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魔王


魔王城へ向かったデューク一向。

数日間海を渡り、そしてある大陸の運河を登っていた。この運河を登りきった先に、魔王城が構えている。


「デューク大佐!大変です!今すぐ外へ来てください!」


あと数分もすれば到着するというところで、兵士が慌ててデュークの部屋へと入ってきた。


「どうした?」


「見ていただく方が分かりやすいかと…」


「分かった出よう」


青ざめた兵士の表情を見たデュークは只事ではないと感じ取り、直ぐに部屋を出る。


「デューク大佐…、どうしましょう…」


「これは…」


船は幅30m程の運河を上っていた。魔王城はもう目と鼻の先に見えている距離だった。


それだけでは何ともない景色なのだが、その運河の両岸には数えきれない程の魔物が蠢き、こちらを凝視していた。


「今すぐヤマト達を連れてこい」


デュークは低い声で兵士に命令した。そして、腰にクロスに差してある剣を両手に取った。


「は!」


その姿を見た兵士はすぐにその場から駆け出した。


「……。さあ、どう出る?」


ギァアアアアア!


デュークの姿を見た狼のような魔物が岸から飛んできた。デュークに向かって襲襲いかかろうと大きな顎を開かせる。


「そうきたか…」


すぐさまデュークは船の端に足をかけ、その魔物に向かって飛んだ。


バシュッ


ギョエェ…


そしてすれ違いざまに連撃を浴びせ、魔物を細切れにした。


「てめぇらも、死ね…」


そのまま対岸に着地し、目の前にいる魔物から片っ端に細切れにしていった。


「し!」


ギャアアアアァァ…


「は!」


ギュエエエエェエェ…


魔物の攻撃を紙一重で避け、その隙に一太刀で真っ二つにする。そのデュークの背後から魔物が襲いかかるが、もう一方の剣がそれを斬り捨てる。まるで後ろに目が付いているかの反応だ。


デュークに次々と魔物が襲いかかるが、ことごとく攻撃を避けられては細切れにされていった。


「はぁあああああ!」


それどころか、ついには攻撃をする前に細切れにされる魔物が増えていった。


「セイントブラスト!」


デュークは光の刃を円形に放出した。光の刃は木々諸共、魔物を真っ二つにしなら突き進む。一瞬にして右岸に群がっていた魔物は一掃された。


「さてと、次はあっちだな」


そう言ってデュークは岸から飛び、そのまま船を飛び越えて左岸に着地する。


「はっ!」


グギャアアァ!


着地と同時に目の前にいた魔物が細切れになった。そしてさっきと同じように、左岸にいる魔物を蹂躙していった。


「っと、あらかた片付いたな」


デュークは左岸にいた魔物を壊滅させ、岸を飛んで船に戻る。


「1人で全部片付けてしまうんだからな。俺達の出番なんかありゃしねぇ」


甲板には数人の兵士と、ヤマト、ハルが出ていた。ヤマトとハルを呼びに行った兵士は、さっきまで両岸に埋め尽くされる程の魔物がいた筈なのにと、残骸になったそれらを見て驚く。デューク1人で魔物全てを葬っていた。


「安心しろ、お前たちの分はもうすぐすれば出てくるさ」


デュークはそう言って、眼前に迫った魔王城を睨む。


「へぇ、確かにそうだなぁ」


ヤマトは性格が悪そうな顔でニヤつき、デュークの横に立った。


魔王城は外観から雰囲気まで白々とした気品溢れる造りだ。頑建物自体頑丈そうで高さもある。どこぞの王族が住んでいてもおかしくないような城だ。


城の周りに魔物の腐った死体が無ければの話だが。


「よし、そのまま船を着けろ」


デュークの指示で、城に繋がっている桟橋に船を着けた。


「ヤマト。俺が思っていた以上に危険かもしれない。それでも来るか?」


デュークはヤマトに振り向き尋ねる。

ヤマトは邪竜討伐以降、付きっきりでセントブルグに尽力して貰っている。流離人であるヤマトにとって、一国の為に働く義理は無い。


「何当たり前のこと聞いてんだよ。ここまで来て引き返せるか。てか、行かないって言ったって、どうやってここから帰んだよ?」


魔王城があるこの大陸は基本人の立ち入りを禁止している。国の許可が無い限り上陸する事もできない。人の居ないこの大陸から出る事自体、その方法が皆無になる。魔王と交渉すればまた別の話だか。


