航海
国王から貰った地図の防波堤まで行くと、国軍兵士が待機してくれていたので一発で分かった。この為だけにわざわざ待機してくれていて本当にご苦労様だ。
国王からの依頼だから豪華な船だろうと想像していたが、そんなことはなく木造の普通の船だった。
「それではどうぞこちらへ」
兵士の案内で俺達は船に乗り込む。どうやらこの兵士が船を操縦して俺達を島まで運んでくれるらしい。
船に乗り込んだ後、兵士は俺達を客室へと案内をする。残念な事に客室は一つしかなかった。だけど中は結構広く、入口付近には机や大きなソファがあり、その奥にベッドが3つ並んでいた。
「それではごゆっくりどうぞ。私はこれから船の出発に仕掛ります」
「ありがとう。よろしく頼む」
「では」
兵士は俺達に一礼して歩いていった。
「まさか一緒の部屋だとは思わなかったなびっくり」
「あ、ああ、そ、そうだな」
レイラが少し緊張している。やはり一緒の部屋で寝るのは恥ずかしいのだろうか。
「嫌なら俺は外で寝るけど?」
「だ、ただ大丈夫だ。それにユウと何回か野宿してるだろ!」
「それはそうだけど…」
レイラと一緒にクエストに行った時、俺達は何回か野宿したことがあった。だけど山とか川とかの開けた場所であったりとか、しかも一定時間で見張りを交代しながら寝ていた。こんな空間に男女がベッドで寝るのとはまた違う。嫌でも変な事を妄想してしまう。
「良いものは良いんだ!」
「…わかったよ」
レイラも気にしているようだったが仕方ないんだろう。兵士の話ではギーミ島には明日の朝ぐらいに着くらしい。だから確実に寝なきゃいけない。
「よいしょ」
俺は汗臭い服を着替えようと思い服を脱いだ。パンツ以外全部脱いで部屋のハンガー的なやつにかけて吊るす。部屋の中にジャージみたいな部屋着を用意してくれていたので、それを取りに行こうとした。
「ゆゆゆユウ!ちょっといきなりすぎないか!? まだ心の準備というものが…」
俺の着替えを見ていたレイラが顔を赤らめてこんなとこを言ってきた。
「何勘違いしているんだ? 俺はただ着替えようとしているだけだそ?」
「えっ?」
レイラの顔が更に赤くなっていく。
「ぷ。かわい」
「ばっバカにするな!」
「あー、ごめんごめんごのてへりんこ」
「もう…って、ユウ!の痣どうしたんだ!傷だらけじゃないか!」
レイラが俺に近寄ってきてギルドの皆にボコボコにされて傷だらけの身体を触りにきた。
「ダメだレイラ!それ以上触るんじゃない!」
俺はレイラの腕を振りほどいて離れた。レイラの指触りが気持ち良すぎて俺のマスターソードが危うく光輝くところだった。
「何故だ!ちょっとどころの傷じゃないだろ!良く見せろ!」
振り払われて気に触ったのか、レイラは余計に近寄ってきた。
「ダメだって!やめろ!」
「こらユウ!手を離せ!」
俺は触られまいとレイラの腕を掴んだ。レイラはそれを振り払おうと力を入れてくる。かなり力が強いので離してしまいそうになる。
「誰が離すか!つかなんでそんなに力強いんだよ!」
「知るか!」
「くっそぉ」
「わわっ」 「うわっ」
突如船が揺れた。多分この船が港から出港したのだろう。その時の揺れで俺達はバランスを崩して倒れてしまった。
レイラが俺を覆い被さるようにして倒れている。
「いって…」
「あ…ごめん」
背中からもろに倒れたので、ナミさんに吹き飛ばされた時にできた傷がかなり痛かった。倒れた弾みで俺はもう腕を離してしまっている。
「ユウ…こんなに傷ついて…いったい誰がこんな事をしたんだ…」
「おぉう」
レイラが胸のあたりを触りながら言ってきた。さらさらとした指触りに身体をビクつかせてしまう。
こんな綺麗な顔をした女の子に馬乗りにされ、心配そうな表情で俺の傷を撫でられる。こんな状況でトランスフォームしない奴はいるだろうか。いや、いない。
「レイラのえっち」
「へ?」
俺のマスターソードがダイナマイトと化してレイラのお尻の部分に当たる。
「な……な…えっ……」
レイラは徐々に状況を理解してきたらしく、これまで以上に顔を赤らめる。
「レイラのえっち」
「ち、…ち…ち…ち」
