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世界の理




ラーク島の学園施設中央に巨大な運動場が存在する。

サバイバル開始時に集められた場所でもあり、開始時と同じように生徒達による人集りが出来ていた。


『みんな静かに!』


サバイバルイベントから強制送還されてきた生徒達が皆、この運動場へ集まっていたのだ。


『知ってる人は知ってると思うけど、ある事情が起きたので緊急でサバイバルは中止とすることになった』


男の教員の声が響く。


『君たちは危険な状態だったんだ。成績については今までので換算することになるから』


「はー?だからどういうこどだよ!」

「ちゃんと説明しろよ!」

「一体何がどうなってんだよ!」

「成績ってどう判断するんだよ!」


集められた生徒達から罵詈雑言が浴びせられる。緊急とは言え、何千人という生徒を統一するのは難しかった。教員達はその対応に手を焼いていた。


「一体どういうことだ!?」


「ちょっとレイラ、落ち着いて」


そしてここにもこの事態に納得していない人物がいた。


「これが落ち着いていられるか!それにユウはどこなんだ!」


「おいレイラ落ち着けって、あいつならそこら辺にいるって」


リオンは心にもないことをレイラに言った。転送されてきた奴らは、近くにいた奴とほとんど距離が変わらないままに転送されていた。ユウが同じように転送されているならすぐ近くにいるはずだったが、少なくともこの周辺にユウの姿は見つからなかった。


「だったらどこにいるんだ!」


「っ…」


痛いところをつつかれたリオンは返す言葉が見当たらない。


「はぁ。ほんと、あの新米は迷惑ばっかかけるわね」


カリーナは溜め息をついてそう呟くが、心の中では心配していた。転送される直前の、ユウとシルビアのやり取りが頭に過ぎる。


ユウの腕に装着されていたバンドに細工がされている素振りだった。転送ではなく位置情報を探る術式。これが意図的であれば危険な事に巻き込まれているかもしれない。


「レイラ、着いてきて!」


「わ!何だ!」


カリーナはレイラの手を取り、生徒で群がる中をかき分けてある教員の元へ駆け出して行った。


「おい、カリーナと言ったな!どこへ連れて行く気だ!」


カリーナに手を引っ張られているレイラが叫ぶ。


「そんな説明は後よ!いいから黙って着いてきて!まだ間に合うかもしれないから!」


「間に合う? 一体何に間に合うんだ!」


「説明は後って言ったでしょ!あーもう!あの新米教師の所へ戻れるかもしれないって事よ!」


「何…」


「とにかく、今は私に着いてきて!」


「わ、分かった」


レイラはカリーナと一緒に校舎のある一室に向かって走って行く。多目的室と書かれた部屋のドアをカリーナは勢い良く開けて中へ入って行った。


部屋は階段式の講義室になっていて、殆どの教員が座っていた。教壇には3学校の学院長が立っていて、何か説明しているような感じだ。そんな最中に飛び込んだので、皆の視線が一気に集まる。


「な、何だね君達は!ここは立ち入り禁止だ!」


一番手前に座っていた若い男の教員がカリーナ達に向かって怒鳴った。


「うっせ!死ね!殺すぞ!」


「ひっ」


しかし、カリーナの威嚇に萎縮してしまう。カリーナの変貌にレイラは口を空けて驚いていた。教員達に注目を浴びながらも、それらに目もくれず、カリーナはある教員のところへ向かって行った。


