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スクールライフ



サラとアルベリオ魔法学校へ訪れた次の日から、俺はサラの助手として働いていた。助手とは言ったものの、やっている事はただの雑用に等しい。サラの授業始まる前に欲しい資料を用意したり生徒に配る紙を用意したりと、授業や研究を手伝うような助手らしい仕事では無かった。頭も使わず、言われた事だけをする仕事は楽で助かる。


だが魔力で動く印刷器具を使えなかったのはかなり不便だった。その都度サラに魔力を注入しては印刷をしてくれていた。俺には本当に魔力があるのか無いのか、この力は本当に魔法なのかまた考えさせられる事となったが、考えても何も解決しないので特に気にしない事にした。


それから、この学校で働く上で分かったことがある。


セントブルグでも同じだったが、この国や学校でも連絡手段というものが皆無だ。皆普段から手紙でやり取りしている。この学校はアルガードと姉妹校ということで、簡単に連絡できる手段があるかと思いきやそういった物は殆ど無かった。唯一あったのが、魔力を込めると起動できる姿鏡の様な大きな装置だった。しかしそれは緊急用の連絡手段という事で普段使用は禁じられていた。しかも政府から認められた人間しか使用できないようになっている。魔法の世界だからとその鏡の前に立ち、自分の望むものが映し出されるかと思ったのだが、賢くなれる石もくれず寝惚け顔の青年だけが映し出されていた。しかしこういった文化に触れていくと、魔法で進化したのか退化したのかよく分からない中途半端な世の中だなと思うようにもなった。


どうやっても埒が明かないので、俺はナミさん宛に手紙を書く事にした。


届くまで2週間以上かかるとの事だが、この際何でも構わない。生きている事と、訳あってアルベリオで当分働く事になった事と、レイラ達の無事の確認、それとナミさんから直接渡してほしいことを添えて、レイラ宛に手紙も入れておいた。ナミさんなら上手いことやってくれるだろう。後は可能であれば船の調達をお願いして、余白にはナミさんの可愛さについて綴っておいた。



それから数日が経った今朝、ナミさんから俺宛に手紙が届いた。サラが入れてくれた暖かい飲み物を飲みながらそれに目を通す。


そこに書かれていたことは、まず俺の無事が分かり嬉しかった事と、レイラも無事にギルドに着いていた事だった。レイラはずっと自分の事を責め続けていたみたいで元気が無かった事も書かれていた。そしてナミさんから手紙をレイラに渡した時、レイラは泣いて泣いて数時間収拾がつかなかったそうだ。後はギルドの様子とか色々書かれていた。レイラから俺に宛てた手紙も入っていたので後で読んでおこう。


船の調達はまだ時間がかかるとの事だった。かの邪竜の来襲により、今セントブルグでは人や物の入れ替わりが激しく、船の便が殆ど無いそうだ。王宮にも掛け合ってくれたみたいだが別の用でほぼ全て出払っているみたいで船を取るのに1ヶ月は辛抱して欲しいとの事だった。


「ドラゴンショック様々だな」


「何々〜」


朝ご飯も手に付けずに手紙を読んでいると、その手紙に興味を持ったサラが横から覗き込んできた。文面を読んだサラから満面の笑みでレイラの無事がわかって良かったねと言われ、少し照れてしまったのは内緒の話だ。



朝ご飯を食べ終われば2人でメリーちゃんに乗って登校する。最初の頃は生徒達に冷やかされて恥ずかしかったが、もう今は軽く流せるぐらいに慣れてしまっていた。


「それでは、授業始めます。はい、配って」


「あいあいさー」


そして俺は相変わらず授業で使う紙を生徒達に配っていた。


「ユウせんせーって、本当にせんせーなんですか?」


クラスの男子からからかわれる。魔法美少女からからかわれるならそれはご褒美に等しいが、男子生徒からのそれはジャガイモの芽を取るに等しいぐらいどうでもいい事だ。男の名前など誰一人として覚えていない。


「天才が先生しても意味ないんだよ」


「天才が雑用だってね〜」


男子生徒の発言に適当に相手していると、今度はクラスのお嬢様的な女の子からからかわれた。うっひょー!これこれ、これを待っていた!


「ちょっとやめなよ。ユウ先生が困っているでしょ」


お嬢様チックな子の言葉も表面上は聞き流して残りの紙を配ろうとした時、ケイトがその子に注意した。ご褒美なので別に困ってもいないが、こんな可愛い子に助けてもらえてとても感激する。


「何いい子ぶっちゃってんの。きもいんだけど」


「………」


お嬢様が喧嘩をふっかけるが、ケイトは澄ました顔で無視した。そりゃもう20歳だしな、喧嘩なんかしてられないだろう。俺はよく我慢したぞという意味を込めてケイトに向かって親指を立てた。ケイトも親指を立ててウインクしながら返してくる。


「なにそれ、意味わかんない。あーだる」


お嬢様は気に食わないのか不貞腐れていた。その席の周りに座っている取り巻きの男子達がご機嫌取りをしている。


「はいはい、もうプリント行き渡りましたね。それじゃそのプリントの最初のところなんですが…」


そうして全員に紙を配り終わった所でサラの授業が始まった。俺は教室の後ろの壁際に立ってノートに色々んな事を書きながらその授業を観察していた。やっている内容のレベル自体は俺達の時代からすれば低いが、授業の進め方や教え方は完璧だ。授業は1時限100分とかなり長時間だが、時間を忘れてしまうぐらい飽きさせない授業をしている。授業が始まれば俺は特にやることも無く暇なので現代の数学の改善点をノートに書き込んでいた。


