国王勅命クエスト ギーミ島の調査
「あの、着きましたよ」
「うーん、たまご」
「何寝ぼけているんですか、着きましたよ」
身体が揺さぶられる。
「んあ? え? 着いちゃった?」
「はい、着きましたよ」
「うそだ!」
俺は起き上がって周りを見渡した。俺の目には島の姿が飛び込んでくる。船は砂浜に停泊していた。砂浜の向こうには、海に平行な道があり、その向こうには木々が生い茂る山の姿があった。
所々に道や街灯などがあり、人が住んでいる形跡はある。
「ううぅ~」
船の手すりに乗り出して島を見ていると、客室のドアが開いてレイラが出てきた。とても眠たそうな顔をしている。あまり寝れなかったのだろうか。
「おはようレイラ!昨日は寝れなかったのか?」
「うっ………うん」
レイラが俺の顔を見て一瞬ビクついた。
「て、そうだ服!ってか、アーサー!あれからずっと操縦していたのか!すまなかった!」
「あ、いえ、大丈夫です」
「ほんとすまねえ!」
俺はアーサーに謝って客室へ行き、普段着を来て防具と武器を装備した。若干汗臭い匂いが残ってたので帰ったら即洗濯をしよう。
「わりい、お待たせ! って一人増えてやがる!誰だ妖怪ジジイ!」
客室から出るとレイラとアーサーの他に、背の低いよぼよぼのじいさんがいた。頭なんかハゲ散らかしていて顔もしわくちゃで所々変色していて気味が悪く、一言で言うなら妖怪という言葉がピッタリだった。
「おはようございます。この度はセントブルグから遥々の航海お疲れ様でした。国王様からお知らせを受けてお迎えにあがりました、この島のモロッコ村の村長のクゾックでございます」
クゾックというジジイは俺に向かってそう言ってお辞儀した。
「あ、村長さんね、ごめんなさいね、妖怪とか言って…」
「全然構いません。それでは、一旦村へ案内しますので私めについてまいりください」
クゾックは船をの階段を降りていった。
「俺達も行くぞレイラ」
「……ぁ……ぁあ…」
俺は客室のドアの近くにいたレイラに声をかけて船の階段の近くまで行った。
相変わらずレイラの様子がおかしいが気にしないでおこう。多分生理だ。イライラしているんだ。そっとしておこう。うん、それが一番だ。
「お気をつけて。お2人の依頼なので僕はここで待機しております。またお帰りの際お声かけ下さい」
アーサーは俺達に敬礼して良い表情を作った。
「わかった。暇なら俺達を呼んでくれよ!」
親指を立てて返す。アーサーは苦笑いしながらも親指を立てて返してきた。満足した俺は階段を降りて砂浜に立つ。
「この島まで運んでくれて感謝する」
レイラもアーサーに礼を言って俺の後を着いてきた。
「では、ご案内致します。村までの道のりは少し複雑になっていますので、くれぐれもお離れにならないで下さい」
クゾックは俺達に背を向けて歩き出した。俺達は黙ってクゾックに着いていく。
しばらく海岸沿いの道を歩いて山の中へと続く道に入っていった。村はどうやら山の中にあるらしい。
何本もの別れ道を通って長い長い細道を進んだ先に、やっと村が見えてきた。ひたすら坂道を駆け上がっていたので結構疲れた。俺の隣を歩いているレイラの様子を見ると、俺と一緒で少し疲れた表情をしていた。
「ふむ」
村はあまり広いものでは無かった。村の周りを木々が囲んでいるので少し薄暗く、村人達も皆暗い顔をしている。薄気味悪い印象を持ちながら俺達は村に足を踏み入れた。
余所者に優しくなさそうな村だなこりゃ。早く依頼終わらせて帰ろう。
「ご苦労様でした。お疲れのところ恐縮ですが、依頼についてお話したいことがございますので私めの屋敷へと来ていただいてもよろしいでしょうか?」
クゾックは汗や息切れ何一つもしていなかった。ジジイなのに元気すぎるぞコイツ。どんだけ体力あるんだよやっぱり妖怪か。
「大丈夫だ。レイラ、頑張れ」
「わっわわわたしは大丈夫だ!気にするなバカ!」
俺は疲れた表情をしているレイラを励ましたのに怒鳴られてバカまで言われた。なにこの子。どうしたんだよまったく。もうほんとこの子怖いよお。
「では、こちらです」
俺達はクゾックの屋敷に案内された。木造の1階建てで、部屋も5室ぐらいあって結構広い。その内の談話室みたいな部屋へと案内された。
俺達は木の椅子に座るよう案内された。大きな机を挟み、クゾックは俺達と対面する形で座る。
「では、さっそく話に移らせていただきます。お二方は、島に人体実験なる施設があるとかどうとか国王様からお聞きになっていると思いますが…」
クゾックは暗い顔で話始めた。今から怪談でも始まるのだろうか。部屋も薄暗いしそれなりの雰囲気はある。
「……ぅ…………」
右隣に座っているレイラから呻き声が聞こえてきた。よく見ると少し震えていた。
まさか…コイツ…怖いの嫌いなのか?