「カリーナ!? 一体どうしたの?」


その人物はサラだった。


「サラ先生、力を貸してください。あの新米教師が危険かもしれません」


「え!それはどういうことなの!」


「どういうことなんだそれは!」


サラとレイラの声が重なる。他の教員達も注目する。


「あーもう!」


サラならまだしも、レイラにまで詰め寄られると少し面倒臭くなった。カリーナはレイラを教室の外に置いてきたら良かったと後悔する。


「とにかく、来てください!レイラも!」


「え!え!」


「わっ!ちょっと!」


カリーナはサラとレイラの腕を引っ張って教室を出て行った。後に残った教員達は一体何が起こったのかわからずにぽかんとしていた。


「サラ先生、先生って確か補助委員でしたよね?」


教室を出て、少し歩いたところでカリーナがサラ達の腕を放し、サラに尋ねた。


「え、えぇそうだけど。一体どうしたの? さっきユウが危ないとか何とか言っていなかった?」


「そうだ!ユウはどうなったんだ!」


「ちょっと落ち着いてって!話が進まないじゃない!じっとしていられないかもしれないけど、余り時間が無いかもしれないから我慢してて!」


「す、済まない…」


急かすレイラにカリーナの我慢の限界が来た。怒られたレイラはやっと落ち着きを取り戻す。


「まぁまぁ、で、カリーナ。話を続けてちょうだい」


「補助委員ってことは、もし何かトラブルがあれば転送魔法を使ってあの空間に行きますよね?」


「ええそうよ。カリーナよく知ってるわね」


「家柄上、学校内の事は色々と知っているので。それで、その転送魔法はどこにあるんですか? そこまで連れて行ってください。説明はその道中で言います」


「分かったわ。こっちよ。着いてきて!」


サラはカリーナの真剣な表情にもう何も聞かなかった。カリーナはいつも教員達を見下していた印象しか無かったが、こんなにも必死に人の事を思いやれる人物だとは知らなかった。これもユウのおかげかもしれないとサラは心の中で微笑んだ。


補助委員用の転送魔法陣のある場所へ移動中、サラはユウがまだここに帰ってきていないかもしれないことをカリーナから教えてもらった。


合宿前にユウが襲われた事はカリーナでも知っていたから、もしかしたらこれも意図的なのかもしれないともカリーナは言った。


「ここよ!」


ガラッと音を立てて六畳間ぐらいの部屋に入った。その真ん中には魔法陣が光っていた。


「あれか!」


「ちょっと待ってレイラ。これを…」


今にも魔法陣に入ろうとしたレイラをカリーナは引き止めた。そしてカリーナは自分がつけていたバンドを外してレイラに渡した。


「これは?」


「もし本当にあの新米のバンドが細工されているのだったら、それで戻ってこれないのだとしたら、このバンドを使って!」


「じゃあ、カリーナは?」


「私はいいわ、あんたのナイト様なんでしょ。助けに行ってやんなさい。…姫がナイトを助けるって変な話だけどね」


そう言ってカリーナは少し笑った。


「ふふ、それもそうだな。よし、行ってくる!」


「レイラちゃん…だっけ? まだ生徒達にはあまり知れ渡っていない事なんだけと、今回中止になった理由は死傷者が出たからなのよ…」


今回中止になった原因とユウに起こった事が関係しているのであれば、これからその元凶に向かっていくレイラに何も知らせないのは危険だと思い、サラはレイラに本当の事を打ち明けた。


