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サマーバケーション <廃城の主>




「しっかしよー、シルビアって奴、反則級だったよなー」


「いや、レイラってやつのあの魔法もすごかったぞ!」


ゲームオーバーとなった生徒達は、サバイバルが終了するまで各ホームルームで補修をする。今回もゲームオーバになった生徒達がホームルームに集まって補修を受けていた。


「はいそこ、喋らない。しっかり聞いてよね」


「はいはーい」


「はいは1回!」


「はい!」


サラは補修担当だったので、サバイバルには参加せずにゲームオーバになった生徒達を指導していた。


「さ、サラ先生!」


ホームルームのドアが勢いよく開かれ、額に大量の汗を浮かべた生徒がサラを呼んだ。


「もう、何なの? 今授業中よ? それに君、保健委員でしょ?」


保健委員。ゲームオーバで転送されてきた生徒達の健康状態を確認し、怪我などを治す役割を受け持っている。


「た、大変なんです!今すぐ、今すぐきてくださいッ!!」


「ど、どうしたの?」


生徒の必死な表情にサラは只事ではないと感じ取った。


「いいから早くッ!説明なんか後で幾らでもするからッ!取り敢えず一大事なんだって!!」


生徒の話す言葉はもう敬語ではなくなっていた。


「わ、わかったわ!…み、みんな取り敢えず自習しといて!」


ナ、ナンダナンダ!

ナニカタイヘンナコトガオコッタラシイゼ

ミニイコウゼ

チョットアンタタチ!

イイダロベツニ!


サラは補修生の言う言葉を気にせずに、サラの前を全力で走る生徒について行った。


「はぁ…はぁ…あそこだよ、サラ先生…」


「はぁ…はぁ…」


サラ達はグラウンドの真ん中あたりまで来ていた。グラウンドには大きなテントが何個もあり、そこに生徒が転送されて帰ってくる。帰ってくると同時にテントで手当を受けるのだ。


