なんだありゃ? アリン!アリン!ちょっと見て!運動場の方!」
「え? どうしたの?」
「なんだなんだ?」
キョウ達の教室は運動場を一望できる場所にある。運動場の真ん中辺りから、一本の黒い光が天へと伸びていた。
「うお!すげぇ!」
「なんだありゃ!?」
「こら君達!席に着け!」
教室がざわつく。
「アリン!何だろうねアレ!…アリン?」
アリンはその光を怯えたような目で見ていた。
「アリン? ヤバいの、アレ?」
アリンは一目見ることで相手の力量を計ることができる能力があった。それが敵意があるか無いかの判断する事も可能だ。キョウはアリンのその能力を知っていた。
「キョ、キョウちゃん…」
「…ア…リン?」
キョウは今まで一度たりともこんな表情のアリンを見たことがなかった。
目に涙を浮かべ、笑っているような泣いているような表情だった。身体は震えていた。
「ひゃ!」
「き、君達どこへ行くんだ!?」
気がつけばキョウはアリンの腕を引っ張って教室を飛び出した。
この学校にいてはいけない。
そう直感感したキョウは他人の事など考える余裕がなくなった。
アリンの手を引いたのは偶然だったのかもしれない。
とにかく、身体が恐怖に支配される前に行けるところまで逃げなければならないという言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。
▽軍事都市国家 イルバーレ
ゴゴゴゴ…
「おいおいおいおい…」
イルバーレ国には戦時中に潰れた城がいくつもある。
そのうちの一つの廃城に、ギルドフェニックスのルーカスが1人で訪れていた。
「いやいやいや。あんのマスターの考えた事がぴったんこすぎて嫌になるぜ」
ルーカスはボリボリと髪の毛をかきながら目の前にそびえ立つ黒い光の柱を凝視していた。
「だけどよ…、ちいっとばかし無理がありすぎやしねぇか? 俺1人でコイツを止めろなんて、ギルドの酒を一生分飲んでも豪邸が何軒も建てれるくらいのお釣りがつくぞ…」
ゴゴ…
地響きが収まるに連れて、天に伸びる光も縮小していく。
「かぁ。生きている内にこんな奴が見れるなんてな……魔神。伝説とばかり思っていたぜ…」
そしてその光の柱が縮小された所に、宙に浮く人物がいた。
『…………』
人物と呼んでいいのか、それは禍々しい黒いオーラを見に纏っていた。紫色の髪の毛は総立ち、白い肌に青い血管が浮き出ている。ヒラヒラした物で身を包むその姿は何故か神々しかった。
三又の黒々とした槍のような武器が握られている。
『………』
そいつはルーカスを目に捉えるとすぐに武器を投げた。武器は目にも止まらぬスピードでルーカスに向かう。
「嘘だろオイッ!」
受け止めるという判断を瞬時に止めたルーカスはジャンプして真上に飛び上がる。
ドッカーン
「ぐあおあお!」
ルーカスが今まで立っていた場所から直径100m程、地面が吹き飛んだ。
「いでえ!」
その爆風に煽られて着地をミスる。
「おいおい、勘弁してくれよ…」
態勢を整えて立ち上がろうとしたルーカスの目には、第二撃目を放とうと武器を構える魔神の姿が映っていた。
▽魔法都市国家 メルフレッド
「はぁ…」
アルヴァレノ魔法学校の屋上で、ネルフィが合宿で起きた事を思い出しながら昼食を取っていた。
「僕もあの学校の生徒だったら…友達ができているのかな…」
レイラやシルビア、そしてユウ達の事を思い浮かべては溜息をついていた。
ゴゴ…ゴゴゴゴゴゴ!
「ひ!な、何!? 地震!? な、何あれ…」
ネルフィは屋上のフェンスに掴まりながら、運動場から空高くそびえ立つ黒い光を凝視する。
やがてその光が収まると、空中に浮かぶ人影を目に捉えた。
「お、女の…人?」
赤色の長い髪を膝辺りまで伸ばしている。黒い装束の格好に大きな鎌を持つその姿は、まさに死神を彷彿させるだろう。
運動場には、体育か闘技の授業だった生徒と教師がそれを見上げていた。
『…………』
地上の生徒達を目に捉えた女は、運動場へと降りていった。
「おいお前!ここをどこだっ」
教師の1人が言葉を発し終わる前に、その女は大きな鎌を腰の辺りでブンッと一周させた。
どさどさどさ…
ブッシヤァアアアア…
キャアアアアアア!
