進化の繭 <前編>
地面が陥没する凄まじい音。
数十メートルも跳ね上がる砂。
舞う粉塵。
地面に走る亀裂。
飛び散る血痕。
気が付けば俺は地面にめり込んでいた。多分おでこを蹴られ、そのまま後頭部から地面にダイブしたのだと思う。
「………ぅ……」
思うと言ったのは、何をされたのかは分からず、目の前に広がる暗闇と砂煙から推測した事だ。意識は残っているものの、自身の身体はほぼ動かせず息をするのさえままならない。瀕死の状態まで追い込まれていた。
「くっ、くくく…」
前方から笑う声が聞こえるが、耳鳴りが酷い。
「はー!はっはっはっ!さいっこうだぜ!何だこの身体!力がみなぎってきやがる!魔力も尋常じゃないレベルだ!はははははは!」
な……なに…言って…んだ?
「ったく。地下に閉じ込めやがって。出るのに苦労したぜ」
耳が……聞こえ…ない。
「この力の実験台第一号に新米を選べたのは幸運だったな。一撃で終わってしまったのは残念だが」
キーンという耳鳴が酷く、何を喋っているのか殆ど聞こえない。重たい頭を上げて声が聞こえる方へ目を向けた。
「…ぅ……ぁ」
うそ…だろ…。
そこにはジュルドと思わしき人物が立っていたが、その目は紅く光り輝き、銀髪は肩の位置まで伸びていた。さらに身体の至る所が赤黒く変色し、その身体からは禍々しい黒いオーラが蒸気のように出ていた。
「あ? まだ意識あんのか? 頭粉砕したつもりだったんだがな。まだ力の調整が上手くいってねーのかな」
ジュルドはぶつぶつ言いながら向き直る。
「それじゃあ、昨日の恨み晴らさせてもらうぜ。死で償えや」
そして殺気を向けられた。
「ぅ……」
伝わる殺気からこの場から逃げろという命令が脳から伝達される。しかしダメージが大きすぎて身体は言うことを利かない。
くそっ…やばい。この状況は非常にまずい。動けよ俺の身体!くそっ!くそっ!こんな所で死ねるかッ!
「ぐぁあ…ぅがああ!」
力を振り絞って身体を起き上がらせた。
「あーん?」
上半身を起き上がらせるだけで精一杯。先程のダメージが思った以上に効いていた。身体が倒れないように腕を地面に立てて支える。
「はははは!無駄無駄!大人しくしとけっての!って、大人しくしかできねーか!はははははは!」
「ぐぅ…」
甲高い声が頭に鈍痛となって響く。頭を上げるのも辛く、額から流れる血液がTシャツを赤く染めていくのをただ見ている事しかできなかった。
「じゃあな」
すぐ近くで声が聞こえた。視界の端にジュルドの靴の先が入っている。奴はもう目の前にいた。
「死ねよ」
目線を上に上げると、奴は腕を振り上げて手刀を放つ体制を作っていた。その腕からは真っ黒いオーラが吹き出している。
「そぉらあッ!」
かけ声と共に奴は俺の首元に向かって手刀を振り下ろした。
あぁ。俺、死んだわ。
冗談ではなく本気でそう思った。振り下ろされる手刀がスローで見える。魔法も何も使っていないのに、そう感じた。多分これが走馬灯なんたろう。
そう思いながらそっと目を閉じる。
いや、しかし俺の人生、本当にアクティブだったなー。最初はなんか馬鹿でかいカモに襲われるしクマみたいなトラみたいな奴にも襲われるし、超絶美少女レイラ様にも襲われるし、超絶美人ナミさんにもデコピンで吹き飛ばされるし、うん、まじスプラッシュだわ。そうMS。SMじゃないんだよね。SMだとそんなにみちゃらめええええ、って意味だしな、全然違うからな、うん。
つか、なんか死ぬの遅くね?
さっきから痛みとか全然こないんだけど。
どゆこと?