そのテントの一つ、今サラ達の目の前にあるテントの周りには、テントを覆い隠すように生徒が集まっていた。


「ごめん、皆、道を開けてくれ!」


「ごめんね!」


サラと生徒は生徒の群をかき分けてテントの中へと入っていった。


「う、うそ…」


そこで見たものにサラは驚愕した。


「早くビーティング剤持ってきて!」

「うるせえ!今手が離せねーんだよ!」

「回復魔法!早く!間に合わねーぞ!」

「もっと血液持って来い!」

「今持ってきたよ!」


テントの中の一つのベッドに、殆どの保健委員の医療班が集まっていた。生徒だけでなく、教員も何人かいた。


白いベッドだったはずなのに、今は血で真っ赤に染まっている。医療班の白衣も血まみれだ。


「な、何があったの?」


ベッド周辺の喧騒の空気に近寄る事ができず、その場で生徒に尋ねた。


「アルヴァレノの生徒が血まみれで転送されてきたんです。ほとんど死にかけで…」


「死にかけ!?」


「サラ先生が驚くのも無理ありませんよ。普通は死にかけなんてあり得ませんからね。僕達の何人かはパニックになったぐらいですから」


「それで、大丈夫なの!?」


「まだ…わかりません。最初は意識あったんですけど、今は…」


「な、何でこんな事に…」


「それで、今から話すことはあまり広めないでください。意識がなくなる前に彼が話していた事なんですけど…」


「何なの?」


「錯乱していたかもしれないし、定かではないんですけど…」


「勿体ぶらないで!」


「…他に、殺された生徒がいる…って」


「こッ─」


殺された!?っと大声で言いかけたサラは慌てて口を抑えた。


「彼、アルヴァレノの生徒の中でもトップクラスの人材らしいです。優勝候補にも上がっていました。そんな人があんな事に…」


「ちょっと、どいて!」


「さ、サラ先生!」


我慢ならなくなったサラはベッドまで駆け寄り、医療班をかき分けて生徒の状態を確認した。


「う、うそよ…」


そのあまりの酷さに、サラはずるずると後ずさりベッドから離れた。


ベッドの上の生徒は五体満足ではなかった。


左腕の肘から下、右脇の一部、右足の殆どが、何かで抉り取られたかの様に無くなっていた。


「な、何であんな事に…」


「サラ先生…。それで、まだ彼が言っていた事があります」


「何なの…」


「城、悪魔、女、禁術。この言葉を何度も言っていました。何か、とても不吉な事が起こっている予感がして、それでサラ先生に…」


「城? 禁術? なんの事かさっぱりわからないけど、サバイバル会場に城なんかあったっけ…」


「え…。何人か城を見たって人がいましたよ?」


「え…、サバイバル開場ってどんなのだった?」


「僕が見たのは、背の高い木の森と金色の草原。それに海かな」


「う、海!!」


「サラ先生?」


「嘘よ。海なんて有りもしないわ…。森と草原はあったとしても海は絶対ないわ…」


サラはサバイバル開場の事を知っていた。森や草原、ドンぱちやっても大丈夫なように広めに設定した魔法空間だと。海は存在しなかった筈だ。


「そ、それじゃあ…」


生徒は事態がより深刻な方向へ進んでいっているかもしれない事に気付く。


「いい? このことは誰にも言わないで。事は一刻を争うかもしれないわ」


「は、はい…。それで、僕は何をしたら…?」


「このまま彼の治療の手伝いと、周りの生徒達の対応をお願いできる?」


「はい、わかりました!」


「それじゃあ、よろしくね!」


サラは生徒に背を向けて急いでテントから出て行った。そのまま生徒の波をくぐり抜け、学園長達が集まる所へ走っていった。







ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー








パチパチッ


木が燃え、火の粉が夜空へと舞い上がる。砂浜に寄せられた波の音と合わさり、ノスタルジックな雰囲気を醸し出す。


「すっかり暗くなったな」


「ああ、そうだな」


あれから俺達は海岸へ向けてと歩き、砂浜で休憩していた。俺とレイラは集めた木に火をつけ、その周りに座って月明かりに照らされたさざ波を見ていた。


少し離れた所では、リオン達がじゃれあいながら楽しく会話している。


「ユウ…」


「どうした?」


「…………」


さっきからこうだ。俺の名前を呼んではすぐに黙る。俺の肩に頭を乗せたレイラはいつになく静かだった。


「どうしたんですかー、いつものレイラさんらしくないですよー」


「むーうるさいなー」


「はいはい」


「…そう言えば、ユウにこれを返していなかったな」


レイラは俺の肩から頭を離し、自分の首の手前へ手を持っていった。そして紅色のネックレスから小さな輪っかを外す。


「手を出して」


「はいよ」


「…何ニヤニヤしているんだ?」


「いや別に?」


いやー。レイラさんまじ可愛いっすわ。俺生まれてきてよかったー。


「気持ち悪い」


「気持ち悪いとか言うな」


「変態」


「変態ではない、超変態だ」


「あーもう…バカユウ!」


「おわっ」


ブレスレットを取り付けた後、急に胸元を引っ張られ、俺の首に腕が回された。レイラの髪の毛からとても良い匂いが漂ってきて昇天しそうになる。


「レ、レイラ…?」


おでこをくっつけるような感じになり、レイラの顔が目の前にあった。その頬は赤く染まり、透き通るような瞳に吸い込まれそうになる。レイラは俺の目を見て、涙を浮かべる。


「会いたかった…」


「…………」


「ほんと会いたかったんだからな…」


「…………」


「ずっと…」


「悪かったな」


レイラは俺の胸に顔を埋めた。そして小さく震える。


「ユウが居なくなって、何回死のうと思った事か」


「…………」


「本当に本当に、死んだと思ったんだからな」


「…………」


「もう離れていかないでくれ…」


「……分かったよ。本当に済まなかった」


「うっ、うぅぅ…」


涙ながらに訴えるレイラの表情はとても心に刺さった。俺がいない間、俺が生きていると知らされるまでの間、本当に自分を責めて苦しんだのだろう。気がつけばレイラの頭を撫で続けていた。