「だる」


今愚痴をこぼした女子生徒はさっきケイトに喧嘩を売ったお嬢様だ、俺は名簿を広げて名前を確認してみる。


カリーナ・クルセレス。


この国1の大企業の社長の娘らしい。なんとも派手な紫色の長い髪を腰あたりまで伸ばしている。可愛い事は可愛いのだが、凛とした顔付きからとても清潔なイメージを受ける。性格と態度は難点だと思われる。その気が強いところに惹かれるのか、取り巻きの男子達はひ弱そうな奴らが多い気がする。愛情を込めてうん子お嬢様と言うあだ名を授けよう。


それから授業は進み、中盤あたりに差し掛かっていた。サラが黒板に問題を幾つか書き、それを解く作業をしている。皆で相談してもいいということだったので教室が少しざわついていた。サラは質問がある生徒達のところに行っては教えに回っていて、こうして見ると本当に教師って大変だなと感服する。


「ねえフローラ、これどうやって解くの?」


「んー。私もわからない。難しいね」


ケイトとフローラは一緒のクラスで席も隣り合わせだ。1番後ろの席なので会話が聞こえてくる。因みにうん子お嬢様も1番後ろの席で、黒板に向かって右の壁側だ。ケイト達は左の窓側だ。


「ユウ先生、これ教えてくださいよ」


ケイトが後ろに俺が居る事に気付いて言ってきた。黒板に書いた問題は今までやったことの応用的な感じだったので生徒達からすれば少し難しいのかもしれない。


「んとな、これあるだろ? これをこうしてこうしたら…」


ケイトとフローラは俺の言葉にふんふんと相槌をうって真剣に聞いていた。


「…ここまできたらもう解けるんじゃないか?」


「えー。まだわかんないよ」


「あ!わかった!」


フローラは理解したようだが、ケイトはまだ理解していなかった。淡々と問題を解いていくフローラの姿をケイトは羨ましそうに見つめている。


「ほら、ここにこの公式あるだろ?」


「うん…」


「んじゃこうしてこうしたら?」


「う~ん。……ん? おお!? わかっちゃったかも!」


かなりわかりやすく説明したのだ。もう答えの一歩手前だったぞ。これで分からなければお手上げだ。


「こんな簡単な問題もわからないとかただのバカじゃん」


問題を解けて嬉しそうにしているケイトの耳にうん子お嬢様の有難いお言葉が届く。


「ぐ……」


カリーナはああ見えて学年いや学校のトップクラスの頭の持ち主だ。ケイトはどちらかといと頭はあまり良くない。だがケイトはケイトなりに必死で頑張っているのだろう、今の言葉は結構心に効いたはずだ。


「大丈夫、頭の良さなんていらねえよ」


「ふえっ」


俺はケイトの頭をポンポンと叩いて言った。ケイトは面食らったような表情になる。


「人生勉強よりももっと大事な物があるからな」


「え、なになに?」


「私も聞きたーい」


フローラも身を乗り出して聞いてきた。フローラだけでなく、ケイトとフローラの席周辺の生徒2、3人も物珍しそうな視線を送ってくる。


「ほらほら、ケイトだったらここにいるじゃん」


「あにゃ、ちょ、ユウ先生っ」


俺はフローラの頭を掴んでわしゃわしゃ掻き立てる。それを見たケイトは頭の上にクエスチョンマークを浮かべたような顔をしていた。まだ分からないようだ。


「友達だよ友達。友達って言っても一生の付き合いができるような本当の友達な。友達って結構大きい存在なんだぞ~? 頭良い奴って基本プライド高いからな、勉強ばかりしてカリカリしてっと本当の友達なんか一生できねぇぞ~」


俺はニヤニヤしながらカリーナの方へ向いた。カリーナはフンと言って目を逸らす。その姿を見た俺は、本当は仲の良い友達が欲しいけど、素直になれずに意地を張っている女の子にも見えた。


「それに勉強できなくても良い男捕まえて結婚すれば万々歳だしな!」


「おお!確かに!」


俺の話を聞いたケイトが目をキラキラさせる。元気付けるとはいえ適当に言ったんだけどな。大丈夫かなこの子。詐欺とかに引っかからないか心配になってきた。


「捕まえるのが大変だけどね!」


「もう」


フローラが茶化す。周りの女子生徒は笑っていた。


「それより、先生って何か凄いね!私見直しちゃった!」


「私も!」


何が凄いか全くわからないが、周りにいた女子達から賞賛を得た。ぐふふ。この調子だと放課後の特別授業プレイが出来る日も近いな。


ぐへへへへ。


それから授業が終わるまで、俺は純粋な制服JK達を蹂躙する妄想をしていた。ニヤニヤした気持ち悪い顔をしているのを多くの生徒に見られていたなんて知る由もなかった。


昼休憩はいつもサラの研究室の扉付近の机でサラと一緒に食べている。だが今日は何故かケイト、フローラ、その他3人の美少女達が何やら色んな話をしたいらしく研究室へやってきて大勢で食べることになった。


いやはや、もう皆さん可愛くて可愛くてご飯食べるどころじゃなったよ。携帯欲しかったね。この美少女達の制服姿は確実に高く売れるだろう。しかし、そこから始まる凄まじいGTに俺はついていけなかった。驚いたことにサラは普通に話をしていた。聞こえてきた内容では、サラはまだ誰とも付き合った事がないらしい。勉強ばかりの人生だったとかなんとか。からかわれて顔を赤くしたり笑っている姿を見れば、サラだって男の1人や2人に簡単にゲット出来るとは思う。


時間を忘れて皆でワイワイ騒いでいたので昼休憩はあっという間に終わった。次の授業は憂鬱な実戦格闘術の授業だ。


何故憂鬱かって?