「わ!」
「うひゃいぃいいい!」
ガタガタガタドシーン
脅かしは思った以上に効果的だった。レイラは椅子から転げ落ちていた。
「ぶふぉっ、ぶふっ、レイラ……ぐふふぐふふぐふふははははははははは、やっべ!うひゃいいだって!はははははは」
「おい」
「うひゃいぃいいい!」
笑い転げていたら知らない間にレイラに肩を掴まれていた。みしみしと俺の骨が軋む。
「あ…が…が…いたいよお」
「黙れ……そして…死ね!」
さらに肩に力が入る。
「よろしいでしょうか?」
もう少しで俺の肩が粉砕されるその時、クゾックから助け船が出た。
「あ、すまぬ」
レイラは俺の肩から手を離して椅子に座った。座る直前にボソッと後で殺すと言っていたのは気のせいだと信じたい。
「全然いいのです、それでして…」
クゾックはさっきと変わらぬ表情で話を始めた。俺達が粗相したにも関わらず何も気にしていないみたいだ。
「その施設というのは、この島にはございませんのでして…」
「「はあ?」」
レイラと声が重なる。
「私どもの勘違いかもしれないと思いまして国王様に何度も確認したのですが…やはりそんな施設はこの島にはございません」
なんだと?
「じゃあ何のために1日かけてここまで来たんだよわけわかんね~」
「本当に申し訳ありません。納得いかないのでしたら、一度この島を探検していただいて、ご自身の目でご確認いただけたらと思うのですが…」
本当にこの島に施設が無いのならこのジジイの言うこともわかる。わかるが…、わけがわからない。国王が嘘を吐ついてるとも思わないし…。
いっそ探検してみるか。いやでもコイツがここまでいうのなら無いんだろうな。施設が地下とかか。いや、あの写真は空が見えていた。あああ、もうわけがわかんね!うんこ!
「どうするよレイラ?」
どう判断したらいいのかわからなくなったのでレイラに決めてもらおうと思った。
「ふむ…、一度探しにしにいこう。まだ朝だ。時間もたっぷりある」
はぁ…、やっぱ行っちゃうのか。仕方ねえ。
「わかった、行こう。クゾックさん、俺達はこれからこの島を探検したいんだが、何か地図みたいなのないか? 迷う自信しかないので…あはは」
「左様でございますか。地図の方はこちらでご用意させていただきます。すぐにお持ちいたしますのでお待ちください」
クゾックは立ち上がって家の奥へと歩いて行った。
「……なあレイラ。これはどういう事だ?」
「私も全然わからない。話はユウからしか聞いてないのでな。本当に国王様がこの島にあると言っていたんだよな?」
「本当だって、ちゃんと写真も見せてもらったし…。つかまずあの国王が嘘をつくとは信じがたい。どっちかっていうと……」
あのジジイの方が怪しい。と言おうとしたその時にジジイが奥から戻ってきた。
「お待たせしました。これをどうぞ。赤い印がこの村になりますので。どうかお気を付けて下さいませ」
「ありがとう。んじゃさっさと行ってさっさと終わらそうぜ」
「失礼する」
俺達は立ち上がってクゾックの屋敷を出た。そして俺達が入ってきたところとは反対側の村の入り口から山の中へと降りていく。
地図には道も示してくれていたので迷わずに自分の行きたいところへと辿り着けた。
開けた場所や怪しい場所、森の中や川の中やレイラのスカートの中など色々な場所を調べた。そしてついに俺達は島全体を探検し終わっていた。
クゾックが言っていたように、施設らしき建物は一つも見つからなかった。日は陰り、もう夕方になっていた。
街灯は海岸沿いの道にしかなく山道には無い。暗くなっては山道を登るのは苦労すると思ったので日が完全に沈まない内に村へ戻る事にした。
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村へ着く頃にはもう完全に日は沈んで真っ暗だった。村も家の前にタイマツの火を灯しているだけなのでかなり暗い。不気味さがより一層増す。
「お疲れ様でした」
「「うひゃいぃいいい!」」
不意に後ろから声をかけられたので俺達はびっくりしてしまった。後ろを振り向くとクゾックが村の入り口付近に立っていた。
暗いうえにタイマツの火の光がクゾックの顔に当たってゆらめいている。妖怪ジジイが余計に恐ろしく見える。生きる心霊とはまさにこのことだと思った。
「さぞお疲れでしょう。今夜は村の宿屋でお泊まりになってください。お口に合うかわかりませんが、お料理の方もお持ち致しましょう。ではどうぞこちらへ」
