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緊急クエスト 邪竜討伐



「お前さん、大丈夫かい?」



「うえ〜吐きそう」



馬車で走ること4時間、今は山道を走っている。かなり揺れるため俺は結構気持ち悪かった。じいさんが心配そうに聞いてくる。



馬車の中には俺とじいさん、そしてラナの3人がいる。デュークとヤマトは馬に乗って先導していた。



ラナは壁に持たれてぐうすか寝ていた。今から決戦に行くのによく寝れる。おっぱい揉んでやろうか。



「着いたぞ」



よからぬ妄想をしていると馬車が止まった。どうやら着いたらしい。俺はラナの頬をぺちぺちして起こす。



「うあっ、え? もう着いたん? 早かったな〜ふああ」



「まだだ、ここから奴の寝床まで歩くぞ。さ、降りろ」



馬車から降りて周りを見渡すと荒れた山の中だった。緑なんて1つもない。枯れた木しかなかった。そして目の前にそびえ立つ大きな岩山からは火山灰が上がっている。さっきの晴れた青空から一転して灰色の空へと変わっていた。



「なんなんここ、こんな場所あったんやな」



「これがセントブルグの北に位置するガルガ山脈だ。ラナの言う通り、こんな不毛な場所に誰も来ないだろうな」



ラナの言葉にデュークが苦笑いしながら答える。



「そして、俺たちが目指すのはあの穴蔵だ」



岩山の中腹辺りには直径100m程の大きな穴が空いていた。そこをデュークが指をさしている。



「この山は、何本もの坑道が通っている。その内の1つを使ってあそこまでいく。その穴の入り口はあそこだ」



次にデュークはすぐその山のふもとを指さした。そこには人が通れるくらいの小さな穴がポッカリと空いていた。



「中の道は知っているのか?」



「ああ、調査員が作ってくれた地図を持ってきている。辿り着いた先はかなり大きな空間になっていて、そこが奴の寝床になっている様だ。まだ奴はここから飛び去って居ないからそこにいる筈だ」



「もう、決戦なんだな」



「そうだ。もう後戻りは出来ない。行くぞ、準備はできているな?」



デュークは武闘会の時と一緒のラフな格好だ。



「ああ」



俺はいつも通りの装備。



「できとるよ」



ラナは黒色の服とスカートに黒色の動きやすそうな防具を装備している。腰の辺りにはこの前俺が破壊した武器と同じ2本の剣を差している。



「いつでもいい」



ヤマトは俺と対戦した時と同じ格好だ。手には薙刀を持っている。



「ワシも大丈夫だ」



じいさんも武闘会の時と同じ格好だ。



「行くぞ!」



デュークの号令を受け、俺達は洞窟の中へと入って行った。



洞窟内では、デュークがタイマツに火をつけて先導してくれた。人が余裕で歩けるスペースがあり進むことに支障は無かったが、かなりジメジメしていて気持ち悪かった。それに暑い。かなり暑い。持ってきた水なんか一瞬で無くなった。



俺以外全員、防御魔法を発動させて暑さを防いでいた。もちろん俺はそんなことはできない。



暑い暑いばっかり言っているとラナに水の魔法をぶっかけられ、そして氷の魔法で凍らされた。顔と腕と足は凍ってないけど、他はほぼかっちかちになった。



だがそれで暑さを防ぐことができたので良かった。目的の場所に着く頃には氷は全部溶けていた。



そして今、俺たちは作戦を実行しようとしていた。



この空間はとても広く、コロッセウム並みに広かった。天井までもかなりの距離があった。そして空いた穴から灰色の空が見える。そこから外気が入ってきているので温度はかなり下がっていた。