「でも、ユウ。あれからどうやって逃げ延びたんだ?」


レイラがふと顔を上げて聞いてきた。

確かに、レイラからすれば不思議で仕方がないだろう。思えばそうだ、何で俺があの状態から助かったのか全く記憶にない。未だに謎のままだ。


「ユウ?」


「あぁ、悪い悪い。俺もそこんとこの記憶がないんだよ。全くわからないんだ…」


「そうか…。でもいい、お前は生きていたんだ。私はそれだけで十分だ!えへっ」


そう言ってレイラは今まで見せたことのない笑顔を向けてきた。


ふぉおおお。マジ神!神様ありがとうございまーす!嘘でも夢でもこんな美少女にこんな事言われて嬉しくない訳があーりません!


「おい!お前らいちゃつくなッ!」


「り、リオン。わ、私は別にいちゃついてなんかいないぞ!」


「のわッ!」


照れ隠しなのか、レイラが俺を離して距離を取る。リオンによってレイラとのピンクワールドがぶち壊れてしまった。


「良いところで邪魔しやがってこんにゃろー。あれだろ、羨ましいんだろ?俺とれレイラがいちゃついているのが羨ましいんだろ?ぐへへ」


「ゆ、ユウ!」


ムカついた俺はレイラの肩を掴んで引き寄せ、リオンに向かってヘラヘラした顔でお見舞する。


「き、きっさま~!大人しくしておけば調子に乗りやがって!同じギルドとか関係ねぇ!男としてお前を叩き斬ってやる!」


リオンはおでこに青筋を浮かべ、腰に添えてある剣に手を伸ばす。


「り、リオン!」


「男としてってお前、自分の気持ちも言えねぇ奴が何いっちょ前に男とかほざいてるんでちゅか~。ましてや鼻糞が主食の男なんか誰も好きになっちゃくれないでちゅよ~、リオンちゃ~ん」


「お前!今日こそは許さねーぞ!覚悟しろぉ!」


リオンは吠えて腰から剣を抜いた。


「リオンさん。貴方ってそういう人だったのね」


リオンが攻撃する前にシルビアが冷たい一言を言い放った。それによりリオンの足が止まる。


「な!シルビア!違うぞ!」


「リオンさん…、美味しいんですか?」


「ネルフィまで!?」


「……………」


「おい何とか言えよカリーナ!」


「……喋らないで」


「嘘だろぉおおおお!」


「ぎゃははは、傑作だなリオン!」


俺の言葉に皆が乗ってくれたお陰で、いじられ役のリオンが輝いた。場が和み、自然と皆の顔に笑顔が浮かぶ。


「おいおいおい。俺もしかしてずっとこのキャラなのか? 勘弁してくれよ」


気が抜けてしまったリオンは剣を収めて頭を抱える。

更に皆の顔から笑みが零れた。



ビーガガガガガッ!



「っ」

「なんだ!?」

「……」

「な、なに?」

「うっ」


不意に、腕に付けていたバンドから機械音のようなノイズが走った。


『緊急事態発生。緊急事態発生。サバイバルは只今をもちまして中止とさせて頂きます。数秒後、強制で転送魔法が発動されます。緊急事態発生。緊急事態…』


女の声だ。皆が腕に取り付けているバンドからそう聞こえた。緊急事態発生という言葉を何度も繰り返す。


「は? 緊急事態? 何言ってんだ?」


皆の不安が煽られる中、リオンは涼しい顔をしていた。流石セントブルグの武闘会準優勝者と言うべきだろうか、肝が座っている。


「強制転送? って、一体何があったんだ? シルビア分かるか?」


「いいえ。何が起こったのでしょうね。今はどうであれ、帰還してから分かるんじゃないでしょうか。とりあえず転送を待ちましょう」


シルビアも冷静だった。皆、腕に付けてあるバンドから発せられる声に耳を傾けていた。


ふとここで、ある事に気付く。


「ちょっと待て。俺のバンドから何も喋ってる声とか聞こえねーんだけど…」


「え、ユウのバンドからは何も聞こえていないのか?」


「ああ、全く聞こえない」


腕に付いているバンドに耳を近づけるが、レイラ達から聞こえるような声も何も聞こえなかった。レイラを含め皆が不思議そうな表情で見ている中、一際怪訝な表情を浮かべる人物がいた。