あ、そうか、俺もう死んじゃったんだ。
うわ、すんげ、人ってこんな簡単に死ねるんだね。
「うぅぅうぅう…」
ほら、何か気味の悪いうなり声まで聞こえるよ。地獄のケルベロスが待ってるのかね。そろそろ幽霊になっちゃうのかね。ふしぎ。
「うぅうううぅぅうぅう…うがあああ!」
いやいや、なんか苦しんでそうなんですけどー。お腹痛いのかな?
「グギャアアアアアアアア!!!!!」
「んぉあッ! あ? えっ?」
尋常じゃない程の叫び声を目の前で発せられたので思わず目を開けてしまった。手刀は首には落とされはおらず、その本人は目の前で魔物のような雄叫びを上げながらのたうち回っていた。
「ジュル…ド?」
「グアアアアギャギャガガアアア!ガギャア!ガガギャアア!」
バキッバキッと骨が折れるような気味の悪い音が響く。その都度ジュルドの雄叫びは、獣じみた叫びに変わって行った。目の前で何が起こっているのか理解出来ず、ただただ呆然と見ている事しか出来なかった。
「ガギャアアアア!!」
「なんだこれ……」
思わず口に出た。ジュルドはもはや人間の体を象ってはいなかった。その体躯は人の2倍は軽く越える。全ての髪の毛が逆立ち、皮膚は灰色に変色し、所々黒いひび割れが入っていた。薄黒いオーラが蒸気のように吹き出し、時々紫色の稲妻が走っていた。
悪魔。
魔物というよりかはその言葉が合っていた。長く伸びた腕の先には、肉を簡単に切り裂けそうな凶刃な爪が生えている。
「グギャアアガギャアアア!!!」
ジュルドはまだ進化が完全に終わっていない様だった。更に骨が砕けるような音が鳴り続き身体が変化していく。化け物と化したそれは二足歩行から四足歩行に変わり、今まで見たどの魔物よりも凶悪な姿へと変貌していった。人の頭を丸呑みしそうな大きな口からは唾液が飛び散る。こいつの意識が俺に向いた時、楽な殺され方はされないだろう。無惨に食われそうだ。
「捕食エンドだけは絶対に嫌だ!」
殺されるとしても生きたまま食べられるなんて絶対に嫌だ。そう思った俺は力を振り絞って立ち上がり、腰から包丁を抜き取った。
まだ奴の意識は定まっていない。今が本当にチャンスだ。今殺らなければコチラが殺られる。
「……ぐうぅ!」
震える身体に鞭を打ち、奴に向かって走り出す。狙うは喉。包丁の切っ先を振り下ろした時、初めてバギュラと対峙した時と場面が被った。
「ガアアアアアア!!!」
化け物の目は紅く燃え上がり、甲高い叫び声を発しながら差し違えようと鋭い腕を俺の身体へと伸ばす。
「アクセルゥウウ!!」
交差する手前、悪い予感が過ぎったお陰で魔法を発動する準備は整っていた。だが体力も気力も尽きかけている状態、極限状態の思考回路は相手の武力を奪う事だけに絞られる。
「ガァアアアッ!!」
目の前に凶悪な腕が突き出されたが、奴の懐に踏み込んで紙一重でかわす。その際に頬が切れて後方へ血が流れたが知った事か。この踏み込みが吉となり、隙のできた奴の腹を十字に裂いた。
…しゃ!