「血? また生理なのか? どんだけ生理くるんだよ。そんなに子供が欲しいのか? ほんとえっちだなレイラは。えっち。えっち。えっち。えっ」
「ちがああああああああああううう!」
バチバチバチバチィッ
「ぎゃぁあぁああぁぁぁあああああああ」
レイラの電撃は俺の身体中にある傷を全て活性化させた。身体中に激痛が駆け巡るが、ある一定を越えたときに痛みが気持ち良く感じるようになった。もう絶対何か変なものに目覚めてしまったと確信し、俺は昇天した。
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「あ、あの〜…大丈夫ですか?」
「お……おう……」
俺は部屋から放り出されて甲板で転がっていた。もちろんパンツ一丁で。俺の姿を見た兵士が心配してくれた。
「あぁ…潮の風が美味しい…」
「そ、そうですか…あはは」
ああ、今日も空が綺麗だ。今日はこの甲板で寝ようかな。気温も結構暖かいしパンツ一丁でもいけそうだ。多分星も綺麗だろうしな。
「てか、一日中船を動かすのか?」
確か明日の朝に着くとか言っていた。今はまだ夕方にもなっていない。お昼のお昼だ。一体何時間運転するつもりだ。
「それが仕事なのでして…」
苦笑いで兵士が答えてきた。その顔を見るにはまだまだ若い。俺と大して歳は変わらないのではないかと思った。
「じゃあさ、俺にも船の操り方を教えてくれよ。俺も交代で運転するからさ」
俺は立ち上がり、船の先端付近で舵を操る兵士に近付いた。
「いやいや、そんなことは…」
「遠慮すんなって。一人で今から朝まで操舵するんだろ。俺だったら寂しくてしょんべん漏らしちまうぞ。よし、教えてくれ!」
「うーん、仕方ないですね…。わかりました。えーと、それではまずはこれなんですけど…」
兵士は船の事や操縦の仕方まで丁寧に教えてくれた。木造の船、風が原動力。映画とかではよく見たが実際に乗るとは思わなかったな。
つかなんで機械で造らねえんだ。コロッセウムのあのモニターとかはスーパーハイテクなのにな。その他の生活用品とかほぼ全て中世時代だぞ。
あれか、ノリか。木造なら海賊みたいで格好いいじゃん的なノリか。まーいいや深く考えないでおこう。そういう世界なんだと思っておこう。
「どうだ? 似合うか?」
俺は初めて舵を持った。そして腰に左手を置いて、後ろにいてる兵士に向かって格好つけて言ってみた。
パンツ一丁で。
「あ、あの…なんていうか…その…」
「なんだよはっきり言えよ」
「その……男らしいですね…はは」
「やっぱ格好悪い?」
「はい……ぶっちゃけ…」
「そうか…」
「はい…」
「ちょっと変わってくれ」
「あ、はい…」
俺は兵士とかじを変わり、船の先端部分へ行った。そして足を固定して両手を広げた。
「あ、あの…何をしているんですか?」
「いいか、良く覚えておけ。このポーズをすると、一時の間だけ幸せを手にすることができるんだ」
「はぁ…」
俺は振り返らずにそのままの格好で答える。これは死ぬまでに一度でいいからやってみたかった事だった。
俺は今、最高に幸せだ。
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交代しながら船を操縦していると、いつの間にか日が沈んで夜になっていた。
今は兵士が舵を握っている。俺はその近くで仰向けで寝転がっていた。
見上げる夜空には、幾千幾万の星々が輝いていた。もうどれが何座なのかもわからないぐらいに空一面が星で埋め尽くされている。
レイラはあれからまだ一度も外に出てきていない。あの初心なレイラにとっては刺激が強すぎたのだろ。反省反省。
「兵士さん、お腹減ったんだけど何かないの?」
「あ、客室の机の上に大量に置いてますよ」
客室か…。今はまだ入り辛いな。
「わがまま言って悪いんだけどさ、客室以外で何か食べ物置いてるところない?」
「それなら、甲板の後ろに積んである木箱の中に保存食やら果物がたくさんあります」
「そうか、ありがとう!」
俺は甲板の後ろの方へ向かっていき、積んである木箱の1つを下ろして開けた。兵士の言った通り木箱の中には魚の干し身やら果物やら色々と入ってあった。