「待って下さい。ユウさんのそれ、転送装置ではないです」


声を発したのはシルビア。


「誰が仕込んだのか分かりませんが、それ、位置を特定するような術式が組み込まれています…気持ち悪い……」


吐き捨てるように言った。言われた言葉は、とてもじゃないが笑えない内容だ。シルビアも本当に気持ち悪そうな顔で言うものだから、自分に向けられた言葉だと錯覚しそうになる。


「え? ちょっと待ってくれ」


シルビアの言う事が本当であれば、俺のこのバンドは一体誰が付けたんだ。つかこのままだったら俺は転送されねーんじゃねぇか。ってか忘れていたけど、俺は部屋で眠ってからこのまで記憶が全くねーよな。


と、そこまで考えた時、嫌な予感が過ぎった。


「レイラ。わりぃ、また巻き込まれたかも」


「え…」


泣きそうな顔で訴えると、レイラも泣きそうな顔をしていた。


『それでは転送開始します。それでは…』


ブンッ─

ブブブブンッ─


無慈悲にも、嫌な予感というものは当たるものだ。バンドから転送開始のアナウンスが入ると、俺以外の連中は足元に魔法陣が浮かび、瞬く間に皆が消えた。


「はぁあああああああぁぁあああ!?」


取り残される予感はしていたのものの、いざ目の当たりにするとパニックになった。焦りと不安のボルテージが跳ね上がっていく。


「ちょ、マジぱねえ。もしかして他の生徒も全員転送されてる訳じゃねーよな。いやいや、まさかまさか。そんなのは有り得ねえ。有り得ねえぜよ!」


考えれば考える程、この世にたった1人だけ取り残されたんじゃないかという感覚に陥る。


「どうなってんだよぉおおおお!おいいいい!誰かぁあああああ!」


居ても立ってもいられなくなった俺は、とにかく誰かに会いたくて、大声を出しながら走り回る事にした。


それから数十分、大声を出しながら森の中を駆け巡っていたが、一向に人と会わなかった。とうとう本気で取り残されたんだと思い始めていた。


「はぁはぁ。くそっ」


垂れてきた汗を拭う。


「いてっ」


腕に着いていたバンドが髪の毛を引っ張った。


そう言えばシルビアって子、このバンドに位置情報がどうたらとか言ってたよな。普通に考えれば、教員用と捉えるべき所だが、シルビアのあの嫌悪感たっぷりな表情を見るとその考えは間違っているだろう。誰かがわざと付けたに違いない。


誰が? 何のために?


そこまで分かればいいんだけと、今は情報が少なすぎる。


分かっている事は、バンドが壊れれば転送魔法が発動する事。俺のこのバンドはどうだか分からないが試す価値はありそうだ。


ネルフィはこのバンドが壊れると転送魔法が発動すると言っていた。身体に蓄積されたダメージをバンドが吸収してくれるとかも。自分の身体を痛めつけてるのは論外として、直接バンドを壊してみる事にした。


「ふん!」


包丁を腰から抜き、バンドをスパンと斬った。


「はい?」


バンドは『ぼとん』という無様な音を立てて地面に落ちた。


ただそれだけ。


魔法陣が浮かび上がる事も転送の光に包まれる事もなかった。バンドはただの布切れと同じだった。


「おい…」


本当に一人ぼっちになっちまったぞ。


「くそ」


鬱憤を吐き捨てると、ぽつりぽつりと空から雨が降ってきた。しばらくすると結構強くなってきたので、どこか雨宿りできる場所を探して走り出した。


「よりによってここかよ…」


雷の光によって映し出されるそのオブジェは、ネルフィと最初に入ったあの薄気味悪い城だった。


真っ暗な空に雷、薄気味悪い城。雰囲気抜群のこの廃城にできるなら入りたくなかったが、これ以上濡れるのも癪。状況整理する時間と場所が欲しい。一階の大広間にくつろげるようなスペースがあった筈なので、そこで一旦落ち着こうと思い、中に入る事とした。


