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元凶



「ユウ!ユウ!しっかりしろ!」


レイラはユウを連れて全速力で廃城から離れ、以前皆で休憩していた砂場まで戻って来ていた。砂浜にある大きな岩にユウを下ろし、何度も身体を揺さぶって無事を確かめる。


「…………」


しかしユウは返事に答える事なく、その瞳を閉じたまま何も反応しなかった。


「あの女が言っていた事が本当なら…」


ユウは…二度と目覚めない。


「くそ!」


レイラは岩を思いっきり殴る。鈍い音が鳴り、握った拳からは血が流れた。

自分の無力さを痛感し、これからどうしたら良いのか検討もつかず、ただただ腹立たしさだけが残り続けていた。


「どうやら生き残ったみたいだね」


「なっ!誰だ貴様!」


レイラのすぐ後ろから図太い男の声が聞こえた。その声にすぐ反応したレイラは、ユウを抱えて瞬時に飛び出して距離を取った。それに遅れて、爆発した音が辺りに散漫する。


「…成程、実力はあるようだ」


男は何も動じることなく、小さく呟いた。


今までレイラがいた場所を見ると、粉々に砕け散った岩場があった。後一歩遅かったらただの肉塊となっていただろう。


「………」


レイラは冷や汗をかきながら、新たに現れた男の姿を目に捉える。


灰色のスーツに身を包んだ長身。

緑色の髪をオールバックの様に後ろへ流している。


確か、サバイバルのオリエンテーションを説明してくれていた教員だと、レイラは思い出した。


何故この教員がここにいるのだ?

そもそも何故攻撃してきた?

殺すつもりで撃ってきたぞ?

あの廃城にいた女とグルなのか?

ユウを抱えたままでこの男に対処できるか?


様々な疑問が浮かんでは残り続け、レイラの思考能力を奪うのは簡単な事だった。


バチバチィ─


レイラは警戒心を強め、再び雷と同化した。ユウを抱える力も自然と強くなる。


「貴様、これはどういう事だ?」


男を睨みつけ、低い声で問いただした。


「なに、ちょっとした食料調達と実験だよ」


「食料調達? 実験?」


「あの廃城には僕が崇拝する魔族様がいらっしゃってね。食料調達するのにこのサバイバルイベントがうってつけだったんだよ」


「魔族…だと?」


男の言葉を受けて廃城の女を思い出す。一目見て勝てない事を悟った異様な存在だったと認識していたが、魔族という言葉を聞いて納得する。


「貴様は、魔族に与する者か!?」


槍を突き出しながら叫んだ。


「まあ、そういう事になるかな。君も割と実力を持っているみたいだし、どうだい? 仲間にならないかい? 後悔はしないはずだよ、魔族に逆らって生き残る術なんて無いしね。あ、その男は実験体たがら大事に扱ってくれよな」


男はそう言ってレイラが抱えるユウを指差した。


「何だと?」


「僕の自慢だった実験動物がその男に殺されたみたいでね、色々と調査した結果、面白い能力を備えているみたいじゃないか。そんなサンプル、放っておく訳にいかないだろ?」


ニヤリと笑うその顔に悪寒が走る。

こんな奴に絶対に渡してなるものかと、槍を握る力が強まった。


「ふむ。勧誘は失敗の様だね。その男にはこの島で色々実験するつもりで放置していたんだが、位置情報が途切れていて正直困っていたんだよ。大人しく渡してくれると助かるんだがね」


その言葉を聞いたレイラは頭に血が上る感覚を覚えた。


「貴様がユウの腕に変なバンドを付けていたのか!」


「そうだ。あと、そのバンドには面白い術式を仕込んでいたんだ。どれ──」


男はそう言って指をパチンと鳴らした。


──何だ? 奴は何をするつもりだ?


そう思った時、レイラの腕の中でピクッとユウが動いた。そして寝起きのような、猫が唸るような声を発する。


「ユウ!ユウ!無事だったか!」


レイラはユウが目覚めたのだと完全に思った。もしかしたらもう二度と目覚めないかもしれないと不安になっていた事もあり、ユウが反応した事が素直に嬉しかった。


そして緊張も魔法も解いてしまう。


バキィッ! ドカッ!