クゾックは俺達の間を通って歩いていった。
「…ぃ…いくぞ…レイラ」
「ぁ……あぁ…」
俺達はクゾックの後を追い、宿屋へと向かって行った。
宿屋の中は、村の外とは対照的に灯りがいくつもあり明るかった。この明るさに俺達はホッとする。
「こちらのテーブルでお待ちください。すぐに料理をお持ち致します」
「りょ!」
俺達は宿屋のカウンターの前に置かれている机の内の一つに腰かけた。
島を歩き回って本当にくたくただった。お腹も背中にくっつく程に減っていた。
「はぁああ。疲れた〜」
俺はテーブルに突っ伏す。本当に疲れた。ただの無駄骨だった。
「…………」
レイラは黙っている。いつもなら俺にだらしないぞとか言ってくるのに。今日は大人しいな。いや、ただ疲れているだけか…。
「……………」
「…………」
俺は机に突っ伏した状態、レイラは腕を組んだ状態で飯が届くのを黙ったままで待った。二人ともうしゃべる気力も無かった。
すると不意に食べ物の良い匂いが漂ってきた。
「お待たせ致しました。ささ、どうぞお召し上がりください」
クゾックとこの宿屋の従業員らしき人達が大量に料理を運んできた。
「すげえ!なんだこの料理!豪華すぎぱねえ!なあレイラ!」
「あ…ああ、これは凄い」
あっという間に俺達の目の前に色とりどりの料理が並んだ。魚の刺身や揚げ物、新鮮そうな野菜など、どの料理も美味しそうだった。
「よっしゃいただきまぁあ!」
俺は待ちきれずにばくばくと食べ始める。
「うんめぇええ!なんだこれ!うんめぇええ!…て、レイラ食べないのか?」
あまりにも豪華すぎたのか、レイラは料理を見ながら固まっていた。
「あ、ああそうだな。よし食べよう」
「ほんとうまいぞ~。特にこの赤いやつがうまいぞ。いっぺ…………ん………」
「ん? どうしたユウ? 美味しすぎて泣きそうなのか?」
な……何だ………か………からだ…………が……。
「ユウッ!」
何故か俺は力が入らなくなった。そして椅子から転げ落ちてしまう。
「貴様ら!一体何をした!!!」
レイラは槍を出現させてクゾック達に構える。
「ちっ……こっちの白いのは料理を食べていなかったのか…。即効性にしたのが間違いだったな…まぁ欲しかったのはこの黒い奴だ……ぶつぶつ」
クゾックはぶつぶつ言いながら考え事をする。
「何を言っているのだ!貴様ら!さっさと答えろ」
「あー、うるさい小娘だ。貴様はいらないんだ。さあ、殺してしまえ」
「グギャァアアアアアア」
「ガァアアアアアアア」
クゾックがそう言った瞬間、クゾックの両隣にいた人間が一瞬にして化け物に変わった。
「な…んだと…」
「………こ………これ……は…」
赤黒い毛に覆われ鋭い牙と爪を持ち、3mを越えるそれはまさに俺達が会うきっかけとなった異種バギュラの姿だった。
「グキャァアアアアアア」
「ガァアアアアアアア」
2匹の巨大バギュラがレイラに向かって飛びかかっていった。
「はぁあ!」
「ギャウウウ…」
レイラは身体を低く屈めて攻撃をかわし、無防備になった一体のバギュラの胴体を切り裂いた。切り裂かれたバギュラの胴体からは鮮血が舞い、そして力無く倒れる。
「ガァアアアアアアア!」
もう一匹のバギュラがレイラに向かって再び飛びかかる。
「やぁああ!」
今度は避けずにバギュラへ向かっていく。そしてバギュラを正面から真っ二つに切り裂いた。
強ぇ。レイラひょとして武闘会出ても良い成績残せるんじゃね。
俺はまともに力が入らず、震える身体をなんとか起こしてレイラを見る。レイラは槍をクゾックに向けて鋭い眼光を飛ばしていた。
「なんと、これほどの実力とはな…」
「次は貴様の番だ」
「残念ながらそれはない。どれ…」
パチンッとクゾックが指を鳴らした。
その瞬間、宿屋の壁が壊れる音と何かが入ってくる音が聞こえた。
「ガァアアアアアアア」
「グギャァアアアアアア」
「グルルァアアアア」
「ガァアアアアア」
「グルル……」
「グキャァアアアアア」
そこには軽く10体は越えるバギュラの大群がいた。
「な……」
レイラの表情が固まる。
「いけ」
ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
クゾックの一言でバギュラ達は一斉にレイラに向かって襲いかかっていった。
ガァアアアアアアア
うっ
グルルァアアアアアアア
はああ!