「ははははは!ごもっともだ!お前等、よく聞け!」


デュークは船の先頭まで行き、振り返って叫んだ。


「1人になってもいい。自分の命を守ることだけを考えろ。何があっても生き延びる事だけを考えろ。例え皆が危険に晒されても、利己主義になれ。その代わり自ら進んで人を犠牲にだけはするな…」


厳かな雰囲気で話すデュークの目は真剣だった。その雰囲気に兵士達は支配される。


「俺達は少数だ。他人を気にした瞬間に命が無くなると思え。絶対に生き残るぞ。これは戦争だ!」


「「オオオオオオ!」」


周りの兵士達は雄叫びを上げた。


「いいのか? 魔王って、魔族と人間のいざこざが起きないように協力してくれている奴なんだろ?」


ヤマトが最終確認でもするかのようにデュークに聞く。


「確かにそうだ。が、今回の世界規模の異変を起こしている主要人物として黒と見ていい。お前達が命張って調べてくれたお陰でな」


「なら良いさ。かつて仲間だった者と敵として対峙する時ってのはどうしても情が働くからな。覚悟を確認したかっただけさ」


「ふっ、意気なことを。俺たち人間に牙を向いた時点で敵だ」


「安心したぜ」


ヤマトは薙刀を抱え、船から桟橋に飛び降りた。


「魔法の類は俺が防いでやる」


「ヤマトは心強いな。安心する」


デュークもヤマトの後に続き、船を降りた。


「あ!待ってください!城の中はだいたい覚えているので、僕が先導します!」


遅れてアーサーが駆け寄ってくる。


「アーサー、無理はするなよ」


「はい!任せて下さい!」


元気よく返事をするが、その顔は強張っている。

魔族というだけで震え上がる存在なのに、その長。魔王に今から会いに行くのだ。ただ会いに行くのであれば緊張ももう少し抑えれるのだろうが、命のやり取りを行うのだ。憂鬱な気持ちにならない訳が無い。


「さて、目の前のアーサー君は怯んでいる様だが、他の兵士も残りたい者は残っていいぞ。相手は魔王だ。ここで無理する必要はない」


デュークがおどけた様に言った。


「ちょーーーちょちょちょ!待ってくださいよー!僕そんな怯えてててなんてててて」


「呂律も回らないくらいビビってるとは情けない。今までの鍛錬は無駄だったな」


デュークに続き、ヤマトが吐き捨てるように言う。


「なー!ヤマトさんまで!!なんで僕弄られているんですか!!」


「上官命令だ、もう帰っていいぞ。泳いでな」


「そんなー!!」


はははは、と周りの兵士達は笑う。アーサーが弄られてくれた事により、幾らか緊張が和らいだ気がした。大佐と上官から弄られた当の本人はいじけてとぼとぼ歩き始める。しかし先程の強ばった表情は一切していなかった。寧ろ覚悟を決めたような、清々しい表情だった。


そんなアーサーを先頭に、デューク一行は城へと入って行く。


魔王城の中に魔物が待ち受けていると思いきや、一匹も遭遇しなかった。デューク達は城の中をどんどん進んでいき、建物一つ分ぐらいの高さがある大きな扉の前まで到達していた。


「この先が王座か。しかし、使用人が誰ももいないのは驚いたな。誰か1人ぐらいはいると思っていたが…」


「だろ? 俺が前にアーサーと来たときと同じだよ」


「そうだな。地下室の方はもう到着したか?」


「ああ、さっきアスカから到着したと連絡が入った」


「よし、指示を出すまでそこで待機するように伝えてくれ」


「了解!」


この魔王城に入って、デューク達は二手に分かれて行動していた。デュークとヤマト、他兵士数人のチームは魔王がいる王座へ。アーサーと他兵士数人の別働隊は地下室の実験場へと向かっていた。