「うぐぁあぁああぁぁ!」


砂浜に、何かが折れるような音とレイラの叫び声が響いた。


「あぐぅうぅぅ…」


レイラはお腹を押さえてうずくまり、胃の中身が出そうになるのを必死で堪えていた。そしてその左腕は有り得ない方向へ曲がっていた。


「ユ…ゥ」


すぐ近くで自分を見下ろす男の姿を涙目で見つめる。


「…………」


ユウのレイラを見る目はとても冷たかった。まるでゴミでも見ているかのようだった。


「上手く発動したみたいだな…傀儡術」


レイラの無様な姿を見て男が鼻で笑う。そして僕が手を下すまでもないと言って、ユウに攻撃するように命令した。


その命令にユウは何も反応することなく、まるで操られたロボットのような動きでレイラに近づいた。


「うぐっ」


ユウはレイラの首を掴んで持ち上げた。そして顔に狙いをつけるように拳を構える。


「や…め」


レイラは目に涙を溜めながら訴えた。しかし、ユウの生気のない目を見るとその願いは届かない事を悟る。


「ぐああああッ!」


ぐしゃっ、と鈍い音とレイラの悲鳴が聞こえた。


「ははは。何ともまあ、笑える話だな。自分が好いた男に殴られ殺されるなんてね」


男が高笑いしている間にも、レイラはユウに何度も何度も殴られていた。


バキィ


「あぐぅ!」


バコッ


「ぐあっ!」



────ユウ!!



バキィ


「あぁ!」


何度も殴られながらレイラ気付いた。


殴るユウの目に涙が浮かんでいることを。





─────────

──────

───




ジリリリリリリリリリリリリ


「んあ?」


ジリンッ!


頭の上で起きろと煩く吠える目覚ましを叩いて止めた。


うーん、と背伸びをしながら大きな欠伸をする。


「ぐっへぇ、寝過ぎた…? あれ?」


良い目覚めだったので、かなりの睡眠時間を取ったとのだと思ったが、まだいつもの起きる1時間前だった。ラッキーと思った俺は布団を畳み、簡単な朝ご飯を作りに台所へと向かった。


チーズとハムをパンに乗せてトーストへ放り込む。それが焼けるまでに私服に着替え、水で寝癖を直して整えた。


「ふんふふーん」


鼻歌を歌いながらフライパンで目玉焼きを焼く。良い感じに焦げ目が着いたところで火を止めて先程のパンに乗せた。


これで簡単なエネルギー補給朝食の出来上がりだ。


「しっかし…」


昨日見ていた夢が少し引っかかる。どこか変な場所で冒険をしている夢だった。しかし何故か詳しくは思い出せない。思い出そうとすると頭がズキズキと痛んだ。


「うわ、また玄関開いてる。おっはよー!起きてるー!?」


頭を抱えながらバリバリ朝ご飯を食べていると、家の玄関が開かれる音が響いた。そして靴の脱ぐ音も聞こえた。


「起きてるよー」


「なんだ、珍しく起きてるのね」


そう言って部屋の襖を開けた人物は俺の彼女、結だった。


「おはよ。って、またそれ食べてるの? 飽きないわねー」


「…………」


バリボリ


結は短い黒髪を揺らしながら近寄り、机を挟んで俺の正面に座った。


今日も白のブラウスに黒いスカート、黒いジャケットといった格好だった。







────今日も?