「グァアァアアアアア!」
「うぶぉッ…!」
これで決まったと油断した隙に、奴の蹴りが腹にめり込んだ。口から内臓が飛び出そうになる程の衝撃を腹にくらい、グランドとほぼ平行に30m程吹き飛ぶ。
俺の口からは赤い汁が糸を引いていた。
「うぐッ…」
そのままグランドの境までゴロゴロと転がり、グランドの周囲に均等に置いてある花壇に背中から激突した。その衝撃で花壇はバリンと割れ、花壇の中の土が被るように流れてきた。
額から顎へと滴り、そしてポタポタと落ちる血液が身体の周りの土を濃く染めていく。額から流れる血を拭いとり、霞む視界をクリアにしていく。
「グガギギギ……グググ……ゴボォ………グオポォ………」
奴は腰からボタボタと流れる血を手で抑え踏ん張っていた。そして回復魔法らしき淡い光を発しながら傷口を押さえに行くが一向に回復しない。包丁で付けた傷は回復魔法すら弾いてしまうそうだ。
「グオオォ……」
奴は小さな悲鳴を上げ、足を引きずりながらどこかへ行ってしまった。
「う……」
脅威が去って気が抜けてのか、ふっと気を失ってしまった。
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ーーー
「う……いてえ…」
気が付いてまず目に入ったのが、べったりと血が付いた服だった。結構流れたようで着ていた服は最早黒色だった。頭を触ってみると硬い感触が手を伝う。じんじんとした痛みはあるが、血は固まっているようだ。
「ぐぅ…」
身体を起き上がらせて運動場を見渡す。生ぬるい風が吹いているだけで人影は見当たらなかった。戦闘を行った場所へよろよろと歩いていく。
「…血……?」
その場所から奴と思わしき血痕が運動場の真ん中辺りから校舎の方へと続いていた。
「逃げたのか…?」
血痕の続く先に目を向ける。
「まあ、何にせよ。追いかけるか」
この時の俺は正常ではなかった。血を流し過ぎた所為か疲労の蓄積の所為か、正しい判断ができなくなっていた。ただ、奴の存在は物凄く危険であり、どうにかして排除することしか頭になかった。
ゆるりゆるりと血痕を辿っていった。
「なん…だこれ」
血痕の続く先で見たものは、校舎の玄関の前で空いた大きな穴。その暗闇から階段が覗いていた。うっと嘔吐きそうになる異臭が漂い、刺激臭が辺りに充満していた。
オォォ…
闇の奥から奴の雄叫びのような物が聞こえた気がした。腕で鼻を覆い、意を決して階段を降りて行く。夜目に慣れてきたのか、月明かりに照らされた階段が明瞭になってきた。階段を降りるにつれ刺激臭がキツくなっていく。階段の進む先に魔鉱石で出来た灯りが見え、それを頼りに進んで行った。
びちゃっと何かを踏んだ。
「う!」
暗闇に慣れた目が捉えたのは''何か''の肉片だった。血が滴り、階段を染めるそれはまだ真新しさを感じられる。その血の滴る先に''何か''の内蔵がぶちまけられていた。
この世界に転送されて直ぐに食べたあのカモ。
野宿をする際に食べた獣。
それぞれ内蔵の処理は都度行っていたが、目の前に散らばるこれらからは嫌悪感しか感じられない。この腸の大きさ、長さ、これはまさか人ではないのかと、そう思わせられる。今すぐ引き返せという警告が聞こえるようだが、足は前に降りていく。
階段を降りきると、そこは少し開けた空間になっていた。天井と壁に埋め込まれた魔鉱石が光を放っているので視界は確保出来る。が、それがいけなかったのだろう。視界に入ってきたそれらを凝視した瞬間、胃の中身が逆流した。
「うぉおぉえぇぇ」
死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭死臭……。
強烈な臭いで鼻がひん曲がりそうになる。
その広場の殆ど至る所に内蔵や血管、骨や何かの肉片、上半身などか散らばっていた。壁際に檻が幾つも見えたが、その奥に死体が積み上げられていた。腐敗による損傷が激しく、臭いの元はこれらだと理解した。広場に転がる死体は、階段と一緒でまだ新しい。こんな観察ができる事自体もう頭が麻痺してきた証拠だろう。