それは行けばわかる。


今日は5年の実戦格闘術の授業でケイト達のクラスを教える事になっていた。2クラス合同で行うため、体育館並みの大きさの闘技場へ皆で移動した。この学校にはこういった建物が沢山あり、誰もが自由に使用出来るそれは生徒達の修行の場と化している。


「はーい、お手本見せるからちゃんと見ておいてねー」


サラは俺に向いてファイティングポーズを取る。これから起こることが憂鬱なのだ。


「はぁ!」


ブンブンッ


俺に当たる寸前で止め、一通りの技を繰り出す。顔面の前で拳が止まる毎に俺の髪の毛が後ろへなびく。それぐらいの拳速だ。怖いので目を瞑っていた。


「やぁッ!」


「あひぃ!」


そしてサラは俺の腕の関節を決めて投げた。視界がぐるっと回転したと思えば地面に倒れていた。受け身をとりやすく投げられるのはいいのだが、これだけは全然慣れない。サラが教える技のフィニッシュはほぼ投げが入ってくる。相手の関節を取って投げる、倒す。俺は模範の実験体なので毎回皆のお手本となって投げられるのだ。そんな事を毎回されれば誰だって憂鬱になる。


しかし、今日は違った。


サラは俺を投げた後、俺の腕を逆十字のように関節を取って寝技に入ってきたので、サラのムチムチの太ももで腕を挟まれた上にパツンパツンのお尻で顔面を圧迫された。そうなってはどうしようもなく興奮してしまい、鼻血が吹き出した。


「うそ!何で鼻血出てるの!どこか打ったの!しっかりして!ねえ!ねえ!」


サラは慌てて俺の顔をぺちぺちと叩く。だらしない俺の姿を見た生徒達はクスクスと笑っている。


「ぐへ…ぐへへ。もっと、もっと叩いて」


「何バカな事言ってんの!ああ、もう!みんなもう始めていいから!」


サラの一言で皆はそれぞれペアを作って広がってそれぞれ練習を始めた。


「あはは、男のくせにだらしなさすぎだよね」


「カリーナ様、あの様な男の事なんか気にする必要ないですよ」


闘技場の隅ではカリーナ率いる愉快な仲間達がサボっていた。カリーナはまるでボス猿のような存在だ。


「なんなら俺が再起不能にしてやろうか?」


銀色の短髪の筋肉モリモリタンクトップの男がカリーナに言った。身長も大きいので見るからにヤンキーである。ジュルドが入ったこのグループはガラが悪い事で有名だ。生徒達はこのグループには極力関わらないように普段から避けていた。


「ジュルドがやるまでもないよ。私から直接手を下してやるんだから…。私に友達ができないってね…。新米の教師だからって調子乗ってんじゃないわよ…」


カリーナは強く手を握りしめながら、サラに膝枕されてだらしない顔の男をを睨み付けていた。


「ぐへへ、サラの膝きもてぃ」


サラの膝に右頬を擦り付けて摩る。


「こら!変な触り方しないで!」


「あいて…。なにすんだよ…」


叩かれた頭をさすりなら真上を向くとサラと見つめ合う形になった。俺の目の前には少しだが実っている2つの果実がある。サラはカッターシャツなのでその形がくっきりと見える。


「なぁ、ちょっと触っていい?」


「もう知らない!」


そう言ってサラは立ち上がった。


「いてぇええええええ!ぐもおおおおおおお!」


サラが立ち上がったおかげで俺は地面に頭をゴンとぶつけてしまう。かなり痛かったので人目も気にせずにゴロゴロと闘技場を転がった。


「おぶッ!」


ゴロゴロ転がっていると、誰かに横腹を踏まれて止められた。まるでサッカーボールのように。


「先生~。組み手付き合って貰いたいんだけど~?」


俺を止めた人物はカリーナだった。その言葉を聞いた周りの生徒達は一気にざわつく。そして俺達から距離を取って離れ始めた。


「…………」


「いいでしょ?」


「…………」


「何黙ってんのよ!何とか言いなさいよ!」


「パンツ…」


「パンツ? 何言って……はっ」


俺の視線とパンツという言葉でカリーナは気付いた。俺のアングルからスカートの中が丸見えな事を。


「キャラクターのパンツってお前ぇえええ。あんだけ偉そうなお嬢様キャラだったくせにきゃわういパンツってどうなのぉぉぉお!うひゃははははは!」


「な…」


そのアングルから見えたパンツは、真っ白な生地の上にレイラの弁当箱にあったようなキャラクターがプリントされていた。20歳のお嬢様にはとても不釣り合いなのでドツボに入る。


ナンダナンダドウシタ?

ゼンゼンワカラナイ

カリーナノパンツガトカキコエタゾ


腹を抱えてゴロゴロ転がって爆笑する俺の周りに生徒が集まってきた。それに比例してカリーナの顔が見る見る赤くなっていく。


「あひゃひゃひゃ、やべっ、うひっ、止まんねえははははははは!」


「なになに~」


「ユウ先生どうしたんですか?」


騒ぎを聞きつけたケイト達も近寄って俺に尋ねる。


「おい、いいか、笑わずにきけよ、ぶひゃひゃひゃ」


「先生が笑ってるじゃないですか!」


「これが笑わずにいられるか!あのカリーナがよ、実は─」


「ああぁああー!!!」


「うおほッ!」


「きゃあ!」


カリーナのお恥ずかしい話を言う直前で、カリーナは俺とケイトの間に割って入ってきた。カリーナの妨害によってその話は止められてしまう。


「殺すッ!死ね!」


──やべえ!マジやじろべえッ!