「ずぶ濡れじゃねーかよ」


上着を脱いで絞った。上着から落ちた水滴が床を跳ねる。


「……」


周りをキョロキョロしながらどこか座れる場所がないか探しながら奥へと進んで行った。城の一階は結構広く、天井も物凄い高い。どこにでもあるような学校の体育館並みの広さだ。


ぴちゃっ


暗がりで気付かなかった水溜まりに足を踏み込んでしまったようだ。跳ねた水滴がズボンにかかる。


「何でこんなとこに水溜まりがあるんだよ」


ぶつぶつ文句を言いながら、ズボンにかかった水を拭き取ろうと、ずぶ濡れになった上着でズボンを擦る。


「ん? 何だ? 水にしては粘っこいな」


ごしごし擦っても汚れは取れなかった。不思議に思った俺は地面の水溜まりに手をつけてみる。


「ん? 黒い…水?」


それは雨水ではなかった。そもそも、屋内に水溜まりがある事自体、おかしい事に今更気づく。


バリバリドカーン!


「っ!」


雷の光で照らされ、今目の前にしているものの正体が分かった。


「う、嘘だろ」


バリーン!


再度光る雷が俺の手を鮮明に映す。そこには真っ赤な血がこびりついていた。そして床の至る所におびただしい血の跡がついていた。


次に雷が光った時、あるものを見て思考が一時停止した。


「は、はははは。ありえねぇ」


震える口からか細い言葉が出る。再度続け様に3回ほど雷が光り、それらを完全に目に捉えた。


「うっ…」


吐かなかったのは耐性が付いていたからだろうか。以前アルベリオの学校で起きた事件を思い出させるきっかけとなる。こんな耐性が付いても嬉しくもない。


俺の周り、少なくともこの部屋の至る所に人間の一部や中身が転がっていた。引きちぎられた腕、もぎ取られた足、抉り取られた内蔵、糸くずのように絡まった血管、おびただしい数のそれらが無造作にぶちまけられていた。


今回は紛れもない人間の死体。


何とも言い難い生臭い血の臭いを次第に感じ始め、転がる肉片を見るだけで嫌悪感が走る。


「おぇ…はぁっはぁっ」


嘘だろおい。俺が前に来た時はこんなものなかった筈だ。幻覚か? そうだ、幻覚に違いない、ははは、何をいったい見てるんだろう俺は。


「……うぇ」


幻覚だと自分に言い聞かせて再度現物を見るが、それらは紛れもなく存在する。暗がりに目が慣れてきた所為か、現物を目で捉えやすくなっていた。


「だ…誰か…」


少し落ち着いてきたところで、俺の耳ににか細い女の子の声が聞こえてきた。


「あ? 誰かいるのか!返事しろ!」


部屋いっぱいに聞こえるように叫び、耳を澄ます。


「こ、こっちです…」


部屋の隅の方から声が聞こえた。


「そっちか!今行く!」


声が聞こえてきた方に向かって走り出した。


「大丈夫か!しっかりしろ!」


「ぅ…」


部屋の隅の物置の影に女子生徒が隠れていた。人が居ることに安心した俺だったが、その子の姿を見て絶句する。その子の右腕の姿は肩の根元から無く、制服に血が染み込んで変色していた。


「良かった…最後に人に会えた…」


女子生徒は目に涙を浮かべ、微笑んでいた。


「しっかりしろ!一体何があったんだ!?」


「お、女の人。し、知らない…女の人に、みんな…殺されたの」


「こ、殺されただと!?」


あ、ありえねぇ。怪我をするとはあっても死ぬことはなかったか筈だよな、このサバイバル。


「はぁ…はぁ、げふ。あ、あのね、私の両親に伝えて欲しい事があるんだけど、いい?」


「しっかりしろって!そんなものは自分の口で伝えろ!まだ諦めるんじゃねぇ!」


くそ!ボケが!


