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邪竜 ー ヘルヴァージン ー




武闘会から1週間が経った。俺はベッドの上で療養中だが、もう完全に回復していた。



メイドが一生懸命看病してくれたお陰で、療養4日目から回復の兆しが現れた。それからたった3日で完全に回復した。魔法も普通に使える。



「はい、今日のお薬ですよ」



「ありがとう」



メイドから薬を受け取って飲む。この薬は少し苦いがもう慣れてきた。



「もう大丈夫そうですね」



「メイドさんのおかげですよ。ありがとうございました」



「どういたしまして。あと、私の事はユリとお呼びくださいませ。それと、本日の新聞に貴方の事が載っていましたよ?」



そう言ってユリと名乗るメイドは俺に新聞を渡してきた。俺は上体を起こしてそれを受け取る。この時代の新聞は片面にしか記事が書いていない。それを何枚も重ねて左留めにしている。紙の無駄遣いじゃね?と突っ込みたくなるが、全然そんなことはない。読み終わった新聞を家の特定の場所に置いておくと、次の日になれば勝手に内容が書き変わっている。なんという便利な世の中なんだ。



そしてこの新聞のトップには『時の魔法使い率いる国軍の邪竜討伐決定』という見出しが見える。もちろんこの時の魔法使いというのは俺の事だ。あんな大勢の前であんな魔法を披露したんだ。そりゃバレる。



「命を賭して皆を逃がした英雄」



ユリが新聞に書いてある一文を読んでニヤニヤしながら俺を見てきた。



「ちょ、ちょっとやめてくださいって。英雄とかそんなんじゃないですって」



「あらそうなの?」



ユリは両肘をベッドにつき、俺を下から見てくる。そして指先で俺の足をくるくるっとさする。



「ちょーちょー。何してるんですか?」



「んー?足の調子を見ているのですよ?」



そう言いながらニヤニヤしているその顔は小さく、目は切れ目だがシュッとした鼻筋と顎のラインが綺麗で美人の部類に入る。紺色の短い髪を白いメイドキャップで押さえている。



そんな美人、しかもリアルメイドに足なんかをさすられたらたまったものじゃない。しかもここ数日はまともに抜いていないので俺のマスターソードがダイナマイトと化す。



「あらあら、どうしたの~前屈みになって~。どこか具合が悪いの~?」



俺は新聞で顔を隠して前屈みになっていた。そんな俺を見てユリはまたニヤニヤする。



「か、からかわないで下さい!」



「赤くなって可愛い〜」



舌をペロリと出してユリは俺の胸を指でくるくるっとさする。



「本当にやめましょう!」



「えー。つれないなぁ」



「俺は攻略専門なんでね。最初から落ちているなんてノーセンキューだ」



「むー」



「それに、悲しむ奴がいる」



「あらら、振られちゃったね…」



ユリが拗ねたような顔になった時、部屋をノックする音が聞こえた。ユリはベッドから降りて扉の前まで歩いていく。



「お、元気そうじゃないか」



扉からデュークが入ってきた。武闘会の時とは違い、軍服に身を包んでいる。



「デューク。手厚い看病助かったよ」



「礼には及ばない。お前はこの国の英雄だからな」



「それ恥ずかしいからやめてくれよなー?」



「ははは。ユウ、もう身体は大丈夫だな? ドラゴンの討伐についての作戦を説明するから来てくれないか?」



優しい口調だが、デュークから有無を言わさない秘めた圧力を感じる。



「分かったよ。着いていきゃいいんだろ」



「ああ、助かるよ」



そして俺はデュークに連れられてこの王宮を歩いた。まるで映画にでてくるような西洋の城のようだった。さらにこの王宮は町の1番高いところにあるので、この王宮の至る所から町を一望できる。俺は廊下の窓みたいなところから町の景色を見ながら歩いていた。



「着いたぞ。さあ入れ」



デュークからそう言われて入った先はとても大きな部屋だった。とりあえず天井まで20mぐらいあるんじゃね?から始まり、部屋の広さも体育館並みにあった。ギルドの闘技場の天井を引き伸ばした感じだった。



そのど真ん中に一体何mあるんだってぐらいバカ長い机が置かれていた。花とかで綺麗に飾ってあり、豪華な感じがヒシヒシと伝わる。その上座に国王らしき人物が座っており、その周りの椅子に座る人物に見知った顔があった。



まず、国王を正面に見て、国王のすぐ近くの右側の椅子にヤマトの姿。そのヤマトの隣には武闘会準決勝でデュークに負けたおじいさんの姿。そしてその対面の椅子には、俺に負けたラナの姿があった。武闘会ベスト4+ヤマトというメンバーだ。