その中央であのドラゴンが丸まって眠っている。俺たちは抜けてきた坑道の入り口付近の岩影に隠れて待機していた。



ドラゴンまでの距離は100mぐらいだ。だがこの距離から見たって、ドラゴンが近くにいるように見える。それぐらいドラゴンは大きい。



「でっかいウンコみたいだな」



「変なこと言うな」



「いてっ」



丸まっているドラゴンを見たありのままの感想を言ったらラナに突っ込まれた。



「おい、もういいか?」



「はい、すんません」



デュークが真剣な顔して言ってきた。今俺たちは失敗すれば死ぬかもしれない状況だ。それに今が絶好のチャンスだ。暴れて奴を起こしでもしたらパァになる。



「奴は今寝ている。そこを攻撃するのだからユウ、お前は魔法を使う必要はない」



「りょ」



「そしてヤマト、いけるか?」



「ああ、大丈夫だ。ここで鬼神化して一瞬で終わらせる」



ヤマトのあれは鬼神化というらしい。詳しく聞くと、鬼神化している間だけ、魔除けの魔法が使えるとか身体能力がかなりアップするだとかなんとか。ヤマトの一族に代々伝わる秘術なんだと。



「ユウ、お前はここで待機していつでも魔法を発動させれる準備だけしておいてくれ。一緒に行ったとして、もし奴が途中で起きて暴れでもしたらお前に攻撃が当たるかもしれない。お前を失えば俺たちの勝率はガクッと下がる。お前も来たい気持ちはわかるが、生き残る確率、いや勝つ確率を上げるためだ。…頼んだぞ」



デュークが俺の肩に手を置いて俺の目を見て言ってきた。確かに俺も一緒に行きたいが、ここはデュークの言葉に従おう。もし失敗しても、俺の魔法を発動してその隙にみんなで逃げればいい。



「気をつけろよ」



俺もデュークの肩に手を置いて言ってやった。



「ヤマトも。ラナもじいさんも。もしヤバくなったら俺は魔法を発動する。1番大事なのは命だからな」



俺は一人一人の顔を見ながら言った。



「大丈夫やって、あんま舐めんといてな?」



ラナが2本の剣を両手に持って答える。



「ほほっ、ワシもまだまだ現役だぞ? お前さんに言われなくともそんなことはわかっておる」



じいさんも剣を抜いてニヤッと笑って答えてきた。



「そうだ。お前に言われなくともな」



ヤマトも薙刀の柄の部分を地面に突き立てて、ニヤッと笑って答えてきた。



「よし、それぞれ小型転送装置はいつでも起動させれるよう、身に付けておけ」



デュークは小さな箱を全員に渡す。



「転送先は山の麓、馬車を置いている場所に設定している。この装置ではそこが限界だ。各々の判断でもうダメだと思った瞬間で構わない、直ぐに離脱するんだ」



全員が頷く。



「よし、行くぞ!」



デュークも剣を抜いてドラゴンに向く。



「ハアアァ!!」



そして、ヤマトの鬼神化の圧力がこの空間内を木霊した。ヤマトの両目が紅く光り、禍々しいオーラが立ち上る。そして紅いオーラが薙刀を包み込んだ。まるで大気が震えているように感じるが、ドラゴンに起きる気配はない。



「はあッ!」



ヤマトは目にも止まらぬ速さでドラゴン向けて駆け出した。



「俺達も行くぞ!」


「うん!」


「言われなくとも!」



デューク達もヤマトを援護しに追いかけて行った。ヤマトはもうドラゴンのすぐ近くまで移動していた。まだドラゴンは起きる気配が無い。飛び上がり、薙刀を振りかぶる。ドラゴンの首に狙いを定めたようだ。



ヤマトが近づくにつれドラゴンのだいたいの大きさがわかってきた。首の直径はヤマトの身長の3倍ぐらいだろう。ヤマトの身長は俺とあんまり変わらなかったから大体5mぐらいかな。



「へああッ!」



その首に向かってヤマトは薙刀を降り下ろした。



これは俺の出番はないな。もう終わりじゃんこれ。魔除けってあれだろ、魔物を豆腐みたいにスパスパ切るんだろ。ならもう終わりじゃん。スパっとズパッと…。




ガッッキィイイイイイイイイイイイイィィィィンン




「はぁ?」



俺の耳にはスパッとズパッとなんかと物凄く遠くかけ離れた金属音が聞こえてきた。俺は岩影から身を出してよく見る。確かにヤマトは薙刀を降り下ろしていたが、刃は首に届いていなかった。