麻痺した頭で更に周りを観察する。転がる死体の上半身は、人の形をしていたがジュルドの様に皮膚が灰色だった。檻の中の死体も、確認できる範囲だが灰色だった。手足の長さが人の倍以上あり、今ここで死んでいるこれらは人ではない事は分かった。
「ん? 待てよ」
冴えてきた頭の中で点と点が繋がり始める。
俺の目の前でジュルドが化け物に変化した。それもこれらと同じような格好に。
そして今日の昼休憩の女子達の発言。俺の噂の尾びれの先っぽ。行方不明者の続出の話。
それらが違和感無く繋がった。
繋がったと同時に気持ち悪さがどっと押し寄せる。今自分が想像した事が本当に目の前で起こっているのだとしたらそれはもはや人の所業では無い。
『人を魔物に変える』
そんなことが可能なのか。と思った時、新たに記憶が繋がった。俺がこの学校に来る事になった一件。ギーミ島での一件だ。
シェフだと思っていた人間が一瞬でバギュラに変わった。まさにそれだ。ジュルドも、これらも、それと同じ事が起こったのでは無いのかと直感する。
「これ本気でやばいやつじゃね」
セントブルグだけでなく、この街でも同事象が発生している。世界規模の悪巧み。目の前に叩きつけられた問題のスケールの大きさを認識し、自分一人では到底解決出来ないような代物に巻き込まれたと自覚した。
オオオオォォ……
広場の端にぽっかりと空いた階段と思われる空間から、奴の雄叫びが届いた。その先にこのような空間が広がっていそうな反響の仕方だ。
一旦引き返した方が良さそうだ。
そう決意した時、
「お? 誰かいるぜ?」
俺が降りてきた階段と反対側に位置する所から人が出てきた。人数は3人。
この事態を引き起こした張本人と思い、包丁を両手に取って構えた。
「どんな筋肉ゴリラかと思ったらただのチビじゃん。んお? 人か?」
俺から見て右側に位置する赤髪短髪の男が喋った。その身体に赤黒く光り輝く鎧を纏い、朱色の薙刀のような槍のような武器を持っている。その刃には金色の文字で綺麗な模様が描かれ、どこか気品が漂っていた。
「ユアン、あなたの悪い癖ね。いつもそうやって油断するから痛手を追うのよ」
次に喋ったのが左側にいる黒髪長髪の女。頭には黒色のとんがり帽子を被り、真っ黒の杖を手に持ち、高級そうな黒のローブに包まれていた。しかも超美人だ。そして驚くことに50㎝ぐらい宙にふわふわと浮いていた。
「ユアン、リディアの言うとおりだ。少しは気を張り詰めろ。コイツは今までの敵とは違う、一筋縄では行かないぞ」
そして最後に真ん中の青髪短髪の男が喋り、腰にそえている両刃剣を鞘から抜いて構えた。その剣からは何もかも浄化させるような神聖なオーラを感じる。軍服のような服は着ているが、防具などは一切着ていなかった。
「はいはい、うるせーよアルス。そんなこったー分かってるつーの」
「はーあ。魔物の巣窟を見つけたと思ったら魔物同士の殺し合いね。何かやんなっちゃうわ」
「まあ、真相はこいつに聞きゃいい話だ。やっちまうぞ」
「殺しちゃダメよユアン。生かして捕らえるのよ」
「ったくダリーな。ここ5日はこのダンジョンに籠もりぱなしだろ? 早くこいつぶっ飛ばして帰ろうぜ!」
「ま、それはそうね」
「ユアンの言う通り早く終わらせようか」
そして3人はそれぞれの武器を構えた。
「ちょーー!!ちょーっと待ってくれ!俺は全く関係ない!」
会話から確認できた事だが、この3人はこの事態とは無関係だと分かった。逆に俺がこの事態の関係者だと思われているような話しぶりだ。高貴な鎧や服装に身を纏う姿から相当の手練だという印象を得る。満身創痍の今の俺の状態じゃこの3人を相手にするのは難しい。そう思った俺は弁明しようと包丁をしまった。
「あぁ?」
ユアンと呼ばれた男が睨む。
「俺はこの階段から降りてきた学園の講師のユウだ。学園に侵入した魔物と戦闘していたのだが、取り逃してしまってここまで追って来たんだ」