そしてカリーナは俺に向かって後ろ回し蹴りを放つ体勢を作った。その格好からかなりの力が篭っている事と、顔面を狙っている事を瞬時に悟った。俺はすぐさま後ろへ飛んでその場から離れる。すると俺の目の前を凄まじい蹴りが通っていった。ビュンという風が顔面にぶち当たり、一滴の冷や汗が頬を伝う。


「おおお!あの教員カリーナの蹴りを避けたぞ!」


「すげえ!」


カリーナの回し蹴りを避けたことにより周りの生徒からどよめきが上がった。しかしそれは今コイツが力を溜めすぎたから避けれたのであって、速さを意識した回し蹴りなら確実にやられていただろう。


ごくり。


久しぶりに血が騒いできた。こういうギリギリの緊張感というものは大好きだ。


「ちょっと何してるの!?」


騒ぎが大きかったのかサラが駆けつけてきた。


「ユウ先生が組み手相手になってくれるって言ったんですよ~。ただそれだけですよ~。別に何も悪い事はしていないでしょ?」


「そ、それはそうだけど…」


カリーナは勉強、魔法、体術、剣術何でもこいの天才不良生なので、基本授業なんかは真面目に受けていない。こんな実演授業でカリーナの機嫌を損なえば授業の方針に乗っ取ってボコボコにされる。それが例え教師だったとしても。サラはその事は知っていたのでもう何も言えなかった。大丈夫かな…。そうぽつりと呟き、サラは心配そうに見つめていた。


「うさぎパンツのお嬢様は言うことが流石だね~」


「だまれぇえ!」


再度挑発すると、顔を真っ赤にさせて俺との間合いを一瞬で詰める。


──ありゃびっくり。だけどレイラの方が早いなこりゃ。


「死ね!」


カリーナは俺の顔面に向かって拳を突き出す。


「ハイ残念~」


「うぇッ!」


放ってきたパンチに手を添えて俺の後方へ流し、その勢いを殺さずに一本背負いもどきでカリーナを地面に叩きつけた。


「ぐう…」


この動きはサラに何回も直接身体に叩き込まれた動きだ。


「ぱねぇえ!」


この流れるような技をポンと出せたことに自分でもびっくりして思わず叫んでしまった。


「殺すッ!」


カリーナはすぐに立ち上がってまた顔面に拳を突き出してきた。だが今度は1発だけでなくフェイントなどを入れた多彩な連続技だったので、俺は小走り程度の速さで下がりながら手の平で技を受け流す。


「ほいっとな」


集中した俺にかかれば、カリーナの技1つ1つが手に取るようにわかった。伸びきった腕の関節を極めて、そのまま足を刈って地面に叩きつける。


「ぐあぁあッ!」


この技は今さっきにサラから受けた技だ。関節を極めて投げる、そしてその勢いを利用して折る。自分で使ってみて分かったが、これはそういう凶悪な技だ。カリーナは腕を押さえて喘いでいる。叩きつける寸前で力を緩めたので腕は折れていない筈だ。


「ほぇ…」


「すげ…」


生徒達は目を丸くさせて見ていた。サラでさえびっくりしていた。


「俺もびっくり」


「くそッ!」


カリーナは腕を押さえながらも起き上がり、また間合いを詰めて俺の顔面に回し蹴りを放ってきた。


「ほいざ~んねん」


「あがッ」


俺はしゃがんでカリーナの蹴りを避けた瞬間に軸足を刈った。身体を支えるすべを無くしたカリーナは地面に倒れるしかなかった。


「う……」


後頭部を地面にぶつけたようで脳震盪を起こしたようだった。


「おい、大丈夫かぁ? ってぶふぉッ!」


カリーナはなんとスカートがめくれ上がった状態で倒れていた。周りの生徒達は皆一斉に注目する。





ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー





う…。



何であんな新米教師なんかに…。



ひょろひょろなくせに何であれほどの実力があるのよ…。



こんなの一方的じゃない…。



くそ…。



──だろだろ!



──すげえ!



う…。



騒がしい。



なんだろう。



頭がぼやけていて聞こえづらい…。



──ほら!



あー、あの新米教師の声はうるさいわね…。



なに…?



一体何なのよ…。






ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー








「ほらほら!な!これだよこれ!俺が言いたかったの!爆笑だろ!うはははは!」


「確かにこりゃやべぇ…ぶふっ」


「わ、私も…ひょふっ」


「まさかのカリーナがね…ぶっ」


カリーナはうさぎさんのキャラクターのパンツを皆に見せつけて白目剥いて倒れている。貞操どうこうよりもパンツのそれに目がいってしまい、皆笑い転げていた。


「う…。いた…」


「お? やっと気付いたか、ひょぶふぉっ!」


「な、何笑ってるのよ!皆も!」


「だって、お前!自分の格好見てみろよ!はははは」


「え……」


俺の言葉でカリーナはようやく自分がどんな格好なのか気付いた。すぐにスカートを元の位置まで下ろす。


「わ、私…」


ぎゃははははは

わははははは

やべぇ!やべえ!

ははははは


まだ生徒達からの笑いは続いている。カリーナは恥ずかしさの余り両手で顔を押さえてしまう。


「ちょっと、みんな笑っちゃ可愛そうだよ!」


なんとケイトがここで皆に注意をする。


「そうだよ。カリーナちゃん、大丈夫?」


そしてフローラが慰めようとカリーナの傍へ行った。


「来ないで!どうせ笑いにきたんでしょ!私がこんなの履いているなんか似合わないのわかってるのよッ!でも好きで履いていて何が悪いんだよぉ!わあぁあん」


カリーナはとうとう泣いてしまった。こうなってしまっては何か悪い事をしてしまったのではないのかと周りの目を気にしてしまう。女子生徒の数人からじろりと睨まれていそうな気がした。クリス事件を思い出してしまうが、今回は前とは状況が違う。喧嘩を売られたのだ。これは仕方ない。うん、仕方ないのだ。そう言い聞かせてカリーナに視線を戻した。


「大丈夫だよ。私もたまに履く時あるから。それ最近流行っているし可愛いよね?」


嘘か本当かわからないがこんな事をケイトがカリーナに優しく言った。こんな羞恥な言葉を皆の前で言えるか?しかも嫌味言われていた奴にだぞ?無理だ。俺は言えないな。何という優しい子なんだこのケイトは。というか流行りなんだなそのパンツ。バカにして悪かったよ。可愛いなそれ。うん、可愛い。超可愛い。