薙刀は紅色透明の障壁みたいなもので止められていた。ドラゴンの鱗から1mぐらいの場所にその障壁みたいなものがあった。



「バカなッ!」


「うそ!」


「これは…まさか…」



3人は驚きを隠せなかった。じいさんはその場に足を止めてしまう。



「セイントソード!」



デュークは剣を鞘に入れて両手に光の剣を出しながらドラゴンへ近づく。



「フラッシュキャノン!」



ラナはその場で止まり、両手を上げて光り輝く球体を作り出した。



「うぉおおおおおぉおお」



ヤマトは力づくでその障壁を破ろうとしていた。障壁と薙刀がぶつかっているところから紅色の稲妻が辺りに飛び散る。



「はぁああ!」



デュークは光り輝く2つの剣で斬り裂く。その後ろから光り輝く球体が物凄いスピードでドラゴンへ向かってくいく。



しかし、



「な……にい…」


「え……なんでや…」



デュークのセイントソード、ラナのフラッシュキャノンはドラゴンに当たると同時に霧となって消えた。



「やはり…あれは……」



じいさんは足を止め、ついに震えだした。



「こんなこと……」


「……うそや…」



デュークとラナはその場に力なく座り込んでしまう。



「はぁあああぁああああぁああ!」



ヤマトは1人障壁を破ろうと頑張っている。



「おい、何してんだよ!まだヤマト頑張ってるんだろ!何があったんだよ!」



俺はボーッと見てるじいさんの前まで走って行った。そして肩を揺さぶって聞いた。



「お、終わりだ。もう終わりだ…」



ついにじいさんまで膝をついてしまった。



「魔法が効かなかったぐらいであきらめんな!まだ何かできるはずだ!それに俺の魔法だってある!」



「……違う……そうじゃない……」



「あ? 何言ってんだ?」



「ぐあぁああああああっ」



じいさんにビンタして目を覚ませようとしたら俺の近くにヤマトが飛んできた。



「おいヤマト!大丈夫か!?」



俺はすぐにヤマトの所へかけよった。



「ぐう……大丈夫だ…それより、くるぞ……」



ヤマトはすぐに起き上がり、ドラゴンの方へ目を向ける。



グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア



「ぐぁ」


「うっ」



俺もドラゴンへ目を向けたその時、咆哮が俺の耳を劈今た。



「きゃあっ」


「ぐあっ」



そしてラナとデュークも俺らの近くへ吹っ飛ばされてきた。俺はふらふらしながらデュークへ近寄った。



「おい、しっかりしろ!」



「ぐぅ…無理だ…勝てない」



「まだわかんねえだろ!なんで諦めるんだよ!」



「奴は…奴は……魔除けの防御魔法を展開している」



デュークは上体だけを起こしてドラゴンを睨みながら答えた。



「それに…今の奴の咆哮で転送装置がイカれた……」



「…いやや…死にたくない…」



ラナの泣き言まで聞こえてきた。



「魔除けの防御魔法? そんな事、聞いてないぞ…」



『余の眠りを妨げるのは誰だ』



デュークに問い詰めようとした時、頭の中に男か女かわからないような低い声が響いた。



「え?」


「な、なんだ?」


「これは…」


「あ……う……」



どうやら皆も聞こえているみたいで驚いていた。じいさんはもう完全に戦意喪失しているようで口をパクパクとさせている。



『余はヘルヴァージン。全ての生物の頂点に君臨する竜族の王だ』



そんな言葉を聞いた俺はドラゴンへ向き直る。奴は地面に立って腕を組んで翼を広げ、そして俺達をその光る眼光で見下ろしていた。その図体、圧力の大きさに震える。



『まだ余に抗おうとする下等種がいたとはな』



鋭い眼光が俺達を貫く。



『ふむ。一部混じっている者もいるな。面白い』



何を言ってるんだこいつは。



『……長年人と話をしていなかったな。何か話してみよ。余の気まぐれで主らの命が助かるかもしれぬぞ』



頭の中にその言葉が届くが、生きるか死ぬかの瀬戸際で何も言葉が出てこない。



「魔除けなんて……聞いてない……」