「学園の講師ぃ?」
「ちょっと待ってユアン。多分大丈夫。彼は嘘はついていないわ」
「あー? ちっ。リディアの読心魔法が言うなら仕方ねーなぁ」
リディアという黒髪美人がユアンを静止させた。
読心魔法。その名の通り心を読む魔法だ。確かナミさんも使えたはず。リディアのこの魔法のお陰で潔白を証明でき、緊迫した状態から脱した。
「貴方の言っている学園って、まさかアルベリオの事を言っているの?」
「ああ、その通りだ。あんた達もこの階段から降りてきたんじゃないのか?」
こちらから返した問いに彼女は首を横に振る。
「私達はこの階段から登ってきたの。この地下は迷宮のようになっていて森の入口に繋がっているのよ。そこから入ってきたのだけど、それがまさかアルベリオに繋がっているとは思いもしなかったわね」
彼女の表情は険しくなる。
「貴方がこの惨事を引き起こしたのでは無いのだとすると、一体誰が?」
「その先にいる化け物の仕業だ」
この空間には、俺達が出て来た階段とは別に、もう一つ階段が存在した。先程雄叫びが聞こえてきた階段だ。降りてきた階段よりも2倍以上の広さがあり、ラスボスがいるフィールドに続いているような不気味さを感じる。
「どんな魔物だったかわかる?」
リディアからそう聞かれ、どういう風に答えようか迷った。ありのまま答えて良いのかどうなのか、そもそもきちんと説明出来そうにも無かった。
「どうして黙るの?」
「いや、説明が難しい。ちょっと今整理しているから待ってくれ」
「……分かったわ」
「怪我も負っているみたいだから無理はするな」
「…ちっ」
リディアから了承を得て、アルスから優しい口調でフォローをされる。舌打ちをしたユアンは見た感じ脳筋野郎だが、リディアとアルスは割と聞く耳を持っているようだ。ユアンが暴走しないようリディアが制御し、アルスが統率を図る。見た感じそんな印象を受けた。
時間をくれて助かった。少し考えを整理し、リディア達に説明した。たまたま居合わせた学園の生徒が魔物に変化した事、それがこの惨事の張本人だと推測できる事。後はこの肉片になっているものの正体も元々は人間である可能性が高いという事、そしてこの先で待ち受ける奴はさっき戦った時とは姿形が変わっているかも知れないという事を説明した。
「んな馬鹿な」
「なんですって…」
「…………」
リディア達が驚愕の表情を浮かべる。多分、他の人が聞けば信じられないような話だが、リディアの魔法のお陰でその心配をする必要は無さそうだ。
「俺の持つ魔除け武器で負った傷は回復が出来ていなかった。やるなら今の内だと思う。この食われた肉片を見る限り、奴は人一人丸呑みしそうなぐらいの顎の大きさに変化しているかもしれない」
この状況を分析しての推測だ。
床に散らばるこいつらは食べられた。その食べ残しだ。何かを得ようと必死で食らいついたようなそんな印象を覚える。恐らく回復の為の血肉だろう。
「彼の言う通り、今すぐ討伐に向かった方良いと判断する」
アルスが剣先を階段に向けて言った。
「はあ。やっぱりこうなるのね」
「ったく、仕方ねーなぁ。ささっさと倒して帰ろーぜ」
アルスの判断に2人は悪態をつく。
「貴方はどうするの?」
ふと、こちらを見たリディアが尋ねてきた。
ここまで来て引き下がれない。どうせ学校の関係者にあーだこーだ問われるのだ。見ていても損は無いだろう。それに心強い味方(餌?)も出来た。
「俺もここの講師として見届ける義務がある。ただし戦闘には向いていないから専門の君達でどうぞ。いざとなったら餌になって俺の逃げる時間を稼いでくれ」
「あら、言うじゃない」
「はっ。誰が餌だって!?」
煽り効果はこの世界では抜群のようだ。プライドを掻き立てられた彼らは戦う気満々だ。これで後方の安全地帯で見ていられる。
「君はここの講師だ。戦闘は俺達に任せてくれ」