「後はケイト達に任せたらいけそうだな」


俺は悪くない。そう言い聞かせて振り返り、生徒で群がる輪の外にいるサラのところへ行こうとした。


「おい、どこ行くんだよ」


するといきなり肩を掴まれた。振り返ると銀色短髪筋肉モリモリの柄が悪いヤンキーがいた。誰だコイツ。見たことねえな。隣のクラスの奴かな。


「シカトこいてんじゃねえぞゴラァ!」


「いでぇ!」


名前を聞こうとしたその時、俺はいきなり顔面を殴り飛ばされた。


「キャァア!」


その一部始終を見ていた女子生徒がが悲鳴を上げる。周りの生徒達は自分に被害が無いようにすぐさま離れていった。殴れて吹き飛んだ先には、よく見たことあるカリーナの取り巻きの男子達が待ち構えていて、俺の腕や足を掴んでギッチリフォールドしていた。


「お前アフォか!今喋ろうとしてたんだよ!短気にも程があんぞ!」


「俺のパンチを食らってまだ元気な奴なんか久々だよ。こりゃ楽しめるな。そらあッ!」


「うぐ……ぁ」


筋肉達磨は大の字にされている俺のお腹を思いっきり殴ってきた。お昼ご飯が口から出そうになるが必死に堪える。


「ははは。痛いか? カリーナを泣かせてタダで帰れると思ってんのか? おら、もっと苦しめ!」


「いだい!」


今度は頬を殴ってきた。


「っ……ぺっ」


いってぇ。教員でも容赦なしかよコイツ。どうやらカリーナを泣かした事によってコイツらの恨みを買ったみたいだな。


「こら!何やってるの!離しなさい!」


「ちぃ」


ここでサラが走ってきて俺を取り巻き達から引き剥がす。


「ジュルド君!何してるのよ!」


「何って、ただの組み手ですよ組み手」


このジュルドって奴はあれだ、どこにでもいる様な不良だ。それもかなりタチの悪い感じだ。


「げほっ」


「ちょっと、ユウ大丈夫?」


お腹を押さえていた俺を心配して背中をさすってくれた。


「はん。弱いものは弱いもの同士集まるってな!ぎゃはははは!」


「おい、サラは弱くねえぞ?」


ムカついた俺は言い返すが、力が入らず立ち上がれない。鳩尾にモロに入ったみたいだ。


「へぇ。そうかよ。あ、サラ先生…」


ジュルドは急に大人しくなり、サラに近づいて何か言おうとしていた。


「ん? どうしたの?」


「さっき前でやってたじゃないっすか? そのことで質問なんですけど…」


「ふんふん」


授業についての質問と分かったのか、サラもジュルドに近づいていった。ジュルドって奴もただのひねくれた可愛い奴なのかと思ったが、ふとジュルドの目を見た瞬間にその考えは吹き飛んだ。


「サラ!」


「え?」


「おらよッ!」


「うぐぅぅ!」


俺の声に一瞬反応したが遅かった。ジュルドの拳がサラのお腹にめり込んでいた。


「ぐうはぁ…ぁ」


そしてそのまま壁際までサラが吹っ飛ばされる。


「サラ!」


「あぐぅ…う……うぅうおぉ……うぐぅ」


俺はすぐにサラに近寄った。サラは胃の中身をぶち撒けて苦しそうに蹲っていた。


「ぎゃはははは!どこが強いんだよ!弱ぇ弱ぇ!ぎゃはははは!」


「サラ先生!」


「先生!」


ジュルドの馬鹿笑いを聞きながらサラを介抱しているとケイト率いる昼飯メンバーと駆け寄って来た。


「おい、新米教師。まだお前は終わってねえよ」


ジュルドが俺の背に向けて言い放った。こっちだって結構きてんだよ。でもこんな奴を相手するよりもサラだ。さっきのはモロに入ったはずだ。内蔵が破裂していたら洒落にならん。


「ぐぅぅ…ぅぁ」


サラの様子を確かめる。サラは殴られたお腹を押さえて苦しそうにしていた。顔は真っ青で焦点が合っていない。これは本当に危ない状態かもしれない。肋骨とか折れて内蔵に突き刺さっていると本当に取り返しのつかない事になる。


「おいケイト、保健室まで案内しろ!」


「えぅっ」


俺はサラを抱えて立ち上がった。サラから変な声が出たが気にしない。俺も結構ダメージが残っていたのでサラを抱える腕がぷるぷるとしている。けっ、決して重たいとかじゃないからなッ!