「し、死傷者!?」


「…………」


「負傷した子が、女の人、城って言っていたわ。何かの役に立ったらいいけど…」


「女、城…」


「私は今バンドが無いから行けないけど、後で追いかけるわ!危険だと思ったらすぐに帰ってきてちょうだい!いいね!」


「わかった、行ってくる!」


レイラは槍を出現させ、魔法陣の中へと入っていった。そして光に包まれたかと思うと、次の瞬間にはその姿が消えていた。


「さて、私達も取りに行きましょうか」


「サラ先生、さっきの死傷者の話…」


「あ、あれね、えーと…」


ブーン


サラはどう説明しようか迷っていた時、部屋の中心から変な音が聞こえた。


「「えっ!」」


そして2人が振り返った時には魔法陣が綺麗さっぱり消えてしまっていた。


「………………………」


サラとカリーナがいる部屋の向かいの校舎の2階窓には、サラ達が慌てている様子を見てニヤリと笑う人物がいた。


勿論、サラ達はそれに気付くことはなかった。








ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー







「──魔族と呼ばれている存在じゃ」


齢数百年以上にして、ツクヨミと名乗る少女はそう言った。


この世界に来て、初めてギルドに入った時、ナミさんから魔族について少しだけ説明してくれた記憶がある。


殺戮兵器の反動で凶暴化した人間、それが魔族だと。関わってはいけない忌み嫌われる存在だと教えてくれた。


だがどうだろう。目の前にいるそれは、年齢と保有能力は除き、普通の見た目に見える。よく物語で聞くようなダークエルフ等、人間とかけ離れた姿形はしていない。


「魔族という単語を聞いても何も動じぬとはお主、本当に愉快な奴じゃ。益々気に入った!」


どうやら俺の常識自体、この少女の前では非常識である事が露呈しているようだ。それが分かる程、ツクヨミは何かを理解している。それが分かった。

それが分かった所為で、この人物と話がしたいという思いが先走る。この人物は危険な存在だという理解を押し退けて。


「普通、魔族と聞いたら震え上がるものなのか?」


「そうじゃ。この小娘のような反応がそれ相応なのじゃがのぉ。だがどうだろう。お主の物言いといい、ただの世間知らずという訳では無さそうじゃ」


人差し指をくるくる回し、宙に浮く女子生徒に目配せながらツクヨミは答える。それを度外視し、こうして普通に受け答えをしていると、魔族と呼ばれている割には、


「…至って普通の人間に見える」


「ふむ、なかなか思慮深いなお主。その通りじゃ。妾はお主らと変わらぬ人間じゃ」


「人間!? じゃあ何で魔族と呼ばれているんだ」


「ちーっとは自分で考えてみるかのぉ? 見た目も普通の人間と変わらぬ存在を魔族と呼ぶ理由。何じゃと思う? ヒントはお主らが良く知る童謡じゃな」


「童謡? 悪いがそんな歌は知らない」


「なんと!童謡も知らぬのか? 『まーぞくーにあーわなーきゃあーんたーいだー』という歌じゃぞ?」


無邪気な子供のように童謡を口ずさむ。そのワンフレーズからも魔族を畏怖する様子が想像出来た。


「俺が知っているのは、過去の大戦の兵器で凶暴化した人間が魔族という事だ」


「ふむ。それはそれで大ヒントじゃと思うがのぉ」


言い伝えの童謡か。

そんなもの、聞いたことも無い。

無いが故、この世の常識を埋め込まれていないが故、分かる事があり、考える事もできる。


俺が魔族について知っている事は『凶暴化した人間』『関わってはいけない』『忌み嫌われる存在』という事だ。先に聞いた歌の『魔族に会わなきゃ安泰だ』というフレーズからも、忌み嫌われているという所は間違ってはいないだろう。


だが何故だ?

何故、ここまで魔族は忌み嫌われる?

そういう戒めを持っている存在とはどういうものだ?


「…魔族は…危険な存在だから……関わらないようにする…ため…?」


「ほほう!いい線いっておるのぉ!では、何故関わってはいけない危険な存在なのじゃ?」


俺の出した答えに上機嫌になるツクヨミ。さらに問いが重ねられる。


関わってはいけない存在。

自分達に危害を加える存在、または自分達とは相容れない存在だということか?

一体、コイツは何を言おうとしているんだ?


「ふむ。段々と正解に近づいてきたようじゃの。お主がさっき言った言葉、過去の大戦で凶暴化した人間が魔族と言っていたが、それは誰が言ったのじゃ?」


ツクヨミの口元がさらに緩む。


「誰が言ったって、それは皆──」


そこまで口にして、ある事に気づく。


魔族は悪い奴。近寄ってはダメ。この時代の人間は、その言葉ばかり先行して『何故』という考えに至っていない。


何故ならそれが常識だからだ。


誰もおかしいとは思わない。


何故ならそれが当たり前だからだ。


これが当たり前と思わない人間にしか辿り着けない事実、この世の常識から外れた存在しか辿り着けない真実。


『魔族は悪い奴』


まさか、その言い伝え自体、何かを隠そうとした事であったとしたら…?


