出発
ドラゴン討伐の日、俺は集合時間より2時間ぐらい早く起きた。昨日はいつの間にか寝てしまっていたようだ。部屋の椅子では、ユリが座ってうたた寝をしていた。昨晩ずっと見守ってくれていたみたいだ。
ここ数日、ユリからのアプローチが強くなったのは知っていた。それを適当に流し、断っていなかった俺にも責任はある。
「悪いな。俺には待ってくれている人がいるんだ」
そっとユリに毛布をを被せ、俺は出発の準備をする。俺の普段着や防具や武器はこの部屋に置いてくれていた。ここ1週間は病人みいな格好だったのでさすが飽き飽きしていた。普段着に着替えれて少し落ち着く。
「でも、ありがとう。ごめん」
聞こえているか聞こえていないかかは分からないが、俺はそう呟いて部屋から出ていった。時間まで町の景色でも見て心を落ち着かせようと思ったのだ。
ーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーー
「別に、謝らなくてもいいのに」
ユウが部屋から出ていった後、ユリが呟いた。どうやら起きていたらしい。
「あーあ。振られちゃった」
ユリは起き上がって扉を見つめる。
「弱っているところに付け込めば、簡単に好きになってくれると思ったのになー」
いつもユウをからかうのが面白かった。弱々しくてすぐに照れて。しかしいつもいつも大事な所でしれっとかわされる。いつしか自分の方が気になっていた。
「行ってらっしゃいませ」
ユリは閉じた扉に向かってお辞儀をした。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーー
「ふう…いい景色だな」
王宮の廊下を進むと、庭みたいな大きなテラスに着いた。入っていくと、色とりどりの花が綺麗に植えてあり芝生も青々としてとても気持ちが良い。さらに胸の高さまでぐらいの手すりの向こうには朝焼けに輝く町の景色が見える。
春風のような暖かい風が吹き抜けていった。
「こんな景色、元の時代じゃ見れなかっただろうな」
この世界に来て、俺は自分の弱さに直面した。俺は弱い。弱いから人の温もりを求めてしまっていた。そのくせ、この世界には俺の居場所が無いと勝手に決めつけてしまっていたんだ。
ギルドに置いてくれたナミさん。いっつも笑顔で話しかけてくれるリリィ。酒を飲みながらもたまにまともなことを言ってくれるナビィ。男同士の絆が最も深い武器屋のおっさんギブソン。俺の事を根性ある奴だといつも言ってくれるルーカス。裏表なく絡んでくれるギルドの皆。俺の力が必要だと言ってくれるデューク。少ししか絡んでないが仲良くしてくれたキョウ、アリン、ユミン、クリス。
そしてなによりもレイラ。
いつも側にいて親身になってくれた。1番心を通わせた人物だ。
会いたいな。
生きて帰って、会いたいな。
「ユウじゃないか。早いな、何してるんだこんなところで」
景色を見ている俺を見かけたデュークが声をかけてきた。
「景色…綺麗だなって」
「ああ、ここの景色は1番綺麗だ」
デュークも景色を見に、俺の隣に来て手すりに腕を組んで置いた。
「…俺はな、この国が好きだ。だから自分の手で守ってみせる」
「そうだな。今日、何としてもあのドラゴンを倒そう」
「お前、何か変わったな。良い表情をしてるぞ」
デュークが目を丸くさせて俺を見てきた。
「この景色を見て、俺はちっぽけな人間だってわかったんだよ」
「ふっ、相変わらず面白い奴だな。まだ時間はあるからここにいるか? 俺はもう行くが」
デュークが手すりから手を離して聞いてきた。
「ああ、まだ少しここにいる」
「そうか、集合場所は昨日会議を行った所だ。また後で」
そう言ってデュークは立ち去って行った。
デュークがこの場から立ち去った後も時間ギリギリまで景色を見ていた。集合時間直前にに兵士が俺を呼びに来てくれ、会議室へと向かった。
会議室は昨日のメンバー全員がいた。それぞれやる気に満ち溢れた顔をしている。
「よし、これで揃ったな」
俺の顔を見たデュークが言う。
「無事に帰って来ることを祈っておるぞ」
「任しといて!バチバチにしばいてきたるわ!」
ラナが親指を立てて国王に返した。国王に向かってよくそんなことができる。
「行くぞ!」