「わかりました!こっちです!」


「お前ら今日は自習だ!自分達で練習するなりおっぱい舐め合うなり好きにしとけ!」


「おい、逃げんじゃねえぞごらぁ!」


闘技場の出入口に向かって走り出したその時、ジュルドの一声で俺達の目の前にカリーナの取り巻き達が立ち塞がった。


「お前ら道徳ねえのかよ…」


「カリーナ様を皆の前で羞恥にさらした張本人が言うな!」


取り巻きの内の1人にごもっともな事を言われる。


「ははは、残念だったな。おい女、怪我しねえ内にとっととどっかいけ。俺はその新米に用があんだよ。巻き込まれても知らねえぞ?」


隣にいるケイトに向かってジュルドはニヤついた顔でそう言う。


「そんなのいいから早くどいてよ!」


「あー、ぴぃぴぃうっせえな、おい、この女もやってしまうぞ!」


ジュルドは瞬間短気逆ギレを発動して取り巻き達に言い放った。取り巻き達はどんどんと間合いを詰めてくる。ジュルドも俺達の後ろから近づいてきた。


「これぞ集団リンチだね!僕ちんびっくり!てへ」


「ちょっと先生、こんな時に何言ってんですか!」


「おい、ケイト。言い忘れていた事があった…」


「な、なに…」


「トイレの水流し忘れた」


「はぁあああ!? そんな事今関係ないでしょ!」


「うぐっ…」


サラが一瞬ピクッと動いた。よく見ると、笑いたいがお腹が痛くて笑えない苦しそうな表情だった。その表情は何でこんな時にそんな話をしたのよとでも言いたげだ。


「いやいや、ピンチになるほどふざけるもんなんだよ」


「意味わかんないんだけど!」


もうケイトは敬語じゃなくなっていた。


「ちょっと聞きたいんだけと、何であの筋肉ゴリラ君が仕切ってんの?」


「筋肉ゴ…げふん、ジュルドはカリーナの会社に次ぐ大手企業の御曹司なんです。だからカリーナとも仲が良いし、その上かなりの実力者なんで権力もあるんですよ。…て、何でそんな事聞くんですか!今全く関係ないじゃないですか!」


「そう言いながらもちゃんと答えてくれたケイト大好き」


「えふひょ!ちょ、先生!バカ!ほんと意味わかんない!」


「うぐっ…」


また腕の中でサラが震える。


「何ごちゃごちゃ言ってんだ!てめえらの置かれた立場分かってんのか!」


ジュルドの怒声で周りを見渡すと、ジュルドを含め10人ぐらいの男子生徒に囲まれていた。


「おいジュルド!お前らこそわかってんのか? その場から1歩でも近づくと容赦しねえぞ?」


「先生?」


しかしこんな状況でも、究極の魔法を使える俺にとっては余裕のよっちゃんだ。そんな俺をケイトが不思議な表情で俺を見ている。それ程信用ないのかこの野郎。


「んだとごら!てんめ─」


ジュルドが吠えようとしたところに、殺気を込めて睨みつけた。


「こッ……」


他人から睨みつけられるのが久しぶりなのか初めてなのかわからないが、ジュルドは少し戸惑っていた。


「うはは、見ろよ!ビビってやがる!うははははは!ぱねぇ!ぱねぇ!」


「先生、そんな事言ったら…」


ケイトが恐る恐るジュルドを見る。ジュルドは肩をぷるぷる震わせて額に青筋を作って血走った目で睨み付けていた。


「調子にのりやがってぇ…。殺るぞお前らぁあ!」


──くるか?


「やめなさい!」


ジュルド達が襲いかかってこようとした時、カリーナの声が響き渡った。ジュルド達はその場に止まってしまう。


「カリーナ、何で止めるんだよ? お前もコイツにムカついてんじゃなかったのか?」


「ジュルド、いやあんただけじゃなく、ここにいる全員達が束になってかかってもソイツには勝てないわ」


「なんだとぉ!?」


カリーナから衝撃の事実を叩きつけられたらジュルドは信じられないような顔でカリーナに向き直る。


よくわかってるじゃないかカリーナ。つか、よくコイツとかソイツとか言えるなコイツら。新米雑用だとしても教員だよ?ひどくね?


「あんた達!早くソイツを行かせてやりなさい!怪我したくないでしょ!」


カリーナが俺の目の前にいる取り巻き達に向かって言う。


「し…しかしカリーナ様」


「私がいいって言ってんの聞こえないの!」


「は、はいぃ!」


そして取り巻き達は道を空けてくれた。


「せんきゅ!よし、行くぞケイト!」


「う、うん…」


ケイトはまだこの展開を飲み込めていないようだったが、闘技場の出入り口に向かって一緒に走っていった。


「わかんねぇ…納得いかねぇ…あんな奴がよ…あんな奴が強いわけねぇだろぉぉおおおおお!」


「ジュルド!やめろ!」


「フリーズアロー!」


カリーナの声も届かないぐらいにジュルドはブチギレていた。ジュルドは走り去る俺達に向かって巨大な氷の矢を放っていた。


「ん?」


「ひっ」


すぐ側まで迫っているそれを見たケイトは青ざめる。


「大丈夫だ」


俺は魔法を発動してケイトの手を取った。そして少し離れた場所へ移動して魔法を解除する。俺達がさっきまでいた場所は大きな氷の矢が突き刺さっていて、その周辺が氷付けになっていた。シューと白い煙が立ち込める。


「ぎゃははは!ほら弱いじゃん!一撃だよ!ぎゃはははは!」


周りの生徒達は唖然としていた。


オ、オイアレ

ナンダナンダ

オオオ


しかし煙が晴れてくるにつれて生徒達はざわつき始めた。


「ふいー、危なかったな」


「ぎゃはは…は………は?」


そして俺達の無事な姿がはっきりと分かるぐらいまで晴れた。ジュルドは目を点にしている。


「先生、今のどうやったの…?」


「内緒だ」


手を引かれたケイトがキョトンとした表情になっている。


「お、お前ら!なんで無事なんだよ!」


ケイトに向かってニッコリ微笑んでいるとジュルドがさらに吠える。


「当たってねえからだよ」


「なわけあるか!完璧なタイミングだっただろ!」


「避けたからだよ」


「うぐぅ…がはっ」


腕の中のサラから呻く声が聞こえてきた。


「サラ!」


サラの顔色が先程よりも悪い。もたついていたせいか負担を掛けてしまっていたようだ。これ以上時間をかけていられない。


「くっそおおお!」


ジュルドが吠え叫ぶ。奴は相当ムカついているに違いない。その様子じゃ快く保健室に行かせてくれないだろう。


仕方ない。ちょっと痛い目にあってもらうか。


「ケイト!10秒程サラを頼む!」


「え? え?」


ケイトにサラを渡してジュルドと向かい合う。ゴキゴキと首と腕の骨を鳴らして準備運動をした。


「ははは、やっとやる気になったのか? んじゃ─」


「アクセル!」


ジュルドの言葉を無視し、今俺が持つ魔力の大半を使い、時間の間隔を目いっぱい引き伸ばした。多分、通常の百分の一ぐらいの時間が進む世界だろう。この領域になればほぼ無音に近い。邪竜戦以降、無茶な魔法ばっかり発動していたお陰か、いつの間にか俺の魔力量は莫大なものとなっていた。前までは1日に数回しか発動出来なかったアクセルも、今では連発しても魔欠が起こらなくなっていた。