地下へ向かった別働隊の内の1人に、アスカと呼ばれる人物が含まれている。ヤマトが故郷から呼んできた妹らしい。


「じゃ、覚悟はいいな?」


デュークが振り返る。ヤマトと兵士はそれに無言で答えた。



ギ…ギギ…ギギギギギ…



木が軋むような音を立ててその扉が開かれる。


「…………」


扉が人が通れるくらいまで開き、デュークを筆頭に中へ入っていった。


『何の用だ?』


その部屋に入った瞬間、頭の中に響くような、はたまた空間全体で反響しているかのような低い声が聞こえた。


部屋はかなり広く、床には赤と金のカーペットが敷いてあった。扉から一直線に伸びる赤色のカーペットの先になんとも派手な王座が鎮座していた。


その玉座に、威厳な雰囲気を放つ人物がくつろぐように座っていた。



魔王。



大きな化け物でもなく、屈強な歴戦の覇者の姿でも無い。自分達と何一つ変わらぬ人間の姿だった。長い黒髪から覗かせる何者も寄せ付けなさそうな冷たい瞳は強烈な印象を覚える。


「魔王様。突然の訪問、誠に失礼致します…」


床に膝を着くような姿勢や頭を下げるような事は一切せずに、その王を睨みつけたままデュークが喋った。


『………』


貴賓漂う黒と紫色の服に身を包み、金の装飾を首や腕に纏っていた。


「これこれ、図が高いぞこの下等生物共め。跪くがいい」


魔王が一切言葉を話さずデューク達を見ていると、玉座の奥から見覚えのある貴族が出てきた。顔写真と共に世界中で指名手配されているバルバードだった。


「貴様ッ!」


その姿を見た瞬間、デュークは全身の血液が沸騰したかのように激昂する。今すぐその首を飛ばそうと剣の鞘を握るが、深呼吸して踏みとどまった。下手に動いて部下を危険に晒さないようにと、理性が働いたのだ。


「バルバードだな。殺人容疑で貴様を拘束する。大人しく投降しろ」


デュークが強い口調でバルバードに言い放った。


「………ふはっ」


デュークに剣気を当てられているバルバードは臆することなく、反対に気持ち悪い笑みを向ける。


「大人しくすれば、この場所で斬り捨てる事はない」


「ふん」


「あくまでも投降する気は無いのだな?」


「……」


デュークの問いにバルバードは呆れたような顔で肯定する。


「死ぬ前に教えろ。お前等は何を企む?」


「企む? そうだな、まずは貴様等軍事国家の壊滅かの。続いて世界の終わりだ」


「「「「……………………」」」」」


その場にいた人は驚きを隠せなかったに違いない。バルバードの口から放たれた言葉は事が大きすぎるのだ。大きすぎで普通は有り得ないと思うが、この何とも言えぬ雰囲気がその可能性を拭い捨てる事を邪魔した。


「残念ながら、お前達の狙いは失敗に終わる」


デュークはニヤリと笑って答えた。


「お前達は俺達軍事国家の地下に大量の魔物を放っていたらしいな? タイミングでも見計らって一斉にしかけるつもりだったのだろうけど、もう全ての国で一掃したとの報告が上がっているんだよ。残念だったな」


「…………」


「もう一度だけチャンスをやる。大人しく投降しろ。魔王、お前もだ」


まるで、この世界の勇者の様だった。腰に携えた剣を抜き、その剣先を魔王に向ける。


「………………」


しかしバルバードは何かを考えているのか、俯いたままで一言も喋らない。


『……………』


隣の魔王も冷たい目でデューク達をを見下ろしているだけだ。


「くくく…」


ふと、バルバードの笑う声が漏れる。


「くはははははははは!」


次第にそれは大きくなり、この部屋いっぱいにバルバードの高笑いが響き渡った。


「………」 


その異様な光景に、周りの兵士達は口を開けてポカンとした表情をする。


「おい…」


デュークが兵士達にアイコンタクトを送った。

それに気づいた兵士は各自武器を構える。

戦闘態勢に入ったデューク達を目の前にしてもまだバルバードの高笑いは収まらなかった。


「デューク大佐!」


扉の方からアーサーの声が聞こえ、ピリピリとした空気が少し解放された。


「アーサー!指示があるまで待機と言っただろ!」


ヤマトが背を向けたまま怒鳴る。


「ヤマトさん!そんな事言ってられないんですよ!」


「あん?」


デューク含め、王座の部屋にいる全員がアーサーの方へ向いた。

扉からは入ってきた人物は、アーサーとアスカ、2人の兵士の他にもう1人いた。それはよく見ると老人だった。服は着ておらず、身体中傷まみれで見るに堪えない風貌だった。アーサーの肩を借りて覚束無い足取りで部屋の中へと入ってくる。