俺達はデュークに連れられて入ってきた扉とは違う扉から会議室を後にした。どうやら馬車を取りに行くみたいでこっちが近道なんだそうだ。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーー
「ふむ、頼んだぞ」
会議室に残った国王は1人呟く。
不意に会議室の扉がノックされた。
「なんじゃ?」
「はは。バルバード公爵様が面会に来ておれます。いかがなさいましょう?」
兵士が扉の前で跪いて答えた。
「おお、通してよいぞ」
「はは!」
兵士は扉をあけてバルバード公爵を中へ入れた。
「国王様。お久し振りでございます。本日は少しお耳に入れたい事がございまして推参した次第でございます」
そう言いながら現れたのは、ユウが初めてクエストに行った時の依頼主だった。デブで油で顔がテカっていて醜い姿だ。一目で高価なものだとわかるような服や装飾に身を包んでいる。
扉の外ではあの執事が待機していた。
「おお、バルバードよ。久しいな。はて、話とはなんじゃ?」
「それが、私の者の調査で偶然発見した事なんですが、ギーミ島でこのような施設を発見しました」
そう言ってバルバードは国王に写真を渡す。
「こ、これは!? なんということじゃ!」
その写真は、部屋の中で鎖で繋がれたくさんの人が写っている写真だった。しかもその内の何人かは悪魔のような姿になっている様にも見れた。まるで実験動物の様だった。
「どうやら人体実験をしているらしいのです。私の調査ではこれしかわかりませんでした。送った人員が皆帰って来ませんでした。多分殺されたのでしょう」
「な、なんと言うことじゃ…」
国王は額に手を当てて悩み出した。
「そこで、あのユウという青年にその調査、または施設の解体に出して欲しいのです」
バルバードはユウをその危ない島へ出すように言い出した。
「一度、あのユウという青年に依頼を頼んだ事があるのですが、トラブルが起きまして、まだ報酬を渡せていないんです。それで、その報酬も渡したいと思いまして、王様からあの青年に頼んでいただきたいのです」
「なるほどな。じゃがなぜバルバードから頼まないのじゃ? お主が頼んだら早い話ではないのか?」
「それが、そのトラブルが起きた時に、あの青年に嫌われてしまったので…。報酬も渡し辛くなりまして…。王様からの命令でということにしていただけないでしょうか?」
「ふむ……」
国王はまた長いヒゲを触って考え事をする。どうやらこれは癖のようだ。
「その分の報酬も持ってきましたので、どうか、どうかよろしくお願いします」
バルバードはついに土下座までして国王にお願いした。
「これこれ、お主が土下座なんぞするものじゃない。あいわかった。いいぞ、ワシから言っておこう」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!ありがとうございます!」
バルバードは頭を何回も下げて感謝した。
「したらその報酬を預かろう」
「はは。これ、持って参れ」
バルバードが扉の外で待機している執事に催促した。執事はとても大きなケースを持ってきて国王の前で開けた。中には札束がぎっしりとつまっている。こんな大金を出費してもバルバードにとっては痛くもかゆくもない。
「よし、確かに預かろう。誰か来てくれ!」
「は!」
国王が叫ぶと兵士が近づいてきた。
「このケースを金庫へ入れて置いてくれ」
「かしこまりました」
そう言って兵士はケースを持っていった。かなり重いのか、何回も休憩しながらズルズルと運んでいった。
「ありがとうございました。それでは、私はこれで失礼致します。これ、行くぞ」
バルバードは執事を引き連れて会議室から去って行った。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーー
「ぐふふ…これで奴の力は手に入った。あの青年、まさか時間の魔法を使えるとはな。そんな珍しい魔法を使えるのならもっと素直に報酬なんぞくれてやったわ。あのケルベロスがやられるわけだ。ぐふふ。その力があれば私は……。ぐふふ。ぐふ。ぐふ」
バルバードの帰りの馬車で、バルバードの気持ち悪い笑いが続いていた。
馬車を運転する執事は歯を噛み締めて悔しそうな顔で手綱を握っていた。