うわぁああああ!
運動場にいたほとんどの人が真っ二つされた。それを校舎から見ていたであろう人物や運動場の生き残りが叫ぶ。
「うそ…なに…何で?」
ネルフィは恐怖で感覚が麻痺した。目の前で起きたことが現実離れしすぎていて信じられずにいる。
「え? あれ?」
運動場にそびえ立つ女に向かって、ある1人の男子生徒がヨロヨロと校舎から歩いてきているのが見えた。
片腕。
片足。
「ルフド…君?」
木の枝のようなものでできた義足でぎこちなく歩くその人物は、合宿中のサバイバル事故で無事命を取り留めたルフド・ハンスだった。
「よお、化け物」
『………』
「お前もあの女の仲間なんだろ? 同じ様な臭いがするんだよ…」
『………』
「俺の左腕と右足の代償、しっかりと払ってもらうぜ?」
ルフドは魔神を睨みつけ、そして口元を緩めた。
▽ 軍事都市国家 ブルーメル
「……あの女に一杯食わされたわね!」
「リディア!無駄口叩いていないで早く市民を避難させろ!」
「だったら黙ってなさいよユアン!あなたの声がいちいち響いて集中できないじゃない!」
「人の所為にすんなよ!しっかりやれや!」
「だからうるさいっての!…テレポートホーミング!」
リディアは絶えず大規模な転送魔法を発動させ、大勢の市民を安全な場所へ避難させていた。
「はぁ。もう何回目になるのよ…」
もうかれこれ4、50回は転送魔法を発動させている。
「応援はまだなの…」
リディアは町の中心で戦っているアルスの方を向いた。
「ほんとなんなのよアレ…」
リディア、アルス、ユアンの3人は、ユウの行方を追ってセントブルグに訪れた。ユウからセントブルグのギルドフェニックスに行けば良いと言われていた事を思い出したのだ。
そこでギルドフェニックスでギルドマスターをしているナミに会い「ブルーメルに行けばユウに会える」と言われて来たものの、会えたのは分けのわからない化け物だった。
この事態を予測していたかの如くの配置だったので、あの女狐に一杯喰わされたのではないのかとリディアは思う。
数分前の出来事。
地震が起きたと思ったら、突如黒い光が地面から吹き出し、そこから化け物が現れた。そいつは人を視界に入れるや否や、八つ裂きにし始めた。軍が応戦するも
、壊滅状態まで追い詰められている。
今は軍の最高司令官とその側近、そして精鋭部隊のリーダーのアルス、歩く唐変木のユアンの4人で応戦しているが、さっきから攻めあぐねているようだ。
『………』
その化け物は空に手を上げるた。
瞬く間に、空一面に黒光る魔法陣の様な禍々しい紋様が展開される。
「嘘!あんなの歴史の中でしか見たこと無いわよ!ほ、本当に存在したのね。…魔神」
魔神が両手両足を広げた。
魔神を中心に、空間が次々と爆発を起こしながら物凄い速さで広がった。
ギャァアアア…
ぐぇぇえ…
その爆発に巻き込まれて次々と人がなぎ払われていく。
「きゃぁあああ!」
リディアは自分を守る防御魔法陣を展開するのがやっとだった。
「あぐぅ!」
爆風に煽られて、地面に叩きつけられる。
「そ…そんな…」
リディアが起き上がって次に見た景色は、壊滅したブルーメルの城下町と、その上空に浮かぶ魔神の姿だった。
▽ 魔法都市国家 ディルド アルベリオ魔法学校
「ふぅ。だいぶ片付いたわね」
アルベリオ魔法学校は現在休校中だ。
サラはユウが使っていた資料室の掃除に取り掛かっていた。タイラーに襲われて以降全く手をつけていなかったのだ。
コンコンとドアがノックされる。
「はーい、どうぞー!散らかってるけど!」
サラは掃除しながら叩かれたドアに向かって返事する。
「サ~ラせんせ!こんにちわってちわわわ!ど、どうしたの?」
「お片付け中ですか?」
ドアを開けて入ってきたのはケイトとフローラだった。ゴミで散乱した部屋の状況に驚く。
ゴゴ…ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「わっ!」
「きゃ、地震!?」
「う…」
3人は大きな机の下に入って地震が収まるまで待った。