「本当にセコいよなこの魔法」


そんな事を呟きながらジュルドに近づいた。そして、力いっぱい込めてジュルドの顔面を殴った。殴って殴って蹴って蹴って蹴り飛ばした。


「悪い子にはお仕置きよおおお!」


俺の言葉なんか聞こえるはずもないが叫びながら何回も殴って蹴り飛ばした。ジュルドはされるがままに俺に痛めつけられる。ジュルドから鼻血が飛び散っているが、それはまだ地面には落ちていない。


倒れる事も許さずにボコボコにした。


俺の感覚で3分ぐらい殴っていると、そろそろ拳が痛くなってきたので魔法を解除した。周りから見ればここまで2秒ぐらいだろうか。ジュルドの顔はアンが詰まっているのかってぐらいにパンパンに腫れ上がり、血まみれになっていた。一瞬で変わり果てた姿になったジュルドを見て皆唖然としている。


「ぅ……」


ジュルドは為す術もなく、グラッと後ろに倒れていく。


「そーらッ!」


俺はトドメとばかりにジュルドの顔面を下向きに蹴り飛ばした。ジュルドは頭から地面に叩きつけられてバウンドし、生気が無いようにぐったりと横たわった。


「………!!やっべぇえええええ!やりすぎたぁああああ!」


頭に血が登り過ぎてたとは言え冷静になって考えると、これはヤバい事をしてしまったと思った。コイツ確か御曹司とか言ってなかったっけぇええ?やばくね?しかも教員が生徒に手をあげるってのもやばくね?こんな事が発覚すれば莫大な慰謝料取られるんじゃね?やべえ!とりまコイツも治療だ!


「おいお前ら!ちょっとこっちこい!」


俺は取り巻き達を呼びつけた。しかしジュルドがこんな風になって信じられないのか、いつまでも動く気配がなかった。


「保健室に運ぶんだよ!何もしねえよ!そこのお前とお前!コイツを保健室に運んでくれ!」


「は、はい」


「頼んだぞ!」


やっと動いてくれたのを見て、すぐさまサラのところへ駆けつけて行く。


「まだ大丈夫だな。よし、行くぞ」


「先生…さっきの…」


「後で説明してやるから早く運ぶぞ!」


そう言って俺はサラを持ち上げた。


「うぐぅ」


「わりい、少し我慢してくれ。ほらケイト!保健室!」


ケイトはまだボケーとしていた。


「あ、うん、はい!」


「しっかりしてくれよ」


ケイトの後を追って、サラを保健室へ運んで行った。専門の教員の指示でベッドへ寝かせ、俺達も応急手当ての手伝いをする。しばらくしてジュルドも運ばれてきたが気にかける存在でもない。すぐにサラの診察が行われた。


サラは肋骨が折れていて内蔵に突き刺さっていた。結構危ない状況だったので回復魔法を使用して命に別状が無くなるぐらいまで回復させてくれた。専門の教員が言うには、後は5日ぐらい安静にしていれば完全に回復するとの事だった。


ジュルドの症状は打撲だけだったが、最後の蹴りが結構効いていたみたいで、目覚めるのが明日になりそうとか言っていた。動かすのも危険なので今日1日はこの保健室で寝かせておくとの事だ。今日の授業はもうこれ以降なかったので、サラを家に連れて帰る事にした。


「先生大丈夫?」


ケイトが心配そうに尋ねる。ケイトも付きっきりで看てくれていた。色んな所に気が回り、本当にこの子は優しい性格なんだろう。


「ごめんね? 私がドジ踏まなきゃこんな事に…うぐっ」


「おい、大丈夫かよ。はあ、しっかり捕まってろよ」


「え? わっ」


サラに肩を貸して歩いていたが、覚束無い足取りなのでまた抱き抱えた。ビックリしたサラが可愛い悲鳴を上げる。


「ケイト、今日はありがとう。助かったよ」


「いえそんなお礼を言われる事なんか」


「助かったって。素直にどういたしまして言っとけ」


「わ、分かりました。どういたしまして」


「上出来だ。今からサラを送り届けるから、ケイトももう帰っていいぞ」


「分かりました…」


「どうした?」


「今日は守ってくれてありがとうございました!ユウ先生格好良かったです!!」


「お、おう…」


何か言いたそうではあったが、まさかこんな事を言われるとは思いもしなかった。面と向かって言われると照れてしまう。


「またユウ先生の事教えて下さいね!それではサラ先生をよろしくお願いします!」


ケイトは一礼して廊下を引き返して行った。多分教室に向かうのだろう。


「気に入られちゃったね」


「ほっとけ」


サラは小言を言えるぐらいまで回復していたようだ。やっぱり下ろして歩かせてやろうかと考えたが、それは余りにも鬼畜だと思ったので抱き抱えたままメリーちゃんの所まで運んで行った。


メリーちゃんは飼い主を労わるように髪の毛を舐める。そして乗りやすいように身体を下げていた。サラは跨るだけで精一杯の様だったので、手網を俺が握りゆっくりと家へ向かわせた。家に到着後、サラをベッドに寝かせる。


「本当にありがとう」


「これでパンツチャラに出来る?」


「それは出来ない相談だね」


「まじかよ〜」


「ふふふっ」


サラは俺に向かって微笑む。サラの笑顔を見ていると自然とこっちも笑顔になってしまう。


「それじゃあ、明日の授業頼めるね?」


「はい?」


こっちまで笑顔になるとか何言ってんだ俺。何綺麗事言ってんだ俺。バカじゃねえの。全部この為の笑顔かよぉおおおおおお!ちくしょおおおお!