「魔族も人間。だが…」


───何かが違う。何かが起こった。


そこまで考えた時、俺の思考を読み取ったのかは定かでは無いが、ツクヨミは物凄い満面の笑みを浮かべていた。


「愉快、愉快じゃ。ここまで考え抜く輩は中々おらぬ。どうやらお主はこの世の理から脱しているようじゃな。頗る、妾は気分が良い。今宵は昔話に耽けるとするかのぉ。それでお主がどちらに転ぶかもまた一興」


雷光に照らされるツクヨミの表情は、幼い少女の面影を残したまま、思い出に浸る老婆のような哀愁を漂わせていた。


「そうじゃなぁ、この世に異能が発現したところから話すとするかのお。むかしむかし──」






むかしむかし


あるところに


異能を持つ者達がいました


ある者は手を触れずに物を動かせ


ある者は火や雷や水といったものを生み出させました


人々は彼らを超能力者と崇め


神であるかのように讃えました


それから幾らか時が過ぎ


超能力が当たり前となった時代


ある科学者が超能力は危険な力だと異を唱えました


研究に研究が進み


超能力に上限と制御を与える事によって


魔力と詠唱の機能が発現し


魔法使いが誕生しました


力の上限が存在せずいつ暴走するかもしれない超能力者とは違い


力を制御できる魔法使いはやがて世界の常識となりました


超能力者は出来損ないの能力者だったのです


危険な存在である超能力者達は


ある島国へ移動させました


そこでは寝る所と食べ物や服を与えられ


何不自由無く生活していた超能力者達でしたが


やがて自分たちの権利を主張し国家独立を掲げ戦争を始めます


力の上限の無い超能力者


それは1人で一国を滅ぼすことができる程の力でした


そんな危険な存在に魔法使い達は立ち向かいました


沢山の犠牲を払った末


超能力者だけを倒すことのできる魔法で


魔法使い達は勝利を収めました






「────めでたしめでたし」



無邪気な子供のような声でツクヨミは語った。


「どうじゃ? 即興で作ったが我ながら中々の出来栄えじゃったと思うがのぉ?」


「ちょっと待ってくれ。今言った内容と俺が教えて貰った歴史の内容が違う」


そうだ。俺はナミさんから歴史を教えて貰った。

俺が元々居た時代から数百年して超能力が生まれる。

それが魔法の原点であると。

しかしその後が違う。


「無能力者が能力者に戦争を仕掛けたと教えて貰ったが……いや待てよ」


自分で言っておいて何だが、今のツクヨミの語った内容は間違っては無いのではと思い始めた。


「無能力者とは……出来損ないの能力者……?」


そう呟いた時、今まで以上の笑顔になったツクヨミが口を開く。


「そうじゃ。お主らが伝えられている伝承は嘘ではないが正解でもない」


このツクヨミの言う通り、ナミさんから教えられた歴史は、ふわっとした内容で何がどうとか詳しい事までは教えて貰っていない。さっき語られた内容はおとぎ話チックではあったが、具体的なイメージがつく。戦争の背景など、こちらの方がしっくり来てしまったのは事実だ。


「そしたら、魔族とは、その大戦の超能力側の生き残り、または子孫って事か?」


「当たりじゃ」


「だけど、超能力者が魔族と呼ばれる理由はまだ確信していないんだよな。魔族と呼ぶ事で超能力者の存在を隠すような伝承にした理由として、戦犯だからとか、一国を滅ぼすことができる強さを持っているから近寄らせない為とかじゃ、何かしっくり来ないんだよ。もっとこう、何か魔族と呼ばれて差別化されるようになった出来事があったんじゃないか? それに超能力者だけを殺すことができる兵器が使われて何で生き残ってんだよ」