「お茶」


少し引っかかる事があったが、結の一言で吹き飛んだ。単語を言っただけでそれが目の前に出てくるなんてそんな馬鹿げた話しがあるものか。


「お茶ぐらいどこにあるかわかってるだろ」


「けち」


結は立ち上がって冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注いで喉を鳴らしながら飲んだ。


「ぷはぁ、やっぱこのお茶が一番だわ!」


そう言ってニコッと笑ってきた。その顔を見て俺も微笑む。





───

─────

─────────




バキィ


「あぐぅ!」


レイラは、顔やお腹、身体の至る所を殴られ、痣だらけになっていた。殴るユウの拳も皮が破れ、血が滲んでいた。それでもまだ殴るのを止めようとはしなかった。壊れたロボットのようにただ殴ることだけを続けていた。


「ユウ!目を覚ませ!」


「はぁ?」


ボロボロの顔でレイラはユウに訴える。それにユウはピクッと反応し、少し止まった。男はレイラの行動に目を丸くする


「いい加減目を覚ませ!こんな事をあがっ…」


レイラの言葉はユウには届かず、再び殴られ始めた。


「あはははは!そんな呼び掛けで僕の術式が破られる訳がないじゃないか!あはははは!」


「ぐぅ…」


レイラは唇を噛んでぐっと堪えた。





─────────

──────

───





「お。悠じゃん。何してんだこんな所で?」


「お、陸斗か。ちょっと考え事だよ」


「お前が考え事って珍しいな。何悩んでるんだ?」


「ちょっとな…いつッ」


「おい、大丈夫か!?」


「ああ、何か大切な事を忘れている気がするんだけど、思い出そうとすると頭が…」


「大丈夫かよ…、今日も剣道しようと誘いに来たんだけど、無理か?」


「いや…行こう」


「本当か?」


「大丈夫だって、思い出そうとしなければいけるから!」


「んー、まっいっか。よし、なら今からいくぞ」


「りょ」





───

─────

─────────





バコッ


「ぐぅ…。いい加減…、目を覚ませ!」


ピクッとユウが反応する。


「あはははは!まだやってるよこの子。無駄だと分かった頃には死んじゃうよ?」


バキィ


「あぐうッ!」





─────────

──────

───





「なぁ、結、頭が痛いんだけど。教授にコンタクトとれねーか?」


「大丈夫だって、大丈夫」


「なぁ、真面目に言ってるんだけど?」


「大丈夫。安心して。悠は大丈夫だから」


「本当かよ…。つか…眠…い」


「……………」





───

─────

─────────






「ユウ!ユウ!お前はそんな奴に負けるほど弱い奴なのか!違うだろ!」




ピクッ





─────────

──────

───




ジリリリリリリリリ


バコン!


ジリッ…


「うるせぇ…」




───

─────

─────────






バキィ!


「うぐぅ…。お前は、私を守るんじゃなかったのか?」


バコ!


「あうッ…。ユウ…戻ってこい…」






─────────

──────

───





「ぐぅ…」


「悠!どうしだの大丈夫?」


「だ、大丈夫。行くぞ、授業に遅れるぞ」


ガラガラガラ…


「うッ!」


家の扉を開けた瞬間、


どくん!と心臓が跳ね上がる音が聞こえた。






───

─────

─────────





「はぁ…はぁ…はぁ…」


「あはははは…。あ、あぁあ!?」


男の笑い声は驚きの声に変わる。


「ふっ…寝坊助め」


レイラの口元が緩くなった。


ユウはレイラの顔の目の前で拳を止めていた。そして小刻みに震えていた。





─────────

──────

───




「う!」


家の玄関のドアを開けて外に出て門を開けようとすると、頭の中に色々な事がフラッシュバックした。

身体がふらつき、地面に膝を着く。


「そうだ…俺は…」


広大な草原を走り回り、カモを追いかけ回していた。

門の前には酒田さん家があるが、広大な草原をそこに当てはめていた。


「それで…俺は…確か…」


白い服に大きくて綺麗な空色の槍。肩までの長さのサラサラした茶髪。


「レ……イ…ラ………?」


その言葉を口にした瞬間、背筋に悪寒が走った。俺のすぐ後ろに立つ人物の気配から漂ってくる雰囲気が空間を支配していた。


「何で、思い出しちゃうの?」


「……………」


「ここにいればずっと幸せだよ?」


「……俺はずっと騙されていたのか?」


「ううん、違うよ。この世界は悠が作り出したんだよ」


「俺が…?」


「これは悠の夢なんだよ。だから、今立っている私も作り物なの」


「何で…」


「何でって、これが悠の本心だよ? あの日の、いつも通りの明日が欲しかったんじゃないの?」



───!