デュークが戦意を喪失しているのか、地面に向かってぼそっと言った。



『ほう魔除か。その黒髪の童が使えるのだろう。大方、魔除け魔法があれば余を倒せると思ったのだろうが、浅はかな』



ヘルヴァージンがデュークの言葉を拾う。童とはヤマトの事だろう。



『確かに余を倒せる唯一の手段ではあるが、この世の理を知らぬ者に、魔除けが何かも分からぬ者に、余を倒す事はできぬ』



一体、こいつは何を言っているんだ。



「け、結構饒舌なんだな。でも、俺の魔法は効いたじゃないか」



勇気を振り絞り出た言葉がこれだった。武闘会にこのドラゴンが現れた時、俺は奴に魔法をかける事が出来た。魔除けの防御魔法を展開しているのであれば、俺の魔法は効かない筈だ。



『そうか。主がアレをやったのか。……黒髪の童の魔除けの魔法…今は鬼神化と言っているのか。主らのそれが何か分からぬまま今まで生きてきたとは、これも時代の所為だろう』



紅く光り輝く眼光が俺を捉える。



『魔除けに魔法は効かぬと分かり、何故主はそれを魔法と呼ぶ?』



「…………?」



こいつは、本当に何を言っているんだ。こいつは一体何を知っているんだ。こいつの言うことは、まるで、俺のこれは魔法じゃないと言っているかのようだ。



「ユウ!魔物の言葉なんて真に受けるな!!」



デュークの声が飛ぶ。



『話は終わりか?』



「逃げろ!せめてお前だけでも逃げるんだ!」



デュークが声を張り上げ、俺の前に立ち塞がった。このドラゴンにすれば何の意味も持たないように感じるが。



『どうやら、面白い話は聞けなかった様だ。……たった5人で余と戦おうとした事を誇りに思い、……死ぬがいい!』



ヘルヴァージンの巨体が動く。洞窟全体が揺れたような気がした。



「くっそオラー!!!」



俺はデュークの横をすり抜け、背中の槍を手に持ってドラゴンへ向かって走りだし。そして渾身の力で槍を投げた。



ガイイイイイイイイイイイイィィィィィィン



だが槍はドラゴンのお腹の辺りでの障壁にぶつかって止まった。そしてその勢いがなくなれば音を立てて地面に落ちた。



『……魔除けの武器か。これも珍しいものを持っているではないか。主は生かしておくつもりだったが、気が変わった。主らに最早未来はない。一瞬で葬り去ってくれよう!』



グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!



ドラゴンは再び咆哮をあげて俺達に襲いかかってきた。



「やべえ!逃げろ!!」



ズガァアアアアアアン



俺がそこまで良いかけた時、ドラゴンが俺達に腕を降り下ろした。地面が陥没し、その衝撃で俺達は吹き飛ばされる。



「いてえっ!くそ、みんなは?」



俺は広いスペースに吹き飛ばされたので転がっただけでダメージは少なかった。すぐに起き上がって皆の様子を見る。



「……………」


「ぐっ………」


「げほっ」



ヤマト以外の3人は壁まで吹き飛ばされていて、ぐったりとしていた。ヤマトは俺と一緒で広いスペースに吹き飛ばされていたが、頭から血が流れていた。



「おい、しっかりしろ!」



俺はヤマトに近寄って身体を起こした。頭の傷を見てみるとそう深くは無さそうだった。



「ああ……まだいける…何としてでも生き残るぞ…」



ヤマトの目はまだ死んでいなかった。紅くごうごうと燃えたぎっている。



その目を見て俺もやる気が出てきた。



そうだ。俺はこんなところで死んじゃダメだ!絶対に生き残ってやる!



俺は両手に包丁を装備してドラゴンへ向く。



ヤマトも立ち上がり、薙刀を構えた。



『ほう、少しは根性があるようだ。少し遊んでやる。余を楽しませてみよ!!』



ガアアアアアアアア!



「いくぞヤマトォオオオオ!」



「ああ!行くぞオラァッ!」



俺達はそれぞれの武器を持ってドラゴンへと向かって行った。



「オラァ!しねボケぇ!しねゴラァアア!しねえええええ!しねえええええ!」



「はぁああああああああああああああ!」



ガキン キィン ガィン



ガアアアアアアアア!