「あれは…」


デュークはその人物を何度か見た事があった。バルバードが城へ来た時にいつも傍にいる執事だと気づく。


「これこれ、使用人の分際で檻を抜け出すとは…」


「だ、黙れ!貴様に…貴様如きが魔王様に近寄るでない!」


バルバードの言葉に老人が反応した。


「魔王様!目を覚ましてください!そのような下賎の者に惑わされないでください!」


『…………』


老人はしゃがれた声で叫ぶが、魔王は冷たい目を放つだけであった。


「アーサー、どういうことだ。説明しろ」


事態を飲み込めないでいるデューク達はアーサーに説明を求める。


「この人、あの魔王の側近らしいです」


「なに!?」


アーサーが衝撃の事実を話し始める。


「この人曰く、あのバルバードに魔王が操られているらしいです」


「…それは本当なのか?」


デュークが老人に向かって聞く。


「………」


老人は悔しそうな表情でこくりと頷く。


「あと…僕達…取り返しのつかないことをしたみたいです…」


アーサーの話す事に、皆の理解が追いついていけないでいた。






─────遡ること30分前 地下─────



「アーサー。デュークから伝言が入った。指示があるまで待機」


「了解です。ありがとうございますアスカさん」


「……………」


はぁ、とアーサーはため息を吐く。ヤマトが呼んできたアスカという妹は相当な腕前を持っているが、これまた相当な無口な奴だ。必要最低限以上の事は口にしない。


アーサー達は地下の研究室のような場所の入口の前で物置に隠れて待機していた。


「う……ぐ…」


何だ?


入口の近くには、人や魔物の拷問に使われたであろう檻がある。その一つから誰かの声が聞こえた気がした。


「だ…誰か…いるの…か?」


しゃがれたような、今にも死んでしまいそうな声が耳に入ってきた。


「君達はそこで待ってください」


「はっ」


アーサーはアスカ達に待機するように指示を出し、物置から出てかすかな声を頼りにその場所まで向かう。


「誰かいるんですか?」


いつ何が起きても対処できるようにと、剣を抜いて近付く。


「ふ…私も…つきが回ってきたようだ」


檻の奥の壁には、身体中が傷だらけの老人が鎖で四肢を縛られて張り付けにされていた。


前に来たときはこの老人はいなかった。


「あなたは誰ですか?」


身長が高く、筋肉質な身体つきに相当な手練れだと一瞬で判断する。アーサーは鋭い目で老人を睨み、剣を構えて問いただした。


「私は…かつての魔王の側近だった…魔族だ」


「魔族…」


過去の大戦で人ならざるものへと変貌した者達。そして相対した時にすぐ逃げなければいけない存在。小さい頃から大人達に言われ続け、その身に刻まれている常識。その強大な存在を目の前にし、身震いする。


「その証拠は?」


「生憎、証拠などを見せる力は今は残っていない…」


「…僕に、どうして欲しいのですか?」


「私を魔王様の所へ連れて行って欲しい」


「………」


今まで弱々しい喋り方だったが、その一言はとても強く感じた。


「お主達にとって…有益かどうかわからないが…今奴らが企んでいる事を…話すことは…できる」


「じゃあ、それを話してください。それから決めます」


剣を構えたまま答えた。


「今…ある国々に…魔物が放たれている事は…知って…いるか?」


「知っているも何も、もう殆どの魔物は倒されていますよ」


「なん…と…」


アーサーの言葉で老人の顔付きが変わった。それを見逃すアーサーではない。


「何か、まずかったのですか?」


「非常にまずい…まずい…」


「詳しく話してください」


何か本気でヤバいことになってきていると感じてきたが、それを表情には出さずに再度尋ねた。


「お主達が…殺したのは…元々は人間だった奴が…ほとんどだ」


「………」


アーサーは以前ここに来た時の事を思い出す。培養機のようなものから出てきた人が魔物に変身した事を。


「かつての戦争時代に…名を馳せた魔族が5人いた。神にも匹敵する力を持つと言われ、魔神と恐れられていた」


「………」


魔族や魔物という言葉は聞いたことはあっても、魔神という言葉は初めて聞く。アーサーの額から冷や汗が流れた。


「魔神は…強すぎて…人々は次々と…殺されていった…。それは…我々魔族も例外では無く…。そんな時…ある者が…魔神を封印…する方法を見つけ…それを実行した…その方法とは…」