「そうだ、俺は…」




戻りたかった。



朝起きて、ご飯を食べ、結と他愛ない会話をして、大学に行き、平凡な明日が欲しかった。


でも…


その瞬間、今目の前に映っている空間がガラスが割れるように砕け散って落ちていった。後には暗闇の空間に、俺と結がぼやっと光って立っているだけだった。



『───』



「呼んでるね」


「そうだな…」


言葉は聞こえなかったが、誰かが俺を呼んでいるような感じがした。


「行くの?」


「そうだな…」


「向こうは残酷な事ばかりだよ? やり直しなんかできないよ?」


「そうだな…」


「…受け入れるんだね?」


「そうだな」


強く、言った。


「じゃ、お別れだね」


「そうだな。…長くて、最低で、残酷で、嫌な夢だったよ」


「そりゃどーも!」


「でも、悪くはなかった」


「へへ」


そうやって、目の前で微笑む結はとても美しかった。そして空間がだんだんと霞む。






───

─────

─────────







「何故だ!何故動かない!早くその女を殺るんだ!」


男はユウに命令するが、ユウは動こうとはしなかった。


「ふう…、後で思いっきりこき使ってやろ。戻ってこい…バカっ」


レイラはユウを抱きしめ、口付けと共にありったけの電流を注いだ。




───

──



「あででででででばばばびびばばば!」


強烈な目覚ましで目覚めると、俺はレイラに抱きしめられながら電流を浴びさせられていた。


「この寝坊助め!」


「あべし!」


そして何故か顔面を蹴っ飛ばされた。


「何すんだよ!バカか!バカなのか!そうか!生理か!なるほどな!血がいっぱいなんだろがははははは!」


「何1人で納得しているんだ!」


「ごべし!」


一瞬で間合いを詰められ、鳩尾に拳がめり込んだ。お腹を押さえて嗚咽する。


「ぐぅぅおおぉうぅぅ…」


「はぁ…はぁ…はぁ…」


「レイラ?」


目の前にレイラが力なく膝を着いた。改めて見ると、その身体はボロボロで、痣だらけだった。綺麗だった顔も傷だらけになり、所々腫れていた。


「レイラ!大丈夫か!誰にやられた!?」


「はぁ…はぁ…」


「ん?」


レイラは俺の顔に向けて人差し指を立てた。その意味がわからず、俺は後ろを振り返る。


────!


俺達から少し離れた所に、緑髪オールバックの憎たらしい顔付をした男がいた。覚えている、このムカつく顔。サラと初めてアルベリオに行った時に会った教授、タイラーことミドリムシ教授だった。