このドラゴンは強すぎる。見かけによらず動きが素早い。アクセルを展開してギリギリ攻撃をかわせるレベルだ。



俺は常にアクセルを展開して包丁で斬り続ける。飛んでくる拳や爪、尻尾などをギリギリでかわしてそれに攻撃をいれる。ヤマトも一緒でドラゴンの攻撃をよけては薙刀で攻撃していた。



だが魔除けの防御魔法が展開されていて奴に刃が届かない。



それでも俺達は諦めなかった。何回も何回も避けては攻撃してを繰り返していた。



『ちょこまかと!小癪なあ!』



ドラゴンは片足で回転して尻尾で俺達を吹き飛ばそうとした。



それを俺達は地面ギリギリまでしゃがんでそれを避ける。そしてその片足目掛けて走って行った。



「クソボケェエエエ!」



「うおおおおおお!!」



俺達は渾身の力を込めてその足を武器で殴った。俺の力は人間のそれだが、今のヤマトの力はかなり強い。



ガイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィンン



一段と高い金属音が響き渡る。



グァアア



ドラゴンは情けない声を出し、バランスを崩して倒れてしまった。



「ハァ……ハァ……へ、やるじゃないかヤマト」



「ハァ…ハァ…お前もな、ユウ」



俺達はお互い顔を見合せてニヤリと笑った。何か心が通った瞬間だった。



『ふふ、ふはははははははは』



頭にドラゴンの笑い声が響き渡ってきた。俺達は表情を戻して武器を構える。



『楽しませてくれるの、下等種』



そう言いながらドラゴンは体を起こした。その姿からはダメージというのを感じられない。



ま、当たり前か。ただ転ばせただけだし。だがこれは大きな一歩だ。俺達は一矢報いることができた。なら二矢も三矢も報いる事ができるはず!いや、何本でも報いてやる!



「俺達を舐めると痛い目見るぜー!!」



俺はドラゴンに向かって叫んでやった。



『そのようだな。主らには敬意を表し、本気を出すとしよう』



ガアアアアアアアア!



ドラゴンは翼を広げて咆哮した。



するとドラゴンの身体からどす黒いオーラが吹き出してきた。そしてドラゴンを包み込む。ドラゴンを形取った『闇』そのものが出来上がった。灼熱色の両目が一段と煌めいている。不気味さしか感じられなかった。



ごくり



唾を飲み込む音がかなり大きく聞こえた。



静寂



奴に闇が纏った瞬間、音が消えた。自分の心臓の音がバカみたいに大きく聞こえる。



そして、あのドラゴンの姿を見ていると底知れない不安が押し寄せてきた。



泣きそうになる。今すぐ逃げたしたい気持ちでいっぱいになる。



足がガクガクと震え始めた。



「………ぅ………」



隣のヤマトを見てみると、俺と同じように足をガクガクさせていた。だがヤマトの目からは戦意は消えていない。



なんという強い男なんだ、このヤマトという男は。俺に試合で斬られた時もそうだった。あの時の目はまだ諦めてはいなかった。



そんなヤマトを見ていると薄れかけていた戦意がグツグツと沸き出した。



震える身体を奮起させ、俺は奴を睨んだ。ここで死ぬんだとしても、一泡ぐらい吹かせてから死んでやる。



『ほう、この姿を見てもまだ戦意は消えていないか…。どれ』



ドラゴンは翼を羽ばたかせ、俺達に向かって闇を飛ばした。足が動かせない俺達はまともにそれをくらう。



その瞬間、とてつもない恐怖と不安そして絶望が俺を襲った。



「うわぁああああああああああああああああああああああああああああぁあああ」



俺は耐えられなくなり叫んでしまう。完全に戦意が無くなった。身体の震えて止まらなかった。ついに立っていられなくなって地面にへたり込んでしまう。涙もぼろぼろと溢れ出した。



「しにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



俺は完全に壊れた。



「ぁ……ぅ……ぅ」



ヤマトは俺ほど壊れていないが、膝をついて薙刀を手から離し、口をパクパクさせていた。



『ふむ…これまでか…』



ドラゴンの口元に紫色の炎を集まり始めた。どうやら俺達を消し炭にするつもりらしい。



嫌だ嫌だ死にたくない死にたくないなんでこんな事になった何で俺ばっかりこんな目に遭ってるんだなんでババばっかりひかされるんだなんで俺はここまで巻き込まれなきゃいけないんだそもそも俺はなんでこんな所にいるんだ平凡な人生を歩んでいたはずなのになんでこんな世界にきてなんで死にそうになってるんだ誰がこんな事をしたんだ一体だれだ誰がやったんだ教えてくれよ俺は一体なんでこんな事になっているんだあの時に戻りたい戻りたい戻りたい十分前いや五分前いやもっと少なくてもいい三十秒前じゅうびょうまえ戻りたい戻りたい戻りたい戻りたい死にたくない死にたくない戻りたい戻りたい死にたくない戻りたい死にたくない戻りたい戻りたい戻りたい



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



俺の声と共に紫色の炎はどんどん膨れ上がっていく。



「ああああああああぁぁぁ!!!」



戻りたい戻りたい戻りたい帰りたい戻りたい帰りたい返す戻りたい戻りたい時間を返す返す戻れる俺の魔法は時間の魔法だ俺の魔法は指定したものの時間を切り取り周りとちがう時間軸を進むことができるそれも前と後のどちらで可能だそれはだったらこれはこれをこうしてこれもこうすればこの槍が数秒前ではあそこにあってこれもこの包丁もこの矢尻も数分前にあそこにある時から進めば俺はこれはまさかこれはまさか本当にこんな事可能なのかこれはまさに



「ああ……あは……あはあは…ひひひ」



ここで、恐怖と絶望によってリセットされた頭にある考えが浮かんでしまった。自然と笑みがこぼれる。



「あははははははははははあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひひははははははははははははははははははははははあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひひはははははははははははははははははははははははあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひひふひひ」



俺はおかしくておかしくて仕方なく、笑いが止まらなくなった。



『ついに壊れおったか。もうこうなれば生きていても仕方ない』



「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひひ殺してやる!殺して殺して殺して殺して殺して殺してやる!ひゃはははははははははは」



そして、俺の心の中に新たに生まれた殺意という感情が物凄い速さで膨張する。



俺は近くに落ちていた槍に手を伸ばす。



『今さら何をしようが遅いわ!』



炎はもうかなり大きくなっていて、あと少しで放たれようとしていた。



「集束…膨張…非線形…フーリエ……ひひひうひゃひゃひゃ」



この時の俺の頭の中は物凄い速さで回転していた。目の前の敵をどうやって殺すか、その方法が、術式が、無茶苦茶な方程式が、頭の中で展開されていた。あとはそこに力を流し込むだけ。



バチィ バチバチッバチィ



俺の掴んでいる槍に稲妻が迸る。



『さあ、死ぬがいい!』



ドラゴンが口を大きく開けた。



グガアアアアアアアアア!!!!



ドラゴンの一際大きな声が頭の中で響き渡る。



だが炎は放たれなかった。



ドラゴンの口に俺の槍が''内側''から突き刺さっていた。



炎は放たれる前に消滅していた。



グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア



ドラゴンは地面に倒れてのたうち回る。口を大きく開き、何とかして俺の槍を抜くことができたが、どす黒い血がボタボタと流れ出す。その痛みで立ち上がる事ができずのたうち回ることしかできない。



俺はその槍を拾いに行ってまた手に持った。



「ひはは」



バチバチバチィッ



おびただしい稲妻が槍を包み込み、次の瞬間、槍は、俺の手から消える。



ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!



槍はドラゴンの頭に突き刺さった状態で出現した。ドラゴンの悲痛な叫びが洞窟内で反響する。



「ユウ……お前…一体…」



気を取り戻したヤマトが驚いた表情で見る。もう闇は纒わり付いていなかった。



「あーはっはっはっはっははははははははは」



のたうち回るドラゴンがおかしくておかしくて余計に笑いが止まらなくなる。



俺はズボンに取り付けてあった数本の矢尻を両手に何本か取る。その矢尻に稲妻が迸り、そして、消えた。



グガアアアアアオオオオ!!!