なんとかレイラは戦えているが、まだ一匹も倒せていない。数が多すぎる上にあの素早さだ。キツいものがある。
「れ………れ…い…らぁ!」
ヤバい!ヤバい!くそ!動けよ!くそ!何で頭回らねえんだくそ!
身体を動かそうとするが上手く力が入らない。それに魔力もどんどんと無くなっていく感じがした。
「無駄だ。体力と魔力の両方を奪い取る薬だ。お前はあと数分で意識を失う。だが安心しろ、お前の命はとらない。あのお方の命令だからな…」
クゾックが俺に近寄ってきてこんなことを言ってきた。
あのお方?どっかで聞いたことがあるフレーズだ。くそう、思い出せねぇ!誰なんだよ!つかそんなことよりヤバい!なんとかしてこの薬が回るのを止めなければ!
ヒュオオオオオ
ゴオオオオオオ
………!!
薬の回りを防ぐ方法を考えていると、風が集まる音と炎が燃え盛る音が後ろから聞こえてきた。震える身体を酷使して首だけで後ろを見る。
「や………や…ばぃ……れ……いら」
そこには天に向かって口を開けて風を集めるバギュラと、炎を集めるバギュラがいた。
ガァアアアアアアア
はぁああ!
グギャァアアアア
くそ!
離れた所で戦っているレイラはまだこれに気づいていない。
「れ…い」
ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
けたたましい咆哮と共に、俺の頭の上を風と炎の球体が物凄い速さで通りすぎていった。
「れ…」
ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン
「ぐわっ…」
そして、炎の球体と風の球体がレイラが戦っているすぐ近くでぶつかり合い、大爆発を巻き起こした。
その爆風で俺は吹き飛ばされる。宿屋から飛び出て村の真ん中辺りまで転がっていった。
パチ……パチ………
宿屋は先の爆発で完全に崩れ去り、所々火がついていた。
「………れ……いら……」
レイラは?レイラは?一体どうなったんだ?レイラはどこだああ!無事なのか!どこだ!!
「う……うぅ…」
…!!
「れい…ら」
俺が倒れている10m程先でレイラの呻く声が聞こえてきた。目を凝らしてみると、レイラも倒れていた。五体満足で無事だったが、かなりダメージを負っているようだ。
「グルル…」
レイラの近くで獣の足音が聞こえる。
「しぶといな…小娘」
クゾックの声も聞こえる。
どうやらレイラの近くにいるらしい。
「おい」
「ぐぁあああああ」
レイラの叫ぶ声が聞こえる。
クゾックの指示でレイラはバギュラに首を掴まれて持ち上げられていた。
「あ……あ……や…めろ」
そして
バギュラが首を掴んでいない手をレイラの心臓に向けて狙いを定めた。
「やめ……やめ……いやだ…」
レイラが……死ぬ…………?
死ぬ……?
いやだ。
いやだいやだ。
そんなのは認めない!!
絶対にそんなのは嫌だ!
動け!
動けよ俺の身体!!!
動いてくれよおおおお!!!
死なせてたまるか
死なせてたまるものか
死なせない
死なせない
死なせるものか死なせてたまるか
死なせない死なせてない死なせない
死なせてたまるか死なせてたまるか絶対に死なせない絶対に死なせるもんかこんな事をしていてはダメだ魔力の漏出を俺の時間の魔法で止めてその間に魔法を発動し続けての効き目の回りも止めつついや血液は止めたらダメだなら神経系全ての伝達速度を究極に遅くしてやる魔力の漏出も限りなく遅くするんだ消費もだ矛盾しているようだがそれを崩すのが魔法だ矛盾をもろともしないのが魔法だそれでこれはクリアできるはずだいやなんとしてもクリアしなければならいまずは血液中に広がる薬物だ薬物の粒子粒径を特定してその浸透速度を遅くするんだそして痛みの神経の伝達速度も遅くそうだ究極に遅くだそうだその調子だそして…
「やれ!」
ガァアアアアアアア
「いやぁあああああ!」
クゾックの声、バギュラの声、レイラの絶叫が村に響き渡った。