「国王様。連れて参りました」



「ほっほ、ご苦労様。それじゃ席に着いてくれんかの?」



「はっ。ユウ、こい」



「ういす」



デュークはヤマトの対面に座り、俺はラナの隣に座ることになった。俺が座るときにラナと目があったがラナは気まずそうに俯いた。啖呵を切って俺に負けたからだろうか。何か謝っておいた方がいいのかな。



「武器壊してごめんね?」



「なんでそれや!って、なんか恥ずかしいわ…」



ラナは試合に負けた時の事を思い出したのか、赤くなった顔を手で隠して机に伏せた。



「う゛んッ。いいか?」



国王を前にして騒いでいる俺達をデュークが睨んできた。



「あ、すみません」



「ほっほっほ。別に構わん。最初にユウ、お主に礼を言いたいのじゃ。あのドラゴンから国民たちを救ってくれてありがとう。感謝する」



国王は席から立って俺に頭を下げた。一国の王様が人に頭を下げちゃまずい。



「ちょっと頭を上げてください!俺は人として当たり前の事をしただけっすよ!」



俺は立ち上がって言った。



「ほほっ。人として当たり前か…」



国王は頭をあげて自慢の長い白アゴヒゲをさわりながらニヤニヤしながら言ってきた。国王は身長は割りと低く、結構白髪が多い。普通のおじいちゃんて感じだな。



「いやぁ、あの…」



「なかなか良い青年じゃの」



「……ッ」



言葉を詰まらせていると国王が俺の事を誉めてきた。実際は誰かの為とか人として当たり前とか、そんなことは詭弁だった。こう言っておけば人当たりが良い言葉だと分かっていた。それを透かしたように言われた言葉に胸が少し痛む。



「よしデュークよ、説明してくれ。ユウ、もう座ってよいぞ?」



国王の一言で立ったままだったと気付く。慌てて座った。俺が座ったと同時ににデュークが立ち上がり口を開く。



「まずは今回討伐対象のドラゴンについて説明しよう。奴の名は邪竜ヘルヴァージン。何百年もの間、数多の国を滅ぼしては根城にする、災厄と言っていい存在だ。ここ数年、軍事都市国家イルバーレを拠点にしていたが、北上して運の悪い事に今度はこの国を目に付けたようだ。幸い奴は今、この国の北にあるガルガ山脈に移動したようだが、直にこの国を襲ってくるだろう」



ヘルヴァージン…地獄の処女ってか。誰が名付けたか知らないがなかなか良いセンスしているじゃないか。



「だが奴にとっても運悪く、この国にはあの邪竜の動きを止めれる魔法使いと、魔除け魔法が使える2人がいる。何百年とのさばらしにされていた奴だが、その災厄に終止符を打てる条件がこの国に揃っている事を奴は知らない筈だ。端的に言うが、ユウとヤマト、お前達2人の力があれば討伐は可能だと考えている。奴がまだガルガ山脈にいる内に、このメンバーで奴を討ちに行く」



「あの、ちょっと質問いいっすか?」



「ああ、いいぞ。何だ?」



「何で国軍を使わないんだ?」



俺は1番疑問に思った事を口にした。この5人という意味がわからない。他にも強い人がいるだろうし、そもそも軍隊を使って皆で攻めた方がまだ勝率は上がると思ったからだ。



「これまでの歴史の中、奴と戦った国々の記録が残っているが、何一つ出来ないまま滅ぼされている。我々人間では太刀打ちできない、本当に災厄なんだ。軍隊なんて物は意味を成さない。今軍は国民にシェルターへ避難するよう誘導員として出払っているところだ」



なる程、一度でもアレが訪れたら終わりな訳ね。



「このメンバーは、俺から声を掛けさせて貰った。あとザルクがいれば心強かったんだけど、もうこの国には居ないようだ」



ザルク。デュークが武闘会1回戦で苦戦した奴か。確かにザルクの魔法の類に関しては右に出る者はいなかった。



「ユウ、お前はあのドラゴンの動きを遅くした。動きを止めれるんだ。そしてヤマトの魔除けの魔法。この2つがあれば勝算はある!頼む、この国に、力を貸してほしい!!」



俺が魔法を使ってドラゴンの動きを止めてる間に、ヤマトがグサッと終わらせるって事ね。ってんな事易々とできるかボケッ!