唯一アルスだけが冷静だった。アルスの行くぞという号令で、2人は嫌そうに後ろを着いて階段を降りて行く。数十メートルぐらい距離を確保して、俺もその後を追いかけて行った。
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ーーーーーーー
ーーー
「なんだこりゃ」
階段を降りきった所で目に飛び込んできたのは、大きな繭だった。この空間は上の階よりも十分に広く、天井も十分高さがあるようにも思えるが、この繭のせいで空間が狭く感じる錯覚を覚える。それぐらい大きな繭だった。
ドクンドクンと心臓が脈打つ大きな音が響き、それに合わせて光っている。
なんだかヤバそうな物が産み出されそうな、そんな予感がしてたまらない。進化の繭6ターン目のそれだ。
「コイツも凶暴化した魔物の一種なのか? 全く見たことないな」
「見たことないわよこんな気持ち悪い魔物…。早く処分して帰りましょ」
「ああ、そうだな。最初っから飛ばすぞお前ら!」
3人は全く恐れる事もなくその繭に向かって武器を構える。なんだか嫌な予感がしてたまらないが、ここまで余裕を見せつけているコイツらにちょっと期待している俺もいる。確かに早く帰りたい。
「「「はぁぁあああ…」」」
アルスは剣を真上に構え、ユアンは薙刀を真横に構え、リディアは杖を繭に向けていた。3人の足下にはそれぞれの色で巨大な魔法陣が出現している。そしてそれぞれの武器が今まで以上の光を放ち始めた。
「メテオフレア!」
「ライトニングストライク!」
「烈風斬!」
リディア、アルス、ユアンがそれぞれ叫び、それぞれの技が繭に向かっていく。
「うぉおおお!」
繭にぶつかると同時に目が潰れそうな程の光と熱量が炸裂した。凄まじい轟音が響き渡り、数秒して衝撃波が空間を反響させる。あまりの凄まじさに尻餅をついてしまった。今の衝撃で空間が少し揺れ、砂がパラパラと落ちてくる。
「これはちょっとやりすぎちゃったかな…。てへ」
「全然可愛くねーぞリディア。つかこりゃ跡形も残ってねーな」
「ちょっと、それどういう意味よユアン。あなたに魔法ぶつけても良かったのよ?」
「てめーの魔法なんざくらわねぇっつーの!」
リディアとユアンが勝利を確信したかのようにギャーギャー騒ぐ。頼むからフラグを立てるな。
「おい、少しは黙れお前ら。まだ敵が死んだか確認していないんだ。気を抜くな」
そうだそうだ。アルスの言う通り。このまま何もフラグを立てずに去りましょう。
「3人の奥義を同時にくらって今まで生きてた奴なんざ見たことねーよ、大丈夫だって。帰る準備しようぜ」
あん!?
「そうねー。ユアンと同意見なのは不愉快だけど、こればかりは生きているとは思えないわ」
おいバカ2人!お前らフラグ立てんじゃねええ!絶対に生きてるやつだこれ!『やったか!?』以上のフラグだろが!
「おい、リディア…。お前に向けて放っても良かったんだぞ」
「あら、あなたの技なんか痛くも痒くもないわ。防御魔法さえ発動することが無駄だわ」
「…いい気になって喋るだけ喋りやがって…マジでやんぞおらッ!」
俺の心配を他所にコイツらはまだギャーギャー痴話喧嘩をしている。チラッと横目で爆心地を見るが、土煙が充満していて良く見えない。冷や汗が出る量が尋常じゃなかった。絶対に生きている。生きているどころじゃなく強大な奴に変貌して出てくる。そう確信した俺はこの場を離れようと、後ろの階段に向かってこそこそと歩き始めた。
「いい加減にしろお前ら!ふざけるのもっ」
ギュンッ──
アルスがリディアとユアンの喧嘩の仲裁に入ったその時、土煙が一瞬にして晴れた。
晴れたと言っていいのか。土煙は繭に吸い込まれていった様に見えた。
バキンっと何かが割れる音が聞こえたかと思うと、
ギョギョギョギャギャギャグキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
ヒィイイイイイイン──
「うお、」
「み、耳が…」
「う…」
気味の悪い甲高い声がこの場を支配した。