「………」


「その方法とは…沢山の人間達の血によって…封印したのだ…」


「人間の…血…ですか」


「そうだ…そして…その封印を解く方法も…」


「まさか…」


アーサーは嫌な考えが頭に浮かんだ。

その表情に老人はこくりと頷く。


「その時、魔神の指揮を執っていたのが…今の…魔王様だ…」


「え? えッ!?」


「魔王様は…身体の封印はされなかったものの…力を殆ど使えなくなったのだ。その日から人が変わったように人間達と歩み寄り始め…元々戦争に反対していた私も安心していたのだが…。その腹の中はまだ復讐に燃えていたみたいだ…」


一体何歳なんだよと突っ込みたくなったが、そんな呑気な事を言ってられない状況だと気付く。


「そんな時に…奴らが現れ…封印を解くという魔王様の悲願を逆手にとり…その強大な力を支配しようとしたのだ」


「それがバルバード…」


「魔王様は…操られていると言っても過言ではない」


「それなら!!」


アーサーは檻を破壊し、縛り付けている鎖も断ち切った。


「なんと…」


「君達!今すぐデューク大佐のところに戻りますよ!」


「し、しかし…」


「こんな所でじっとしていてはダメだ!早くこの人を連れていかなきゃ!」


アーサーは老人を背負い、玉座を目指して地下の階段を駆け上がっていった。


「おい、どうするよ」


「どうするったって、指示はここで待機だし…」


残った兵士はどうしたら良いのか分からず困惑する。


「あ!おい!」


兵士がモタモタしている間、アスカはアーサーを追いかけて走り出した。


「くそ、俺達も行くぞ!」


「あ、でも…」


「早くこいって!置いてくぞ!」


「わかった、わかったから!」


残った兵士もその後を追いかけて走り出した。




───────

─────

───





「そ、その話は本当か?」


「う、嘘だろ…」


アーサーの話を聞いたこの場にいる全員が額から汗を流した。


「お主達に頼む…魔王様にはもう是…非を判断する事ができない状況だ…。どうか…魔王様を解放して上げてください…私には…もう力が…残っておりませぬ…」


老人がデューク達に向かって土下座して頼んできた。


「くはははははははは!使用人の分際で寝返るなど言語道断!魔王、裏切り者に天罰を下せ!」


『………』


バルバードが魔王に向かって耳打ちをする。


『………』


しかし魔王はその場から身動き一つ取ろうとしない。


「どうしたのだ魔王!早くこいつの処分を───」


バルバードが魔王に向かって言葉を発した瞬間、魔王の目が紅く神々しく光った。その目で見られたバルバードは固まってしまう。


『一つ、訂正しておこう』


そして静かに話し始めた。


『余は正気だ』


「な、、な、、、」


ギラりと光る眼光で射抜かれたバルバードはその場にヘタリ込み、後ずさりする。


『今までご苦労だったな。褒美をやろう』


そしてバルバードに向かって手を向けた。


「な!ま!魔王!な!何を!」


『散れ』


「まっ───」


次の瞬間、バルバードは文字通り塵となって散った。

血痕は無く、ただ塵となって吹き飛ばされた。


一瞬の出来事だった。


そのゼロコンマ以下の出来事に、

この場にいた全員が戦慄する。


「ま、魔王様、いつから正気で…」


老人が狼狽えた目で見る。


『余は初めから正気だ』


「な……」


『下等種族をこの世界から消し去り、君臨する。初めから何一つ変わっていない』


「魔王様…」


魔王から冷たく言い放たれた言葉に、老人は項垂れる。


『時は充ちた。うぬらは世界が変わるその瞬間を見届ける事無く死ぬが良い』


魔王の眼光はデューク達を捉える。

先程バルバードを塵にした時と同じようにその手をデューク達に向けた。


「あ……」


デューク達は何一つ身動きが取れなかった。

バルバードがどうやって殺されたかも分からず、ただ、手が前に出ただけどしか認識しておらず、そしてその手が自分達に向けられた。


ただ、見ているしか出来なかった。


『む…』


ガキィイイン──


しかし、魔王からは何も放たれなかった。


魔王は飛び立ったのか、王座の後ろへとその身を移動させている。


「なん…だ?」


デュークが目を凝らして見た先、先程まで魔王が座っていた王座には刀が突き刺さっていた。



「おうおう!どうしたどうしたー? 揃いも揃って立ち惚けてるとは情けないぞー!」



そして扉の方から、何とも憎み切れない声が聞こえてきた。



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