今度はドラゴンの両目の中に何本もの矢尻が出現した。ドラゴンの目と口からどす黒い鮮血が飛び散る。



次に俺は包丁を抜いてドラゴンへ近づいていった。



『こ、こやつ…まさか……あの………があああああああ!』



もう魔除けの防御魔法は展開されていなかった。俺は包丁でドラゴンを切り刻んでいく。弱ったドラゴンを切り刻むなんて、これほど簡単な解体作業はなかった。






ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー







ガアアアア



グァアアアアア…



ガアアアア…



グガアア



ガアアアアアアア…



洞窟はドラゴンの叫びだけが響き渡る。



「おい…一体…どういうことなんだこれは……」



デュークはユウとヤマトがヘルヴァージンと戦っている時に、身体を引きずりながら意識の無いラナを倒れているじいさんの近くへ運んでいた。



そして今、目の前で起こっていることが信じられなくて呆然と立ち呆ける。



グルァ…



もうドラゴンは虫の息だった。翼や手足は切断され、あの絶対強者の姿は見る影もなかった。



「あは」



ユウが槍を構えて狙いを定め、投げた。



ガアァァァ……



槍で頭を貫かれたドラゴンは小さな断末魔を上げ、絶命した。ドラゴンからはどす黒いオーラが消えていく。



続いて、ユウその場に力なく倒れてしまった。



「ユウ!」



ヤマトがユウに駆け寄って安否を確かめる。息はしているし、脈もちゃんとあった。ヤマトはほっと胸を撫で下ろす。



「ユウ、大丈夫なのか?」



デュークが身体を引きずりながらやって来た。足や腕からは血がダラダラと流れている。ユウよりもデュークの方がかなり重症だ。



「ああ、大丈夫だ。ユウよりもあんたや他の皆は?」



「ラナとじいさんは大丈夫だ。少し怪我しているぐらいで、俺程の外傷は無い」



どうやらデュークは最初の一撃をまともにくらっていたらしい。



「ぐう…」



デュークはその場で膝を着いてしまった。



「おいデューク!」



「心配するな…。少し受け損なっただけだ…」



「大丈夫かよ…」



ヤマトが心配そうな顔でデュークを見る。



「大丈夫だ。回復ぐらい自分でできる…」



デュークは傷に手を押さえて呪文を唱えた。押さえた手が輝きだし、傷が少しずつ塞がっていく。



「おい、もうそれくらいにしておけ」



ヤマトが真剣な表情でデュークに言った。



回復魔法はあくまで自然回復力を高める魔法だ。あまりやりすぎると身体が魔法に慣れてしまい、いざという時に回復ができなくなってしまう。



「そうだな。もうこれくらいにしておこう」



デュークは回復魔法を止めた。腕と足の傷はある程度回復していた。そして無惨な姿になったドラゴン、そして寝ているユウ目を移す。



「ユウに一体何が起きたんだ?」



「わからない。奴の闇に取り込まれた瞬間に暴走したんだと思うが…」



そう言って、ヤマトはぐうすか寝ているユウに目を向けた。



「もう完全に死んだと思ったな」



「ああ、俺もだ」



デュークの言葉にヤマトは歯を噛み締める。自分の力の無さに腹立たしさを感じていた。



「…諦めて…悪かった」



そんなヤマトを見たデュークは頭を下げて謝った。



「頭を上げてくれ。アレは仕方ない、誰も責めたりしない。もちろんコイツもだ」



「そうか…ありがとう」



そう言ってデュークは頭を上げたが、その表情は暗かった。簡単に諦めてしまったこと、それにユウとヤマトが戦っているのに加戦しにいけなかったこと、自分の未熟さに苛立ちを覚えた。



「何にせよ、俺達は生き残ったんだ。これから帰って強くなればいい」



「そうだな、ヤマトの言う通りだ。一国の軍隊長がこんな青年たちに負けていられないな。よし、帰って報告しにいくぞ!」



「ああ!」



ヤマトはユウを背負い立ち上がった。デュークは気を失っている2人のところへ行き、じいさんを背負い、腕にラナを抱えた。



元来た道を戻り洞窟を出る。



意識の無い3人を馬車へ寝かし、2人は馬に跨ってガルガ山脈を後にした。








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