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英雄の代償




バギュラの魔法をまともに受けた私は動けずにいた。咄嗟に近くにいたバギュラを盾にしたが、ほとんど意味を持たず爆風に煽られ、村の中心まで吹き飛ばされた。



「れ……ら……」



ユウ声が耳に届き、横目でユウの姿を捉える。外傷はほとんど無かったが、薬の影響で身体の自由が利かない様だ。



「しぶといな…小娘」



近くでクゾックの声が聞こえた。顔を上げると、目の前にクゾックと一体のバギュラがいた。すぐに起き上がろうと腕に力を入れるが、言う事を聞かない。



「おい」



グルルルル



「ぐぁあああああ」



クゾックの命令でバギュラに首を持ち上げられた。呼吸がままならず、意識が遠のきそうになる。



バギュラの鋭い爪が私の心臓に狙いを定める。



嫌だ、死にたくない。まだユウに気持ちも伝えていないのに、こんな所で、私は死ぬのか。嫌だ。



「やれ」



クゾックの冷たい一言が放たれる。



嫌だ。死にたくない。



ガァアアアアアアア



「いやぁあああああ!」



どうしようも無い状況に目を瞑って叫んでしまった。











誰か……助けて……











ドシュ!!









私の願いは虚しく、











肉が突き破られるような鈍い音が聞こえた。














しかし、痛みは無い。











「なんだと!」



クゾックが驚いた声で叫ぶ。










恐る恐る目を開けた。







「あ……あ……ユウ……ユウ…………」






そこで見た光景は、






「ぐ…………しくった……ぐふうっ……」



私の身体を貫く筈だったバギュラの腕が、ユウのお腹の辺りを貫いていた。



「な…なんで…」



「ガァアアアアアア」



「ぐふうッ」



バギュラはユウの身体から腕を引き抜き、私の首から手を放してユウに襲いかかった。私は力なくその場に倒れてしまう。



「うるせえ!」



ユウは目にも止まらぬ速さで包丁を抜き、バギュラを細切れにする。



「何故貴様が動ける!くそ!こうなっては仕方ない、全員かかれええ!」



クゾックが叫んだ。すると村の至るところからぞろぞろとバギュラが出てきた。バギュラだけでなく他にも見たこと無い化け物が沢山いた。その数は全部で100は軽く越えているだろう。



「しっかり掴まってろよ!」



「きゃっ!」



ユウは私をお姫様抱っこし、村の出口に向かって走っていく。



ユウのお腹から溢れ出る血が私の服を赤く染める。



「ユウ!止まれ!それ以上は!」



「うるせえぇ!俺はな、おま」



グルルァアアアアアアアアアアアアアアア



「がは…っ」



どこからか現れたバギュラにユウが背中を切り裂かれた。口から飛び散る鮮血が私の顔にかかる。



「ユウ!!」



「……アクセル」



だがユウは止まらなかった。魔法を発動してどんどんとバギュラを引き離し、そして村を脱出した。



「もういいかな…ぐふっ」



ユウの口から出た血液が更に赤へと染める。魔法は解除していたが、ユウはまだ私を抱えて走り続けていた。



「ユウ!止まれ!もう走るな!止まってくれ!それじゃお前が…お前がぁ!!」



私はもう泣きじゃくっていた。



「大丈夫だ。今俺には痛みは感じない」



「大丈夫なものかッ!こんな出血じゃ、死んでじまうじゃないかああああ!」



私はユウに抱きついて叫んだ。



「ははは、ほんと泣き虫だな……げほ」



「ぞんなのはいい!泣ぎ虫でもいい!止まってくれ!頼む!頼むから!!」



「はは、嫌だね」



「何故だ!何故なんだ!止まってくれよぉお!!」



私はユウの頭を抱えて目を覗き込みながら言う。



しかしその時、ユウが走るすぐ後ろの道が吹き飛んだ。



「きゃあああ!」



爆風で吹き飛ばされそうになる。



「おっと、もう追いついてきたか。しっかり掴まってろよ!」



「もうやめろおぉお!」



必死に叫ぶが、私の声は届いていなかった。ユウは再び魔法を発動し山の中を駆け下りて行った。










「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!!」




「いやだ」




「何故だ何故だ!私が嫌だ!お願いだから止まってくれ!」




「いやだぐふっ」




「わからずやぁあ!私にはユウが必要なんだ!死ぬなんて絶対に嫌だ!!!」




「俺も一緒だ」




「だったら一緒に逃げるぞ!まだ助かる!早く船に戻ろう!一緒に、一緒に帰るんだ!」




「ああ、そうだな……………そのつもりだった」




「へ?」




「この出血じゃ…もう無理だ。わりぃな…肝に銘じていた筈なんだけどな…しくじった」




「…い……いや…だ…」




「それに魔力が無くなれば俺は今までの痛みが全て襲ってくる」




「だ……だめだ…そんなの…」




「そうなれば確実に死ぬだろう」




「だめだ!魔力が無くならなければ良いんだろ!だったら…」




「その魔力も俺の集中力でギリギリ保っているんだ。もうそろそろ限界だ」




「だったら何故お前は走っているんだよ!もう止まれ!止まってくれよおおおお!」




「安心しろ、レイラを助けるだけの魔力は残してある」




「お前は!お前は助からないのか!そんなので助かっても私は嬉しくない!絶対に死んでやる!」




「バカやろうッ!」




「ひぐっ」




「お前が死んだら命懸けで助けた意味が無いだろ!絶対に死ぬことは許さん!」




「だって…だって!……お前いない世界など私は要らないっ!私はお前の事が好きなんだ!そんな私をお前は1人ぼっちにさせる気か!お前が必要なんだ!わからずやぁあ!バカやろう!」