「あははは~。なんだって? 聞こえなかったなぁ~」

「だから、明日のじゅ─」


「あああああああああ!聞こえなーい!聞こえなーい聞こえなーい聞こえないもんねぇええええ!」


「うるさいっ!」


「あいて」


耳を手で塞ぎながら大声で叫んでいるとデコピンされた。ナミさんの究極デコピンに比べると全然普通のデコピンだったが、少しヒリヒリと痛む。おでこを擦りながらサラに向き直った。


「はぁ…。仕方ないわね。ちょっと紙と書くもの持ってきてくれる?」


「わかったよ…」


机の上に散らばっていた紙とペンを取りに戻り、サラのところへ持って行った。サラはそれを受け取って何やら色々と書き出す。


「ほら、今日のする事と、明日のする事を細かく書いてあげたから。1日だけでしょ? 明日終わったらもう週末でしょ? 月曜日からはもう大丈夫だから、またいつも通りだから、ね?」


「ちょっと待て。今日のする事って何だ? この後まだする事あるのか?」


「お願い……うぐぅ!」


「サラ!」


「大丈夫…。ユウなら出来ると思うの…」


苦しそうな顔でサラが言う。


くっそおおおおおおお!これ演技じゃねぇだろうな!まじで俺を騙そうもしていないだろうな!くそう!仕方ないのかよ!やるしかねえのかよ!


「わかったよ…。その代わり失敗しても知らねぇからな!」


「ありがとう」


サラは痛みを我慢して笑顔を作る。


くそう!ほんとに良い笑顔しやがってよぉおおお!断れねえよちくしょおおおおおお!


「安静にしてろよ!今日の晩、何か作ってやるからじっとしてろよ!絶対に動くんじゃねぇぞ!絶対だぞ!」


サラから紙を受け取り、俺はメリーちゃんに跨って再び学校へ戻った。最近、メリーちゃんは俺に心を開いてくれたようで、素直に言う事を聞いてくれていた。


研究室に着いた頃はもう日は陰り始めていた。誰も居ない校舎を一人で歩くのは少し心細い。研究室に入り、部屋の灯りをつける。そして今日のやる事リストに記載されていた書類を片付けるためにサラの机の椅子に座った。


そこから片付ける書類の山。


何これ。


指導要録?


なんじゃこれ?


マジウンコ!


てな感じで適当に書き殴って終わらせていると、いつの間にか日は沈んで真っ暗になっていた。


「うぉお!まじか!もうこんな時間かよ!晩飯!」


残りの資料とかは明日に後回しにする事として、急いで研究室と資料室を戸締まりした。その勢いのままメリーちゃんの待つ馬車小屋まで走り、メリーちゃんと一緒に帰って行った。








ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー







「……………」



月明かりに照らされた廊下を歩く人影があった。


その何者かは真っ暗な校舎の中を静かに歩いていく。そしてある部屋の前で止まった。


「………」


そこは保健室だった。


何者かはその部屋の鍵を開けて中へ入る。


中のベッドで眠っているジュルドの傍まで歩いていき、そこで立ち止まった。


「起きろ」


図太い声でそう言ってジュルドの目の上に手をかざした。


「うぅぅ……ここは…ぐぁあ!」


無理やり起こされたジュルドは、今日の授業でやられた顔面の痛みが襲ってきた。ジュルドは体を起き上がらせて顔を押さえる。


「ここは保健室だ…何故ここにいるかわかるか?」


「俺は……確か…あの新米教師に!そうだ!くそ!いてええええ!ちくしょおおお!」


ジュルドは完全に思い出す。叫ぶ事に酷い痛みが顔面を襲う。


「つぅ…そんで、お前誰だよ…。どっかで見たことあるような…」


その者のシルエットと声の図太さから男性とわかったが、暗さで顔までは見えなかった。


「そんな事はどうでもいい。お前、その新米教師に仕返ししたいとは思わないか?」


「あぁ? 何言ってんだ当たり前だろ!でもよ、力の差がありすぎてよ…」


ジュルドはユウに完膚なきまでにやられた事は理解していた。カリーナの言う通り、どう足掻いても今の自分では勝てない事も悟っていた。


「だったらこれを飲むんだ…勝ちたかったらこれを飲め…」


そう言ってその男は怪しい液体が入った小瓶をジュルドに渡す。


「なんだこれ?」


「それは増強剤だ」


「増強剤?」


「魔力、身体能力が飛躍的に上がる薬だ。上がったその力は衰える事はないし副作用もない」


その男は夢のような事を言ってきた。


「はん、俺がこんな薬に頼るとでも思ってるのか?」


ジュルドはその男に薬を返そうとする。


「違うのか?」


「……。ちいっ」


が、その伸ばした腕を引き戻した。


「そうだ、正直になるがいい。人間欲望には勝てないのだ」


「で、見返りはなんだ?」


「見返り? そんなものはない」


「なんだと…」


「ふっ、後は君次第だ…」


男はジュルドに背を向けて保健室を出て行った。


「…………」


保健室に残ったジュルドはその小瓶を見つめる。


「…………」


勝ちたかったらこれを飲め…


あの男の言葉が頭の中で木霊する。


「くそぉ!」


そしてその小瓶を開けて中の液体を一気に飲み干した。


「うぅ……うううう……ぅうぅうあああ……うがあああああああ!!!!」


その晩、校舎では魔物のような叫び声が響き渡っていた。



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