「うわぁ、本棚とか凄いことなってる」
机の下から一番に顔を出したケイトが資料室の有様を物語った。
「な、何あれ…」
「わからない…見たこと無い…」
ケイトとフローラは窓の外の景色に釘付けとなっていた。そこから見えるのら運動場。その真ん中あたりから黒い光が天までそびえ立っていた。
「え、何あれ?」
サラも2人につられて窓の外を見る。
やがて黒い光は縮小し、そこから1人の人物が現れた。
「え? あれ? ジュルドじゃない?」
ケイトの呟きで皆がそれを凝視する。
その人物は銀色の髪の毛が逆立ち、血色の悪い肌に赤黒い血管が浮き上がっていた。
「ジュルドに似ているけど…少し違うね」
第一、あんな禍々しすぎる黒々したオーラをまともな人間が出せる筈がない。
「「「………………」」」
彼女達は、それを目で見るほどに嫌な汗が流れた。
▽魔王城
『うぉおおぉおおぉ…』
魔王から放出されるオーラの量が先程と比べられないぐらい大きくなった。
魔王から発せられる呻き声だけで建物が崩壊しそうになるような振動を感じる。
『戻った……我が力!!』
魔王が発生したと同時に周囲の物が吹き飛んだ。
意識の無いデューク達はその風圧でごろごろと転がる。
『今頃、各地で、我が下僕、魔神達も復活している頃だろう。子奴らの国もそうだな』
魔神? 初めて聞くワードだ。
それよりも各地と言ったか?
セントブルグやディルドが危ないということか!?
『さて、貴様以外は用済みだ』
魔王がボソッと呟いた言葉に冷や汗をかく。
あってはならない事が起きようとしていた。
「や、やめろ…」
『復活したばかりで加減が難しいが、消してやろう』
「やめてくれー!!」
俺の声は最早魔王には届いていなかった。
『喜べ、人類が淘汰される最初の贄となれるのだ』
おい。ちょっと待てよ。
頼むから、待ってくれよ。
こんな、こんな急に。
バシュン──
俺の眼下にいたヤマトの姿が消えた。
「おい…」
バシュンバシュンバシュン───
そして次々と仲間の姿までも消えていった。
「あ……あ……あ……ぁ……」
そして、
魔王の掌が、
レイラに向けられる。
「や……やめ……」
届きもしない手を伸ばす。
バシュン────
レイラの姿が消えた。
「あ……あ……ぁ……あ……」
悲しみ。哀しみ。悲壮感。無力感。絶望感。
「あぁ……ぁあぁ……ぁあああああああああぁあああぁぁあああ!!!!」
声にならない叫びとなる。
目の前で最愛の人が消えた。
この手で守ると誓ったのに、
それすら守れず、死なせてしまった。
「ぁあああああああああぁあああぁぁあああくそぉおおあああああああ!!くそ!くそ!くそぉおおお!!!あああああぁああああ!!!!」
怒りが、底知れぬ怒りが噴火した。
体の底から魔力が爆発する。
「あああぁあああ!!くそがああぁ!!!!」
バチバチバチバチ───バリィイイイイイン!!
身体から放出される魔力により、閉じ込められた空間が音を立てて壊れた。
『なに!あれを内側から…開けただと?』
「あああああぁああああ!!!!」
な、なんだ…身体が…破裂しそうだ。
「うぐ!と、止まれ!」
どっくん どっくん どっくん
心臓の音が爆弾のように大きく聞こえる。アルコールが思いっきり入ったような状態だ。
バチッ─バチバチィ───
「うげぇ」
ついに放出された魔力に稲妻が灯った。
俺の足元から見た事のない魔法陣が浮かび上がり、色んな方向へと伸びていく。
円形の左右対象のようなものやきちっとした形じゃない、歪なそれは樹木の枝のように地面いっぱいに広がっていった。
バチバチッバチバチバチバチィ──
「うぉおおおおおおおお!」
『どうやら余が手を下さずとも良いみたいだな』
魔王から小言を言われるが、何を言っているのかすら聞こえない。爆発して止めどなく溢れ出る魔力を完全に制御出来なくなった
そして遂に、地面いっぱいに広がった魔法陣が輝き始める。
「あががががががが───」
バチィ──
そして、
多大に広がった魔法陣と供に、
俺はその場から消えた。