「うむ、やはりお主は面白い。流石じゃ。魔族と呼ばれたのは、あの殺戮兵器が使われた後の事じゃからのぉ」


笑顔から一転、暗い顔で答える。


「あの兵器は本当に残酷なものでな、大気中に魔素をばら撒き、魔力を持たないものを死に至らしめる兵器なのじゃ」


「魔素!?」


リリィに教えて貰った事がある。

魔素とは空気中に含まれる魔力の源となる存在で、魔力が回復するのもこれのお陰だと。


「しかしその魔素を寄りつかせない物質がこの世に存在したのじゃ」


まさかと思い、腰に添える相棒に目配せする。


「それは剥き出しの鍛えられた鉄。何故じゃかは分からぬが、魔素を寄り付かせなかったのじゃ」


「……これの事か?」


腰から2つの包丁を抜いてツクヨミに見せた。


「おおおお!!なんという事じゃ!!もうこの世から鉄が無くなった今、目にかかれるとは思ってなかったぞ!これを何処で手に入れたのじゃ!?」


「どこって…スーパーで買ったんだけどな」


「スーパーってなんじゃ!?」


「ネットで調べたら出てくるよ」


「ネットて何じゃ!最近の若い者には着いていけぬ…」


「ははは、まあそうだろな」


このやり取り、デジャブだな。そう思いながら不謹慎にも笑ってしまった。


世界の真実の一端に触れている所為だろうか、俺の力の存在の理由が分かる気がしてこの人物と話したいという欲望が止められない。


周りの異様な状況など、最早眼中に無かった。


「お主の話は後で聞こうかの。それは今では魔除けと呼ばれているのじゃったな。魔素を寄せ付けない事から誰かがそう名付けた名残じゃの」


「なる程なぁ」


魔法というものは散々漫画やアニメで見てきて想像はできていたが、この魔除けというのはさっばり分からなかった。魔物や魔法を細切れにできる究極の武器とだけ理解していたが、まさかそんな理由があるなんて想像もしなかった。


「妾が生き残ったのもこれのお陰じゃ。逃げて隠れていた場所が鉄で出来た箱のような建物じゃったからのぉ。そこで助かった人が何人かいるのじゃ」


今の言葉より、目の前の少女は何らかの方法で1000年以上生き長らえている事が理解出来る。大戦の最中を生き抜き、本当の歴史を知る人物として存在している。


ホンモノだ。


「殺戮兵器にも鉄という弱点があったなんてな」


点と点が繋がる感覚。

今まで分かっていなかった事が分かっていく。

この少女とのやり取りは中毒性が強すぎる。

どんどん先へ先へ。

仮説との答え合わせが楽しく感じ始めた自分がいた。


「それはそうなのじゃが、大気中に撒かれた魔素は全ての元素という元素と融合して他の物質へと作り替えたのじゃ。鉄なんて物は作れなくなり、動物が死滅し、大地や森は枯れ、魔力を持つものだけが生き残る世界となったのじゃ」


「それで兵器を使った国も滅んだんだな」


「そうじゃ、それは間違ってはいない。だがのぉ、突然変異とでもいうのか、地球は強かったのか、魔素に適合した動物や植物が現れて始めてな。それがきっかけで緑を取り戻していくわけじゃ」


「それが魔物という訳か」


「うむ!魔素を取り込んだ動物という意味でじゃの」


「兵器で凶暴化した動物は魔物、人間は魔族と、教えられた事間が違っていないとすれば、ツクヨミ達も大気中の魔素と何らかの形で共存したってことか?」


「うむッ!天晴れじゃ!生き残った我々も生きていくために色々と模索した訳じゃ。ある者は魔素と適合した動物に倣い、皮膚を変え、呼吸器を変え、内蔵の機能を変え、姿形を変え、そうして出来たものは何じゃ? お主も聞いた事か見た事はあるじゃろ。人語を理解し話す事のできる魔物」


人語を理解し話す事のできる魔物……?