「あぐぅ!」


持っていた上着でその子の傷口を強く縛った。これでどうにかなるか分からないがやらないよりはましだ。


「俺に回復魔法は使えねえ。後はお前の気力次第だ。何とかしても助けてやるからしっかり気を保っておけよ!」


「う!」


そのまま女子生徒を抱き抱え、立ち上がった。



「こんな所に隠れておったのか」



ふと、部屋に女の声が響いた。

高くもなく低くもなく、すっと耳に入ってくるような綺麗な声だ。


「これにて鬼ごっこは終わりかの。呆気ない。おや? 面白い臭いがする人間がいるな」


コツッ コツッ


そしてヒールの音も響く。

雷の光がその人物をくっきりと映し出した。


長い黒髪。

小さな顔に整った鼻、口。

猫みたいな小動物のような瞳。


身長は低めで、黒をベースとしたドレスのような衣装に身を包んでいた。


「あ……ぅ……ぁ……」


腕の中の女子生徒は尋常じゃないぐらいにガタガタと震えている。パッと見普通に見えるこの少女が、女子生徒にとっては恐怖の対象だった。


そしてこの惨状を作った張本人だろう。


「ふむ。妾の姿を見て動じぬとは、中々良い心がけじゃの」


少女は不敵な笑みを浮かべる。


「うああああああああ!!!」


瞬間、抱き抱えた女子生徒が暴れだし、俺の腕から抜け出した。


「あ!こら!」


そして一目散に城の出口の扉に向かって走って行く。


「これこれ、何処に行こうと言うのじゃ」


歳を食った喋り方でそう呟いた少女は、手を女子生徒に向かって伸ばす。


「わああああ……ぁ……ぁ…………ぁ…………」


ぴたり。


と女子生徒は止まっていた。

逃げようと必死な形相で、逃げようと必死な体勢のままで、その場でピタリと動かず時が止まったように固まっていた。


「いつ妾が逃げていいと言った」


「……ぁ……ぁ」


少女が腕の腕の動きと連動するように、女子生徒は宙に浮く。そしてそのまま少女の頭上まで連行されて行った。少女が人差し指をくるくる回すと、女子生徒も同じく宙でくるくる回される。


「なん……だ……これ……」


魔法と言うにはしっくり来なかった。

少女が手を掲げただけで、物体が自由自在に動く。


そう、それはまさに、


「念動力…」


「ほお! お主、今、念動力と言ったか?」


念動力という言葉に激しく反応した少女は、満面の笑みを浮かべてこちらを向く。


「ははははははは!なんという事じゃ!!」


突然、少女は声を大にして笑った。


「何が可笑しい」


「これが可笑しくて笑わずに居られるわけがなかろう!この時代で、魔法と言わず、念動力という言葉を使ったのじゃぞ!? これは愉快愉快、愉快じゃ!こんなに興味深い人間と会ったのは数百年ぶりかのぉ」


……数百年ぶり!? こいつ、この風貌でロリババアとでも言うのか!?


「気が変わった。お主、妾の話し相手となれ」


少女はそう言ったと同時に、地面に手をかざした。

バキバキと床が割れ、地面が突出する。あっという間に石で出来た椅子がそこに誕生した。


少女は足を組んでその椅子に座った。肘を掛け、不敵な笑みを見せる。顔は少女なのに大人の雰囲気が漂っていた。


「一体、あんたは何者なんだ?」


出た言葉はこれだった。


この少女の存在はかなり異質だ。この世の理から外れているような感じがする。それに念動力。この少女が実際に使えるのだとしたら、下手に歯向かわない方が良いだろう。床に散らばっている者達の二の舞となるに違いない。


宙でくるくると回っている女子生徒には悪いが、今は自分の身が最優先だ。目の前の少女から目を離さないように意識する。


「ふむ。自己紹介がまだじゃったな。妾は、ツクヨミ。お主らの言葉を借りるとそうじゃな……


''魔族''


と呼ばれている存在じゃ」



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