しかし、タイラーは俺達を信じられないような目で見て震えていた。


「タイラーー!!!!貴様ァァァァ!!このミドリムシがあああ!!レイラになんて事しやがる!!!」


「違う。お前だ…」


「ああ、俺か。くそっ、愛しのレイたんの顔を傷つけやがって!ぶっ殺してやる!……って、俺ぇぇええええええ!?」


「煩い、騒ぐな」


「マジで!? マジ!? 俺がやったのか!?」


その問いにレイラは首を縦に振った。


うそだろおい。


今レイラは相当酷い状態だ。女の子をここまで痛めつけれる奴はどこか神経がおかしいってぐらいだ。

ふと、右腕に違和感を感じたので見てみると…


「ふぉぉおおぉおぉ…」


俺の拳は血だらけになっていた。何かを何度も殴らないとここまでならないだろう。


「マジで俺?」


コクンとレイラは頷く。


「レイラが自分で殴ったとかじゃなくて?」


ギロリと強烈な目で睨まれた。


「ひぃいいいいい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい調子に乗りました」


レイラは、いつか殺してやると言いたげな目で俺を睨んでいた。


いやだって、レイラの拳も皮がめくれて血まみれだったんだもん。だって僕ちん記憶ないんだもん。いいじゃん別に冗談言ったってケチンボ。






「うそだ…何故だ…」


タイラーはユウが何で目覚めたのか理解出来なかった。自分が作り上げた術式は完璧だった。なのに何故という言葉が頭の中で蠢いていた。


「こ、こんなの、信じないぞ…」


ギリッと唇を噛み、ぎゃあぎゃあ騒いでいるユウとレイラを見る。






「いやぁ、ほんとすまんってレイラ」


「絶対に許さない。私の顔をこんなにして…、一生許さないからな」


「それって結婚してくれってこと?」


「ばっ!ばか!何言ってるんだ!」


そう言って赤くなる。


「ぬはは、可愛い」


「ば、バカにするな!…っ、いつつ」


「無理すんなって。つか、レイラをそんな風にして簡単に許してくれるとは思っていないよ。ちゃんと責任とるから」


「な…」


「だから、今はアイツを倒すぞ」


そう言って俺は放心状態のタイラーに向き直った。


「だから何でいつもそんなずるいことを面と向かっていえるんだこいつは恥ずかしくないのかまったく…」


「後でいくらでも言ってやるから」


「な、何盗み聞きしているんだ!」


「あはは可愛いなーほんと」


「も〜。バカぁ」


レイラはさらに顔を紅くし、顔を伏せる。


しかし。


この状況を改めて見直す。

ツクヨミに意識を奪われてから、廃城からこの砂浜に場面が移っていて、レイラがいて、タイラーがいる。何がどうなったのかさっぱり分からないが、大体の想像はできる。


「あの城から俺を助けてくれたのか?」


「ああ、そうだ。魔族がいたらしいな」


「そうだ。興味深い話が聞けたのは良かったが、非常に危険な状態だった。助けてくれてありがとうレイラ」


「助けるのは当たり前だ。しかし、どこから現れたのか、目の前にいる男が現れて攻撃してきたんだ。どうやら魔族と通じあっていて、あの惨事を生み出した張本人らしい」


あの惨事。

廃城の残骸の事を言っているのだろう。

ツクヨミは人間を餌と言っていた。その調達という名目か。くそっ。


そして、ふと、アルベリオ学校で起きたジュルドの一件と繋がった。


「お前かタイラー!!ジュルドや人間で実験していたのは!!」


その人体実験は、俺達が傷付く事となったあのギーミ島の事件にも繋がっている。そして、レイラをここまでボコボコにした張本人は俺だとしても、俺を無意識の内に操っていた奴がいる。タイラーだ。こいつが全ての元凶と言っても過言ではない。