思い付くのは、ケルベロス、ヘルヴァージン…。


「まさか…」


「そうじゃ。それらは元々超能力者だった者が魔物に姿を変えた奴らの子孫じゃの」


「ちょっと待て。ヘルヴァージンは!? アイツと戦った時、うん百年生きてるとか言ってたけど、もしかして仲間だったりする!?」


「ヘルヴァージンか。あ奴こそが我が先にと己の肉体を魔物へと変化した奴じゃ。風の噂で死んだとは聞いたが、お主、まさか……?」


「それ、殺したの俺なんだけど…これで……」


包丁を見せ、申し訳なさそうに言った。

ツクヨミの表情と言い方から、ヘルヴァージンとは同郷のよしみという訳でも無いと感じ、この手で殺した事を打ち明けた。多分この方が話が弾む感じたからだ。


「なんと!あ奴を討ち果たしたのはお主だったのか!!はははははは!!なんという事じゃ!!愉快!愉快じゃ!この上ない程の愉快じゃ!」


ツクヨミは声を上げて笑う。思った通りの反応をしてくれて胸を撫で下ろした。


「魔素に適した魔物になった事で魔除けで死んでしまうとは何とも皮肉なことじゃなぁ。奴の死に様を見れなかったのは残念じゃ。くくく」


「やはり、自らの身体を変化させるかさせないかで超能力者同士で分裂した感じか?」


「そうじゃそうじゃ。魔素に適合する事は我々が生きていくために必要な事じゃったが、その方法で分裂したという訳じゃ」


自らの身体を変化させて魔素に適合した者が魔物。

何らかの方法で肉体は人間のままで魔素に適合させた者が魔族。

多分、倫理や価値観の違いがそこで発生したのだろう。


「魔物にならぬ道を選んだ人が取った方法とは、魔法使いとの子らを持つ事じゃ。戦争の最中でも珍しい恋事はあるものでな。超能力者と魔法使いの間で子供がたまたま産まれおっての。その子がなんと魔力を持った超能力者だったのじゃ。子奴らは魔法使いと交わることで子孫を繁栄させ、やがて世界へ進出していったのじゃ」


「なる…ほど」


''子奴ら''ね。


「その長い歴史の中、生まれる秘術というものもあるらしいのぉ。魔素を無と化し、触れる魔法全てを消し去る事が出来るようになったらしい。う〜む、名をなんと言ったっけのぉ。き、き、ん〜」


「鬼神化か?」


「おー!そーじゃそーじゃ!!鬼神化!お主、本当に博識じゃのぉ」


『鬼神化』


ヤマトが使っていた魔除けの魔法だ。その身その武器に纏わす事で魔法全てを無にする事ができる秘術。ヤマトの一族に伝わる技という事は聞いていたが、まさか、こういう事だったなんてな。


ヤマトの一族。

日本姓を持つ者がその子孫という事か。

ツクヨミが超能力者は島国に隔離されたというような内容を語っていたし、それが日本でもおかしくない。


だがまだだ。

この一族は魔族では無い。まだ何か残っている。


人のままで、

魔法使いとは交わらず、

魔族と呼ばれる人達。

目の前のツクヨミの存在だ。


何だ。

何だこの感覚。

こんな事を知って、俺は大丈夫なのか…?