「いやいや、何かもう滅茶苦茶過ぎてヤバイっす。俺にあの魔法使えって言うけど、そう簡単にできないし出来ても数秒で魔力が尽きるよ?」



「ああ、その数秒で勝負を決める!」



デュークは真剣な眼差しを向けてきた。



「あんさ、多分っつーか内容は良いと思うんだけどさ、もしそれが失敗したら…どうする?」



「その時はもう俺達の敗けだ。お前以外の人の3人にも事前にこの話をしているが、3人、いや俺を入れて4人とも、もしもの時は死ぬ覚悟ができている」



はあ?



あとは俺に死ぬ覚悟ができるかってこと?



「ふざけんな…」



「確かにお前が怒るのも無理もない。ほとんど無理矢理引っ張ってきたんだしな」



「違う!そんなことじゃねえ!」



俺は声を張り上げた。その声に国王含めた5人がビックリして俺を凝視する。



「なんだなんだ!」 「国王様ッ!」



この部屋の隣で待機していた国軍兵士たちが国王を守ろうと近づいてくる。



「よい下がれ。何もない。で、ユウよ。何が違うのじゃ? 続けておくれ」



国王の命令で兵士たちは下がっていく。



「その作戦がダメだったら死ぬしかないだと? 死ぬ覚悟ができているだと? バカかお前ら!何で作戦がダメだったら死ななきゃなんねえんだよボケェ!そんな気持ちで挑んでも勝てるわけねえだろクソがッ!」



「そこまでゆわんでも…」



「うるせえ黙れ!そんな気持ちで挑むなら俺は行かないからなッ!俺は死にたくねえから他所の国へ移動させて貰う!1回死にかけて思い知ったんだよ!生きてて良かったってな!だから考え直せ!そしてその作戦がダメだった場合の次の作戦を立て直せ!話はそれからだッ!……ハァ…ハァ」



俺はかなり頭にきていた。途中から自分でも何を言っているのかわからなくなった。



「ほっほっほ。確かにユウの言う通りじゃな。デュークよ、今の指摘を受けてどうじゃ? 考え直してみないか?」



「は…。まさにその通りです。ユウ。すまなかった」



デュークは俺に向かって謝ってきた。



「別にそんなことはどうでも良い、どうするんだよ?」



「……とは言え、他に勝つ作戦が思い浮かばないのが現状だ」



「お前、この国の軍隊長なのに馬鹿なのか?」



「それはどういう事だ?」



デュークがムッとした表情で返す。



「何であのドラゴンを倒すことが勝つ事なんだよ。そんな事誰が言った? 何百年と生きている奴に勝つ方がほぼ無理に決まっている。俺が言いたいのはそんな災厄から『生き延びる』事が『勝つ』事なんじゃないかって事だ」



俺の言葉を聞いて、デュークが驚いた表情をした。



「生き延びるか……そうか、俺は大事な事を忘れていた」



デュークが国王に向き直す。



「国王様。我々が討伐に向かっている間、国民全員の避難をお願い致します。シェルターではなく、姉妹国のディルド国への避難誘導をお願いします。この後すぐに、避難受入要請と移動手段の準備をこちらで進めておきます」



「ふむ。それがデュークの答えなのじゃな?」



「はい。国民が無事であればまた国は再建出来ましょう。私が1番大事に考えるのは国民の命です。あと、小型転送装置を5機程お貸し頂きたいです。我々の5人の命も守るために」



「よかろう。直ぐに手配しよう」



国王は壁際に立っている兵士を呼び、言伝を行った。兵士は走ってこの場を去っていく。



「ユウ、これでいいか? 逃げるなんて後ろ向きな考えだが」



「後ろ向きじゃねえよ。凄く前向きな考えだと思うぜ」



「ありがとう。それじゃあ、討伐には明日出発するから今日はもう部屋で休んでいてくれ。俺も今から色々と手配等で忙しくなる。明日、朝10時に部屋に使いを出すからそれまでに準備は済ませておいてくれ。以上だ。解散していいぞ」



え、明日!? まじで!? 明日!!?!?



俺が混乱している所を他所に、皆は席を立って解散し始めた。



「どうした? まだ何かあるのか?」



「い、いや、何もないぞ~」



あんだけ啖呵切った以上、今さら明日は止めろなんて言えない。確かに、いつこの国に向かってくるか分からない以上、全ての事を早めに済ませなければいけない。それにしても明日はないだろ〜。やばい事に巻き込まれたと自覚しながら、俺も席を立って皆の後に続く。



俺、明日死ぬかもしれない。そう思うと無性にレイラに会いたくなった。だが、どうする事も出来ない状況に苛立ちを覚える。



自室に戻るも何かと憂鬱な気分になり、ずっとベッドで寝ていた。




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