「……バレてはしょうがない。そうだ、僕がやったんだよ。ははは」


開き直ったように、タイラーは口を開いてほくそ笑んだ。


「どうやら痛めつけるだけじゃ済まないようだなぁ!!」


完全に頭にきた。こいつには何度も殺されそうになったと言っても間違いない。それに生徒達をあんな風にした張本人だとしたら。


「こいつは、殺すしかない」


明確な殺意を覚える。


「ユウ、帰還用のバンドがある。転送魔法がまだ仕込んであるから、一旦体制は整えれる」


レイラがぼそっと呟いた。


「悪い、有難い申し出だけど、こいつはここで仕留めておかないと、また何処かで誰かが死ぬ事になる」


腰から短い方の相棒を抜いた。


「レイラは下がっていてくれ。人を殺すのは俺だけでいい」


「ユウ…」


「ふふふ。僕とやり合おうなんてね。それに君達には逃げられても困るんでね、その転送装置は壊させて貰うよ。─バースト」


「きゃ!」


タイラーが魔法を唱えた瞬間、レイラの制服の上着のポケットから火が出現した。レイラは慌ててそれを脱ぎ捨てる。


「それの設計者は僕なんでね、壊させて貰ったよ」


「別に俺はお前を殺すまで帰るつもりねーよ。それに、お前も戻る為の装置を持っている筈だ」


「……成程、頭は切れるようだ。まあいい、もう一度操ってしまえば僕のものだ!!」


タイラーは魔力を放出し、眼鏡をくいっと上げながら俺に向き直った。


「力と力のぶつかり合いを想像しているところ悪いが、一瞬だ」


「へ?」


タイラーは呆けた表示をしたまま固まった。

固まった理由は、俺が魔法を発動させたからだ。周りの全ての物の動きが止まった世界に突入する。その静止した世界をただ一人、俺はタイラーに向かって歩み寄った。


「コイツが死ぬ事で救われる命がある事を祈る」


そう吐き捨て、タイラーの首を掻っ切った。


「なぁあああ!!」


時間の魔法を解くと、タイラーの首から血が噴水のように噴き出した。一瞬の間に首を切られたタイラーは叫び慌てふためくしか出来なかった。


「あぁああああぁ!首がァァァ!!回復!かいふぐぅあぅああああ!!!」


相当痛いのだろう。ドタバタゴロゴロと砂浜を赤く染めて転がり回る。レイラはその間に俺の傍に駆け寄り、タイラーがのたうち回る姿をじっと見ていた。


「がああああ!くぞおおおお!」


トドメを指そうと近寄った時、タイラーからカチッという音が聞こえた。


「おおぉお────」


「なぁ!?」


タイラーから眩い光が放たれたと思ったら、次の瞬間、目の前から消えてしまった。


「畜生!油断した!!クソっ!!!」


取り逃してしまった。

1番逃がしては行けない奴を逃がしてしまった。


首は深く切りつけたつもりだったが、予想以上にしぶとい生命力を持っていた。もしかしたら人体改造とかしていたのかもしれない。転送先がもし回復設備が整っている場所だとすれば、相当厄介な事になる。


「くそぉおおおお!!」


やり場のない怒りのはけ口は叫ぶ事だった。海の水平線に向かって吠える。


「ユウ…」


レイラは俺の服の裾を引っ張り、心配そうな目で見ていた。


「レイラすまねぇ。敵、取れなかった…」


「ううん。何よりも、ユウが無事で良かった。本当に、無事で良かった」


涙を浮かべ、腫れた顔で伝えられた。その顔を見れば、怒りは急速に冷えていく。


「レイラ、本当にすまない」


俺は、改めてレイラに頭を下げた。


「ユウ、頭を上げてくれ。ユウは操られていただけなんだし」


「それでも、女の顔を殴るなんて最低だ。操られたとは言え、操られるような俺に落ち度がある。本当に、本当に、ごめん」


そう言いながら、レイラをそっと抱き寄せた。


「本当に、ごめん」


「ユゥ…うっ……うっ……ううぅあああっ!」


堰き止めていた物が溢れ出るように、レイラは声を荒らげて泣いた。



それから数分して、レイラは落ち着きを取り戻していた。砂浜に無造作に散らばる岩の上に寄り添って座り、波のさざ波を聞いていた。


「これからどうしようか」


俺達が頭を悩ませていたのは、今のこの現状だ。魔法空間だと思っていたこの島は、現実にどこかにある島だという事をレイラから教えて貰った。現実にある島でないと、ツクヨミがいる事自体おかしな事になると、合点する。


この島が現実にあるとすれば、ここは一体どこの島なんだと、転送装置も壊れ、これからどうやってどこに移動すればいいんだと、頭を悩まされた。


レイラの外傷は酷く、腕は折れ、早く医者や医療設備が整った場所に連れて行きたいところだが、二進も三進もいかない。


「ん?」


岩場から立ち上がり、ポケットに手を突っ込んだところで何の感触があった。どうやら紙のようだ。


「何だこれ?」


その紙を取り出し、広げてみる。そして驚愕する。


「ユウ、どうしたんだ?」


俺の様子がおかしいのが伝わったのだろう。心配そうなレイラの声を背中に受けた。


「ああ、悪い。レイラ、これどう思う?」


振り返りながら、俺はその紙をレイラに見せた。その紙を見たレイラも驚きの表情を隠せない。


その紙は何かの島の地図だった。


ただ、それだけであれば何の変哲もない地図だったのだが、紙の上側の余白に、


『ユウ、レイラへ』


という文字が書かれ、

島の北側に位置する所を丸印で囲み、


『ここへ行け』


という指示も書かれていた。




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