そこから何個か食料を取って戻っていった。
「ほら、何か食べないと辛いぞ?」
「あ、すみません。ありがとうございます」
俺は魚の干し身を兵士に渡した。兵士は片手で舵をを持ちながらそれを食べる。結構お腹が減っていたみたいだ。我慢しなくてもいいのに。
「ちょっと待ってろ」
「え?」
俺はまた甲板の後ろの方へ行き、さっき食料を取った木箱を抱えて戻った。木箱の大きさは普通の段ボールぐらいだが結構重たかった。
「よいしょ!」
俺は兵士が立っているすぐ後ろにそれを降ろした。
「それ、どうするんですか?」
「いや、立ったままとかキツイだろ? それに、ほら、蓋を開ければ食べ物も入ってんじゃん」
そう言って蓋を開けて兵士に笑ってみる。
「…優しいんですね」
「いやいや、普通じゃね? ほら早く座れよ」
俺は蓋を閉めて木箱をバンバンと叩く。
「…わかりました。ありがとうございます」
兵士は木箱に座った。別に木箱に座っても舵には手が届くので操縦には支障が無い。
「綺麗だな。こんな綺麗な星空なんか見たことねえや」
俺は座りながら首を上げて空を覗き込む。
飽きない。
その一言に尽きる。それぐらい綺麗だった。
「そうですね、綺麗ですね」
兵士も空を見上げて少し寂しそうな表情を作る。その顔は綺麗に整ってあり、美形の部類に入るがまだ幼い雰囲気を残している。長くもなく短くもない茶髪を潮風になびかせている。
王宮にいた兵士と同じ赤色プレートの防具を装備して、デュークが使っていたようなロングソードを腰に差していた。
「いつまでも兵士さんってあれだな、名前と歳を教えてくれよ」
「名前はアーサー・ハルスクリーンです。歳は今年で20です」
「え? レイラと一緒じゃん!学校とかは行かないのか?」
「あー、そうですね…」
俺の質問にアーサーは苦笑いする。聞いちゃいけないことを聞いたのかもしれない。
「悪い、答えたくなかったら答えなくていいからな」
「あ、いえ、そういうのでは無いのですけど。僕はこの国の人間じゃないんです。学校は18で卒業しました。そしてこの国に来て兵士になったんです。セントブルグの学校は基本20歳までですからね、よく皆に言われます」
「そうなのか。でも何でこの国に来たんだ?」
「この国は魔法や学問がすごいでしょ? 僕は地元に病に苦しむ妹を残してきているんです。この国でその病について色々と勉強して力になれたらと思いまして…」
アーサーはまた空を見上げて悲しい表情を作る。
「王宮にいると色々と情報が集まってきますから。学校よりもいろんな本もあるので勉強になります」
な、なんだこの良い青年は。泣かせてくれるぞこんちくしょう!
「あんさ、時間ある時でいいから俺のギルド・フェニックスに来てみると良いよ」
「どうしてですか?」
「息抜きだよ息抜き。みんなかなり良い奴でさ、めちゃくちゃ楽しいんだぞ?」
「それは楽しそうですね」
アーサーは少し明るい表情になった。
「アーサー、お前酒飲めるか?」
「あ、はい。王宮の兵士達と何回か飲みに行ったことがあります」
「じゃあ大丈夫だな。あいつらお酒ばっか飲ませてくるから大変だぜ?」
「あはは…。それは大変ですね」
「そうなんだよ、この前なんかな………」
「えー、そんなこと……」
「いやな……」
「…はは」
俺はアーサーと色々な事を話した。ギルドの事から始まり、アーサーの妹ってどんな女の子なんだとか、妹って何歳なのかとか、妹って可愛いのかとか、妹に彼氏いるのかとか、話は尽きることはなかった。
夜も深け、深夜をとうに回った頃。眠気が酷くなってきたので甲板にゴロンと寝転がった。レイラは相変わらず部屋に篭ったままだ。
「ふぁあ、ちょっと疲れた。先に寝るな。しんどくなったら起こしてくれ」
「わかりました。でも、そんな格好でいいんですか?」
「男はな…裸をな……どれだけな……露出さ…せるか…がな…きまって………すぴい」
「あはは…、すぐに寝てしまって。疲れていたんですかね。よし、それじゃ僕も頑張りますか」
アーサーは木箱から食料をいくつか取り出して立ち上がり、舵を握って真っ暗な海の先を見つめた。