「レイラ…」




「私が良いと言うまで離れるな!許さん!一生側にいろ!」




「俺もお前が好きだよ」




「知ってる!」




「知ってるか…ぐふっ…ぺっ」




「うるさい黙れ!もう喋るな!」




「一緒にいたかったな」




「だから黙れってろよぉおおお!」




「いつもお前に怒られてな…」




「だがらぁあああ!うっう゛う」




「楽しく過ごしたかったな」




「バガぁああああ!」




「ほんと好きだよ」




「うあぁあああああん」




「その泣き虫なところも…ごふっ」




「う゛るざぃいい」




「怖いけど女の子らしいとこも」




「だまれよお止まれよおお!」




「優しいとこもな」




「あああぁ゛あ゛バガあ゛あ゛あぁ」




「それに誓ったんだ。命を賭けてでもお前を助けるってな!」




「あ゛あ゛あぁあぁああああああ゛あ゛あぁ」




私はもう何も話せなかった。ユウに抱きつくことしかできなかった。






「ほら、船に着いたぞ。俺から離れてくれ」



「ああぁあ゛あ゛ぁあああいやだあああ絶対いやだあああああ」



ユウは船を停めている場所まで走っていた。だが私はまだユウに抱きついたままで離れなかった。



ユウの暖かい身体が徐々に冷たくなっていくのがわかった。絶対に離れたくなかった。



「どうしたんですか? て、ユウさんその傷!早く手当てしなきゃ!」



アーサーがユウに駆け寄って行く。



「アーサー!止まれ!」



「は、はい!」



「俺はもうダメだ。お前に頼みたい事がある」



「………っ………」



ユウが真剣な表情でアーサーに言う。その凄みにアーサーは言葉を詰まらせて足を止めてしまう。



「ダメじゃない!ユウ!ユウ!ダメじゃない!あぎらめるなぁああ゛あ」



私は必死に叫ぶがユウは表情を一つも変えず、真剣な眼差しをアーサーに向ける。



「レイラを……頼む」



「……ユウ…さん………?」



「多分、レイラは暴れると思う。自殺とかするかもしれない。それをお前が止めてくれ!頼む!男として!今生のお願いだ!」



その真っ直ぐな瞳に、アーサーは首を縦にしか振れなかった。



「嫌だ!ユウ!お前も一緒だ!そんなのは絶対に認めないぞ!!!」



「ごめんな、レイラ…許してくれ」



「嫌だ!許さん!」



「さ、俺から離れてくれ」



「いやだいやだ!ああぁ゛あ゛あ゛あぁバガあ゛ああぁ」



「泣き虫」



「うるざい!……うっ」



ユウが力強く私の身体を抱きしめた。



「ありがどうな…ごんな俺を好いてぐれで…ううっ」



ユウの目から大粒の涙が溢れ、私の肩を濡らした。



「俺は本当に幸せだったよ…お前とバカしあえて…ぐずっ」



「うう゛っうあぁああ゛ぁ」



「何回自暴自棄になった事か…。その都度お前の顔が思い浮かんでさ…、本当にありがとうなっ…ぐずっげほっ…ぺ」



「私は毎日ユウの事考えて大変だったんだからなぁあ」



「それは悪かった。これからはもう考えなくて済む」



「ばか!もっと考えさせろよぉお!」



「わかったよ……」



そう言ってユウは自分の腕に付けているブレスレット外した。そして私のネックレスに輪を通す。



「ごんなのつけたら、一生忘れられないじゃないかばかぁああ!」



「ふと他の男にお前がとられるのも癪だと思ってな」



「私はお前以外の男なんか好かない!だからお前も一緒に帰るぞ!」



「そうだな…」



ユウがニッコリと微笑んで私に笑顔を向けてくれた。この時、私はやっとユウが折れてくれたのだと思って気を抜いてしまった。



グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア



バギュラ達の雄叫びが聞こえてきた。多分山を降りてきたのだろう。



「レイラ…悪い!」



「うっ………」



ユウは私の鳩尾を殴った。力が入らなくなった私はユウの前に倒れてしう。



「ぅ………ユウ………」



「アーサー、頼んだぞ」



「ユウさん………わかりました…」



アーサーはレイラを抱え、船に乗り込む。そして船を停めてあるロープを外し、船が港から離れた。



「ユウ………ユウ…………」



私は小さな声でユウの名前を呼び続ける事しか出来なかった。



ユウはただただ悲しそうな顔でそれを見送っていた。






ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー








船が出発してもレイラのか弱い鳴き声がずっと聞こえていた。



「…………無事に着いてくれるといいが…ぐうあっ!」



力が抜けて俺は膝を着いてしまう。



も、もう魔力が…!



「ぐ…ぐぁああ゛ああああああああああいああああいたいいだいいだいいだいいたいいだいいだいいたいいだいあああああああああああああ」



魔力が無くなったせいで、今まで止めていた痛みが全て俺を襲ってきた。



転がり転がり、砂浜へと転げ落ちる。



身体からは血液が飛び散り、俺がいる周辺の砂は赤く染まりきった。



「はぁ………はぁ……はぁ…」



どのくらいのたうち回ったか。もう俺は何も感じなくなっていた。視界も霞んでほとんど見えない。



「こんなに損傷してしまっては…もはや回復のしようがない。仕方ない、処分するか」



クゾックらしい声が聞こえてくるが、何を言っているのか全く分からない。もう耳も機能していなかった。



「あのお方には流れ弾に当たって死んだと言うしかないか。……よし、やれ」




グルルァアアアア



バギュラが近づく。





グルルギャアアアアアア!!!!





バギュラの雄叫びと鈍い音が砂浜に響き渡った。







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