「…ツクヨミは身体の中身だけを変えて魔素に適合したのか?」


「いんや。魔法使いの血を取り込んだだけじゃ」


さらっと返された言葉に違和感を覚える。そしてその違和感が悪寒となって全身を貫いた。


「さぁ物語は終局ぞ」


雷が光る。照らされたツクヨミの表情は暗く、透き通る眼光が胸を貫いていた。


心臓の鼓動が跳ね上がる。

こんな話、しなければ良かったと心底後悔し始めていた。


「答え合わせといこうかの。問おう、魔族とは何ぞや?」


鋭く、耳に刺さるような問いだった。

ここで漸く、地面に散らばる残骸と、宙でくるくると回り続けているものが視界に入ってくる。


「食べるのか…人間を…」


魔法使いの血肉を食することで魔素と適合した超能力者。

確かに魔族と呼ぶだけの理由にはなる。

なるが、これを理解しなければ良かったと本気で思った。目の前の少女をとてつもなく危険な存在だと脳が再認識し始める。数分前の自分を殴りたい。


「よくぞ辿り着いた!大正解じゃ!お? 何をそんなに驚いておるのじゃ? お主らも生きていく為には家畜を殺すのは当たり前の事じゃろ?」


家畜を殺すのは当たり前。

俺達がそれをすると同じように、こいつは、人間を殺して食べるというのか…?


「やめるんだ…」


震える声でそう呟いた。例え生き抜くためだとしても、目の前で同じ人間が殺されるなんてことはあってはならない。


「何でじゃ? 上位種が下等種族をどう扱おうが勝手じゃろ?」


「いや、死んでもいい命なんて無い」


一体何を言っているんだ俺は。この危険な存在と敵対しようとしているのか。


「まあそう敵意を向けるでない。妾も生き抜くために必要な事じゃったからのぉ。しかし、ふむ。それも一興か。どれ……」


小さい溜息をついた後、ツクヨミは椅子から立ち上がった。


「魔素に適合した者たちは皆、国々を再度襲い始めたのじゃがなぁ、こちらに裏切り者が居たせいで罠に嵌められて皆封印されてのぉ。妾は戦争なんぞ参加しなかったお陰で封印はされなかったが、力の一部は制限されてしまっての。物を動かすぐらいしかできんのじゃ」


人差し指をくるくる回しながら、ツクヨミは歩み寄る。コツコツとヒールの音が大きく響いていた。


「あとはこんな事じゃなぁ」


くいっと、俺を引っ張るかのように人差し指を動かした。


「んあ!?」


ガクンと、身体が勝手に動いた。

頭を下げられたというか、顔をツクヨミの前に持っていくように仕向けられた。


「ふむ。綺麗な顔をしておる」


「な、何をするつもりだ」


眼前に、ツクヨミのあどけない少女の顔がある。


「何も危害は加えはせぬよ。妾はお主を気に入っておるのじゃ。ちーっとばかし記憶を覗かせて貰うぞ。それでお主の事を聞くとしよう」


そう言って、ツクヨミは俺の頭の上に手を置き、目を瞑る。


「うっ…」


目眩がしたような感覚に陥った。

頭の中が掻き回されているような、グルグルと視界が回り始める。


「ふは。ははは…」


乾いた笑い声が聞こえた。


「はははははは!はーはははは!なんと!なんと!なんという事じゃ!!ははははは!ははははははははははは!だからか!はははははははは!愉快!愉快ぞ!はははははははははは!」


けたたましく笑う声で俺の意識も戻ってきた。


「やりおる!やりおるのぉ!巫女!これは何処を探しても見当たらない訳ぞ。くくく」


「なんだ…何を言っている?」


「千年かけて封印を解く準備をしてきたが、これはこれで儲けものじゃなあ。あの男には黙っておこうかのぉ。放っておいてもそのうち封印は解かれる」


「なんの事だ……うっ!」


再度問いかけた時、ツクヨミの鋭い眼光が光った。それを見た瞬間、身体が動かなくなる。


「お主を伴侶として迎えようと思っていたが、残念じゃ。お主は妾がずーっと探し求めていた鍵なのじゃ」


「はぁ!? 伴侶!? 鍵!?」


急に話が飛びすぎて着いて行けなくなった。


「こんなに気に入った人を見つけたのは初めてなのじゃがのぉ。本当に残念、残念じゃ…。これも手向けじゃ。良い夢でも見ながら永遠に眠るといい…」


ツクヨミは、悲しそうな顔で、目にうっすらと涙を浮かべ、俺に手をかざす。


「うぁ……」


その真意は分からず、眠りの中へ落ちていった。




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